「現地調達はサバイバルの基本、つまりオリジムシを食べるのは理に叶ってるんだよ!」
「何を言っているのか解らない。解りたくない。」
グムの突然の来訪に私は慄いていた。
というかうちの執務室はどうなっているんだ。セキュリティは何をしている。敵は今にも私を害そうとしているぞ。今こそ最高セキュリティの見せ所ではないか。
幾度となく破られるセキュリティに技術の限界を見る。
そうやって私が現実逃避することを誰が責められるというのか。
グムはロドスの調理番である。料理が好きな彼女にとっては願ったり叶ったりのようで楽しそうに厨房にこもっている姿を常、見受けられる。
そんな彼女に私は感謝しているのだ。食とは何気ないながら一番の娯楽でありロドスの心臓を担っていると言っても過言ではあるまい。
また、食に対して人一倍関心が強い彼女の申し出はロドス全体のモチベーションの向上に役立つことが多い。
だが今回は別だ。
オリジムシとは端的に言えば、鉱石病に感染したナメクジのようなものである。
私は群れをなす奴らを想像しながら決意を新たにした。
人にはけして譲れない一線というものがある。
人であることを辞めてしまった人間に人を救うことなどできないのだ。
「もう、ちゃんと聞いてよドクター!」
「…解った。だが一つ約束してくれないか。」
ぷんすかと怒る彼女を宥めるように優しく、そして震えないように気を張りながら提案を持ちかける。
「私には味見をさせないと誓ってくれ。」
私を卑怯者と罵る声が聞こえたような気もした。事実そのとおりであった。
だが非力な私には自分の身を守ることが精一杯である。
すまない、我がオペレーター諸君。人には出来ることが限られているのだ。私は今日ほど自分の力の無さを悔やんだことはない。
だが安心しろ。
犠牲は増やさぬようこの矮小な指揮官は全力を尽くすと約束する。
後、給料も上げる。
だから頼む。
尊い犠牲になってくれ。
「え?でもドクター煙草の吸いすぎでもう味覚ないようなものでしょ?」
「帰ってもらえるか?」
私が何をしたと言うんだ。
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「そもそもなんでそんな気を違…奇天烈…ある意味天才の所業を思いついたんだ?」
「えっへへ、そうでしょ〜?っていっても私が思いついたんじゃないけどね。ネットにパンが無ければオリジムシを食べたらいいじゃないって話があったからこれだと思って!」
そうか。どこの誰かは知らないがきっと理性が残り少なかったのであろう。与太話を真に受ける人間がいるとは言った本人も思いもよらなかっただろうが。
「でね、味とか調理法も載ってたから試さずにはいられなくなっちゃったんだ〜。」
理性というか正気度が怪しい人物だったらしい。
なにがあなたをそこまで突き動かしたのだ。
聞こえているか、ネットに書き込んだ見知らぬ人よ。
もうすぐそちらに仲間が増える。できれば優しくしてあげてほしい。
「というわけではい!オリジムシのサンドウィッチ〜ペパロニソースを添えて〜!」
まだ心の準備が終わっていないんだ、しまってくれ。
何だその…パンの隙間からはみ出ているのはオリジムシの角か?それって食えるのか?
匂いがまだ美味そうなだけに見た目の凶悪さが引き立つようである。
…い、いやポジティブさを捨てるな私。まだペパロニソースという味の濃い添え物があるだけマシだ。無心で食べれば傷は浅い。
「それとはい!オリジムシの出汁をふんだんに使ったオリジムシ入りのオリジムシスープ!勿論濃縮還元だよ!」
狂気を畳みかけるな。生きるのが辛くなる。
見ればオリジムシが乱雑に切り分けられ、ごった煮されているようにしか見えない。スープはオレンジ色で煮こごりのようにどろりとしていて味の想像をすることすらはばかられる。
もうオリジムシが何なのか解らなくなりそうだ。いっそ解らなくなりたい。こんな時だけ残っている理性が憎い。
濃縮還元の何が勿論なのかも解らないし何をどうやって濃縮したのかに至っては聞きたくもない。
「で、最後に意欲作!オリジムシの踊り食い!」
「警備兵!!!今すぐ執務室に来い!!!!これ以上は私は自分を保っていられるか解らん!!!!」
何故かこれだけ鉱石病に配慮したように外殻が無くなったりしていたが、それだけに痙攣している様は私の原始的な恐怖を煽り、気づけば金切り声で助けを呼んでいた。
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無事グムの手料理?という冒涜的な見た目をした生物兵器達は(目にした何人かをSAN値チェック失敗に追いやりつつ)なんとか撤去された。
「いい案だと思ったのに…」
しょんぼりと落ち込む彼女にかける言葉が見つからない。
先述したように彼女自身のロドスにおける功績は言うまでもないのだ。
もう少しうまく立ち回って彼女を傷つけずに済む道もあったのかもしれないと思うと悔やまれる。
いや、それでも味見はごめんだが…。
「まぁ、なんだ…。発想自体はよかったと思う。現地で満足な栄養補給がいつも上手くいくとは限らないというのは私にも良く解るんだ。
だがオリジムシは最後の手段に取っておきたい。
保存食の長期化や効率化を更に…」
「それは限界があるよ。」
真に迫ったその言葉に口を噤む。
彼女の言うことが最もであることは充分理解しているのだ。
遠征に必要なものは食料だけじゃない。
戦闘を行う以上できるだけ身軽にしたいので、できるだけ切り詰めていかなければならない。
しかしながらそれが理由で食料が不足することはままあるし、かといって現地調達するには鹿が都合よく跳ねていたりすることはまず無い。
そうした上でオリジムシとは見飽きるほどに見るので、もし食料に転化できればこれから遠征時の食料について頭を悩ませる必要は無くなる。
「いつだってお腹いっぱい食べれるとは限らないってグムはよく知ってるんだ。
『どんなものでも食べなくちゃいけない』っていう時に必要なのは料理の腕と…慣れだよ。」
その言葉にどんな思いがあったのか想像に難くない。
彼女は私よりもよっぽど壮絶な過去を生き抜いたのだ。
そんな彼女がここまで料理に夢中でいられるのは『どんなものでも食べなくちゃいけない』時があったからこそなのかもしれない。
そう考えて私は自らの軽率な行いを後悔した。
「…そうだな。私の考えが足りていなかった。
すまない、次の機会があれば必ず私が」
「ほんと!?じゃあはい、これ!オリジムシレーションカレー風味!」
そう言ってカァン!!と缶詰がデスクの上に叩きつけられるように置かれる。
だから早いんだよ、グム。
さっき最後と言ってオリジムシ単体出していただろう。
まさかまだ残弾が残っているなんて思わないじゃないか。
やめてくれ、嬉しそうな顔で缶を開けるな。
うわ、なんだこの…形容しがたい匂いは…ゴムと吐瀉物を煮込んで数週間放置したような…いやもっと酷い…。
わかった、食べるから。必ず食べる。だから一度席を外してもら…駄目か。
落ち込むなグム。…少しだけ時間をくれ。
…震えるな、私の腕よ。お前だってグムの腕は知っているだろう?
大丈夫だ、きっと見た目と匂いがアレなだけできっと味は大丈夫なんだ。だからきっと…うん、ほら…大丈夫だ。
よし覚悟は決まった。いくぞ…いくぞ!!
「がっ!!!!?????」
「ドクター!?」
その後。
ドクターはしばらく正気を失い「尻尾ソムリエ…???それはどういう、え、味や感触…?」「やめてくれ聞きたくない!!」「…抉り込むようないいストレートだった。君も苦労しているんだな。」などと支離滅裂な事をしばらく言っていたかと思うと突然気絶した。
これもグムには「ん?間違ったかな?」と不思議そうにオリジムシレーションを見ていたが、その後執務室に入ってきたアーミヤに(最初は何が起きたのかわからずしばらくフリーズした後)叱られオリジムシが調理されることは…少なくともしばらくは禁止されたのであった。
余談だがドクターは目が覚めてからも煙草の味すら一週間ほど解らなくなるという後遺症を負った。
それだけで済んだのは幸運だった、と疲れたように笑う尊い犠牲者にしばらく皆優しく接したのだった。
ということで黒井鹿 一さんの「うちのろどす・あいらんど」のネタを使わせて貰いました。快く許可を頂けて大変感謝しています。
本当に初めてオリジムシを食うという発想を爆笑しながらどこかこの世界観なら納得だなと思ったのを覚えています。
オリジムシの食レポを見れるのは「うちのろどす・あいらんど」だけ!!皆、読もうね!!