此処は何処だろうか。
轟音のただ中でオレは目を覚ました。
目に映るのは何処までも続く紫色の壁。
そのあまりの違和感に、自分が仰向けになっていることを確認するまで
それが空だと気づかなかった。
オレは今、大の字になって空を見上げている。
「ここは…………っつ!」
なんだかとても頭が痛い。
様々な疑問が去来するが、ひどい頭痛で考えがまとまらない。
少しでも現状を把握しようと
とりあえず身体を動かしてみる。
右腕…………………………………動く。
左腕…………………………………動く。
右足…………………………………動く。
左足…………………………………動く。
頭………………………………………………やっぱり痛い……。
頭以外は何ともなさそうなので、なんとか身体をを起こしてみる。
「うっ………っぐ!……はぁ……はぁ………っ?!」
やっとのことで上半身を起こしたオレは、そこに広がる光景に息を呑んだ。
そこは戦場だった。
大気が震えている。
広大な大地が数え切れないほどの人間で埋め尽くされている。
あちこちで上がる土煙のせいで視界が悪く、正確な数までは把握できない。
しかし、地鳴りのような怒号や剣戟の響きから、かなりの人数だと予想できた。
「………すげぇ……………」
目覚める前に聞こえた轟音の正体はこれだったのか。
そんなことを考えていると、突然何かがぶつかるような衝撃を受けて
目の前が真っ暗になった。
「うわっっぷっ?!あ、汗臭ぁっ!!」
「邪魔だぁ小僧っ!!ぼさっとしてんじゃねぇっ!!!」
男のものと思しき野太い声に怒鳴られた。
いきなりのことに痛む頭はさらに混乱し、もうなにがなんだかわからない。
汗臭いわ、真っ暗だわ、頭痛いわで、もう泣きそうだ。
ジタバタともがいていると前方からさっきとは別の声が響いた。
「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ちぃぃっ!」
暗闇の原因と思われる汗臭い何かが飛びのき、視界がひらける。
間髪入れずに振り下ろされた剣はオレの鼻先をかすめた。
「……あ…あぶねぇ…………」
革の鎧を纏い、フードを被り、錆びだらけの大剣を持った
ひげ面のオッサンが冷汗を垂らしながらつぶやく。
………オ…オレのセリフだ。
どうやらこのオッサンは戦いの最中にオレにぶつかり、
そのまま覆いかぶさるようにすっ転んだらしい。
数秒間オッサンともみ合っていたと思うと頭痛が酷くなった。
彼の目の前には、いかにも騎士然とした男が立っていた。
鈍い光を放つ金属製の鎧を纏い、その上からマントを羽織っている。
細身の剣を握りしめる手は小刻みに震えていた。
頭全体を覆う兜を被っていて顔色は窺えないが、
肩で息をしていることからかなり疲弊しているようだ。
二人は無言でにらみ合う。
もうオレのことなど眼中に無いようだ。
あたりが静寂につつまれる。
ここは戦場の真っただ中で静かなはずはないのだが、
二人の間に流れるピリピリとした空気がそう感じさせた。
騎士は攻めあぐねているようで、左右にフラフラしながら様子を窺っている。
一方のオッサンはどっしりと腰を落として大剣を構えている。
一分にも満たないはずの対峙が異様に長く感じる。
いったいこの睨み合いはいつまで続くのかと思った次の瞬間、
一つの影が奔った。
静寂を破ったのは騎士だった。
いや、破ったというよりむしろ緊張に耐えられなかったように見える。
「う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
騎士が半ばやけくそ気味にオッサンに斬りかかる。
「だりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ガギイィィンッ
怒号に続き、金属と金属がぶつかり合う鈍い音が響く。
真っ二つに叩き折られた剣の切っ先がクルクルと宙を舞う。
騎士は自分の手に握られた柄だけの剣を見つめていて、
オッサンが大剣を構えなおしていることに気づいていない。
「………っあ!」
思わず「やめろ」と声を出しそうになる。
しかしその言葉はある衝撃的な発見によって、
喉から絞り出される前にまったく異なる言葉に変化した。
見てしまったのだ。
オッサンの被るフードからのぞくアレを。
「…………ネコ…ミミ?」
そう呟いた次の瞬間、
ネコミミひげ面オッサンの大剣は非情にも振り下ろされ、
周囲は煙に包まれた。
煙に巻かれながらオレは今見た現実を思い出していた。
斬った。
躊躇なく斬った。
あと…………ひげ面のオッサンにネコミミが付いていた。
思考が錯綜する。
何のためらいもなく人を斬った。
人間にあんなものが付いているわけがない。
あんなバカでかい剣でぶった斬った。
オッサンにあんなものが付いていていいわけがない。
人を斬り殺しやがった。
何がどういけないのか分からないが、断じていいわけがない。
ダブルの衝撃的な映像に、俺の頭は混乱を極めていた。
煙が徐々にはれていく。
戦場に勝ち誇った様なオッサンの声が響く。
「けっ!戦場じゃあ冷静さを失ったやつから消えるんだよっ!」
地面には巨大な毛玉が転がっており、騎士は忽然と姿を消していた。
彼はは何処に消えたのだろうか。
あの大剣の一撃をまともに受けたのだから、とても無事では済まないだろう。
しかし、そんな疑問は煙が完全に消えて、オッサンの頭が露わになった瞬間に
跡形もなく消えてしまった。
彼の頭には見まごうことなきネコミミが乗っていた。
…………なぜだ?
フードがはずれ、丸出しになった頭には隠しようのない存在感を放つ
ネコミミが揺れていた。
オレは思わずあたりを見渡した。
目を凝らし、土煙の隙間から戦場を観察する。
さっきまではゆっくりと見る余裕がなかったので気付かなかったが、
戦場で戦う人々にはケモノのような耳や尻尾が付いていた。
なぜだかよくわからないが女性の姿を見つけた瞬間が最も安堵した。
「そうか…アレが普通なのか」
今がどういう状況かは把握できないでいるが、
この人が特別ヤバいということではないようだ。
少し冷静になり、今の今まで地べたにへたり込んでいたことに気づいた。
色々なことが立て続けに起こるので、
立ち上がることすら忘れてしまっていたようだ。
両足に力を入れると少しふらつきながらも何とか立つことができた。
オッサンはオレのことを思い出したようで、
こちらを向いて声を荒げた。
「おいっ小僧!お前連合軍かっ?!それとも竜王軍かっ?!」
どうやらかなり警戒しているようだ。
思い出さなくていいのに、クソッ………………しかし、
れんごう?りゅうおうぐん?
意味がわからない。
というか耳をピクピクさせるな、かけらほどもかわいくないから。
どう答えればいいのかわからず、オッサンの様子をうかがっていると
彼の担ぐ大剣に目がとまり、先ほどの映像が急速に再生される。
あれ?そういえばもう一人はどこにいった?
ネコミミという最大の疑問が解消されたことにより、
堰を切ったよように別の疑問があふれ出してくる。
グチャグチャの頭に追い打ちをかけるようにこれまでにないほどの激痛。
此処は何処だ?
何が起きているんだ?
さっきのはいったいなんだったんだ?
騎士は何処に消えたんだ?
あまりの混乱と痛みに頭を抱えて膝から崩れ落ちる。
尋常ではない様子のオレを見てオッサンも戸惑っているようだ。
「だ、大丈夫かよっ?……………んっ?………おめぇこの耳…」
オッサンが何かに気づき尋ねようとした次の瞬間、
朱い光がオッサンを飲み込んだ。
強烈な光に目が眩み、何も見えなくなる。
二度目の視力喪失に狼狽したオレは、がむしゃらに腕を振り回した。
「くそっ!………くそぉっ!」
「おいっ!オッサン!!…………オッサン!!!」
くり返し何度も呼ぶ。
心のどこかで答えは返ってこないとわかっていても叫ぶ。
霞む視界の中、人影がおぼろげに見えた。
「………オッサンかっ?!」
人影が答える。
しかし返ってきたのは思いもよらない言葉だった。
「…………私はオッサンではありません。…………」
抑揚のすくない、小さな声。
どう考えてもオッサンの声じゃない。
新たな人物の出現にオレは身構える。
朱い光が徐々に薄れ、視力が回復した。
頭痛も治まり始め、オッサンと新たに現れたもう一人の姿を探す。
オッサンがいた場所にはネコを模したような巨大な毛玉が一つ落ちている。
そしてオレの目の前には血のように朱い髪の少年が、手を差し伸べながら立っていた。
「リースリング様の命により、お迎えにあがりました」
少年がつぶやく。
彼にも動物の耳と尻尾がある。
どちらも髪の色と同じ朱色だ。
少年はオレをじっと見つめている。
どうやら返答を待っているようだった。
そんな少年に対してオレは当然の疑問を口にする。
「…………誰?………」
「バウム竜王軍第四師団師団長。ユールムスト・クネック竜将です。あなたは?」
ユールムストと名乗る少年はオレの質問に簡潔に答えた。
その答え方ががあまりに丁寧で、オレも反射的に答えてしまう。
「オレは、…………………」
答えようとして気づく。
自分の名前を思い出すことができないことに。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
DOGDAYSの二次小説です。
二次小説を投稿するのは、今回が初めてなのでとても恥ずかしいです。
内容についてですが、記憶喪失の主人公です。恥ずかしい。
オリジナル設定満載です。恥ずかしい。
今回は男キャラばっかりの男祭りになってしまいました。暑苦しい。
次回くらいから女の子を出していきたいです。姦しい。
原作キャラもバンバン出していきます。難しい。
拙い文章で読みづらいかとは思いますが、
御感想、御指摘等いただけたらうれしいです。