不良隊長と人造少女達の成長戦記   作:ネイムレス

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おかしい。この話は女の子に囲まれてキャッキャウフフする話だった筈では……。


第八話『鉄の体に残る物』

「それで、自称人間さんはどうしてこんな所に居るのか教えていただいてもよろしいかな? 出来ればうちの部下共が暴発する前に答えていただけると嬉しいんだが」

「『……物騒な事だな、いつもそうなのか? 少なくとも、アンタ本人は冷静そうで助かっているよ』」

 

 ピリピリとした空気を放つ部下達と、得体のしれない金属製の人型に挟まれ感じる圧迫感。偶発的な出会いと言えども、敵地であればお互いに警戒を解く訳には行かないのが常である。まずはお互いに自己紹介、などと呑気な雰囲気には程遠い。 

 

「俺の部下は敏感で繊細なんだ、あんまり挑発しないでくれよ。アンタの体積が鉛弾で増えたり減ったりしても、俺は責任は取らないぜ」

「『ふふっ、それは怖いな。なあ、タバコを吸わせてくれとは言わない。せめて、椅子に座っても良いかな。話をするにしても、立ちっぱなしだと疲れてしまうだろう?』」

 

 だと言うのに、目の前の自称人間の飄々とした態度は何だろうか。複数の銃口に狙われていると言うのに、余裕すら見せて言葉を紡いでいる。これが演技であるとすれば、たいした度胸の持ち主と言わざるを得ない。

 

「椅子に座るなら机から離して、両手は下ろしても良いが見える位置に頼む。それから、銃口を下げるつもりはさらさらないから、もし次に要求しようと思っていたら諦めてくれ」

「『頭さえ撃たないでいてくれれば、お好きにどうぞ。それにしても、お嬢ちゃん方は殺気立っているのに、指揮官殿だけ随分と冷静だな。ま、おかげで助かっているとも言えるのだがね』」

 

 太々しいと言うよりも、飄々とした態度で事務机の下から椅子を引いてきてどっかりと座る鉄の人型。改めてその体を見て見れば、ただの金属の塊と言う訳では無く無骨ながらも機能美を見せる金属フレームが組み合わされ、剥き出しの駆動系や機関部がまるで筋線維や内臓の様にはめ込まれているのが分かった。言うなれば、金属でできた人体標本。何処をどう見ても、人間を自称するには無理があると言う物だろう。

 なお響いて聞こえる機械音声は、なかなかの渋さをもった男性の声である。その為、性別は青年隊長と同じ男性であるのは間違いないだろう。

 

「『そんなにじろじろと眺めて、俺の体に興味津々の様だな。なんだい、せっかく女に取り囲まれているのに、アンタそういう趣味なのか?』」

「生憎、女の顔は見飽きてるが男に欲情する程じゃねぇよ。よーし、ウィットなジョークで場も暖まった所だし、いくつか質問をさせてもらいたいんだがよろしいかな。因みに拒否権はあるようで無いでーす」

 

 正直こう言う馬鹿話は嫌いではない青年隊長ではあるが、悲しいかなここは無駄話が許されざる敵地である。自身の仕事を思い出して何とか誘惑を跳ね除け、話を先に進めるべく頭の中身を切り替えた。

 まず問いただすべき事は、目の前の存在が一体何なのかであろう。

 

「改めて聞かせてもらう。ぶっちゃけ、まったく人間に見えないお前さんは一体全体何者で、何の目的があってこんな所に閉じ込められていたのか教えてくれないかな。そうでなけりゃ、いつまでたっても部下達に銃を下ろさせてやれないんだが」

「『自分自身が何者なのか、か。中々哲学的な事を聞くじゃないか。ふふっ、そう怖い顔で睨まないでくれお嬢さん方。そういう意味で聞いた訳じゃないのは解っているが、まともに会話をするのは久しぶりなんだ。ジョークの一つや二つは許してほしいな』」

 

 例え姿は違っても同性故なのか、打てば響く様な言葉の応酬が小気味いい。本当に、今が作戦中であることが悔やまれる。それはそれとして、続きを促す為に青年隊長は無言のままに顎をしゃくって続きを促した。

 最も、目的はともかくとしてその正体についてはある程度推論が出てはいるのだが。

 

「『つれないねぇ……、まあ良いだろう。お察しの通り、俺は生身の人間ではない。体を機械と入れ替えたハイブリッドさ。脳まで電脳化した完全義体の機械人間って奴だ。職業は、この工場での兵器開発の責任者をやっていたよ』」

「やっぱりな。って事は、地上が何であんな惨状になったのかは詳しく知っているんだろう。洗いざらい吐いてもらおうじゃねぇの」

 

 相手の立場が責任者とあれば是非もない。全て余さず情報を引き抜く為に、この会話は弾ませなければならないだろう。言うなれば、今から始まるのは言葉での戦闘だ。こればかりは、意思決定権の無い少女等には任せられない大事な戦いである。

 

「『吐こうにも胃袋は残念ながら搭載されていない――って、冗談だよジョーダン。おい、この女の子達ピリピリし過ぎじゃないのか。糖分取らせてないんじゃないか?』」

「それだけは無い。絶対に、無いんだ……」

「『お、おう……?』」

 

 軽口での主導権を取りに来た動きを、心の底からの切ない否定でいなしてとりあえずは先制を取る事に成功。そして、ここからは本格的に情報を抜き取って行く淡々とした作業が開始される。

 

 ……などと威勢よく挑んでは見たが、何の事も無く情報収集は順調に進んだ。さもありなん、機械人間本人が話たがったからである。本人的には小粋なジョークのつもりだろう軽口を交えながら、青年隊長が驚愕する程の事実をさえずってくれた。

 

「自己修復する新型の多脚戦車だと?」

「『そう、他の多脚戦車や機械類を取り込んで、自身の武装を増設したり破損個所を修復したり出来る優れ物として作ったんだ。こいつが前線に投入されれば、半永久的に戦い続けられる究極の兵器になる筈だった』」

 

 そう、筈だったのだ。彼の口から語られたのは自らの偉業――その果てに生まれた怪物の話であった。研究主任としてこの前線基地を兼ねた兵器工場に着任し、兵器の整備と量産を監督しつつ自らの理論を組み込んだ兵器を開発していたのだと言う。そして、その新兵器の為に、この基地は壊滅的な打撃を受けたのだと言う事も同じ口で語る。

 

「『参ったよ。他の多脚戦車では起きなかった事なのに、どういう訳か俺達の作り上げた新型は敵味方の区別がつかなかったんだ。一番最初の起動試験の時に、よりによって奴は俺の同僚を捕食しやがった。人間を守る為に作ったはずなのに、生まれて最初に殺したのが人間だったんだ』」

「はっ……。自分の生み出した物に、人間扱いされなかったって事か」

 

 最初の犠牲者もまた完全義体の機械人間だった。人を守れと命じられた新兵器は、彼らを人間とはみなさず部品として喰らったのだ。新兵器に搭載されたAIは、人と言う物を電子頭脳には見出さなかったと言う事なのだろう。

 おどけたように話を続ける目の前の機械人間の声色に、どこか自嘲めいた色がある事に青年隊長は気が付いていた。たとえその身を全て機械に置き換えても、魂は変わらずに在ると思っていた者達には厳しい現実であったようだ。

 

「『突然暴れ始めたあいつを破棄する為に戦闘したが、奴は戦闘中でも部品を捕食して回復し続けやがった。ソフトはともかく、ハードはやはり優秀だったんだ。皮肉な事に……、な』」

「恐らくだが、その悪食には心当たりがある。俺達がここに来るまでに遭遇した赤錆だらけの七本脚が件の怪物だろう。特徴的と行動に一致する部分がある。変な行動をしているとは思ったが、やはりアイツの目当ては俺だったんだな」

 

 青年隊長達が密林地帯で追いかけ回された赤錆の七本脚。あのしつこい鋼鉄の怪物は、青年隊長を助けるべき人間と見定めて付け狙っていた様だ。幾つかの違和感もあるが、それは話し合いを進めるうちに一つずつ解消していくことになる。

 

「『七本脚と言う事は、一本欠落した後に再生しなかったのか。やはり長期的な運用では何らかのエラーが発生するようだな。本来ならじっくりと試験運用をする筈だったのだが、この手で整備できないのが本当に残念だよ』」

「はあ、甲殻類の脱皮の失敗みてぇなもんか。武装や燃料は補給出来ていたようだから、再生能力だけに異常が起きたんだろうな。アンタにとっては複雑だろうが、俺達には不幸中の幸いって奴だ」

 

 永遠に完璧であり続けるものなど無い。人の作り出した物であればなおさらであろう。件の怪物が機能不全を起こしていると言うのならば、それは勝機が増えると言う事に他ならない。それが分かっただけでも、この情報交換は有意義と言えるだろう。

 

「『お嬢ちゃん達が保護対象には見られず、むしろ積極的に殺されそうになったのは人間じゃない事を知っていたからさ。ウィード――ああ失礼、コッペリアだったか。人形遣いとその配下には、うちの製品たちは色々世話になってるからな。見分けが付くくらいのデータは入っているのさ』」

「ウィード、雑草ねぇ。ひとの部下に素敵なあだ名をつけてくれるじゃないの。こいつらと俺はいろいろと違うところが多いらしいから、その辺りを計測した数値で判断してんだろうな」

 

 生身の人間で在るのは実質的に青年隊長だけ。であれば、機械人間を人間と定義しない七本脚が、彼だけに執着すると言うのもさもありなん。付け狙われる側としては、たまったものではない話だが。

 

「めんどくせぇもん作ってくれたな」

「『アンタらには言われたくないな』」

 

 機械類があれば半永久的に暴れ続ける化け物と、低コストで雑草の様に増え続ける化け物。どちらの方が性質が悪いかなど、どっちもどっちと言って切り捨てるしかない話題であろう。

 そうして、突発的な会談はいよいよ核心へと迫って行く。

 

「で、お前さんはどうしてこんなにぺらぺらと事情を説明する気になったんだ? 媚びを売るにしても、見返りを求めるのが当然だろう。命乞いにしちゃアンタ冷静すぎるしな」

「『そちらから切り出してくれるとは話が早い。なに、ちょっと亡命先になって欲しいだけなんだ。こんな所で埃を被っているのも、流石に飽いてしまったのでね』」

 

 筆記用具を貸してくれと言う様な気軽さで、自身の生まれた国を捨てたいと宣う目の前の鉄人。その割りきりの良さは科学者としての在り様なのか、はたまた持って生まれた性質なのかは定かではない。

 青年隊長個人としては、こんな面白い人物が隣人になるのは願っても無い事だ。だが、それに異を唱えるものが存在した。お前等居たのかと言う位の久し振り具合で、無表情な副隊長と斥候少女が口を挟んで来たのである。

 

「隊長、私は反対です。何処をどう見ても、これは機械であって人間ではありません。罠かどうかを考慮するまでも無く、確実に隊長へ危害が加えられます」

「鉄面皮の言う事ももっともだけれど、そもそも人類はもう私達の陣営にしか居ない筈でしょ。こいつが人間だなんて与太話も良い所じゃないの。血迷っているんじゃないわよ、このとうへんぼく!」

「あー、まあ、お前等ならそう言うだろうな」

 

 そういう風に作られたのだから、当然その様にしか思考は出来ない。それが作られた命である彼女達の役割なのだから、それを訂正するだけの権限を青年隊長は有していなかった。

 二人の後ろでは無口な少女と笑い上戸も、うんうんと頷いて仲間の言葉に同意している。青年隊長以外に鉄の人型に味方する物はいない様だ。

 それにしても、二種類の兵器から人間扱いされないと言うのは、聞かされる側からすれば中々に酷な事ではないだろうか。

 

「『本人を前にして中々言ってくれるな。ま、もはやこの体に残っている人間らしい部分なんて、それこそ魂ぐらいしか無いだろうから無理もない。いち科学者としては、存在しているかも疑わしい物に縋るなんぞぞっとしないがね』」

「宗教家の科学者だって居るんじゃねぇの。と、それはそれとして。俺としては亡命の話、悪い事でもないと思うぞ。敵の情報が拾えるのは上の連中も喜ぶし、俺個人としてもここで外の情報を拾えるのは美味いと考えている」

 

 性格も面白いし――とはあえて口に出さずにおく。こんな状況で斥候少女に説教されるのは、さしもの青年隊長でもごめんである。だが、部下の懸念はもっともで、せめて動機を確認してから判断するのでも遅くはないだろう。

 その様に促してみれば、鉄の人型は両手を組んでうむむと思案し、やがてとつとつと胸の内を吐露しはじめた。

 

「『最初、この地下に逃げ延びたのは八人だったんだ。本国に救援を求めた後は施設内の防衛機構に任せて、暴走した実験機に食われない様に出入口を塞いで立て籠もった。だが、いつまでたっても救助は来なかったんだ』」

 

 鉄の人型が語ったのは、暴走事故が起こってから今日までの日々だ。施設内の目ぼしい攻撃機は全て破壊された後に捕食され、無事に残ったのは攻撃命令を出されなかった施設外部の巡回ぐらいだった。監視カメラの映像で周囲の様子は確認できたが、どれだけの間身を潜めていても待ち望んだ救援が来ることは無かった。

 

 そして、地下に籠った研究者達は議論する事になる。はたしていつまで救出を待ち続けるのか。それとも、意を決して状況を打破する為に行動をするのかと。

 意見の対立はその後の明暗をはっきりと分けた。いつまでも閉じこもるのを良しとせず、外部への脱出を図った四人がまず表に出て音信不通となる。それから事態が長期化するとみて、外に物資を取りに向かった二人もまた帰らなかった。最後に事態を悲観して錯乱して外に飛び出し、出入り口を外から厳重に封鎖して逃げ去った者が出て最終的に一人になる。

 

「『閉じ込められたのにはさすがに笑ってしまったよ。この事態を招いたのは俺じゃないと言うのに、錯乱した人間と言うのは何をするか分からんものだな。こんな姿でも、彼はしっかりと人間だった訳だ』」

「……で、助けに来てくれない祖国より、戦争してる敵国の方がマシだと思った訳か。歓迎した手前アレだが、ちと極端じゃねぇか?」

 

 青年隊長の指摘に鉄人は大仰な仕草で肩を竦めて見せた。剥き出しの金属骨格からは表情は読み取れないが、生身の人間であればきっと小憎らしいあきれ顔を浮かべているに違いない。相変わらず大胆というか、肝の座った御仁である。

 ちなみに部下の面々は全員、今の話に眉一つ動かしてはいなかった。銃口をぴくりとも動かさずに、最初の時と変わらず鉄の人の頭にぴったりと狙いを付けている。この程度の苦労話では、彼女達は絆されはしないと言う事だろう。

 

「話を纏めよう。アンタはここから抜け出して亡命したい、俺達は情報提供をしてもらいたい。そちらは二つ、こっちは一つ。実に公平平等なギブ&テイクだな」

「『纏めたついでに露骨に催促して来るとは阿漕な奴。と言っても、俺に出せるのは本当に知識と情報ぐらいしか無いぞ。お前等がここに来た理由も知らんから、それを手伝えるかどうかもわからんし……』」

 

 そう言えばこの施設を吹っ飛ばすために動力炉を探していたんだ、と青年隊長は今更ながらに思い出した。思いがけない敵の無防備さと、思いがけない出会いですっかりと頭から抜けてしまっていたのを悔いる。

 二秒ほどの後悔の後に、青年は目の前の人型に対して口元を歪めながらこう提案した。

 

「だったら手伝ってもらえねぇかな? ここの動力炉を爆破して、上の工場を跡形もなく吹っ飛ばすのをさ」

「『……良いね。そいつは素敵だ、楽しくなってきた』」

 

 話を聞いた鉄の人型にもし生身の顔があれば、さぞ獰猛に笑っていたに違いない。女の子連中は揃って仏頂面だと言うのに、野郎ばかりが楽しそうでなんと言うか申し訳ない空間である。

 ともあれ、地味な話し合いはここまでとして、いよいよ派手な花火を上げる為の地味な下準備が始まると言う訳だ。幸いな事に、ここには施設について知り尽くした協力者がいる。これならばすぐにでも行動を起こしても問題は無いだろうと、そう判断した青年隊長は早速とばかりに座っていた椅子から腰を浮かせかけ――

 

「『よし、それじゃあもう少し話を詰めようか。動力炉の位置と燃料貯蔵庫なんかの位置も知らせておいた方が良いだろう。いやぁ、まだまだおしゃべりが出来そうで嬉しいよ。なにせこうして言葉を交わせるのは本当に久し振りだからな』」

「あ、うん。そーですね……」

 

 いざ行動しようとした矢先、鉄人の弾みながら紡がれた言葉に浮かし掛けた尻をまた椅子に沈める羽目になった。相変わらず銃口をものともしないマイペースな態度で、ぺらぺらと矢継ぎ早に工場の情報がもたらせられて行く。

 訂正しよう、まだまだ地味な話し合いは長く続きそうである。

 

 




絵面はすっごく地味ですが、野郎同士の話し合いは書いてて楽しかったです。
そろそろ派手な銃撃戦が描きたい。
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