異界の太極   作:夜叉烏

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 こんばんは。夜叉烏です。

 暫く滞ってた本作を久々に投稿します。

 


ロデ二ウス沖海戦

 韓国の援助によって拡大・近代化されつつあるクワ・トイネ公国のマイハーク港では、大邱級フリゲートの輸出型――クワ・トイネ海軍ではネル級と命名された――がガスタービンエンジンの甲高い音色を響かせ、出港準備を整えていた。

 

 韓国製の艦船はインドネシアやタイ、台湾、シンガポール、チリ、ペルーといった国家で人気を博し、韓国経済を潤す要因の一つとなっていたが、その中でも特に相手国の目を奪ったのがこの大邱級フリゲートだった。

 

 新生クワ・トイネ海軍旗艦のフリゲート『ネル』の艦橋では、パンカーレが司令官席に腰掛けて準備が整っていく様子を眺めていた。

 

 「敵は4000隻の大艦隊らしいな。以前の戦力ならば絶望しながら戦いに赴いていたところであるが、今は違うぞ」

 

 まだ見ぬ敵に対して闘志を燃やす。

 

 現在のクワ・トイネ海軍の戦力はネル級フリゲート4隻、キラ級コルベット8隻のたった12隻だが、個々の戦闘力はロウリアの軍船などとは比較にならないほど強力なものだ。

 

 韓国の支援で造船所が設置され、間もなく各種兵器を国内で自己完結できるようになれば、ノックダウン生産によって造船所でネル級やキラ級の大量建造が行われる予定だ。

 上層部は、建造も自力で可能な程度に技術力を高めようと、韓国へ留学生の派遣を行わせたりと、技術者の教育に力を注いでいる。

 

 「韓国海軍は確か17隻が参加すると言っていたな?」

 

 「ええ。…少なくないですかね?」

 

 部下が言うが、パンカーレはそう思っていない。

 韓国海軍が自分たちの乗るネル級よりも遥かに大きく、強力な艦を多数保有しているのは、同国軍事顧問団との交流で把握している。

 

 『水上レーダーに感あり!IFFに反応。韓国海軍第2戦隊です』

 

 CICに陣取るレーダーマンが報告する。

 

 この戦いには、韓国海軍の艦隊も派遣されている。

 陣容は強襲揚陸艦兼航空母艦1隻、ミサイル駆逐艦6隻、フリゲート8隻だ。

 

 やがて、水平線の彼方から一群の艦影が現れた。

 輪形陣を形成して近づいてくる艦隊の中央には、右舷側に寄った構造物が特徴的な巨艦が陣取っている。

 

 強襲揚陸艦『江華』率いる韓国海軍第2戦隊だ。

 転移前は黄海やシナ海の警備を担当し、領海侵犯を行う中国海軍に目を光らせていた艦隊で、日本海警備を担当する第1戦隊とともに、韓国海軍の双璧を成す存在である。

 

 『江華』の他、世宗大王級駆逐艦『西厓柳成龍』、『義慈王』と忠武公李舜臣級駆逐艦『姜邯賛』、『崔瑩』、『東明聖王』、『崔茂宣』がその周囲を固め、さらに外側を仁川級フリゲート『全北』、『江原』、大邱級フリゲート『春川』、『水原』、『天安』、『安山』、『城南』、『益山』が囲っている。

 

 大邱級は対空担当と対潜担当各3隻づつが配備され、それぞれK-SAAM"海弓"、K-ASROK"赤鮫"のいずれかのみを搭載することになっているが、今回は潜水艦の脅威がないため、全艦がK-SAAMを積んでいる。

 

 韓国艦隊と合流したクワ・トイネ艦隊は、マイハーク強襲上陸を試みるロウリア海軍東方征伐艦隊の予想進路へと向かっていった。

 

 

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 韓国海軍第2機動艦隊旗艦『江華』からリフトファンを用いて発艦したF-35K 12機は、ウエポンベイと両翼に各種武装を満載したビースト・モードの状態で巡行飛行を行っていた。

 武装の内訳は、CBU-97Kクラスター爆弾6発だ。

 

 北朝鮮陸軍の人海戦術へ対抗すべく導入したクラスター爆弾は一度に多数の木造船を葬り去れること、何よりも木造船に空対艦ミサイルや巡行ミサイルを用いるなど勿体ないことから、今回の作戦に使用された。

 また、B型とA型のハーフとも言うべきK型は、25ミリバルカン砲が標準装備となっており、爆弾を投下し終えた後は同砲による機銃掃射で艦艇攻撃を行う。

 

 この世界ではワイバーンにはワイバーンで対抗するという法則があるらしく、基本的に地上や艦艇からの攻撃で撃墜することはないらしい。

 一応遠距離攻撃が可能な魔導士が配備されているらしいが、一般的に魔法の射程は短く、爆弾を投下する予定高度である3000メートルまで届くことはないし、そもそも音速を超えての巡航飛行が可能なF-35Kには掠りもしないだろう。

 

 『敵艦隊発見。攻撃を開始せよ』

 

 ガンカメラによる光学索敵で夥しい数の艦影を発見した隊長の命令を受け、編隊が散開する。

 高度3000メートルを飛行しているためジェットエンジンの音は聞こえていないらしく、カメラに映る人影はどこか優雅に船旅を満喫しているかのように見えた。

 

 各機ウエポンベイの扉が開き、内部に搭載されたクラスター爆弾を露わにする。

 

 『投下(トゥハ)!』

 

 直後、腹の下や主翼ハードポイントから爆弾が分離し、風切り音を響かせながら落下を始めた。

 

 

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 東方征伐海軍艦隊提督シャークンは、目の前で起きた大破壊に目を丸くした。

 

 威風堂々と進撃していた艦隊の頭上から風切り音がしたと思いきや、上空に黒い雲が出現したと同時に何かが高速でまき散らされ、複数の帆船を穴だらけにしたのだ。

 

 黒雲は艦隊を覆い尽くすように出現し、飛び散った"何か"が今なお次々と船を引き裂いている。

 あまりにも一方的な展開に、もはや頭が追いつかない。

 

 「何なんだ…!?どういうことだこれは!?」

 

 そう口にするので精一杯であり、今まで経験したことのないこの事態に対処指示を出すなど思いもよらなかった。

 麾下の軍船も右往左往するばかりで、中には勝手に逃げ出す船もいる。

 

 シャークンには確認する術はなかったが、300隻もの軍船が海面下へ消えたそのとき、空を裂くような轟音が聞こえてきた。

 すぐさま双眼鏡で空を舐めるように見回すと、その正体らしき黒点が凄まじい速度で向かってくる様がはっきりと視認できた。

 

 無駄を承知で魔導士による対空戦闘を命じようとしたその瞬間、ワイバーンとは明らかに異なる謎の飛行物体――F-35Kの胴体から光弾が放たれた。

 獣が唸るような爆音の連なりとともに押し寄せるそれらが帆船の1隻に突き刺さるや、マストがすべて薙ぎ払われ、人だったものがあちこちにまき散らされ、甲板を炎と鮮血で彩った。

 

 GAU-12Aから毎分3300発の発射速度で放たれた高性能焼夷弾(HEI)徹甲焼夷弾(API)が木製の船体に火をつけ、乗員諸共火葬していく。

 舷側にも多数の風穴が開けられ、そこから浸水した船が水面下へ消える。

 

 弾切れした機体が次々と身を翻し離脱する頃には、4000隻以上の大艦隊はその数を2000隻以下にまで減らし、隊列も大幅に乱れていた。

 K型(そして日本仕様のJD型、米国で採用されたD型)の25ミリ機関砲の装弾数はA型の150発に比べて500発と多いため、多数の船に機銃掃射を行うことができたのである。

 

 「提督…」

 

 部下が怯えた表情で指示を求めるが、シャークンも呆然とした表情で目の前の惨劇を眺めるだけだ。

 

 「提督!前方に島が!」

 

 その報告に正気を取り戻した彼が見張りが示した方向を凝視すると、確かに黒い影が視認できた。

 しかし、あのような場所に島があるという情報はないし、何より僅かにだが動いている。

 

 「違う!あれは島じゃない!船だ!」

 

 叫んだ瞬間、敵船の甲板へ閃光が走った。

 座乗船の隣にいる船が大爆発を起こし、木材の破片や乗員の肉片が飛び散った。

 

 「なんだありゃあ!?」

 

 「船が一撃で沈んだぞ!?」

 

 軍船を一発で破壊する威力に目を剥く兵ばかりの中で、シャークンは(彼らと比べれば)比較的冷静だった。

 

 「ほ、本部にワイバーンの応援を要請しろ!急げ!」

 

 

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 輪形陣の先頭に位置するイージス駆逐艦『西厓柳成龍』のCICに、レーダーマンの報告が飛び込んだ。

 

 「レーダーに感あり。IFFに反応なし。敵ワイバーンと思われる飛行物体接近。方位30、距離500、高度1000、数350」

 

 不利を悟った敵将が、本国へ航空兵力の増援を頼んだのだろうと判断した艦長が、ごく短く命じた。

 

 「対空戦闘用意」

 

 『対空戦闘用意!』

 

 全区画へ警報が鳴り響き、乗員がヘルメットや救命胴衣を身に着け、艦内隔壁を閉鎖し、ダメージコントロールの準備を整える。

 

 「右対空戦闘、CIC指示の目標!攻撃はじめ!」

 

 相手はミサイルや戦闘機ではないため、電子戦は行わない。そのまま長距離対空ミサイルのSM-6Kの発射を命じた。

 

 「SM-2発射始め!…撃て!」

 

 その瞬間、前甲板と後甲板に備えられた合計120セルものK-VLSのいくつかが解放され、轟音とともに白煙を引きながら必中の矢が放たれた。

 世宗大王級、忠武公李舜臣級の攻撃は連続し、データリンクシステムにて目標が重複しないよう対空ミサイルが放たれる中、SM-2の第1陣が敵編隊へ到達する。

 

 音速を遥かに超える速度で突撃してきた弾体を視認する間もなく竜騎士たちは愛騎諸共木端微塵になり、仲間のあっけない最期に呆然としていた同僚たちも遅れて到達してきたSM-2の炸裂に巻き込まれた。

 

 僚騎が何の前触れもなく血煙とともに消える事態に困惑と恐怖の感情を持ちながら突撃する彼らに、新たな兵器が牙を剥く。

 

 SM-2を放った駆逐艦たちの他、仁川級や大邱級、ネル級にも搭載されているK-SAAM"海弓"が到達したのだ。

 米国のESSMをベースに作り上げた韓国製短距離艦対空ミサイルは、マッハ3以上の飛翔速度でワイバーンに喰らいつく。

 

 総勢350騎ものワイバーンは総崩れとなり、各艦の見張り員が編隊を目視する頃には小隊単位、中には単騎で飛行している者も少なくなかった。

 

 「主砲、撃ち方始め!」

 

 『発砲!』

 

 各艦に搭載された2種類の砲が対空射撃を開始する。

 5インチ砲の狙撃がワイバーンを撃ち抜き、肉片に成り果てたそれらが海へ散っていく。

 

 一応RAM近接防空ミサイルやK-CIWS 25ミリCIWSがいつでも発砲できるよう待機していたが、それらは結局火を噴くことはなかった。

 

 静寂が海域を支配した。

 

 

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 「艦長、ヘリ全機を発艦させたまえ。その後本艦は『城南』『益山』とともに現海域にて待機。他艦はクワ・トイネ艦隊とともに先行せよ」

 

 強襲揚陸艦『江華』に将旗を掲げる金洪宋(キムホンソン)中将は命じる。

 

 帰還したF-35Kは格納甲板へ仕舞われ、代わりにドアガンのGAU-19 12.7ミリガトリング砲や"隼"対戦車ミサイル、M21サブシステムを搭載したKAI KUH-2"スリオンMk.2"と、海兵隊が運用するAH-1K"スラムヴァイパー"が次々に発艦していく。

 

 同時に、『江華』と大邱級2隻を残して戦闘艦艇がさらに前進する。

 

 先陣を切る駆逐艦『西厓柳成龍』、『義慈王』が、真っ先に砲撃を再開する。

 放たれた榴弾が各一隻を爆沈させたところで、後続の『姜邯賛』、『崔瑩』、『東明聖王』、『崔茂宣』、大邱級6隻が順次砲撃を再開した。

 

 標的となった帆船の中に、無事なものは1隻もない。

 直径5インチの榴弾を喰らった船は爆炎と木片とまき散らしながら消し飛んでいく。

 

 即応弾を撃ち切った艦が長い装填に入る中、空からの刺客が参上する。

 

 低空へ舞い降りたスリオンMk.2が12.7ミリガトリング砲の射撃を浴びせ、前方固定のM134ミニガンを乱射する。

 甲板で呆然としていた兵たちが暴風を浴びたように薙ぎ払われ、50口径弾や7.62ミリ弾の弾幕によって穴だらけにされたマストが倒壊し、被弾多数によって強度が低下した船体が波に揉まれ、バラバラになった。

 

 AH-1Kの機首に装備されたGAU-22C 25ミリバルカン砲――GAU-22Aを3銃身に減らし、発射速度を毎分600発に改めた――の射撃が軍船の舷側を構成する木材を穴だらけにし、70ミリロケット弾が甲板で炸裂し、木片や人間の惨死体問わず吹き飛ばす。

 

 両機はさらにK-AGM"隼"を発射し、狙った船を木端微塵に爆砕していく中、装填が終了した戦闘艦艇が砲撃を再開する。

 突撃することで距離が縮まっているため主砲のみならず、各艦が搭載する対小型船用K40 40ミリRWS、K6重機関銃、30ミリCIWS、そして対空兵器であるRAM近接ミサイルまで動員し、手動照準によって攻撃していく。

 

 『敵艦隊、順次反転を開始。逃亡を図る模様』

 

 「逃がすな」

 

 逃走進路上へAH-1Kとスリオンが回り込み、機銃掃射を浴びせる。

 後方からも戦闘艦艇が砲列を並べ、射弾を浴びせていると、敵船のマストから帆が下ろされ始めた。

 

 「司令、クワ・トイネ艦隊のパンカーレ長官より通信!」

 

 『江華』CICのディスプレイに、パンカーレの顔が映る。

 

 『金司令。帆を降ろすのは降伏の合図ですが、いかがいたしますか?』

 

 「…これ以上は弾の無駄ですし、無抵抗の敵を虐殺するのは気分が悪いです。剣はここで収めましょう。我々はこれより救助活動を行いますが、貴艦隊はいかがいたしますか?」

 

 「…我々もご協力しましょう。彼らを皆殺しにするのは簡単ですが、我々が悪魔になる必要はありません」

 

 「では…」

 

 通信を切ると、起立して新たな命令を出した。

 

 「これより本艦隊は敵兵の救助活動を行う。短いとはいえ戦闘後であり、諸君には苦労を強いることになるが、もうひと踏ん張り頑張ってもらいたい」

 

 すぐさま各艦から武装を外したスリオンMk.2が発艦し、救命ボートが降ろされる。

 

 「負けたら皆殺し」の概念が定着している彼らは手を差し伸べてくる敵に困惑していたが、冷たい海水によって意識が朦朧としていた者たちは、無意識に救助へ赴いた韓国水兵・クワ・トイネ水兵の手を握った。

 

 ヘリと救命艇が往復していくうちに、各艦の治療室や甲板には負傷した兵たちが溢れかえっている。

 

 前世界でも屈指の性能を持っていた韓国艦艇は戦闘後、全艦が巨大な病院船へ早変わりしたのだった。




 閲覧ありがとうございました。

 後々活動報告を更新しますので、コメントしていただければ幸いです。

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