金色のガッシュ!!称号『覇道の王』獲得原作ルート 作:シグアルト
普通の小説で言うとここでようやく序章終了、といった所でしょうか。
「魔界の王を決める戦い……だと?」
「そうよ、魔界にも社会がありそれを統治する“王”がいる。それを決める為、千年に一度人間界で行われる戦いよ」
俺の下に訪ねてきた黒い本の持ち主『シェリー』と、彼女が《魔物》と呼ぶ漆黒の男『ブラゴ』そして彼女から説明された魔界の王を決める戦い、その話はかなり衝撃的なものだった。
だが必要な情報が出揃った公式の様に、先程まで考えていた様々な疑問が氷解していく。ガッシュ達は何故口から電撃や氷を出せるのか、何故共通する形の読めない本を持っているのか、一体何処からやってきたのか。
荒唐無稽な話だとは思うが、正直俺も同じような事を考えなかった訳じゃない。それを他人から説明された事で、彼女の言っている事は間違いない事実なのだと納得してしまう。
────だが、そうなると……どうしても解けない謎が1つだけ残った。
「なぁ、ブラゴって言ったか? 1つ聞いていいか?」
「何だ」
「お前は……自分の事を『化け物』だと思っているのか?」
その言葉に彼女、
俺の胸に去来するのは、昨日戦った氷の呪文を使う少女。
《「私は夢を叶える為のただの『道具』》 《「ただの『化け物』だから」》
普通ならその言葉に何の疑問も抱かない。口から氷を出すなど人間の間では『異常』なのだから。
だが魔界ではそれが『正常』なのだとしたら……何故あんな言葉が出てくる?
シェリー曰く魔物を利用し私腹を肥やす野郎もいるらしい。
彼女も
確かに少女の
つまり
「愚問だな。何故そんな事を聞く?」
俺の質問に簡潔に答えるブラゴ。その「当たり前だ」と言わんばかりの表情が全てを物語っている。
少女の情報を少しでも知りたかった俺は、昨日あった戦いでの少女の様子と今考えた事をブラゴに伝えた。
すると、ブラゴは腕を組み表情が険しくなっていく。そこには若干の怒りを感じた。
「……なるほどな」
「お前は何か知ってるのか?」
「さっき、
「なっ……!!」
そのブラゴの言葉に俺は言葉を失った。
魔界や魔物と説明されて、恥ずかしながら少し
人間界に置き換えれば状況は同じとブラゴは言った。
自らを『化け物』と蔑む少女。自身の意思はなく『道具』として使われる事しか価値を見出せない人間─────
「クソ野郎がッ……!」
あぁ、本当に吐き気がする。
「! ちょっとブラゴ。私はそんな話、聞いていないわよ。どういう事?」
「戦いとは関係のない話だ。それに俺が王となったらそんなものは消えてなくなる。弱者が強くなろうともせず、より弱い者を甚振るだけの仕組みなどいらん」
「……そう、ならいいわ」
少女の事を考えていた俺の耳に入ってきたのはそんな会話。悪い奴ではないのかもしれない、俺は二人に抱いていた警戒心を少しだけ緩める。
「とにかく私からの説明は以上よ。わかったらあなたの“赤い魔本”を渡してもらえないかしら? あなたも自分が巻き込まれているだけだと理解したでしょう」
「あぁ、よくわかったよ。……だけど渡す訳にはいかねぇな」
そうだ、渡す訳にはいかない。もしシェリーの言葉が全て本当なのだとしたら、この赤い魔本を燃やされればガッシュが…………
「……そう、あなたは悪事を重ねていい思いをしていた輩とは違うようだけれど。このままじゃ、あなた自身がもっとひどい目に遭う事になるわよ……こうやってね。《レイス》!」
「!! ガハァッ!」
シェリーの呪文が引き金となりブラゴの手から何かが俺に飛ばされる。目に見えない力の塊みたいなものに、俺は部屋の端まで吹き飛ばされた。
「本を渡しなさい! この戦いでは本を燃やすだけでなく相手を平気で殺す子もいるのよ!!」
俺の体に激痛が走る。シェリーのいっている事は事実だという事を如実に現していた。確かにこの戦いは非情極まりないものだ、安全の保証なんてどこにもない。
「このままじゃあなたも巻き添えをくうのよ! 普通の生活を失う事にもなるわ!!」
その通りだろう。魔物同士の戦いが平穏無事な生活を送りながら出来る筈もない。今後の人生を左右する程の大怪我をにしてしまう事もあるかもしれない。
「半端な覚悟であの子供といても、あなたには災いしか降りかからないのよ!!!」
「やかましい!!!」
「!!?」
「そこまでわかってるアンタが何故その戦いに参加してるかは知らん、何を背負ってるかもわからん。だけどな、俺はガッシュに借りがあるんだよ」
「借り……ですって?」
「あぁ、アンタの背負ってるモノに比べたらちっちぇかもしれんが、オレにとってはとんでもなくでかい借りだ」
そうだ、俺はガッシュに助けられた。変えてもらった! 救ってもらった!! なのに、俺はガッシュにまだ何も返せていない。
「だからこの本を燃やしたらガッシュが魔界に帰っちまうっていうなら、絶対に渡す訳にはいかねぇな!」
「……そう、残念ね。じゃあ渡してもらうまで攻撃させてもらうわよ。《レイス》!」
「清麿────────────────!!!」
「ガッシュ!? ……《ザケル》!」
突然部屋の扉が開きガッシュが現れた。俺は咄嗟に呪文を唱える事でブラゴの手から出た力の塊を弾く。
「ガッシュ、お前いつから部屋の前に?!」
「ウヌ。実はあの者達が家に入った所から見ていたのだが、いつ部屋に入るべきか悩んでしまっての」
「……じゃあ話は全部聞いていた訳か」
「……ウヌ!」
ガッシュは力強く答える、その瞳に迷いは無い。自分が『魔物』だという事実も受け止めているようだ。内心ガッシュを気にかけていた俺は心から安堵する。
「《レイス》!」「《ザケル》!」
ぶつかり合う力と力、俺は咄嗟に部屋を出て廊下でシェリー達と対峙する。
「お前がガッシュ・ベルか。記憶を失ったらしいな」
「!? お主、私の事を知っているのか?」
「噂だけは聞いている、お前は魔界でも有名な“落ちこぼれ”だったからな」
「……ウヌ? そうなのか?」
「あぁ、この戦いに何故参加できたのか不思議な位だ。そんなお前が本気で王を目指すというのか?」
ブラゴがガッシュに問いかける。そこには侮蔑の色は無い、自分に比類する覚悟は在るのかとその眼差しがガッシュを見極めようとしていた。
「知らぬ!」
「……何だと?」
「いきなり魔界の王などと言われても、難しい事はわからぬ。ただ一つだけわかる事は『自分は道具だ』等と言い苦しんでいるあの者は、私でなければ救えないという事だ! ならば私はあの者に会わねばならぬ、ここで魔界とやらに帰る訳にはいかぬのだ!!」
そのガッシュの言葉に苦笑する。あぁ、やっぱりこいつはこういう奴なんだと。
「その通りだ、ガッシュ。戦うんだ。王を決める争いなんかの為じゃねー、お前の運命をお前自身で決める為に、お前の『友達』を助ける為にだ! 俺も一緒に戦う、お前と一緒に戦う! 俺もお前の『友達』だから!!」
「……ウヌ! 力を貸してくれ清麿!! 私はあの者に会って伝えねばならぬ。『例え今までが苦しかったとしても、これから光の道を歩いて行く事だって出来るのだ』と!」
「……!!」
俺はガッシュと並び立ちブラゴとシェリーに対峙する。するとシェリーがどこか遠くを見てるように呆けていた。
「……おい、どうしたんだ。シェリー?」
「ウ、ウヌ? あの者、急にどうしたのだ?」
「わ、わからん」
「………………ココ」
数瞬の後、気が付いたように俺達に向きなおしたシェリーは黒い本のページを捲っていく。その顔は、何かの覚悟を持った表情だった。
「……わかったわ、もう容赦はしない。ブラゴ、一番大きいのをぶつけるわよ」
「シェリー。アレを使うのか?」
「えぇ、これに対応できないのなら、どの道他の奴等に殺されるだけだわ」
「戦うぞ」「おう」
胸の内から力が溢れ出す、これが《心の力》なんだとわかる!
「戦うぞ!」「おう!」
シェリーの黒い魔本が今まで以上に輝く、来る!!
「戦うぞ!!」「おう!!」
それに呼応するように俺達の本も輝く、その輝きはまさに……金色!!
「《ギガノレイス》!」 「《ザケル》!!!!」
……………………
………………………………
………………………………………………
──────────────────────────────────────
「────何故見逃した。あのまま戦えば俺達が勝っていた」
ガッシュとその
……俺とガッシュとの戦い、結果は引き分け。
だが《ギガノレイス》を相殺されたとはいえ、あのまま戦えば十分に勝てる戦いだった。
「私達が倒すまでの相手でもなかった……うぅん、あの結果じゃそんな言い訳も出来ないわね」
「…………………………」
「わ、悪かったわよ。何か言いたい事があるならそんなじーっと見てないで言いなさいよ」
「イヤ……、別に構わん…………」
俺はそれ以上何も言わなかった。別に見逃した事に文句はない、奴はきっと強くなる。ならば、その時に俺達が勝てばいいだけの事だ。
それにコイツの様子も妙に気になった。
《「………………ココ」》
あの時聞こえた言葉、奴等の何かがコイツの琴線に触れたという事だろう。その証拠に戦いの後だというのに、いつもと違い嬉しそうに見える。
「! …………終わったか」
「さぁ、少し休んだら次の本を……ブラゴ?」
少し離れた場所で終わった戦いの気配を俺は感じる。
生き残った方は気配を消し移動をしたようだ、今から追っても徒労に終わるだけだろう。戦いに慣れた動きだ、手強い敵なのだろう。それが“ヤツ”であるとは思わなかったが。
「……何でもない。オレは休みなどいらん、お前達人間と一緒にするな」
そう答えながら先程の反応を思い返す。
魔物同士の戦い、決着までは何の変哲もない。問題はその後だ。
戦い勝ち残った方の魔物の魔力が変質して感じられた。まるで別の魔物に力が変異したかのように。そしてそんな芸当が出来る魔物はオレの知る中で一人しかいなかった。
「……キリカ・イル」
だがキリカ・イルの異質さはその中でも際立っていた。
《イル》の一族は
だがキリカ・イルは特にそれが顕著で、表情や動作の機微はおろか
その影響かキリカ・イルは全ての物事において興味を持たず、彼女が動く時は『義務』が発生する時のみだった。
友達も持たず、魔界において常に一人だった存在。そんな者が魔界の王を決める戦いでいきなり精力的に動き出すとは俄かには信じられなかった。
だがそれも当然だとブラゴは思い直す。
彼女の心の内は誰にも暴けない、外面・内面・その心にも彼女の『真意』は現れないのだから。
「フン、面白い」
ブラゴはそう再び決意し、悠然と歩き出す。
その後ろ姿は、まさに王者の風格といえるものに変わりつつあった。
なお、清麿が話した少女がそのキリカ・イルである事は、ブラゴはまだ知る由もない。
キリィちゃんの内面を多少でも読み取れるほもくんは最高の
勘違いは‥『加速』する!
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