受けたからといって何度も同じネタを使うのは、二流の証。天丼は一回まで。ということで、もうハゲネタは使わないようにしますので、感想でも使用しないようお願い致します。これは私がハゲだからとかそういう訳ではなく、弄りも行き過ぎればイジメになるという配慮によるものです。私がハゲという訳ではありません。
…まだ疑っておられるんですか? では感情論ではなく、しっかりと理論立ててハゲを否定させて頂きます。
まず感想欄でハゲの人格を否定される方が多数おられましたね? 『人格否定』で運営対策を食らっておられた人もいらっしゃいましたので、これは間違いありません。つまり逆説的に言うと『人格が良ければハゲではない』ということになります。
対面もできないのに人格の好悪など解るはずがないと、そう思われる方もいるでしょう。しかし小説や漫画は、サブカルチャーの中でも特に作者の内面が出ます。趣味、嗜好、思想、性癖、その他沢山の情報が作中に散りばめられていることでしょう。
例えば『鬼滅の刃』原作者様であるワニ先生ですが、既刊十九という量でも、既にその性癖は留まるところを知りません。間違いなく人体の欠損描写が大好きですね? 読み切りの時点で主人公が片腕と眼を欠損していることからも、確かな事実でしょう。加えて自画像がワニであるというのも、手足を食いちぎりたいという願望の表れですね。
翻って、私の文章から滲み出る優しさと善性は皆さんもおわかりでしょう。サンプルが少ないというのなら、匿名は解除致しましたので、他の作品もお読みくださればより深くご理解くださる筈です。
私は百合とロリとエロとケモショタと男の娘とフタナリが好きなだけの、ごく善良な一般人です。それでは上記をもって、ハゲではないことの証明とさせていただきますので。
かしこ
竹を口に咥えた美少女──禰豆子ちゃん。今は箱に収まるサイズの大きさで、僕の目の前に座っている。彼我の距離は一メートルといったところだろうか。慎重に近付き、そろそろと手を伸ばして頭を撫でてみる。キョトンとした丸い瞳が、実にキュートだ。顔立ちもどこか炭治郎くんを思わせ、優しい雰囲気が感じられる。
ちなみに何をしているかというと、僕の体質をどれだけ抑え込めているかの確認だ。通常の『稀血』は藤の花の香袋を持てばそれで事足りるのだが……僕の血はやはり少し特殊らしい。そもそも稀血そのものが、個人個人で多少は異なっているらしいのだ。
『柱』の中にも『鬼を酔わせる稀血』を持つ者がいたりと、その効果は千差万別らしい。僕の場合は『強烈な誘引効果』というものらしく、ただでさえ鬼を惹き付ける稀血の匂いが、更に強化されているとのことだ。多少の興奮作用もあると言っていたから、鬼がうまく煽りに乗ってくれるのはそのおかげだったのかもしれない。
当初は香袋の調整でなんとかしようとしていたしのぶちゃんであったが、どうにも上手くいかず──香りで誤魔化すことは諦めた。そして今度は真逆のアプローチ……鬼を誘引する成分を吸着させる素材を開発し、それを首飾りとして渡してくれた。天才かな?
消臭剤の開発会社とかが『製薬会社』を名乗ったりしているのは、常々不思議であったが──なるほど、分野としては間違っていないらしい。それと禰豆子ちゃんにも感謝だ。実験台のようで申しわけないが、彼女がいればこそ細かい調整が短期間で進んだのだ。いちいち鬼を探し出して、どれだけの効果が見込めるか確かめるわけにもいかなかったし。
ちなみに香袋を持った状態で禰豆子ちゃんに近付いた時は、うんこまみれのステーキを見るような度し難い表情で迎えられた。僕が何をしたというんだ。
まあそれはともかく、これでようやくまともに禰豆子ちゃんと接することができるわけだ。不用意に近付くと刺激しかねなかったので、ずっと避けていたのだが──こんなに可愛い娘とお喋りもできないって、中々に寂しい。会話のキャッチボールはできなくとも、無反応という訳じゃない。人間関係に飢えていた僕としては、頷いてくれたり見つめ返してくれたりするだけで充分である。
消臭の効果が証明されたので、調子に乗って禰豆子ちゃんのほっぺをぐにぐにしていると……竹を咥えた口からヨダレがだばぁした。おおっとぉ。
「そこまでです。体臭そのものが消えた訳ではないんですから、気をつけてくださいね」
「あいさー」
協力してもらっていると言えば聞こえはいいが、要は極限ダイエット中の女子にごちそうを見せつけるレベルの、残酷な行為である。僕が離れると、強力な自制心により自ら箱へ戻った禰豆子ちゃん。ううむ、本当に申しわけない……彼女が人間に戻った暁には、盛大なお祝いをするとしよう。
──さて、これで僕にも人並みの生活ができる基盤が整ったわけだ。感謝感激雨あられである。後は産屋敷さんの家へ訪ねる用事を残すのみだ。お館様とやらが僕になんの用かは知らないけど、呼んでいるというのなら会いに行こう。それだけの義理は、間違いなくある。
面倒事じゃなければいいな……なんて考えていると、扉の外から妙に切ない嘆き声が聞こえてきた。おそらく、怪我がほぼ完治した善逸少年が、機能回復訓練を嫌がっているのだろう。まだ治ってないまだ治ってないと、半泣きで叫んでいる。
「あんなに強いのに、やっぱり鬼は怖いんだねぇ」
「彼の強さは少し特殊みたいですから」
「ふぅん…?」
「…とはいえ、女性がいないとやる気を出さないというのは──少し困りものですね」
「そうなの?」
「前回、彼らがここに来た時は……基礎的な面で教えることが多々ありました。アオイも訓練を手伝いましたが、既にその課程は修了しています。もう柔軟以外で付き添わせる意味もありませんし…」
「なるほど。やだやだ、スケベな男って。炭治郎くんが善逸に出会った時も、なんか初対面の女の子に抱きついてたらしいし」
「………ええ、そうですね。初対面の女性に抱きつくなんて、常識を疑います」
「ほんとほんと。木の上から落ちた女性を助けるためとかならともかくさ」
「…」
じっとりと僕の顔を
「まあでも、そうだね……やる気の問題で、結果的に死んじゃったりしたら悔やみきれないよね。友人として、僕が
「…それは結構なことですが、そう簡単にいくとは思えません」
「もしできたら?」
「また
「いいのかい? もう鬼避け道具は貰っちゃったし、遠慮しないかもしれないぜ」
「お好きにどうぞ」
うーん…? この感じは……『余裕』かな? はて、僕が変なことを要求しないとか、そういう信頼ではないな。でも達成できないと確信してる訳でもない。妙な心の動きである。いまいちよくわからないけど──好きにしていいというなら、そうさせてもらおう。いや、もうこれ好きにしていいというサインでは?
「とりあえず善逸をこっちに呼ぼっか」
「修練場から呼んでも、余計に嫌がるだけでは?」
「善逸はね、凄く耳が良いんだよ」
「…?」
小首をかしげるしのぶちゃん。可愛い。まあそれはともかく、善逸少年の可聴域と範囲はとんでもないのだ。耳をすまさなくとも、かなりの広範囲をカバーしている筈。
しかし人間の脳がその全てを処理できるかと言えば、確実に否だ。故に普段は『聞こえてはいても聞いてはいない』という状況にある。つまり無意識下で脳が重要案件だと判断したならば『聞こえる』訳だ。
「こほんっ……んんっ。『へへ……おらっ、大人しくしやがれ禰豆子!』『むー! むー!』『テメェもだしのぶ!』『イヤぁぁ! ヤメテぇぇ!』 …どうだった?」
「申しわけありませんが、頭の病気は専門外でして」
「似てたかどうか聞いてるんですけど」
「ああ、それでしたら……ええ。どれもホモ・サピエンスそっくりでしたよ」
「はは、それだとまるで僕を人間扱いしてないみたいじゃないか──おっ、きたきた」
「──禰豆子ちゃんに何してんだゴラ゛ァァア゛ア゛ァァ!」
「残念、しのぶちゃんは心配されてないね」
「柱ですから」
凄まじい速度で追いかけてくる善逸少年を、ひょいひょいと躱しながら軽口を叩く。炭治郎くんもようやく追いついてきたところで、事情を説明した。禰豆子ちゃんの無事を確認し、興奮が冷めた善逸少年に『それだけ動けるなら任務もバッチリだね』と言ったら、ガクリと項垂れていたのが印象深い。
「ほらほら、そんな情けない姿を晒すからモテないんだよ君は」
「いきなり辛辣すぎない!?」
「結局さ、なんだかんだでやるんだろ? だったらもっとキリッとしとけば、カッコよく見えるぜ」
「うぅ…」
「まあ言われただけで出来るなら、人間誰しも悩まないよね。だからさ、善逸。僕が君のやる気を引き出そうじゃないか」
「…なにすんの?」
「ズバリ、モテる秘訣ってやつを教えてあげよう」
「余計にモテなくなりそうなんだけど」
「はは、僻むな僻むな」
「どんだけ自惚れてんの!?」
「ふぅ……現実を見てみなよ。蝶屋敷にいる期間は君の方がずっと長いけど、なほちゃん達とは僕の方が仲良いぜ」
「お菓子で釣ってるだけじゃん」
「君さ、アオイちゃんの好感度が地を這ってるの気付いてる?」
「あんたは地面突き抜けてんだろが」
「ああ言えばこう言うなぁ」
「鏡見て言えや!」
うーん、雷の呼吸を使うだけあってキレの良いツッコミだ。しかし恋愛において、僕が彼に劣るということはないだろう。なんせ初対面の女性に求婚するような勘違い少年だ。いくら非常識な僕と言えども、さすがにそんなことはしない。さすがに。
「それに、僕としのぶちゃんを見てみなよ。既に下の名前で呼び合う仲だぜ」
「…っ! た、確かに…!」
「経緯」
「やだな、しのぶちゃん。過程はどうあれ、重要なのは結果さ。いま君は僕を千里と呼んで、僕は君をしのぶちゃんって呼んでる。そこは否定できない事実だろ?」
「それはそうですが…」
「だったらそれが全てさ。ほら、どうする? 教えを請いたいなら、僕を師匠と呼ぶんだ」
「師匠!」
「よーし、では恋愛の秘訣を伝授してあげよう」
神速の動きで僕の前に正座した善逸少年。けれどあまりにくだらないやり取りだったせいか、しのぶちゃんがため息をつきながら立ち上がる。結果だけ見ればいいとの判断かもしれないが……しかし。開きっぱなしだった修練場の扉から、カナヲちゃんの顔が覗いていることに気付き、ピシリと動きを止めた。
いつの間に任務から戻ってきたのかは知らないけど、やはり彼女も恋する乙女。『恋愛の秘訣』などという甘い誘惑に抗うことはできなかったのだろう。しかしこのまましのぶちゃんが外へ出ようとすれば、カナヲちゃんはそそくさと逃げるに違いない。
──数秒ほど逡巡した後、しのぶちゃんは諦めたように腰を下ろした。やはり弟子に甘い女性である。炭治郎くんも空気を読んで正座してくれたので、僕は
「まず、善逸は線引きを覚えようね。初対面の女性に『結婚しよう』なんて言うのは、はっきり言って相当だぜ」
「なんで知ってんの!?」
「炭治郎くんに聞いた」
「なんで話してんの!?」
「えっ? 善逸と出会った時の話になったからだけど…」
「話されたくないことってあるじゃん! 話されたくないことってあるじゃぁぁん!」
「でもあれは善逸が悪いと思う」
「うおぉぉん! 何も言えない…!」
善逸を見るしのぶちゃんの目が、心なしか冷たくなった気がする。まあ僕のせいとは言えないだろう。過去というのはどれだけ否定したくとも、ついて回るものだ。やってしまったことを無かったことにはできない。まあ失敗のない人間なんていないんだから、くよくよ悩む必要はないって。善逸少年の肩をポンポンと叩き、励ます。あっ、振り払われちゃった。
「それはともかく、そう……『線引き』だね。自分が誰にどのくらい好意を持っているか、他人が自分にどのくらい好意を持っているか……恋愛じゃなかったとしても、重要なことさ。それを履き違えると、人間関係にヒビが入るのも珍しくはない」
他人の認識を量るのは中々に難しいが、しかし自分の心の方も、これが意外と自覚できないものだ。無意識、無自覚に人を傷付けることもあれば、その逆もある。きっかけがないと自分の恋心すら自覚できないピュアな人間も、いるところにはいるのだ。
「人によって『自分』を使い分ける必要ってあるよね。恋愛に関しては、特に」
「ええと…」
「特別なことじゃないだろ? たとえば……善逸はさ、炭治郎くんと僕ならどっちが好き?」
「そりゃ炭治郎だけど…」
「うえっ、男色家だったのかよ」
「おかしくない!?」
「まあそれは冗談だけど、要は『相手との距離』をしっかり測れってことだよ。仮に僕がさ、善逸の腕をとって『相棒!』とか言い出したら『はぁ?』ってなるだろ?」
「そりゃまあ……うん」
「砕けて喋っていいか、気安くボディタッチしていいか、そのへんの──」
「ぼでぃたっち?」
「あー……肩に触れたり、手を握ったりとかさ。特に女の子なんかは、好意の有無によって、身体的接触に対する嫌悪感……その高低差が激しいもんさ。アオイちゃんに抱きついてボコボコにされた君ならわかるだろ?」
「だからなんで知ってんの!?」
「炭治郎くんに聞いた」
「なんでそんなペラペラ喋っちゃうの!?」
「千里さんって聞き上手だから、つい……でもあれは善逸が悪いと思う」
炭治郎くんとのお喋りは非常に楽しい。素直だし、からかった時の困り顔も面白いし、なにより否定的なことをあまり言わない。他人の感性が自分と違っても、それはそれとして受け入れようとするのだ。悪口や陰口が好きな人間からすると、たぶん喋り甲斐がないタイプだろうけど。
「恋愛は浪漫でもあるけど、戦いでもあるよね。自分から相手への好意は悟られたくない……けど悟られたくもある。相手から自分への好意は、気にもなるし知りたくもなる。善逸に関しちゃ、まずそのへんの駆け引きを知ることが第一歩じゃないかな」
「駆け引き…」
「さり気ない会話から推測したり……相手が自分といる時の所作、他人といる時の所作、その違いなんかも見るといいよ」
難しい顔をしているが、君なら音でわかるんじゃないの? 心音、脈拍、動悸、呼吸の乱れ……相手がどういう時にどういう変化をするか、ずっと聞いてきたんだろうに。それとも案外わからないもんなのかな。しかし教えると言ったからには、理解できていない生徒にわかりやすく説明すべきだろう。
「じゃあ僕がやってみるから、参考にすればいいよ。重要なのはさり気なさと観察力、そこに注目だぜ」
「やってみる…?」
「コホン。ねえしのぶちゃん、僕のこと好き?」
「いえ、それほど」
「とまあ、こんな感じで…」
「いまさり気なかった?」
「さて、
「前向き!」
「次に身体的接触の方ですが……これは初対面時の抱擁から始まり、先日手を繋ぐところまで一通りやっていますのでだだだっ!? ──や、やっていますのでっ! これこのようにしのっ、ぶちゃんからも゛っ積極的に触ってくれますがあ゛あ゛ぁぁぁっ! 痛いです冗談ですごめんなさい!!」
「言い切った根性だけはすげぇ…」
ア、アームロック! いや、古武術だろうか? 前に押しても後ろに引いても痛い。しかもこの態勢だと密着もしないし、何一つ良いことがない。なんて技を考えたんだこの娘は。ミシミシと嫌な音を響かせる関節……その状態で謝ること数十秒、ようやく解放された。
「ふぅ……ま、僕から伝えられるのはこんなとこかな」
「なにも伝わってこなかったんですけど」
「えぇ? 仕方ないなぁ……よし。ちょっとこっちにおいで」
僕は善逸少年を修練場の隅に引き寄せ、真面目な顔で肩に手を置いた。いわゆる『やる気』というものは、何か目指すものがあれば出やすいものだ。彼は鬼との戦いを恐怖しているものの、女の子が絡めばその限りではない。特に禰豆子ちゃんに
「善逸は禰豆子ちゃんが人間に戻ったら、求婚するつもりなのかい?」
「なっ……なな、なんだよ急に…!」
「いやさ、恋愛って個人個人で主義主張が変わってくるもんだけど……たとえば僕の女性の好みは、一緒にいて楽しい人なんだよね。ボケたらすかさず突っ込んでくれる人とか」
「それ恋人じゃなくて相方」
「だから人それぞれって言ってるじゃん。でもさ、善逸は禰豆子ちゃんのどこが良いわけ? 今の彼女って、言ってみれば本当の禰豆子ちゃんじゃないよね。自我もあんまり無い状態だし、容姿だけに惚れたの?」
ボケとか突っ込みとか相方とか通じるあたり、善逸少年が都会派だと言っていたのは事実らしい。現代風の漫才は、この時代だとかなりハイカラな趣味だ。しゃべくり漫才など、大阪や浅草のごく一部でしか流行していない。
「だって禰豆子ちゃんは俺の話をちゃんと聞いてくれるし、花も受け取ってくれたし、手を握っても嫌がらないし、可愛いし…」
「…」
「憐れみの眼っ!!」
「いや、自分を受け入れてくれる人を好きになるって正常だよ。問題は禰豆子ちゃんの方が正常じゃないってところだけど」
「ぐうぅ…!」
「いいかい? 彼女が元に戻ったら、鬼だった時のことを覚えてない……なんてことも充分ありえる話だぜ」
「…っ!」
「そんな時こそ、僕の出番だと思わないかい?」
「ど、どゆこと?」
「僕は口が達者だろ? 詭弁を弄するのも得意だし」
「うん」
「はぁ……そこで『そんなことないよ』って言えないからモテないんだよ、善逸は」
「そんなことしか言わないよな、千里は」
「やだっ、善逸さんが遂に名前で呼んでくれたわっ!」
「キショい!」
「まあそれは置いといて、要は『人物評』ってのがどうやって形成されるかって話さ」
「…?」
「自分から『僕は良い人間です』なんて言ってくる奴を、君は信用するかい?」
ぶんぶんと首を横に振る善逸少年。スレているようでスレていないこんな所作が、意外とチャームポイントである。まあ気弱な印象は拭えないけども。男尊女卑もまだまだ根強い時代だし、男は『男らしさ』を、女は『女らしさ』を求められる息苦しさがある。
それを前提にしてみれば、善逸少年がモテないのもある意味で当然なのかもしれない。背は高くないし、一見気弱だし、頭も中々にファンキー色をしてらっしゃる。優良物件とは口が裂けても言えないだろう。しかし気弱でありながら尚、人を守ろうとする精神は、ともすれば勇敢さよりも遥かに尊いものだ。
「だろ? 人の評価ってのは、まず自分の目で判断して──次に周囲の人間の人物評が参考になる。会ったことない人でも、友達とか家族が絶賛してれば悪い印象は受けないよね」
「うーん…」
「あとは、そう……自分で自分の偉業を口にする奴は、碌な奴じゃないことが多い。そもそも自画自讃ってのは大抵の場合、鼻につくし」
「あ、それは確かに」
「だからね、善逸。禰豆子ちゃんが人間に戻って、もし記憶がなかった時は……僕が語り部になろう。どれだけ善逸が活躍したか、禰豆子ちゃんのために頑張ったか」
「…師匠!」
「おお、我が弟子よ!」
ははは、こやつめ。僕にそっちの趣味はないから抱きつくんじゃない──ってう゛わっ! 鼻水が羽織に……高かったのに。まあいいや、兎にも角にも善逸少年はやる気を出したのだ。気炎を上げながら修練場を飛び出し、凄まじい速度で館の周りを走り始めている。炭治郎くんも喜び勇んで、負けじと走り始めた……ついでにカナヲちゃんも。若いっていいね。
「お見事」
「それほどでも……さて、約束は覚えてるよね?」
「ええ、もちろんです」
「本当になんでもいいの?」
「約束ですから」
おお、これはもう据え膳食わぬはなんとやらってやつだろう。いったいいつの間に好感度が上がったのかは不明だが、女性にここまで言わせて何もしないのは、男がすたる。期待にドキをムネムネさせながら、しのぶちゃんをエスコートする。片腕を取り、腰に手を回し──
「あ、一つ言い忘れてましたが…」
「ん? なに?」
「首飾りは週に一回、交換する必要がありますので。忘れないように気をつけてくださいね」
「え…」
「あれは元々、稀血の方のために試作段階までは出来ていたものでして。ただ定期的に支給し続けるのは現実的に無理があったので、お蔵入りになったものを引っ張り出してきただけです」
「そう……なんだ」
「ええ、そうなんです。ところで──腰に手を回して、何をなさるおつもりですか?」
…まあ無限に使い続けられる消臭剤なんか、存在しないよね。すっごい首輪握られた感。というか、これがあったから余裕を感じたのだろう。しかしこのままやり込められるだけというのは、非常に悔しい……なにかしのぶちゃんをギャフンと言わせられるお願いはないものか?
「…」
「…」
「…ひざ枕くらいならいい?」
「ふふっ、『何でも』と約束したのに──千里もずいぶん謙虚になりましたね」
「──教えてもいないのに卑の呼吸を…!」
「残念残念。ああ、いったい何をされてしまうのかドキドキしていたのに…」
むっ…! 僕を相手に何度も煽るとは──少々驕りが過ぎるのではないだろうか。僕の性格は、
「じゃあ今から四半刻、ひざ枕ってことで」
「それ以上のことはしませんし、させませんよ?」
「もちろんさ。じゃあ失礼して──ぐあぁっ!?」
「仰向けでお願いしますね」
くっ、あわよくば頬でフトモモの感触を味わいたかったが……っていうかやりすぎじゃない? 膝で顔面はやりすぎじゃない? 鼻骨とか折れてないよね。まあしのぶちゃんがそのへんの加減を間違えるとは思わないけどさ。
「
「そちらが変に動かなければ、私も動きませんよ」
「絶対?」
「二言はありません」
「オーケーオーケー、そんならいいのさ。いやぁ、しのぶちゃんの膝は極楽だね」
「それはどうも」
「ふぅー…」
「…?」
「──炭治郎くーん! カナヲちゃーん! 善逸ー! ちょっとこっちにおいでー!」
「なっ…!」
「おおっと! 動くなよ? 僕は微動だにしてないぜ」
「なっ、くっ…!」
「年季が違うのさ、年季が」
ふはは、仲の良さをみんなに見せつけてやろうじゃないか。どれだけ言い訳を重ねようとも、全ては一見に如かず。視覚的効果というのは、人間にもっとも影響を与えるのだ。
いやぁ、人前でのイチャイチャとは気持ちの良いもんだぜ……ん? あれ、体が動かない…? なのに意識だけが冴えて──あ、しのぶちゃんが頸動脈を押さえているのか……おっと、なんだか体が魚のようにビクンビクン跳ねている。だというのに、まるで他人事のようにそれを冷静に見ている僕がいる。
──あ、視界が真っ暗に…
■
目が覚めたら、知らない場所にいた……そんな体験をした人間は、いったいどのくらい存在するのだろう。柔らかなフトモモの感触、甘い香り、暗転──まったく、人が気絶するのって結構危ないんだけどな。まあしのぶちゃんの医療技術って、現代医学を超越してるところがいくつかあるから、一概には言えないかもしれないけど。というか呼吸だの鬼だのと、人間を超越してる部分も多々あるし。
──さて、頸動脈を圧迫されての失神ということなら、目覚めるまで大した時間は経っていない筈だ。というか時間がかかってたら色んな意味でやばい。幸い、特に異常はないようだし、蝶屋敷のどこかなのは間違いないだろう。やたらと上質の布団から這い出て、衾を開けてみる。なんかスゴイのいた。
「…」
「…」
「失礼しました」
「失礼すんじゃねェ」
「すいません、任侠の方とは関わるなと祖母の遺言で…」
「誰がヤクザだボケェ…!」
あ、この時代でもヤクザって通じるのか。まあオイチョカブが語源らしいし、そもそも言うほど昔じゃないしね大正時代って。西暦二千年頃なら、大正生まれのお爺さんやお婆さんは普通に生きてた訳だし。
しかしなんというか、顔面傷だらけの彼は、明らかにカタギじゃない感。目つきの悪さも相まって、完全にアウトローな雰囲気だ。しかも、まるで誘っているかのように服の前面をガバリと開いている。ヤーさんじゃなくともホモなのは確定的に明らかだろう。
「それはともかく……どちら様ですか? というか、ここは…?」
「ハッ…! 聞いたらなんでも返ってくるなんてのはなァ、ガキの頃までなんだよォ…!」
「それと、あれ──僕の名前……えっと……あれ、なんだっけ…」
「…っ!? オ、オイ、本気で言ってんのか…?」
「うぇーい、うっそでーす──うぎゃあぁぁっ!? 僕一般人なんですけど!?」
「一般人に俺の剣は避けられねぇなァ…!」
「避けなかったらどうするつもりだったの!?」
「そんときゃそん時だろうがァ。次は動くんじゃねぇぞ」
「わかりました! 謝る! 謝ります! 申し訳ありませんでした! そ、そうだ、自己紹介でもしませんか? お互いを理解し合える余地はあると思いますので!」
「…
「飛鳥千里と申します。年齢は二十三歳です……ええと、そちらは…」
「…二十一だァ」
「なんだ、年下か。今回は許してやるから、もう少し礼節を弁えろよ──おあ゛ぁぁぁっ!? 死ぬっ、ほんとに死ぬからっ!!」
「
ここまで剣を振り回しても、室内には傷一つ付いていない。彼の技量が窺える。ジリジリと部屋の端に追い詰められていくが、まあそろそろ真面目に会話をすることにしよう。肩を竦めながらスタスタと彼に近付いていく……もちろん剣を振りかぶられたが、特に構わず歩を進めた。
「…っ!」
「あ、どっかで聞いたことある名前だと思ったら……稀血仲間の実弥ちゃん! 女の子だと思ってたけど、違ったのかぁ…」
「平気で前に立ってんじゃねぇよ」
「だって僕、人間だし。斬らないでしょ?」
「…ちっ」
鼻先数ミリというところで、完璧に止められた刃。正に達人といったところだろう。本気で斬るつもりがないのは見て取れたので、目を瞑って近付いた所存である。鬼殺隊は鬼を狩り、そして人を守る組織だ。こんなことで本当に人を斬る者が、柱になどなれる筈もないだろう。
「ほら。友好の握手、握手」
「ウゼェ!」
「じゃあハイタッチ」
「んだそりゃァ…?」
「え、ハイタッチだよ…? 本気で知らないの?」
…という風に言うと、相手は自分が常識知らずなのかと焦ることになる。現に彼も苛立ちが多少収まり、少しの困惑に囚われた。
やり方を示すように、ジェスチャーで両手を前に突き出し、やや上に向けると、彼もそれを真似た。あら、意外と素直。そこに目掛けパチンと手を打ち鳴らし、笑いかける。鳩が豆鉄砲を食らったような表情が、少し面白い。
「いぇーい、じゃあこれで僕たち友達だね」
「あァ?」
「ハイタッチは友達の証みたいなとこあるから。知らないなんて言い訳は聞かないぜ」
「聞けや」
「なんだい? 友よ」
「テメェ…!」
「まあまあ、そんなに恥ずかしがることないじゃないか。友達なんてとりあえず作っとくもんさ。その中で気が合えば親友にもなるし、気が合わなけりゃ疎遠になるだけだろ?」
「…」
「という訳で、よろしくね実弥」
「…気が合いそうにねぇなァ」
「納豆だって食べるまでは臭いもんさ」
「くっ──なんだそりゃァ」
おっ、ようやく笑顔がちらっと。まあどんな人間でも、ひたすら仲良くなろうとする人間を無視し続けるのは、意外と難しいものだ。当人が善人であればあるほど、罪悪感というものは募っていく。実弥は顔こそ怖いけど、なんとなく優しい感じはするもんね。野良犬に餌とかあげてそう。
「ところで、ここはどこなの?」
「お館様の屋敷だァ……あの糞ガキといいテメェといい、気絶した奴を運び込むのが流行ってんのかァ?」
「お館様……ああ、産屋敷さんの! …ん? 蝶屋敷の近くって訳じゃないよね…? 僕どんだけ気絶してたの? え、マジで障害とか残ってないよね? なんかおかしいとことかない!?」
「…ああ、そういや確かにおかしいなァ」
「えっ! どこどこ?」
「頭だろォ」
「ああ、そこは元からだよ。心配してくれてありがとね」
「皮肉だボケェ!」
知ってるよっと……しかし妙な語尾は癖なのだろうか? 流石に厨二病なんてことはないだろうが、言語障害の走りだとしたら少し心配だ。なるべく言動に注意しておくとしよう。
しかし気絶している間に運び込むとは……しのぶちゃんめ、少し僕の扱いがぞんざい過ぎではなかろうか。そんな風に少しばかり憤っていると、衾が開いて彼女が姿を現した。可愛いから全てが許せそうである。美人ってお得。
「起きたみたいですね、千里。お館様がお呼びです──不死川さんと話していたんですか?」
「うん、いま友達になったとこ」
「そうですか……はい? えっ…!」
否定しない…!? って感じで目を丸くして実弥を見るしのぶちゃん。おはぎをバクバクと食べている姿は、照れ隠しなのか素なのか。あんなに熱いお茶を一気飲みして大丈夫なのだろうか? 湯呑が空になったところで、立ち上がって部屋を出ていこうとする実弥。どうやら産屋敷さんと何かしら話した後、お茶でも飲んで行きなさいと勧められた後だったらしい。
「じゃねー、実弥。また今度」
「…あァ」
振り返らず、手も振ってはくれなかったが、多少は打ち解けられたように思う。まあ出会いとしては上々だろう。十数年とボッチだったのに、ここ最近は友達がいっぱいで凄く嬉しい。
誰かと仲良くなりたくても、その人が僕のせいで死んじゃったらと思うと、どうにもできなかった今まで。だけど鬼殺隊の人達なら、なんの憂いもなく接することができるのだ。それが何よりも幸福で、十何年分かの埋め合わせをするように、グイグイといってしまう。
──ああ、産屋敷さんとも友達になれれば嬉しいところだ。
…強いて言うなら、ハゲではなく坊主頭ですね。なぜ坊主頭にしたのか、その理由は伏せますが。ハゲではないです。
あとこれはぜんぜん関係ない話ですが、薄毛になってきたから坊主頭にする人って潔くて素敵ですよね。