何でもないお話   作:零崎 禽識

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処女作ではないですけど6年ぶりに書きました。いろいろと読みにくいかと思われますがご容赦ください。最後らへんで力尽きたので最後が雑です。


何でもないお話

 男は、どこにでもいるような人間だった。多くの純粋な夢を抱きつつも現実の壁に敗れ、夢を諦めた者。幼いころは、頭の中で話を考えることが好きだった。中学生に進むころにはやや本格的な創作活動に手を伸ばすこともあった。しかし、ある日気付いてしまったのだ。自分の作る物語はありふれた凡庸なものでしかないということに。

気づけば、手元には中途半端な学歴と無数の日の目を見ることのない物語の残骸が残るだけであった。決して短くない期間を創作に捧げた。唯一の読者であってくれたはずの友も、現実を見つめいつしか隣から離た。錆びかけた社会の歯車と化した男は今日も、茫然自失の体で日々の業務をこなすのみである。

 

 

 起きて、仕事をし、帰って寝る。趣味らしい趣味はなく、食事は最低限栄養バランスが崩れない程度には気を遣う。小さな本棚とPCがあるだけの借家が男の住処だ。淡々と、淡々と、淡々と、定められたプログラムを実行するだけの機械のような生活。変化といえば、休日は仕事が世間の情報収集と睡眠に置き換わるだけ。この生活を死ぬまで繰り返すと、思っていた。

 

 

 そんなある日のこと、男の生活にある変化があった。なんてことのない、世間では毎日のように起こるありふれた出来事だ。そう、首を切られるというだけのことである。男も世間ではコスト削減の名のもとに、職を捨てさせられるという人間が居ることは知っていた。むしろ5年分の退職金をしっかりと払ってくれた分、マシな方である。

趣味という趣味もなく、食費と家賃と携帯の使用料程度しか出費のなかった男にはそれなりの貯蓄があったし、そこに退職金が加わった分半年ほどは何もしなくても暮らしていけるだけの蓄えはあった。また次の職を探すかと考えた男の脳裏に、ふと一つの疑問が首をもたげた。

 

「俺は、このまま生きていてよいのだろうか。」

 

 男には、持っているものなど特にない。毒にも薬にもならぬその生は社会にとって何になるのだろうか。ましてや自らにとって、生とは何の利ももたらさない行為である。故に、自死という結論が出るまでに、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 会社を自主退職(表向き)して一月、自死という決意をしてからから1週間もたたないうちに、男は自殺の用意を済ませていた。

首を括る縄も用意し遺書はとうに書き上げ、残すところは部屋の掃除と、最後の晩餐のみだ。首を括った翌日には、携帯から警察にメッセージが行くようにもしてあるし、遺書には両親への謝罪と、せめてもの罪滅ぼしに貯金を両親に託す旨を書き記してある。どうせ最後だからと、食事は豪勢なものを用意してある。普段なら手を出さないであろう高級料理と、高価な食材を調理することで久々に料理を楽しめた気さえしていた。掃除が終わりかけ、残すところは本棚のみだという時にあるノートを見つけた。

日焼けし、すり切れた数十冊ものノートには男が作り上げた物語が眠っていた。こと細かく、会話のパターンさえ記された人物の設定に、書き上げることのなかったいくつかのプロット。ページをめくるたび、我を忘れ、時間を忘れ、心血をかけて文字を綴った日々が蘇る。来る日も来る日も飽きずに机に向かい、脳裏に浮かぶシーンを文字に起こし、想像力の赴くままに物語を、キャラクターを描き続けた。自分の考えが文章家され、形を成していくあの感覚のなんと楽しかったことか。昔を懐かしむ男の目からはいつしか涙があふれていた。

 

 

 そして、男の手が止まる。男が最も心血を注ぎあげて一番初めに生み出したキャラクターの設定のページだ。彼女は、特別だった。初めて書いた物語の主人公であった彼女の存在は、男の描く物語には常にあった。希望にあふれ、眼光は生気に満ち溢れていた彼女を描くのがたまらなく楽しかった。そんなことも、忘れていたのだ。

 

「俺は、この()をこのまま死なせてしまってもよいのであろか。いや、そんなはずはない。何としてでもせめてこの()には、日の光を浴びさせてあげなければならない!」

 

 いつしか、男の目には光が宿っていた。幸いにも金はあった。警察へのメッセージの送信を却下し、遺書を破り捨て男は立ち上がった。

彼女に日の目を浴びさせてあげさせるための方法として、Vチューバーという手段にたどり着いた男は、完璧を目指した。改めてキャラクターに関する設定を見直し、ありとあらゆる設定をくみ上げるのに1月。Vチューバーに関する資料を片っ端から集めあげ運営の仕方、活動のイロハを理解するのに1月。機材を整え、チャンネルとTwitterアカウントを作り上げるのに1月。計三か月の月日が流れる間に準備を整え、立ち絵差分とボイスチェンジャーを片手に備た。今ここに、浅葱雹華(あさつきひょうか)という新人Vチューバーが誕生したのである!!!

 

 

 

 

 いざ活動を始めると、浅葱雹華は新人かつ個人勢ながらも企業勢に引けを取らぬキャラクターとしての完成度と、まったく「中の人」を感じさせない言動でちょっとした話題になっていた。やっているのはゲーム実況やおしゃべり配信などといった定番のものであったが、人気を着実に伸ばし1年後、チャンネル登録者数は10万人を超えていたのだ。

男の生活は、変わっていった。日々の運動を欠かさず、食事は丁寧に、最初のころは在宅のバイトをしながら生活していたが、半年もすれば十分生活を送るだけの稼ぎを得ることができるようになり、今では以前よりもランクの上がった部屋に住むようになっていた。生活の中で男は違和感なく浅葱雹華になりきるために、彼女ならばそのように行動するかを常に考えながら行動していた。買い物をするときも、料理をするときも、編集をするときも、いつも心の片隅には浅葱雹華がいた。浅葱雹華のスケジュールは火曜日にゲーム実況、金曜日に夜間の生配信を行うとだけ決めておき、あとは不規則に投下していた。ふとしたきっかけで上げた突発的な動画がとんでもない再生数をたたき出しているのだから、よくわからない世界である。今日は、生配信の日だった。

 

 

 

 

 配信を終え、一息つく。今日も配信前にレッドカーペットが敷かれ、盛況のまま1時間の配信を終えた。配信後の入浴は私の楽しみの一つだ。次の配信の題材やスケジュールを考えながら湯につかると、自然と心が弾む。日々の暮らしでこんなにも心が弾むなんて思ってもいなかった。体を洗おうとして湯船から出て鏡を見た瞬間、ふと鏡に映る自分に違和感を覚えた気がした。そんな自分に内心首を傾げつつ、僕は体を洗うのであった。

 

 

 

「今日も配信に来てくれてありがとうございました!まったね~!」

配信を終え、プログラムを停止させる。今日の配信も絶好調だった。さすがは俺のキャラクターだと自画自賛して、私は風呂に向かった。

 

 

配信を終え、プログラムを停止させる。今日の配信も絶好調だった。さすがは俺のキャラクターだと自画自賛して、私は風呂に向かった。

 

配信を終え、プログラムを停止させる。今日の配信も絶好調だった。さすがは僕のキャラクターだと自画自賛して、私は風呂に向かった。

 

 

配信を終え、プログラムを停止させる。今日の配信も絶好調だった。さすがは僕のキャラクターだと自画自賛して、私は風呂に向かった。

 

 

配信を終え、プログラムを停止させる。今日の配信も絶好調だった。さすがは私のキャラクターだと自画自賛して、私は風呂に向かった。

 

 

配信を終え、プログラムを停止させる。今日の配信も絶好調だった。さすがは私のキャラクターだと自画自賛して、私は風呂に向かった。

 

 

配信を終え、プログラムを停止させる。今日の配信も絶好調だった。さすがは私だと自画自賛して、私は風呂に向かった。

 

 

配信を終え、プログラムを停止させる。今日の配信も絶好調だった。さすがは私だと自画自賛して、私は風呂に向かった。

 

 

 

 朝起きて日課のランニングと発声練習を終える。朝に体を動かすことは脳の働きを活発にし、一日を穏やかに過ごすことにつながる。

「はー、つっかれた。やっぱり日課とはいえ疲れるものは疲れるんだよなー。でもこの前入浴剤も買ったことだし、今日の配信も頑張るか」

そして夜、配信を終え、プログラムを停止させる。今日の配信も絶好調だった。さすがは私だと自画自賛して、私は風呂に向かおうとし、俺は違和感を覚えた。

 

「今、私って言わなかったか?俺は」

 

 

 俺は、言葉に出すときも内心でも一人称は「俺」であるはずだった。いつからだ?いつから一人称は変わった?鏡をふと見る。そこに映っていた顔に、俺は俺であるという自信を抱けなかった。

 

 

 

 皮肉にも、男にはものを書く才能は乏しくとも、誰かを演じる才能があった。浅葱雹華という人格を演じ、常日頃から彼女の思考をトレースし続けていた男の中で、次第に浅葱雹華の人格は肥大化していったのだ。ゆっくりと、ゆっくりと。

 

 

 

 Vチューバーの活動はやめられない。なぜなら自分はこの()に日の目を浴びさせてあげなければならないから。そうだ、いいじゃないか。元より俺自身に価値はないのだ。このまま消え失せてしまっても。浅葱雹華(我が娘)が欲するのならば、俺は浅葱雹華(我が娘)にすべてを明け渡そう。そう考えて、でも最後に残った何かがちょっと抵抗をした気がした。

 

 

 

 

 私は浅葱雹華、登録者数18万人の中堅Vチューバーである。

 

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