皆さんも感染にはお気をつけて。
頭の上を弾丸が雨のように通り過ぎていく感覚は、何とも形容しがたい焦燥感と緊張感をない交ぜにした物を尻の方から背筋に這い上がらせて来る。身を隠している岩や土手も少しずつ削り取られ、パラパラと身体に降りかかるのが不快でたまらなかった。
「うへぇ……、超タバコ吸いてえ……。どーしてこーなった……」
「うるさいわね、今更悔やんでもどうにもならないわよ! 死にたくなかったら黙って頭下げてなさい、この馬鹿!」
何故こんな事になってしまったのか。そんな後悔の念ばかりが押し寄せてくるが、思い返した所でどうなるという訳でも無い。それでも、それでもと青年隊長は思い返さずにはいられなかった。
青年隊長とその仲間達は、順調に川辺近くに戻るルートを進行で来ていた。このまま何事も無く行軍できれば、もう少しで河川が見えてくるであろう。ムシムシした密林の不快な環境も、その周辺ならば少しはマシになるだろうと足取りにも力が入る。
緋色の髪の索敵少女が敵の哨戒機を、その特異な耳で発見したのはそんな時だった。
「あはっ……、敵機補足。偵察機二機、ふふふっ……」
敵の数は二機。箱型の胴体に四本の足を持つ例の偵察機だ。常ならば相手にせず、やり過ごすのが上策であっただろう。しかし、この発見した哨戒機達は、同じルートをひたすらうろうろするばかりでまったく立ち去ろうとはしなかったのだ。仕方なしに一行は排除する事を選択した。
「任せるぞ。逃がすなよ」
「当たり前じゃない。見てなさいよ、とうへんぼく」
「久々に出番が来ましたねぇ。まあやってみますよ、たいちょー」
副隊長が狙撃で一体を仕留め、もう一方を斥候少女が近接戦で仕留める。青年隊長の指示に対して両者は沈黙のままに頷き、注文通りの結果を果たすべく動いた。
一体目は副隊長の長大な対戦車ライフルからの弾丸で、正面から複合センサーを撃ち抜かれて動きを止める。二体目は同僚が動かなくなった事と遅れて届いた銃声にセンサーを向けた所で、木々を掻き分けて接近してきた斥候少女のマチェーテによって左側面の足を二つとも切断されていた。斬り裂かれた二体目は本体の装甲を開いて二門の機関砲を露出させるも、足が無くては狙いを定める事も出来ずに横倒しになってしまう。腹を見せて横転した二体目は、すかさず翻ったマチェーテが深々と腹腔に突き刺さり完全に沈黙する。
ここが戦場でなければ、思わず拍手したくなるほどの鮮やかな手並みであった。
「よーし、良くやった。最初の方にも念の為、もう一発叩き込んでおけ」
「おーきーどーきー」
副隊長も一機目の方にトドメを刺すべく、ロックを外した銃身を前方に押し出し戻すと言う独特な機構で次弾を装填させる。そして、狙いを定めたままのアイアンサイトを覗き込み、再びの発砲の為にトリガーに指を掛けた所で――
沈黙していた一機目が突如起き上がり、方向転換もせずにそのまま後ろに向かって爆走して行った。
「あ……」
「…………。チョコレート一個没収」
呆然とする副隊長に、自失から復帰した青年隊長が無慈悲に罰則を告げる。それを聞いた副隊長は無言のまま走り出して、逃走した敵機を猛然と追走するのであった。無表情だと言うのに、鬼気迫るとはこの事かと言うほどの迫力を醸し出しながら。
放っておく訳にも行かないので、一行は逃げる敵と追走する副隊長を更に追いかける羽目になった。中でも足に自信のある斥候少女は、先を行く副隊長へ直ぐに追い付き並走する。むしろ追い越さんばかりの勢いだ。
それを横目で確認した副隊長は、走りながらライフルを構えて不安定な姿勢ながらも強引に第二射を打ち放つ。放たれた弾丸は遥か先を行く四本脚の一本を吹き飛ばし転倒させる。
その代償として副隊長も無理な射撃のせいでバランスを崩して転倒。それを飛び越える形で青年隊長が前に飛び出した。
「お前ら、そこの馬鹿を頼む!」
背後から追走していた無口な少女と索敵少女に副隊長を任せて、青年隊長は先を行く斥候少女の背中を追って行く。彼女は転倒しつつも三本足で今だ賢明に逃げる敵偵察機を追い続けている。自分の足ならば追い付いて仕留められると確信しての行動だろう。
だが、周囲の風景が次第に変わり始め、森林の密度が下がって行く。河川が近づき肌で感じる空気までが変わる。明らかに深追いをし過ぎていると、青年隊長は今の状況をそう判断した。
「姫ぇ! 深追いし過ぎだ! 戻れ!!」
「もう少しで追い付ける! 仕留めて見せるわ、見てなさい!」
先を行く斥候少女の背中に声を掛けるが、彼女は目的達成を目前にした高揚感かそれに従う事は無い。むしろ、青年隊長が背後に居る事を意識した途端に、更に敵への執着心が強くなった様子すらある。
恐らくは、いい所を見せたい故の功名心と言う物だろう。何だかんだと言っても、彼女も生まれた意味と言う物を本能で求めているのかも知れない。弾薬の節約の為か銃を使わず、近接戦で仕留めようとしてるのもその影響だろう。
そして、逃走する元四足の箱が密林を飛びぬけて、斥候少女が同じ様に飛び出し追い縋る。小石だらけの川原に飛び出した二体は、着かず離れずの位置を維持したままで川縁まで差し迫った。
それを離れた位置から見守っていた青年隊長は、そこで周囲の風景に違和感を覚える。周囲にある幾つかの大岩が、明らかになめらかな断面を見せていたからだ。自然環境で切り立った断面の岩が発生しないとは言わないが、等間隔に三つも配置されていると言うのは不自然極まりない。これは間違いなく、罠だ。
青年隊長が状況を判断すると同時に、その予想を肯定するかのように不自然な岩が動き出す。無論のことそれは岩などでは無く、岩色の迷彩を施された偵察機よりも一回り大型の胴体を持つ重装四足の強化型歩行戦車だ。その全てが機体上部の装甲を開いて、機体の内側から無骨な四連装ガトリング砲を露出させる。人間どころかコッペリアでさえも数秒で血煙に変えてしまえる凶悪な兵装が、うかつにも罠に飛び込んだ斥候少女を取り囲む。
「姫に『命令』する。全力で俺の所まで戻れ!!」
その状況を見届けていた青年隊長が取った行動は、ベストの左胸に取り付けていた通信機を使う事だった。それは小隊唯一の人間である指揮官のみが扱える取って置き。その通信機越しに発せられた『命令』は、彼女達の本能に訴えかけ絶対服従を強いる。それがたとえどんなに理不尽だろうとも、下された命令の為ならば彼女達は全力を尽くすのだ。
文字通り、全身全霊を賭して。
通信機越しの命令は直ぐ様に斥候少女の頭の中に仕込まれた受信機に届き、自分を取り囲む砲身に驚愕して硬直していた体を強引に突き動かす。急停止からの慣性を無視した後方への鋭い跳躍と、射線を惑わせるジグザグな軌道での疾走。彼女はまさしく目にも留まらぬ速度で青年隊長の身を隠した岩場までの撤退を成功させた。
ただでさえ他の少女達を圧倒する脚力が、身体のリミッターを外された事で更なる飛躍を見せている。射撃準備の為にガトリング砲の銃身が空転を開始し、射撃が始まるまでの刹那の時間にそれを可能にさせて居た。
「っう、くぅぅぅぅ!! アンタ、それ使ったわね!?」
「しょうがねぇだろう。俺だってこんなもん使いたくなかったよ」
無理な動きの代償は当然ある。肉体の限界を超えた駆動と無視してきた慣性は、彼女の肉体にその牙を容赦なく突き立てる。苛烈に襲い来る痛みに、彼女は顔を顰めてその場へと蹲ってしまう。強引な命令の代償は、彼女達の肉体を苛むのだ。肉体の損耗を考えれば三回も使えば命にも関わるだろう。
痛みよりも何よりも絶対命令権を使われた事に怒りの視線を向けて来る銀髪の少女だが、青年隊長がそれを受け流している間に敵側の一斉掃射が始まった。
そして、場面は冒頭へと繋がる。
身を隠した岩をガリガリと削り取る弾丸の嵐と響き渡る一繋ぎになった銃砲音。一分間で三千発以上は弾丸を吐き出す殺戮兵器に狙われていると言うストレスで、青年隊長の胃痛も煙草への欲求もうなぎ上りに跳ねあがって行くばかりである。
「うへぇ……、超タバコ吸いてえ……。どーしてこーなった……」
「うるさいわね、今更悔やんでもどうにもならないわよ! 死にたくなかったら黙って頭下げてなさい、この馬鹿!」
なぜこうなったのかと言えば、まあ大体は隣の少女のせいであるような気がする。だが、それを言えばきっとまた怒鳴られるのだろうと、青年隊長は言葉を飲み込みつつ状況打破の為に頭を回す。
追い詰められてしまう前に小隊を分断できたのは、こちらにとって幸いだったかもしれない。もう暫く耐えていれば、追い付いてきた副隊長達が横合いから援護してくれる筈だ。
そこで問題になるのは、二人を守ってくれている岩の耐久度であろう。今はまだ健気に耐えてくれているが、既に衝撃に耐えかねて無数の亀裂が青年隊長達の方にまで走ってきている。弾幕が激し過ぎてこれでは持って数分か。しかも、敵は掃射しながら徐々に位置を変えて、岩を包囲する様に射角を変え始めていた。このままでは直に、岩陰ではカバーしきれなくなってしまうだろう。
「おい、もっとこっちに寄れ。岩の陰から出たらその瞬間に持って行かれるぞ」
「ちょっ、馬鹿!? 近い、近いから!? っ~~~~~!!」
いよいよ岩の側面が狭まり始め、それに背を預ける様にして座った青年隊長が斥候少女を引き寄せる。というか、殆ど抱き寄せている状態だ。少しでも被弾の可能性を減らす為の行為だったので、顔を赤くした斥候少女も暴れる訳にも行かずに腕の中に納まった。
弾避けになるなら順番が違うとか、何で抱き寄せる形になるんだとか色々言いたい事はあるが言葉にならない様子である。大人しく青年の胸に寄り添っている辺り、むしろ満更でも無いのかも知れない。
命懸けの状況で何やってんだと、突っ込みの様な銃声が響いたのはそんな時だった。
それは先程も聞いたばかりの対戦車ライフルの発砲音。不意の狙撃にガトリングの掃射が止んで、立て続けにライフルの発砲音が代わりとばかりに響き渡る。ガコンガコンと岩色の多脚戦車の一体に連続して弾丸が命中し、その度にその大きな体躯が衝撃に揺れて踊らされた。
青年隊長が密林側に目をやれば、残して来た三人の少女達が木々に身を隠しつつこちらに視線を向けているのが見える。待望の援軍の到着に、青年は思わず口元を笑みの形に歪めてしまう。流石は小隊の中で一番付き合いが長いだけはある、と。
「閃光投擲!!」
叫ぶや否や、青年は岩陰に座り込んだままの姿勢でベストのグレネードホルダーから円筒状の物体を抜き出し、歯を使ってピンを引き抜いてから頭越しに背面へ放り投げた。それは放物線を描いて多脚戦車達の中央へと落ちて安全レバーが剥離。律儀に複合センサーを向けた戦車達の目前で炸裂して、周囲に強烈な閃光と爆音を撒き散らす。
岩陰に隠れて直接光を目にしていない青年隊長ですら一瞬目が眩むほどの輝きを感じ、遠く離れた所では緋色の髪の索敵少女が両耳を押さえて頭を振っている。特別製の耳栓越しでも彼女の聴覚には、今の爆音はなかなか堪えたらしい。
その閃光を目の前で喰らった多脚戦車達は、光学系のセンサーに異常をきたして周囲をキョロキョロと見まわし始めた。機械仕掛けの癖に、妙に生き物めいた動きをするモノだ。
「今だ、逃げるぞ! 副隊長達と合流してこのまま上流方向に向かう!」
「はぁっ!? 目が見えてないなら攻撃し放題じゃない。今直ぐ行ってぶっ壊して来てやるわよ!」
目の眩んでいる間に行動しようとした矢先に、隊長とその部下で行動方針が分かれた。立て続けに失態が続いたので、斥候少女的にはそれを挽回しようと言うつもりなのだろう。だからと言って、予想し得る被害をそのまま享受する訳にも行かないので、青年隊長は暴走しがちな部下を言い含める事にした。可及的速やかに。
「ばっかオメー、カメラの焼き付きなんざ直ぐに対応されるに決まってんだろ! 蜂の巣になりたく無きゃさっさと離れるんだよ!」
「チッ、仕方ないわね。だったらもっと急ぎなさい! ぐずぐずしてんじゃないわよ、このとうへんぼく!」
なんと言うか、どんどんつっけんどんな態度が強くなって行く斥候少女。あまりと言えばあまりな理不尽さに、青年隊長はほんのちょっぴりだがこの口調を強制する為に『命令』を使いたくなってしまう。青年隊長はドMでは無いので罵倒では喜べないのだ。
だが、今はそれ処では無い。報復するかどうかは後に置いて、今は生き延びる事を優先するべきであろう。
一度駆け出せば、やはり斥候少女は速い。あっと言う間に副隊長達の元に辿り着いて、油断なく銃器を構えて青年隊長を睨みつけている。置き去りにされた青年隊長の方はいい加減、走らされすぎて息が上がってきていると言うのに元気な物だ。
とは言え、合流する為には走らねばならない。喉の奥に血の味を感じながら、怠くなってきた両足を更に突き動かした。
「隊長さん! 後ろ!!」
「馬鹿! 避けなさい!」
すると唐突に、副隊長と斥候少女が鋭い叫びと共に銃を青年隊長へと向ける。否、正確にはその背後へと構えているのだが、誤射を恐れて引き金を引けないでいる様だ。
釣られて青年が首だけで背後を仰ぎ見れば、そこには三本足になった偵察機の姿があった。元々センサーを壊されていた為に閃光手榴弾による混乱を避けられた様で、今は音を頼りに装甲の内側から競り出した二門の機関砲で青年隊長を背後から狙っている。偵察型の武装とはいえ、人間には回避するのすら困難な驚異だろう。
――くそっ、俺にも『命令』みたいな機能があればよかったのにな。
青年の中で時間が加速され周囲の風景がゆっくりと流れている間に、頭の中だけでぼやいてみても状況は何一つ変わりはしない。隊員達の全てが密林側から身を乗り出して来ても、この距離では絶望的に間に合いはしないだろう。結局刹那の時間で出来る事など、自身の死を覚悟する程度の事しか無かった。
「あはっ……。あはははははははは!!!!」
それまで黙していた索敵少女もまた、感情が笑い声となって発露する。変換されたのは驚愕だろうか、それとも人間を守り切れない事への恐怖だろうか。
否、彼女の視線は青年隊長では無く、その頭上に向けられていた。青年隊長に頭上から迫り来る物があり、それが今背後から狙って来ている機関砲よりも驚異的であると言う事だろう。そして上から落ちて来る脅威と言えば、もう三度目なので想像に難くない。
青年の背後で機関砲から盛大に銃弾がばらまかれ、上空から落ちてきた物が更に地面に墜落して激しく砂利を巻き上げる。続いて聞こえて来るのは、耳をつんざく様な鉄が滅茶苦茶に殴打される耳障りな悲鳴。後に残るのはせめて姿勢を低くしようと地面に飛び込んで這いつくばる青年隊長と、その彼に覆いかぶさる様にしてぬらりと姿を顕わにする赤錆の七本脚だった。崩落に巻き込まれ銃弾の嵐を受けても、その異形なる姿は健在で有る様だ。
それは奇妙な邂逅であった。蜘蛛を思わせる複数のセンサーがじっと青年隊長を見つめ、青年隊長もまたそれを見つめ返して思わずゴクリと生唾を飲む。しかして、お互いに動く事は無く、触れ合ってしまえそうな距離で視線だけが互いを認識している。なによりも、敵対している筈の相手に命を助けられた形になった事に、青年隊長自身が一番動揺して魂を飛ばしているのだった。
「ぼーっとするな、このとうへんぼく!」
「隊長さん、撤退します。今は力を抜いて、身を任せてください」
いつの間にか近づいて来ていた副隊長と斥候少女に両腕を左右から取られ、青年隊長は身体を引き摺る様にして密林側に引き寄せられて行く。それに合わせて射撃を止めていた重装の四脚達も再びガトリングの猛火を再開させ、必然的に間に居る七本脚へと弾丸が収束する。それまで大人しくしていた七本脚が、野獣の咆哮の様な駆動音を響かせて驚異の排除へと動き始めた。
それは圧倒的と言うべき光景だっただろう。青年隊長を殺しかけた偵察機を前足での踏みつけで叩き潰し、がむしゃらに撃ち続ける重層型三機を次々とその巨体と器用な足で滅多打ちにしていく。文字通り動かなくなるまで殴り続けた後に始まるのは、以前にも見せ付けられた捕食行動だ。蜘蛛を思わせる頭部を無造作に近づけて、ジュルジュルと中身を吸い上げる。そして、今回はそれだけにとどまらず、吸いつくした残骸から部品を剥ぎ取って身体の下に持って行き、ボリボリゴリゴリと音を立てて咀嚼まで始めた。機体の下部に、燃料を吸い上げるのとはまた別の捕食口が有る様だ。
「はっ、ははっ……。はははははは……、何なんだよコレは……。まともじゃねぇだろ、ヒャハハハハハ!!」
ずるずると引きずられながら、青年隊長は思わず笑ってしまっていた。色々な事があり過ぎて頭が破裂しそうだ。ただでさえ厄介な部下達に悩まされ、上司に無茶ぶりされて命懸けで足手纏いをしていると言うのに。自分が死にかけた直後に犠牲を出してまで足止めしたはずの怪物があっさり現れて、その存在に命を助けられた上に悪夢の様な共食いを見せ付けられたのだ。
それがもう、無性に面白く思えて仕方が無かった。込み上げてくる笑いの衝動が思わず喉から溢れ出してしまう。これでは索敵少女にとやかく言えないと、青年隊長は冷静に考えつつ爆笑し続けるのであった。
「やっばいですね、たいちょーがぶっ壊れちゃいました。自分が笑い上戸になっちゃってますよ」
「ああもう、なさけないったら! 安全を確保したら水ぶっかけてでも元に戻すわよ!」
青年隊長を両側から抱え持つ少女二人は、遠慮容赦なく荒れた密林の中へと突入し彼の軍靴をごりごりと削らせる。事ここに至っては生存最優先で、多少の怪我にも目をつぶろうと言う方針だ。
残りの二人と合流した所で青年隊長を一度下ろして、副隊長一人で隊長の体を首の後ろに通して両肩の上に担ぎ上げる。俗に消防夫搬送と呼ばれる担ぎ方だ。特に重さを苦ともせずに立ち上がり、自身の長大な銃もまたしっかりと保持していた。
そうやって担ぎ上げてから先頭に立ち、副隊長の少女は仲間達に向かって臨時の指揮官として声を掛ける。
「アレが食事に夢中になっている間に、当初の予定通り川上に向かって前進します。各メンバーは事前に定められた職務に沿って、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変にフォローをお願いしますね」
「何だかよく分からないけど、とにかく私は何時も通り前に出ればいいのよね。だったら斥候は任せて、着いて来なさい!」
「あはははっ! あはっ、隊長も笑ってる! お、お揃い、あははははっ!」
「……ん」
副隊長を中心に先頭を斥候少女が突き進み、左右をそれぞれ索敵少女と無口な少女が固めて一塊になって行動を開始。背後から今だに聞こえて来る咀嚼音から、一刻も早く遠ざかる為に安全な場所を求めて突き進む。
副隊長が指揮が取れると言っても、それは所詮人間である青年の下した判断の焼き直しに過ぎない。人間に従うと言う枷がある限りは、大筋からは外れる事が出来ないからだ。
やはり自分達には指揮官が必要だと、副隊長は痛感しつつも仲間達を伴って行軍を再開するのであった。
「まったく、あんまり情けない所を見せないで欲しいですね……。私達には貴方が必要なんですよ、たーいちょー?」
肩にずっしりと感じる青年隊長の重みに向けて、副隊長は聞こえるとは思わずにそれでも囁いてしまう。その呟きが示すのは、紛れもなく彼女達の総意に違いなかった。
そろそろ話を畳みに入らねば。