久しぶりに本話を投稿します。
「パーパルディア皇国と戦争になるかもしれない」
フェン王国国王シハンの言葉に、会議に参加していた幹部たちはどよめき、一部は冷や汗を垂らした。
この国には魔法はおろか、ワイバーンすらない。
武器も、剣や槍、弓矢が主流だ。
対してパーパルディア皇国は、最新鋭兵器であるマスケット銃を装備し、高性能な魔導砲も配備している他、陸戦生物兵器リントブルム、ワイバーンの改良型も保有している。
歩兵にしても、一個人の実力はともかく、数が違いすぎる。
局地的なゲリラ戦なら勝利できるだろうが、大勢を覆せる可能性は皆無だろう。
「…皆の思うことは分かる。だが、如何に列強とはいえ、我が国の土地をそう易々とくれてやるわけにはいかぬ。…各人、戦の準備を急げ」
それで、場はお開きとなった。
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全員が去った後、側近のモトムが話しかけてきた。
「剣王、大韓民国という国の使節団が応接室にて待機しておりますが…」
「あぁ…。クワ・トイネ、クイラとともにロウリアに勝利したというあの…」
戦争後、国王ハーク・ロウリアは捕縛されたが、ロウリアそのものは滅ぼすことなく、戦後復興を支援しているところから、理性的かつ人道的な国家だと考えられた。
国力がどうにせよ、フェンは現在、少しでも味方が欲しい状態だ。
シハンも、ロデ二ウス3国共々要請文を送ろうとしていたところだが、向こうから来てくれた格好になった。
「よし、直接会ってみよう」
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「まるで江戸時代の日本だな…」
大韓民国外交官
道中、街のあちこちを軽く見て回ったが、建物の外観といえ雰囲気といえ、日本――それも数百年前の同国に酷似している。
国民の暮らしは決して裕福ではないが、精神レベルが非常に高い。
日本国内の韓国大使館に勤めていた経歴を持つ許沈は、過去へタイムスリップしたような気分になった。
「剣王の御成りです」
案内人が襖を開ける。
側近らしき男を連れ、壮年の偉丈夫が入室してきた。
(ほう…。なんと精悍な顔つきだ。鍛え上げられた肉体。軍人上がりかな?)
フェン王国のトップを、頭の先から足まで数秒で見終わった許沈は、そう仮説を立てた。
立ち上がり、一礼した後に名乗る。
「大韓民国使節の許沈と申します。本日は急な来訪にも関わらず取り合って下さり、感謝致します」
「うむ。使節殿、ここまでの長旅、ご苦労であった」
「ありがとうございます。早速ですが、貴国と国交を開設したいと思い参りました。挨拶として我が国の品をいくつか…」
許沈に着いてきていた部下が、持ってきたものを差し出す。
畳まれた韓服、瓶詰めされたマッコリにソジュ、韓国アクセサリーブランド自慢のネックレス、大手企業サムソン電子が誇るタブレット端末。
シハンはスタンドに立てかけられたタブレットを、様々な角度から眺め始めた。
「この石板のようなものは何なのだ?」
「はい。こちらはタブレットといいまして…」
側面の電源ボタンを押すと画面が光り、企業のロゴが映る。
試しにカメラアプリを起動させると、突然光った石版擬きに驚く彼らを余所に内カメラに切り替え、自分の顔へシャッターを切った。
撮影した自身の顔が映った画面をシハンらへ見せると、彼らは面白いほど困惑していた。
「なっ!?き、貴殿がこの中にいるぞ!一体どうなっておるのだ!?」
(あ…カメラとかテレビを初めて見る人は、やっぱり中に人がいるって思うのか)
数あるSF作品等でよく見かける光景に、許沈は少し納得していた。
シハンは咳払いすると、タブレットを置き、話し始めた。
「失礼ながら、我々は貴国…大韓民国についてよく知らない。親書は読んだが、国ごとこの世界へ転移してきたことや、島のような大きさの戦船など、とても信じられないのだ」
そこで区切ると、言葉を続ける。
「そこでだ。貴国には水軍のような組織があると聞く」
「海軍ですか?確かにありますが…」
「近々、我が国は軍祭を開催するのだが、それに貴国の軍船を派遣させてはくれぬか?我が国から廃船4隻が出るから、それを敵と見立てて攻撃してほしい。要は、力が見たいのだ」
それを聞き、許沈は考え込んだ。
国交もなしに他国の軍が来るというのは、前世界では考えられないことである。
だが、武の国であるフェンからすれば、当たり前のことなのだろう。
許沈はそう解釈し、本国に報告した。
後に、訓練を兼ねて済州島に駐屯する第3戦隊を派遣することに決定する。
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軍祭に呼ばれたガハラ神国竜騎士団所属のワイバーン3騎は、眼下の海面を遊弋している巨艦の上空1000メートルを通過した。
騎士団長スサノウは、周りに停泊する文明圏外各国の船に比べて一際異彩を放っている灰色の艦隊を見下ろす。
「でっかいなぁ…」
灰色の艦隊――韓国海軍第3戦隊に所属する巨大な艦の感想を呟いた。
第3戦隊は済州島を拠点としている、上陸作戦に特化した艦隊だ。
陣容は、最新鋭の天王峰級ドック型揚陸艦『天王峰』『天子峰』、護衛として忠武公李舜臣級駆逐艦『階伯』『柳誠源』、仁川級フリゲート『忠北』『光州』、大邱級フリゲート『群山』『羅州』、張保皐級潜水艦『羅大用』『李億祺』、孫元一級潜水艦『李範奭』『申乭石』、天池級補給艦『天池』『大清』。
天王峰級は元々、基準排水量5000トン弱の中型揚陸艦として建造が予定されていたが、急遽設計が変更され、結局1万トンを超える大艦となった。
中国海軍の071型揚陸艦のサイズダウン版とでも呼ぶべき外観の天王峰級は、LSF-Ⅱエアクッション揚陸艇2隻が入るウェルドッグに、戦闘車両24両、兵員500名、ヘリコプター4機の運用が可能であり、迅速な部隊揚陸が可能だ。
前甲板には62口径76ミリ速射砲"スーパーラピッド"が、両舷に40ミリ連装機銃"露蜂Ⅱ"が装備されており、ある程度の自衛能力を持つ。
インドネシアの発注を受けて建造されたこともあり、『タンジュン・ダルペレ級』の名称で同国海軍が採用している。
世界的に見ても高性能な部類に入るこの艦を、陸軍国家である韓国は、あろうことか2隻保有している。
これにはやはり、西側各国の要請があった。
馬羅島級の例があるように、東側国家へ上陸作戦を行うことになった場合、米国を中心に日本、オーストラリア、EU、カナダ等が共同で実施するのだが、それに何としても韓国を加えたかったのである。
無論ただ頼むだけでなく、強襲揚陸艦の設計・運用のノウハウを余すことなく教え、上陸作戦のイロハも叩き込んだ。
北朝鮮を仮想敵とし、強力な陸戦兵器と屈強な将兵多数を有する韓国軍は、そうしてまで引き込みたい存在なのだ。
また韓国国内でも、馬羅島級は軽空母としての任も兼ねるため、揚陸艦としての能力が制限される場合があることなどが指摘された。
それにより、揚陸能力へすべてを割り当てた艦の建造が認められたのだった。
また、転移によって島国となってしまったこともあり、本級2隻の追加建造が決定している。
護衛に関しては、第1、2戦隊よりも少ないものの、主な任務は上陸部隊の支援であるため、問題視はされなかった。
それを補うように潜水艦の護衛が付いている他、新規建造される駆逐艦・フリゲートが配属される予定だ。
《眩しいな…》
「ん?…あぁ、今日は快晴だしな」
相棒の風竜が話しかけてくる。
彼らは知能が高く、竜騎士とコミュニケーションが取れるほどだ。
《いや違う。あの船団から光があらゆる方向へ照射されている。我々が同族と会話したり、何が飛んでいるのかを確認するものだ。人間には見えないがな》
「へぇ…」
思わず目を凝らすが、相棒の言う通りその光が見えることはない。
《しかし、あまりにも強すぎる光だ。儂は120キロ先のものを見ることができるが、あの船たちはそれよりもずっと遠くの敵を探索できるようだな》
「…大韓民国か。凄い国だな」
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「あれが韓国の戦船か…まさに、海に浮かぶ城だな」
「えぇ…。私も何回かパーパルディア皇国へ赴いたことがありますが、これほどの巨体を持った船など、見たことがありません」
そんな彼らを他所に、韓国艦船の1隻――駆逐艦『階伯』が前進する。
前甲板に据えられたMk.45 5インチ速射砲が旋回し、長大な砲身が廃船の1隻へ指向した。
「あそこから狙うのか?『剣心』でもあの距離では無理だが…」
直後、砲門へ発射炎が閃き、僅かに遅れて砲声が届いた。
発射された直径127ミリの砲弾は、木造の舷側を紙のように貫通し、船内で炸裂する。
一瞬、船全体が大きく膨らんだように見えた直後、標的は紅蓮の炎とともに跡形もなく吹き飛んだ。
3秒おきに4回の射撃が実施され、そのすべてが廃船へ命中し、燃え盛る残骸へ変えていた。
「これは…何とも…凄まじいな」
自分たちの知る攻撃方法とはかけ離れたそれに、フェン側は唖然としている。
他の文明圏外国家からやってきた者たちも、売店で買った食べ物を驚きのあまり落としていた。
「すぐにでも、韓国と国交を開設する準備に取り掛かろう。不可侵条約は勿論、安全保障条約も結んでおきたいな」
シハンは、満面の笑みでそう言った。
部下たちも、異論を唱えはしなかった。
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その頃、韓国海軍第3戦隊旗艦『天王峰』CICでは、乗組員たちが首を捻っていた。
同艦が装備する長距離対空レーダーAN/SPS-48Eが、西方より向かってくる20機編隊を補足したのだ。
ほぼ同時に、僚艦のレーダーもこの編隊を探知している。
「確か、西にはパーパルディア皇国という国があったな」
「えぇ。確かに」
艦隊司令
朴は顎に指を当て、考え込むような仕草を見せる。
「フェン側へ、軍祭へパーパルディアは招かれているのか問い合わせろ。万一のため、対空警戒は厳とする」
同国へ派遣された外交官が門前払いを喰らったことを思い出した朴は、心中で嫌な予感を感じながら命じた。
――しかし、フェン側からの返答はないまま、未確認編隊はアマノキ上空へ姿を現した。
ロウリア軍が使用していたワイバーンによく似ているが、情報よりも優速なようだ。
(噂に聞く、ワイバーンの改良型か?)
朴が心中で呟いた瞬間、20騎のワイバーンが二手に分かれた。
半数がフェン王国の王城へ、残りが『天王峰』へと向かってくる。
驚く間もなく、王城へ向かった騎が導力火炎弾を吐き出した。
木造の天守閣はひとたまりもなく炎上し、紅蓮の炎が全体を包んでいく。
それを見た朴は、とっさに命じる。
「接近中の編隊は敵だ!対空戦闘!」
両舷の、ステルスシールドで覆われた40ミリ連装機銃"露蜂Ⅱ"が指向する。
マッハ2で飛行する対艦ミサイルも撃ち落とせる性能を持つ機銃が、火器管制システムによって操作され、ワイバーンへ対しその砲火を放った。
発砲の度、2本の砲身が互い違いに後退し、毎分660発の発射速度で40ミリ弾を送り出している。
突っ込んできたワイバーンが、真正面から押し寄せた大口径弾の連なりに貫かれ、木っ端微塵の肉片と成り果て、海中へばら撒かれた。
後ろに位置する騎にも順番に射弾が浴びせられ、鮮血と肉片の残骸が海に落下し、海面を赤く染める。
『全騎撃墜!』
その報告が上がった直後、王城を攻撃した残りの編隊も向かってきたが、それは護衛の駆逐艦・フリゲートが対処に当たる。
忠武公李舜臣級、仁川級、大邱級の主砲が上空を向き、5インチ砲弾を撃ち上げる。
近接信管の炸裂がワイバーンを叩き落とし、導力火炎弾の射程に入る遥か前で全滅させた。
『脅威目標なし!』
「状況終了。…しかし、何だったんだあいつらは…?」
竜騎士の救助を命じた後に、ワイバーンの墜落地点へ飛んでいくスリオンⅡのプロペラ音を聞きながら、朴は独り言ちていた。
閲覧ありがとうございました。
次回は監査軍を蹂躙します。