何でもないお話   作:零崎 禽識

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雑です


ルート移行

ピンポーン

 

 

 

 

 

突如鳴り響いたインターフォンの音に私は首をかしげた。宅配便は宅配ボックスに入るはずだし、ご近所付き合いなど一切していない。事実入居してからインターフォンの鳴る音など聞いたことがなかった。怪訝に思いつつも念のためドアチェーンを外さずに扉を開けた私の視界に飛び込んできたのは、ノミと、金槌でありドアチェーンをあっさりと叩き壊し不法侵入と器物損害をキメた非常識者は、見紛う事なき俺の友人西念裕斗(さいねんゆうと)であった。

そしてそいつは、不適に笑い、さも当然のようにこう言い放ったのである。「助けに来てやったぞ」と。

 

そして俺は、あまりにもあっさりと自意識が表層に戻ってきた驚きよりも先に、こう返した。

 

 

 

「お前頭大丈夫か?」

成人式以来7年間顔を合わせていなかった我が友人である西念裕也はあっけにとられる私を放って、ずけずけと上がり込むと我が家を見回して衝撃的な一言を言い放った。

 

 

「それにしてもいい家住んでんな。Vチューバーっそんなに稼げるのか?」

 

 

今、何と言ったのだこいつは。なぜこいつが俺がVチューバーであることを知っている?私が活動をしていることを知っている人間はいないはずだ。親にも言ってない。

 

 

 

「ん~。何で知ってんのって聞きたそうな顔をしているな、我が友鉄溶(てつとかし)竜人(りゅうと)よ。いやそりゃ俺だってYouTubeくらい見るよ。というかYouTube開いていきなりこの世にお前とお前の唯一の読者であった俺くらいしか知らないであろうキャラがいたらすぐ思い当たるっての。そんでもってそんなやつから"助けて"なんてメッセージが来たら駆けつけるに決まってるだろ。」

 

 

 

 

言っていることは、わかる。つまりこいつは私がVチューバーとして活動していたのを知っており俺が無意識に送ったであろうメッセージをみて私のもとに来たのだろう。しかし、しかしだ。

 

 

「俺とお前は喧嘩別れに終わったはずだろう?創作にしがみついた私と現実を見て科学者になったお前。しかもお前は俺の話が面白くないだとか二次元には飽きたとか言いやがったじゃないか」

 

 

「いや、確かにお前の話は展開がワンパターンで進化しなかったがキャラクターとか世界観は好きだった。それに二次元に飽きたんじゃない、性癖が3次元寄りになっただけだ。お前みたいにもう三次元で勃たなくなったとかいうわけじゃない。そのことをからかったらお前が性癖の沼に鎮めようとしてきたから距離を取っただけだ」

 

 

結局、俺がどう言い返そうかと口ごもっているうちに言いくるめられてしまい、メッセージの経緯を話すことになった。

 

「なるほどね。まあ何か月も外に出ず、会話せず、ただひとりの人格をトレースしながら生活していれば人格が書き換えられかけることもあるってか。で、お前は今何なの?」

 

 

「今主となっているのはたぶん俺。でもこの数日間の記憶は朧気だし俺が表層に出れているのはお前がいきなり現れたっていう突発的事態が引き金となった一時的なものだと思う。」

 

 

 そう、たぶん俺の現在の状況は不安定だ。自分という存在が希薄なものに感じるし自分の考えに確証がないというか、自分の口調にすら違和感がある。このまま過ごしても、また時間がたてば俺の意識は浅葱雹華に飲み込まれるのだろう。

 

 

「なるほどね。で、お前はどうしたいの?このままだったら俺はとりあえずお前を精神病棟にぶち込んでもらうし、お前が望むなら放っておいてもいい。繰り返し聞くが、お前の気持ちはどうなんだ?」

 

 

 その問いかけに、俺は黙り込むしかなかった。自分を取るか、娘を取るか。まるで思考実験のような問いかけである。今までのように中途半端にするなんてことはできないしすぐに答えが出るわけでもない。

 

 

「まあ、すぐに答えが出るわけがないわな。答えが出るようならここまでの事態になんてなってないわけだろうし。そこで提案がある。」

 

 

提案?と首をかしげる俺の耳に目の前の非常識者はこう言い放った。

 

「いっそのこと両方とってみない?」

 

「は?」

 

「お前が迷っているのは、自分が残ったとしても生産性のない人間が残るだけだし、浅葱雹華になっても体と性の不一致とかの様々な問題があるからだ。そこに違いはあるか?」

 

「まあ、だいたいあってる」

 

「そこで、だ。いっそのこと女の子にでもなって人格混ぜ混ぜしてしまって新しい自分になるってのはどうよ。ちょうどよくここにその道の有識者がいるわけだし。」

 

「は?」

 

私は、再び耳を疑う羽目になってしまった。突っ込みどころはいくつもあるし、言いたいことが理解できないしかも有識者?こいつが?

 

 

「ちょっと待て、今お前何してんの?」

 

「あれ?もしかしてお前あんまニュース見てないの?最近知名度も上がってきた生物学者でありトランスジェンダー研究において性転換薬開発の第一人者でノーベル医学生理学賞受賞の西念裕斗とは私の事だぞ」

 

 

…………どうやら俺の友人は、かなり遠い地位の人間になってしまったらしい。

 

「というかそろそろ眠くなってきたんじゃない?」

 

言われた途端、急に視界がかすんできた。

「お前、盛りやがったな…」

「大丈夫だ、チンパンジーとマウスでは成功しているし面倒は見てやるから安心しろ。

「何が・・・大丈夫だ・・」

このくそ野郎と言おうとしても言い切れず、俺の意識は闇に落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんやかんやあって生まれたのがお前だよ」

「嘘だろ!嘘だと言ってよ、母さん!!!」

「いやあ、あんたがVチューバーになりたいと聞いたときは血は争えないと思ったよ」

「いや、それどころじゃねえよ」

 

まさか、Vチューバーになろうかと相談しただけでこんな爆弾話を聞かされるとは思いもしなかった。つまりなんだ、俺は男と元男の間に生まれたと?いや、確かに今ではCG(change gender)なんて大して珍しくはないが我が家は一般的な家庭ではなかったのか・・・

 

 

「私はあの後Xジェンダー寄りになっちゃったし精神も混ざっちゃったしねぇ。文字通り面倒見てもらったのよ。二人とももとからバイだったし」

 

「もう突っ込みきれなくなってきた……。このことを優佳は知ってるのか?」

 

「優佳はあんたが気付く数年前に気付いているわよ。まああんたとは事情が違うからあの子も混乱してたけど」

 

「それは、あの子とあんたは腹違いの兄妹だからよ」

 

「え・・・?」

 

まさかうちの妹はもともと孤児だったとでもいうのだろうか?腹違い?まさか父さんが浮気したとかそういうことなのか?

 

「いやあまさか出産の反動で男に戻ってノリで裕斗を女体化させたら思ったよりも好みで、しかもヤったら子供ができるとか思ってもいなかったわー」

 

「何つう業の深いことしてんだよあんたら!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

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