博打少女まどか☆マギカ【確率の物語】   作:カピバラ@番長

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 長らくお付き合いいただいたこのとんでもストーリーですが、今回で本編終了となります。
最後なもんでちょっと気合い入れました。

どぞ。


最終話 わたしの、最高の友達

 静寂は得てして恐怖と呼べる。

静寂は無音を意味し、無音は生きとし生けるものの否定に他ならない。

だが、その中で縦横無尽に駆ける少女達がいる。

 

 「ほむら!後何秒!」

 

 「二十秒よ」

 

 「了解!」

 

 「だってさ杏子!さっさとやっちゃうよ!!」

 

 「おう!任せろ!」

 

 「まどかはこっちにくるのです!」

 

 「う、うん!!」

 

全てが止まった世界の中で時間を支配下に置く六人の少女。

彼らの脚には魔力で編まれた限りなく細い黄色のリボンが例外なく伸びている。

繋がる先は二人。

一人はマミ。リボンを編んだ張本人。

もう一人はほむら。時を支配する力を貸し与えている要。

 

 「アミコミ・ケッカイ!」

 

 「ゴメイサマ!!」

 

箱を彷彿とさせる魔女は動かない。否、動けない。

ほむらの魔法によって一時的に時が止められているこの瞬間、魔女は命の全てを彼女達に委ねるしか無い。

 

 「悪いわね、魔女さん。今回は遊んでる暇はないの。一瞬で決めさせてもらうわ」

 

鎖とも見える赤き魔力が魔女を覆っていく。

その魔女の背、僅か後方には五本の剣が屋根の上でさやかを囲むようにして突き立つ。

 

 「最大火力よ!」

 

さやかの正面ーー魔女の遥か前方にて身の丈を超える銃が現れる。

銃身は太く、およそ人間では扱えないだろう規格外のその兵器を、しかしマミは事も無げに構え、照準を定めた。

 

 「そろそろ動き出すわ、まどか!」

 

 「う、うん!!」

 

三角形の陣を思わせる位置に立つ三人とは別に行動しているほむらは前線から一度退き、かつては乙女の社交場を囲っていた塀の裏に隠れているまどかの傍に降り立つ。

 

 「大丈夫。スイッチを押しても爆発した瞬間に止まるわ。恐れないで」

 

 「うん!」

 

僅かに恐れているように見えるまどかの肩に手を置くほむら。

まどかが手にしているのはほむらが自作した爆弾、そのスイッチ。

纏めて十個までは遠隔で操作出来るそれをまどかは現在四つ手にしている。つまり爆弾の数は四十個。

それらは全て魔女の箱の中に放り込まれている。

 

 「今!」

 

 「えいっ!!」

 

瞬間。

 

 「リ!リ!アン!!」

 

さやかが五本の剣を射出し差異の無い位置で止まった刹那に時が動き出した。

無音だった世界に響く鎖の上がる音と空を裂く音。

 

 《&@?&@“¥;:”$^%!!??》

 

二つはほぼ同時に魔女にダメージを与え、動きを封じた。

と、同じタイミングで。

尋常ならざる爆発の反響音が響く。

 

 「さーてくるぞ!逃げろよ!!」

 

 「そっちこそ!」

 

さやかと杏子の役割は拘束及び撹乱。魔女をその場に釘付けにする最も重要な仕事。

そしてまどかは閉じられるであろう魔女の箱の蓋をこじ開ける役。彼女達が弱点だとみなしている部位を曝すための存在。

 

 「開いたのです!」

 

 「いいえまだ!無理矢理閉じようとしている!」

 

まどかの安全を確認したほむらとなぎさは距離を置いた位置で魔女の抵抗を目撃する。

箱の中から溢れ出てくるいくつもの腕。それらの中には破壊され肘から先が無いものもある。

身の毛もよだつ腕の群れは壊れた蝶番を抑え、塞がらない蓋を自身の腕力で閉めようと荒れ狂っている。

その姿は鎖の籠の中も相まってさながら獄中で悶え苦しむ人のようだ。

 

 「だったら!なのです!!」

 

インキュベーターを殺害し、出現した魔女。

幻覚を操る以上時間はかけていられない。故に彼女達がとったのは速攻。最速でほむらが時を止め、静寂の中を動けるようにマミが全員をリボンで繋ぎ、それぞれが役割を実行する。

だがなぎさだけは熟練され切った五人の動きを見てついて行く事が出来ていなかった。

しかし、荒れ狂い、曝された己の弱点を必死に隠蔽しようとしているこの瞬間に彼女は己の持つ中でも最も特異な力を行使する。

 

 「借りるのです!……いけ!」

 

黒いラッパもどきを吹くなぎさ。音は鳴っていない。

だが、どこからともなく不可思議な姿形をした生き物が現れる。

 

 「……いざ見るとゾッとしねーな。頭がおかしくなりそうだ」

 

 「ね。でも、数だけはいっちょまえだからね。役には立つんじゃ無い?刃向かってきたらその時は、だけどさ」

 

それこそ羽虫のようにわらわらと地上に現れ出でたのは魔女の使役する使い魔達。

役目を終え射線から少し離れた位置にある屋根上に立っているさやかと杏子は地面で蠢く使い魔達を見て僅かに顔を顰める。

中にはマミ達の見知った顔もあるがこの時ばかりは誰もが少なからず頼もしくも感じていた。

 

 「アイツの手を封じるのです!」

 

なぎさが指示を出すとそれまでうごうごと遊んでいた使い魔達が一斉に魔女に向かい突貫を行う。

道程で捕まれ、潰され、蹴散らされる使い魔達はしかし進軍を決してやめない。

やがて辿り着く数匹。それらは少しずつ数が増え、着実になぎさの指示を叶えていく。

 

 「今なのですマミ!纏めて吹き飛ばすのです!!」

 

 「了解よ!」

 

気がつけば死体に群がる蟻の様相を呈してきた使い魔達は魔女の動きを確実に鈍らせ、弱点であろう箱の中が塞がらないように蓋を開けている。

 

 「ティロ・フィナーレ!」

 

マミが叫ぶと同時、巨大な銃の撃鉄が落ちる。

着火する火薬。火を噴く銃口。射撃音は花火を思わせ、比類する物無き大きさの光弾は軌道を逸れずに箱の中へと撃ち込まれる。

恐ろしいまでの回転を伴っている光弾は箱の中に入ると刹那の静寂を産む。

だが直ぐに。

 

 「お終いよ」

 

膨大なエネルギーを爆発させ、魔女を内側から炸裂させた。

 

 「っと。流石マミだな。一撃たぁ驚いたぜ」

 

 「ホント、味方で良かった〜」

 

 「何言ってるの。二人がちゃんと拘束してくれたから出来たのよ?後詰めなんておこぼれなんだから大した事ないわ」

 

 「またまたぁ〜。頼りになるから後を任せられるんですよー」

 

 「ま、そういうこったな。アタシのもさやかのもこーは出来ねぇ」

 

 「……もう、何も出ないわよ?」

 

空を覆う程に散開している魔女の残骸が降り注ぐ中、いち早くマミの元へと駆け付けた二人は光景を眺めながら感嘆の息を漏らす。

そんな二人の裏の無い意見にマミは僅かに頬を赤らめ口元を緩ませた。

 

 「そうね。これで本当に終わりなら、もうこの世界から帰るのだから何も出しようがないわ」

 

少しして、彼女達のもとに更に三人が訪れる。

 

 「ほ、ほむらちゃん……。けど、もう大丈夫なのかな?前の時みたいに第二形態とか…」

 

 「魔女は完璧にやっつけたから安心するのです。お陰で私ももうそれほど長くは留まれそうに無いのです」

 

 「……そう」

 

まどかをお姫様抱っこの要領で抱えたほむらとラッパを手にしたままのなぎさはマミ達の傍に降りながら口にする。

若干遅れて来た三人は比較的安全だった位置から敵の最後を見届けてから来ている。

後詰めの後詰めをいつもほむらとまどかが行なっているため、また、攻撃の規模や魔女反応の感知が出来ない事、そしてなぎさの身体が若干透け始めている事から、三人は魔女討伐の確信を得る。

 

 「しっかし、ホントにお前別の世界から来てたんだな。べべ」

 

 「状況が状況だから信じるしかなかったけど、いざ見てみるとちゃんと実感するもんだね。痛く無い?」

 

 「全然平気なのです!なんというか、寝落ちる瞬間みたいなのです!」

 

魔女討伐が完了となれば必要以上に気を張る必要は無くなる。

戦闘による興奮がまだ若干抜けてはいないが、彼女達は今後の現象を受け入れる準備をしつつ透けていくなぎさの身体に驚きを示した。

 

 「どことなくボーッとしてるって事かしら?だとしたら早めにお礼を言わないとね」

 

 「ありがとね、べべ。べべのお陰で私達元の世界に戻れるよ!」

 

 「そうね。助かったわ、とても。貴女がいなければ私達は一生この偽りの世界にいたかもしれない。……感謝してもしたり無いくらいだわ」

 

 「そ、そんなに褒められると恥ずかしいのです……。照れちゃうのです」

 

まどかに頭を撫でられ、ほむらに微笑みかけられ、くねくねと身体をよじりながら顔を真っ赤にするなぎさ。

彼女のそんな年相応な態度に、マミはクスリと緩む口元に指を当て、さやかと杏子は顔を見合わせながら照れ笑いを見せる。

 

 「……さ、世界が歪み始めたわ。魔女の結界が解ければ元の世界。もうパチンコもスロットも打ってる暇は無いわよ」

 

 「そもそも打てねーっての。アタシら未成年だからな」

 

 「あ!言われてみればそっか!…あーあ。こんな事ならもうちょっとくらい打てば良かったかなぁ」

 

 「同感ね。まだ確認出来ていない示唆や演出が山程あるもの。……きっと、またみんなで打ちに行きましょう。誰も欠けずに、ね」

 

 「ええ。その時こそ私は大勝ちして……」

 

 「ほむらちゃんは少し控えた方がいいと思う…けど、でも、それも楽しいかもしれないね!えへへ」

 

幾つもの絵の具を溶かした水が波打つように、空が形を変え始める。

それに伴い歪み始める地面や建物。それらは結界の主の魔女の消滅を意味し、勝利の確約となる。

 

 「……べべも、元の世界に帰っても頑張ってね」

 

 「はいなのですマミ!……こことは別の世界、並行世界の住人の私はきっともうみんなと会える事は無いけど、でも!もしこっちの私に会ったら優しくしてほしいのです!」

 

 「当たりめーだ。もう仲間だかんな」

 

 「そーゆうこと。ガサツな杏子にしちゃいいこと言うじゃん」

 

 「よく言うぜ。家事なんかアタシの方が出来るってのにさ」

 

 「ちょっ!?それはあんたの飲み込みが速すぎるってだけでしょ!」

 

 「えへへ、二人はホントにとってもお似合いなのです!」

 

 「ちょ!恥ずかしい事言うなぁ!」

 

少女達がにわかに騒がしくなり始める。

彼女達が思い浮かべているのは微笑ましく懐かしい偽りの世界での優しい記憶。

元の世界に戻ればまた魔女との戦いが始まる。…いや、最も強大な敵との対峙が待っている。

彼女達が安らげるのは恐らく今だけ。戻ればワルプルギスの夜を倒すまで

寝れない日だって来るかもしれない。

故に、この時だけはほむらも口を挟まず、微笑ましく見える三人の会話を柔らかな表情で見守っている。

 

 「ほむらはいいの?混ざらなくて」

 

そんな彼女の直ぐ傍にマミが立った。

 

 「えぇ。私は……もう、無理だから」

 

 「何よ、私より年下のくせにそんな年寄り臭い事言って」

 

 「……ふふ。やっぱり、味方なら頼もしいわね、貴女」

 

 「そっちこそ。出来れば二度と敵に回したく無い相手だわ。時間操作なんて無茶苦茶だもの」

 

 「……そうね、本当にそう。……だから、力を貸して」

 

 「勿論よ。どんな協力も惜しまないわ。だから、また並び打ちでもしましょうね」

 

 「……………ええ。きっと」

 

励ますわけでは無い。

二人はただ、そう言葉を交わし叱咤し合う。

目前に迫る強敵を倒す為に。

 

 「……そろそろ、本当にさよならなのです。さやか、まどか、杏子、ほむら、そしてマミ。みんなの健闘を祈るのです!」

 

 「ん!別世界か何か知らないけど、見守っててよ。その女神様と一緒にさ」

 

 「だな。なーに、また会えるだろうよ。だから泣くなよ?ちびっ子」

 

 「べべも頑張ってね!あんまりブラックだったらちゃんと言わなきゃダメだよ?」

 

 「本当に世話になったわね。またいつか、どこかで借りは返すわ。必ず」

 

 「その時は大好きなチーズも沢山持っていくわ」

 

 「……みんななら、きっと勝てるのです!さようなら!!」

 

それぞれがそれぞれに。思いのまま別れのポーズを取り、見送る。

その数秒後になぎさの身体は透け切り、消え、魔女の結界が崩壊した。

 

 

               ーーーー

 

 

 「………あれ?ここは…」

 

 重だるい身体をどうにか起こし、寝ぼける頭に光景を流し込むまどか。

彼女の眼前に広がるのは、どこまでも広がっているようで実際はそれほどの広さではなさそうな白い空間。

天井では大小様々な幾つもの歯車が噛み合い、回り、壁には縁のない額に飾られた絵のような何かがある。

 

 「ん、やっと起きた?」

 

 「さやか、ちゃん?」

 

どこか立つのが難しそうなまどかの手を取り立ち上がらせるのはさやかだ。

だがどうやら彼女の目も寝起きのようにどこかはっきりしていない。

 

 「ここは転校生の部屋だよ。ちょーっとみんなで居眠りしてたみたいだけど間違いない」

 

 「……そっか。…確か、ほむらちゃんがワルプルギスの夜を倒す作戦を立てるからって……。でも、寝てた?」

 

 「そ。なんでか分かんないけど、みんなして寝てた。一番最初に起きたマミさんが転校生の仕業だと思って焦ったらしいんだけど、当のアイツも寝てたらしくて違うって分かったんだって」

 

 「な、なら魔女とか……」

 

 「可能性は一番高いけど、次の杏子が起きるまでずっと探知しててもなーんにもなかったらしい。だから原因が完全に不明なんだよね」

 

 「……そうなんだ」

 

 「うん。それも恐ろしい事に五分十分ってわけじゃないみたい。……まどかが起きるまでは憶測だったけど、筋肉の弱ってるところを見ると間違ってなさそう」

 

さやかの肩を借りてなんとか立ち上がるまどかを見て確信を口にするさやか。

しかし、いまいち状況の飲み込めていないまどかは困り顔で小首を傾げる。

 

 「起きたほむらが言ってたんだ。『幻覚を見せて命を奪う魔女がいる』って」

 

 「なのに生きてる……?」

 

 「そう。だから私達はその魔女を幻覚の世界でどうにか倒して、なんとか戻って来たんだろうね。でも、魔女の結界の中は時間の流れが違かった。現実と隔絶されてる結界の中で私達は何日も…下手したら何年も過ごしてたのかもしれない。……なんて、途中からは杏子の受け売りだけど」

 

問うてきたまどかに苦笑いを向け、部屋の中央にあるソファに一緒に腰を下ろしたさやか。

ここにはいない三人の話を総合する限り、彼女達の立てた憶測は正しいのだろう。

そう、まどかの筋力の低下や小距離の移動にも関わらず上がる呼吸を見て、さやかは納得した。

 

 「時間……?だけど、魔女は私達を食べるのが目的だったんだよね?ならなんで…」

 

しかし、まどかは少しだけ引っ掛かりを覚えさやかに聞き返す。

 

 「これも予想なんだけど、もしかしたらほむらが何かしてくれてたんじゃないのかなって」

 

 「ほむらちゃんが?」

 

そうして返ってきたのは、これまでどちらかといえば敵対寄りだった暁美 ほむらによる助けかも知れないという予想だった。

 

 「うん。あいつ、時間止めたりできるじゃん?でも、ホントは止めるだけじゃなくて巻き戻す事も出来るんだって。まぁ、好きなタイミングに好きなだけってわけじゃないらしいんだけど、その能力をどうにか使ってあたし達が結界に閉じ込められた時から起きる今日まで何度も時間を繰り返してくれてたんじゃないかなって。……実際、そのくらいしないと説明できないくらいあいつのソウルジェム濁ってたし」

 

 「じゃ、じゃあ早くグリーフシードを渡さないと…!」

 

 「その為に今、杏子とマミさんがほむらを連れて予備のグリーフシードを取りに杏子の住処に行ってる状態。ここから結構遠いらしいけど、多分もうそろそろ帰ってくるんじゃないかな」

 

 「そ、そっか。なら、ひとまず安心だね」

 

 「うん。……取り敢えずわね」

 

さやかの言葉にほっと安堵の息を漏らすまどか。

しかし、隣に座っているさやかの頭の中にあるのは過ぎ去ってしまった謎より眼前に迫って強敵の事だけ。

迫る気象異常を起こしている一匹の魔女の存在ばかりだ。

 

 「ごめんなさい。待たせちゃったわね」

 

 「わり、思ってたとこに隠して無くて手間取っちまった」

 

 「マミさん!それに杏子!!」

 

薄ぼんやりと雰囲気が重くなっていた室内に息を切らせたマミと杏子の声が響く。

帰宅の知らせを聞いたさやかは咄嗟に立ち上がり、入口の方を向いた。

 

 「あ、あいつは…?」

 

不安げに入り口付近を見回し、しかし姿の見えないもう一人に心配を向けるさやか。

だが、その不安は直ぐに杞憂に変わる。

 

 「お陰様で無事よ。迷惑かけたわね」

 

 「!?」

 

 「時間停止による移動よ。……こうでもしないと信用しないでしょ?美樹さやかは」

 

さやかの背後に突如として現れたのは未だ具合の悪そうな顔をしたほむら。

恐らくは心配をさせまいとして魔法を使ったのだろうが、本調子ではないせいか冷や汗は隠せていない。

 

 「……それだけの元気があれば平気だね。ならさっさと始めようよ、会議」

 

 「さ、さやかちゃん!それはいきなり過ぎるよ……?」

 

 「いいえまどか。美樹さんの言う通りだわ。……時間がない。早くしましょう」

 

 「……そうね。命の恩人かも知れないんだもの。出来れば一晩くらい寝かせてあげたいけれど」

 

 「ま、そんな余裕はねぇわな。今回ばかりはさやかの負けず嫌いの方が正しいぜ」

 

 「みんなまで……」

 

 「いいのよまどか。……これは私の望んでいる事でもあるんだから」

 

 「ほむらちゃん…」

 

せめて一時間でもと言うまどかの言葉を無視し始まったワルプルギスの夜討伐会議。

かつて無い強大な敵を倒す為、様々な案が飛び交う中、ふと誰かが気が付き手を挙げる。

その内容は夢。

恐らくは幻覚を扱う魔女に眠らされている間に見たであろう夢のその断片は、しかし何故かその場にいた全員の夢の断片と悉くが一致し、妙な結束感と不思議な自信を湧き起こす。

 

 「……決して手は抜けない相手。私自身、これまで幾度となく戦い、負けるたびに万全と思える態勢を整えて挑んでいったわ。……でも、一度も勝てなかった」

 

 「けど、今回は違うんだろ?別に馴れ合うつもりはねーけどさ、仲間がどうのってやるんだったら協力は惜しまないぜ」

 

 「あたしも。…あんたに借りを作っておくのは嫌だからね」

 

 「頼もしいわね。佐倉さん、美樹さん。私もそのつもりだわ」

 

 「私も、見滝原が滅茶苦茶にされるのを許すつもりはないわ。可能な限り協力する。……今日の夢の話はその後に解決しましょう。ほむらにもちゃんとお礼を言いたいしね」

 

 「そうね。せっかく私の名前をちゃんと呼んでくれたんだもの。決して死なせないわ」

 

 「………何故かしらね。それほど違和感なく口から出ていたわ」

 

 「ええ。私もすんなり受け入れていた。まるでコインを飲み込むスロットのようにね」

 

 「な、なんでか分からないけど、よくわかっちゃうな……なんて」

 

 「…きっと一緒に行くわよ、まどかも」

 

 「え、え?う、うん……。そうだね。勝って、みんなで行ける年齢になるまで生きよう!」

 

それぞれがそれぞれの戦いへ臨む態度を示し、決意を固めた彼女達はほむらの部屋を後にする。

夜は更けた。

決戦は明日だ。

 

_______________________________________________________________________

 

 

 

 

 

 「そんな世界、あるわけないのにね」

 

 独り、荒れ果てた街に佇む少女がいた。

銃を握るはずの右腕は上がらず。

仲間と繋いだと確信していたはずの左手には何もない。

 

 「今回も駄目だったよ。まどか」

 

あちらこちらに散らばる身体。破片。

ぽつ。

ぽつ。

ぽつ。

まだ温かくもあるだろうその肉片から熱を奪う雫が空から降ってくる。

ーー雨だ。

彼女が幾度となくこの瞬間に浴びてきた雨だ。

希望も、絶望も、何もかもを一緒くたに洗い流し混ぜてしまう雨だ。

同時に声が降り注ぐ。

耳障りな高笑いが降り注ぐ。

 

 「舐めないで。こんなところで諦めるくらいなら、初めから選んじゃいないのよ。この道を」

 

絶望を体現したかのような大きく、恐ろしく、悍ましい魔女が天空で笑い転げる。

だかほむらには既にそいつは眼中になかった。

ただ繰り返す。

破裂する程に力が込められてしまう手で円盾を回し、時を繰り返す。

もう何度目だと、数えるのすら嫌になる程回した盾に隠された砂時計から落ちる砂が示すのは過去への逆行。

それは失敗を無かった事にし、無知を否定する行為。

ーー或いは、世界への叛逆。

 

 ーーごめんね。ほむらちゃん。

 

 「ごめんね、まどか」

 

時と時の狭間にある道を征くほむら。

彼女の耳に届く声は己のモノだけ。

幾度となく口にした約束の言葉だけ。

いつか至る世界。こことは別に存在する並行世界を包み込む優しき女神の声は決して届かない。

 

 ーー私なんかのわがままのせいでこんな思いばかりさせちゃってごめんなさい。でも、私にはほむらちゃんしかいなかったの。

 

 「また、失敗しちゃった。今度こそは上手くいくと思ったのに駄目だった。…でも、次は大丈夫。次こそは大丈夫だから。だから、もう少しだけ貴女の優しさを、強さを、私に貸して」

 

 ーーこんな、自分勝手なお願いを出来る人、ほむらちゃんしかいなかったんだ。強くて、かっこよくて、大好きな……

 

 「えぇ、分かってる。貴女は自分勝手な人間なんかじゃない。誰よりも強過ぎて、誰よりも優し過ぎただけの人。……そんな貴女のお願いだもの。絶対に叶えてみせる」

 

 ーー「私の、最高の友達だから」

 

ガシャン。

無機質に鳴ったのは開幕の音か閉幕の音か。

誰もいない病室で、彼女は目覚める。

 

 「……忘れないよ。まどか。貴女と交わした約束だけは、絶対」

 

透き通る窓に一縷の涙を映して。

ゆっくりと瞳を閉じ、戦場へと続く病室の扉を開いた。

彼女が運命の世界に至るにはまだ黄昏が足りない。

黄昏が導く闇が例え彼女を悪魔に変えてしまうとしても。

 

 

 

end.




 アホほど長くなってしまって申し訳ない。気合入れすぎました。
こんな感じで終わりにしようと思います。
正直一から十までギャグ系にするか迷いましたが、こんな感じじゃないとまどマギじゃないと考えている過激派なもう一人の私がいるのでやっぱりこうしました。
そのうち幻覚についての詳しい説明をツイッタにでも載せようと思います。

それじゃあまた何か機会があればお会いしましょう。
さよーならー
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