推しだから許して。
今更ながらオリジナル展開、オリジナル設定タグつけました。
ドクターが戦闘状況下での指揮官も兼任しているのには理由がある。
彼の指揮官としての経験が長いから?否、彼よりも戦闘年数が多い人物もいれば、その中には優秀な指揮官であった者もいる。そもそも彼は記憶喪失で一度経験をリセットされている。
ロドスでの階級が高いからか?否、それだけで貴重な人材を浪費しえるような人事を幸いながらロドスはしなかったし、何よりそれだけならアーミヤもいる。
それとも奇策、妙策といった作戦発案能力が高いのだろうか?これもまた否である。むしろ彼はそういった事に関しては平凡であると言えた。
では何故か。
理由は大きく分けて二つある。
一つは各オペレーターの能力を彼ほど把握している人間がおらず、またその情報に重きを置いた彼の命令は必ず自分ができる事であり、生き残る道に繋がっているという信頼がオペレーターに共通してあること。
もう一つはーーーーーー
『制圧完了。新しくクズ共が湧いて出てくる気配も無い。』
『すまない、ドローンを一機打ち漏らした。そっちに向かってる。』
『なんとか、防げよるけど、っとぉ!もう一人来たらキツイかもしれんわ!』
『リーダー、いつでもいけるよ!』
『ドクターくん、医療オペレーターが余っていたら回してもらえる?急がないわ。』
『レユニオンの重装兵が二人こちらへ。足止め致します…。』
『私の担当区域は現在優勢だ。手薄すぎる気もするが…。』
『ドクター、ソウルブースト発動限界時間まで後10秒です。』
ヘッドホンから聞こえるオペレーター達からの報告を聞いてドクターは目の前に置いた端末に情報を更新し続けていた。
同時にそれとは別のもう一つの端末も操作する。オペレーターをタップしそこからいくつもの詳細な項目が表示された直後に指示を選択していく。
余剰戦力の投入、スキル発動許可、スキル発動後のオペレーターのカバー指示、敵の侵攻進路の予測を必要なオペレーターに共有、帰還ルートの送信、現状維持命令、維持しつつ徐々に後退…etc.
それらは各オペレーターに支給されたイヤフォンに音声として出力される。また、時にそれで用足りない場合は更に詳細な指示をヘッドホンに接続されたマイクから直接伝えたりもする。
情報をまとめながら優先順位を決め刻一刻と変化する戦場に可能な限り早く対応する。し続ける。
もう一つの理由とは彼の持つ類まれなる並列情報処理能力であった。
「皆おつかれさまー!レーション選び放題の時間だよ!」
グムの声に歓声が起き、彼女の周りに人だかりができていくのを私は遠くからぼんやりと眺めつつ煙草をふかしていた。
今回はレユニオンのキャンプが発見されたという情報がペンギン急便伝いで入って急行したのだが、途中の賞金稼ぎや山賊もどき達のせいで連戦になってしまった。
腹は減っているし脳が糖分を求めている信号を発しているのを感じるがグムの所まで歩く気力も無くこうして廃墟の壁にもたれて座っていた。
余ったヤツをロドスに戻る途中に貰うことにするか…もし余ったらの話になるが…。
「何呆けてる。掃除は終わったんだ、さっさと帰るぞ。」
そんな事を考えているとふとそんな声が隣から聞こえた。
見上げれば、作戦後だからか汗が乾いて固まったであろう髪が顔に張り付けたスカベンジャーが立っている。
一服ぐらいさせてくれ、と少しぶっきらぼうな言えばフンと鼻を鳴らした後レーションを投げ渡された。遠慮なく顔面を狙ってきたが予想通りのため片手で受け止める。
私の記憶から思い返しても最初と比べて随分こいつも変わったように思える。
そっけないというか…私に期待も興味も無い印象だったのだが。
まぁ一人で居続けるにはうちの連中は少々世話焼きが多すぎる。周りに染められたとかだろう、多分。
何人か具体名を思い出しながら渡されたレーションの蓋を開けるとどこか嗅いだことのある匂いがした。
側面を見れば『オリジムシレーション〜地中海より愛をこめて〜』と書かれている。
私はそっと蓋を閉じて煙草を吸った。
「おい。」
「いや…理性0の今でも無理だ。それにどうして新作ができている…。」
「向こうでブログがどうとか言ってたのは聞いた。」
「よし、彼女は当分ネット閲覧に制限をつける。絶対につける。」
もしかするとそのブログはレユニオンの工作とかだったりしないだろうか。内部から弱らせるというような。驚く程効果的で開き直って賞賛したい。褒美に拷問にオリジムシを無理矢理食わせるという選択肢を増やしてやろう。早速帰り道でドーベルマンに相談だ。
「…食わないのか?」
…食わないとダメか?
いや、彼女の気持ちを無下にする気持ちはこれっぽっちもない。
正直嬉しかった。スカベンジャーがこんな気遣いができる子に育って、あぁ指揮官しててよかったな、なんて柄にもなく思ったのだ。コレじゃなければ当分この味を忘れなかったと断言できる。
コレを食べても忘れられない気がするがな?いやそうではなく。
とはいえ代わりのヤツ持ってきてくれなんてそんな事言えはしない。できればそんな恥をかかせるようなことはしたくない。
…食うか?食ってしまうか?
待てそれでまた気絶でもしてみろここは外地だ前とは違…
「食わないならよこせ。」
「…え、あぁ…え?わ、わかった。」
「ん。…チッ。」
どうにかうまい具合に乗り切れる妙案を思いつくのを待っている最中に思わず伸びてきた蜘蛛の糸に咄嗟にしがみついてしまった。
結局恥をかかせてしまったのでは?と一瞬頭に後悔がよぎるが時すでに遅し。レーション(地中海のオリジムシ100%と原材料表示に書かれているのが見えた。絶対嘘だ。)を手渡すとスカベンジャーは一口食べて顔をしかめた。
言われるがまま渡した後で言うのもなんだがまぁそうなるよなと思う。
そんな考えと裏腹に仲間(犠牲者)が増えた事による暗い喜びを感じたりもした。
直後スカベンジャーはレーションを自分の口に流し込むまでは。
「死ぬ気か!?」
「…っぷ…うるさい。レーションなんざ不味いもんだろ。」
「私はそれで味覚を喪ったんだが…。いや、意識があるだけマシか…更に腕が上がったな、グム…。」
あの兵器を不味いくらいに抑え込めるとは…。
涙が出てしまいそうだった。より犠牲者が増えそうな気がしたが故に。
グムに課すネット閲覧規制を1年間にすると決めたきっかけである。
「元からたいし…あー…口直しさせろ、ドクター。」
「?まぁ無理はするな。立ってないで座って休んでおけ。ほら、『chemical line』しかないが。」
「知ってるよ。」
「へぇ、そんな薬品臭いのよく吸えるね。」
頭上からそんな言葉が降ってくるまで私は彼女の存在に気がつかなかった。
「…。ドクターらしくていいだろう?」
気配なく忍び寄るのが流行っているのか?
技量が高いのは結構だが非戦闘時に上司の背中を取るんじゃない。いや非戦闘時でなくてもだ。
首を90度近く反らすとプラチナが壁の上に座って涼しい顔で煙を吐いていた。
彼女について私が知っていることはそれほど多くはない。
カジミエーシュ無冑盟に属する凄腕のアサシン。
前線近くで大量の弾幕を張るエクシアと用兵は違うので比較するのは難しい。だが時に敵の背後をとり、また時には遠くから静かに確実に敵戦力を削り取っていく彼女もまた間違いなくロドス屈指のスナイパーである。
後は甘い物とか可愛い物が好きらしい。
今も弓にデフォルメされたペガサスのチャームをつけている。
「余計なこと考えてない?」
「こいつが作戦中以外まともなこと考えてんなら驚きだ。」
「…いや、似合っていると思うぞ。」
「?ありがとう。」
よくわかってないまま照れた顔を見せるプラチナにスカベンジャーはやってられないという目をして煙草に火をつける。
特に示し合わせた訳でもないが喫煙所じみてきたな。
携帯灰皿が吸殻で溢れそうだ。
「んな事はどうでもいい、さっきの話聞いてたのかお前。」
「お前が敵から追い剥ぎした武器のレビューなら聞いた。これ以上武器庫に大型の武器は入らない。諦めろ。」
「断る。じゃなくてその後の…んあぁ、もう1度話してやれよ。」
プラチナはグムを中心にした騒ぎをぼんやりと眺めていたようだったがスカベンジャーに水を向けられると彼女の大きな瞳が私を写す。
「今回の作戦、うまくいきすぎじゃない?」
あぁ、とかうむ、だとか意味の無い言葉を発しながら私はプラチナの視線の移動を逆回しするかのように遠くから聞こえる騒ぎの方に目をやった。その中にいるにこやかにレーションと水筒を交互に口にするプラマニクスとパフューマーが目に入る。
「…新たに参加したプラマニクスが刺さっていたな。戦力の逐次投入を強いらせることが出来た。」
「そうだね。損害も軽微だったのは彼女がいた要因は大きいと思う。」
だけど、と言葉が続く前にスカベンジャーが笑うように息を吐いた。
「は、巫女サマの為に根回しか?私らにやっても意味ないだろうに。」
「…他でそれを言うなよ、スカベンジャー。」
せっかくの大金星だ。多少不審な点があれど利用できるものはさせてもらおう。釘を刺せばわかっているというように彼女は肩をすくめた。
ふと彼女の趣味と実益を兼ねた調査を任せたことを思い出す。丁度いいのでついでに聞いておくことにした。
「キャンプの方はどうだった?」
「前線基地としては上々だ。運ばれたばかりみたいに食料も武器も倉庫一杯あった。」
「武器の詳細は?」
「ライオットシールド、警棒、ライフル…。まぁウルサスの正規装備が主だ。」
「…そうか。」
恐らくスカベンジャーもその話をしに来たんだろう。
それ自体はおかしい話ではない。チェルノボーク事変の後それらを手に入れるのはレユニオンにとって難しくなかったはずだ。
逆に言えば今回のように横槍が入って奪われてもそれほど奴らにとって痛くはない。
「武器なんて使う人がいないなら意味ないのにね。
解ってるんでしょ、ドクター。」
「警備が手薄すぎる。そう言いたいわけか。」
楽だった、で終わる単純な話ならよかったんだが。
「源生生物と流れ者、暴徒がメインで他は数えるくらい。本気で守るにしてはちょっと杜撰かな。」
そもそもさ、と続けながらプラチナは新しく煙草に火をつけた。
たまたま風向きがこちらになり甘い匂いが鼻をくすぐる。
『jack cat』。フィルターまで甘い甘党御用達の煙草。
「今までレユニオンに後手に回り続けてたのに今日になって先手をとれた。ペンギン急便を襲ったとかがきっかけだっけ?ゲリラがお得意の彼らにしてはちょっとお粗末なバレ方だね。ああいうのって尻尾を掴むのが面倒なのに。」
プラチナの経験から感じるものがあったのだろう。
私は経験がどうしても浅い。それはどうしようもないし時間が追いつくのを待っていられる状況でもない。
だから彼女の様なオペレーターが部下にいるのは大変心強かった。
「つまり、陽動だったと。」
「だと思うけど。」
彼女の勘はあてにするに限る。故に薄々予期していたものとはいえ事態が動く気配とこれからの面倒を考えて、倦怠感が体を覆っていくのを感じた。
泣き言を言っている暇は無いので鬱屈とした思いを煙に乗せて気持ちを切り替えた。
「スカベンジャー、お前を中心に単独行動ができるオペレーターにこの辺りの偵察を任せるぞ。」
「解った。小隊行動じゃなくていいんだな。」
「話が早くて助かる。」
どうせこれ以上は何も出ないだろうが後顧の憂いは断っておきたい。
「プラチナ、これが陽動だとして奴らはどう動く?」
「…うーん、できるだけ離れた場所っていうのが基本だろうけど…。
まぁ…彼らがわざわざ陽動をしかけてこの場所に注目してほしいのなら地方じゃなくて主要な移動都市。
それでいてまだレユニオンへの警戒がきっとそれほど強くない、チェルノボークから離れた場所。
龍門かな。」
「よし。ロドスに戻ったら会議だ。龍門との交渉はケルシー医師に投げる。
私達は実働メンバーとレユニオンの動きを予測する。
アーミヤには話を通しておくからプラチナも参加してくれ。」
「了解、今度はちゃんと面白い戦いになるといいね。」
そう言うとプラチナは吸殻を私の手に持った携帯灰皿の穴にちょうど入るよう投げ入れてぴょんと壁から飛び降りた。
「あぁ、疲れたのならこれあげるよ。脳に甘いものはいいって言うでしょ?」
思い出したように『jack cat』のパックを私の膝に置いてそのままスタスタと真っ白な髪をたなびかせながら歩いていく。
「…戦いにならないのが一番だ。」
遠くなっていくその背中に私は聞こえないだろうと思いつつそんな事を呟いて、ありがたく貰った煙草に火をつけた。
「ドクター、今回の奴らな、多分自分たちが捨て駒なんて思ってなかった。嵌められたって目をしてた奴がいた。」
「覚えのあるやり方だな。自分の部下をなんとも思ってない。」
「…あんたも誰かを嫌う事があるんだな?」
「当たり前だ、あいつには借りもあるしな。
いつかまとめて返すぞ、メフィストフェレス。」
元々弓使うキャラ好きなんですよね。