でもちょっとテイストが違う。
とりあえず,どぞ。
ボーイッシュな髪型をした青をイメージさせる少女が街を歩いている。
行き交う人は皆ただの人。魅入られた存在はどこにも居ない。
ーー魔女が出なくなってからもう随分経つけど、やっぱ嘘みたいだなぁ。
手提げ鞄を片手にそれと無く辺りを見回している少女の名は美樹 さやか。
かつて、魔法少女の宿命にその身をやつしかけた彼女は一人の少女ーー佐倉 杏子に救われ、今日までを過ごせている。
現在は命の恩人とも言える杏子と二人暮らしをしながら同じ大学に通い、平穏な人生を手に入れるために勉強に力を注いでいる。
ーー平和って、やっぱりいいよね。…私達のしてきた事が正しかったんだって実感できる。
ふつと湧き上がる感慨に胸を掴まれ思わず立ち止まってしまうさやか。
そんな彼女の肩を叩く影があった。
「よ。珍しいな。さやかが自分からこんなとこ来るなんて」
「あれ、杏子じゃん。今日も打ちに行くって……」
「だから来たんだろ?」
さやかの肩を叩き、流れるように肩を組んだのは同居人の杏子。
トレードマークの赤いポニーテールを揺らしながら彼女は右隣を指差す。
「……え」
「大学の帰りだろ?どうせだし一緒に打とーぜ!」
「あ、ちょっと!!」
示されるがまま向いた先にあったのは少女の社交場パチンコ⭐︎スロット。
さやかの友人四人の行きつけであり、たまに付き合いで彼女も嗜んでいる遊技場だ。
彼女は、自身のの専らの悩みの種であるそこにいつの間にか足を運んでしまっていたらしい。
「あたし、今日は貸せるほど持ってきてないからね!」
「大丈夫だって。貯めてる分があるからさ!」
「あんたはまたそうやって…!」
杏子に腕を引っ張られるまま、抵抗する暇もなくさやかは社交場の入り口まで連れて行かれてしまう。
……彼女の悩み。それは同居人のーー同じ財布を持つ杏子の、パチ屋への入り浸り具合だ。
「なーに打とうかなー」
「全く…」
扉一枚抜ければそこは地獄の叫びもかくやという程の喧騒が乱立する世界。
半ば呆れているさやかとは対照的に杏子は今にも鼻歌を歌い出しそうな雰囲気で台を見て回っていた。
「お。これ前にさやかが好きって言ってたアニメじゃなかったっけ?[ヒト娘ビューティフルストーリー]」
「げっ!こんなのまであるの!?」
杏子が指差したのは【新台】とポップの張り出されているスロット機。
数年前に放送されたアニメを題材としている今機は未だ冷めやらぬ熱狂の中で出されたためかなり期待値が高いとされていた一台だ。
実際、実装されるまでの間に明らかにされた内容だけ見ればかなりの良台。暫くの覇権とすら見なされていた。
……のだが。
「ま、出て一ヶ月で化けの皮剥がされちまったからなー。今じゃ原作が好きな奴くらいしか打ってねぇダメ台だ」
「あ、あはは。世知辛い」
「結局打ててなんぼだからしゃーねーんだけどな。まぁまず、打つ奴はいねーわな」
小さく苦笑いを零し、台の説明書を取る杏子。
数秒ほどゲーム内容を見ると説明書を元の場所に戻して椅子を引いた。
「……なのに座るんだ」
「まーな。珍しく来てくれたんだ、どうせなら興味あるやつ打ちたいだろ?」
「別に、一人でもいいけど…」
「アタシが一緒に打ちたいんだ。大丈夫だって!メダルも貯めてる分あっからさ」
「いや、そこは気にして無いけど…。じゃあ、うん…」
杏子は会員カードを入れつつ打つ態勢を取りながらさやかを促す。
さやかにしてみても少なからず打ち手。それも好きな作品の台だ断る理由があったとしても心は惹かれてしまう。
思うところはあれど結局最後は隣に腰を下ろして五千円札をサンドに吸わせてしまった。
「てか、データとかいいの?いっつも見てるのに」
「あー、この台はいいんだよ。ぶっちゃけ設定差とか関係ねーからグラフ見てもなんにもわかんないんだ」
「へ、へぇ。そんな台もあるんだね」
「たまにな。で、その中でもコイツは折り紙付きに酷いってだけさ。でも当たったらまぁまぁ凄い。良く言えば爆発台ってところかな。殆どシケッてるってだけ」
「よくわかんないや」
「あっはは。ま、アタシも騙されて何度か打ったクチだからさ、何かあれば少しは教えてやれるよ」
「じゃあそん時は頼むよ」
「任せな!」
会話もそこそこにリールを回し始める二人。
景気良くタイトルコールが行われ,不覚にも期待を持ってしまうさやか達は,しかし数回回すと表情が無に変わった。
「……お、今日はやけに速いな」
それから十分ほど打っていると杏子の台からチャレンジ演出の音が出始めた。
アニメーションが気になるさやかは液晶に視線を向け,自分の台を疎かにする。
見たところ当たればボーナスに向かっぽい演出だ。自分の台ではないが、むしろ人の台だからこそ軽い気持ちを持ったまま期待の篭った眼差しでさやかは行方を見守ってしまう。
…のだが。
「だー!ハズレかよー」
至極当然のようにハズれ、そのまま通常ステージに移行してしまった。
「ま、しゃーないか」
「え?あ、うん。そうだね」
覗き込んでいたさやかに笑顔を向け,杏子は新しく貸しメダルを出すと再びリールを回し始める。
その様子をさやかはどこか思うところを持ちながら眺めていた。
ーーいいのかな、ホントに。
回しっぱなしだった自分のリールを止めながらさやかは思考に耽る。
……耽ってしまう。
ーーいつからだっけ。あたし達の生活に【打つ】が紛れ込んだのは。……今まではどうやって過ごしてたんだっけ。
レバーを入れ、回るリールを止め、またレバーを傾ける。コインが無くなれば補充し、同じことを繰り返す。
ーーやってて楽しくない……ってわけじゃないんだけど、なんだかなぁ。
激アツ演出以外が現れても特に踊らなくなってしまった胸。
いつだったか彼女は杏子と共に社交場に一週間通い詰めた事があった。その時に実感し、理解したのは【当たった時以外喜ぶべきではない】という教訓。所詮ハズレが常のパチンコ・スロットに於いて一喜一憂などという感情は排するべきモノ。心臓に悪いだけ。
けれど、それらを踏まえたところでアツいとされている挙動が見られれば喜んでしまうのが人のサガ。
……なのに、何故かソウルジェムは濁らない。
絶望を筆頭とする負の感情はソウルジェムを濁らせる要因の一つでありその最大峰。にも関わらず、何故か彼女達のジェムはワルプルギスの夜を屠り、数の減った魔女を駆り尽くして以来輝いたままだ。
ーー魔女がいなくなったからその機能だけが失われた……だとは思うけど、それでもこれまでの常識と違ってくれば怖いのは当然、だよね。あんたはどう思ってる?杏子。
ちらりと杏子の横顔を覗き見て、そんな思考を掻き消すようにさやかはレバーを入れる。
ーーダメだダメだ。みんな幸せに暮らしてて、ソウルジェムも濁らない。これの何が悪いっての?考えすぎなんだって。きっとさ。
だくだくと溢れてくる悪い考えを抑えるようにスロットを回していくさやか。
その姿は側からみればメダルを無駄にしているように思われなくもない。
だが魔法少女として戦い続けていた彼女にしてみればリールの目押しなど造作もない。
むしろ手練れの打ち手である杏子ですら目を丸くするほどの速さでかつ正確にリールを止めている。
「なんだぁ〜?荒っぽい打ち方する様になったじゃんか。アタシも真似してみるかな」
「そーいうんじゃないから。今日は一万くらいやったら帰るよ」
「はー!?なんだよそれ!そんなんただの募金じゃんか!」
「当たる時は千円使わなくったって当たるんだから多いくらいだっつの。それとも夕飯抜きにされたい?」
「うへ〜。わーかったよ。お前が一万使い終わったらお仕舞いにするって」
「よろしい」
放っておけば気が済むまで際限なく打ってしまう杏子を嗜めつつさやかは台に向き直る。
それから少ししてさやかがラッシュを引き当てると、二千枚手前までメダルを獲得して今日はそれまでとなった。
のだが、さやかのラッシュが終わるまで打ちながら見守っていた杏子は大負け。
台選びの件も含めて自分にも非はあると考えたさやかは『授業にちゃんと来るなら』という口実のもと勝ち分の一部を断る杏子に譲った。
……そんな、会話をした後の換金所での事。
「……一口チーズ?」
「向こうで端数切り忘れたのかね」
換金用の板を受け口に送り、出てきたお金と一緒にトレイにのっていたのは一口サイズのチーズ。
「青色のパッケージか。…なんか、さやかっぽいな!」
「ちょっと。髪の色だけで言ってるでしょ」
「あはは、バレた?」
その時は何も不思議に思わずお金と共に受け取ったさやかだが、帰宅して一息つくとなにか不思議な感情が湧き上がってきた。
「……あたし達、これで本当に良かったんだっけ?」
雨降る闇の中で一人で取り残されたような不安感を抱くさやか。
得体の知れない不安に身体を抱き締める彼女をカーテンの掛かった窓から小さなシルエットが覗き見、姿を消した。
to be next story.
なんでこんな感じになってしまったかって言うと、話が動き出しましたからなのです。
今後もおそらくこんな感じの雰囲気になるかも…。
初期の感じが好きな方には申し訳ないと思いつつも、最後までお付き合いいただければ幸いだと思います。
ちなみに杏子の大学の単位は足りてないです。あまりになさすぎて日に何度かさやかが代返してます。いい加減バレてますがどうせ来ても寝てるだけなので知らないふりしてます。代わりに追試がヤバいです。そんな時の勉強は大体さやかが、タイミングが合えば他の三人もあれで見てあげてます。
ピュエラマギホーリークインテット!って杏子が茶化すのでだいたいマミのスパルタ家庭教師が始まります。
ではまた次回。
さよーならー