姉の
幼い頃から金持ちという存在を妬んでおり、全身から血生臭い獣臭を漂わせながら綺麗な衣服で身を纏った女達を射殺すような目で睨みつけていた。また私達は二人姉妹でもあったので、家業を継ぐのは長子である姉様だと親から見定められていたこともあり、毎日のように羊の屠殺をやらされている。別に我が家の家業が醜いと思ったことはない。でも、いつも悔しそうに歯噛みしながら羊の首を親の仇と同じように切り落とす姉様の姿があまりにも惨めだったので、ああはなりたくないものだと幼い頃の私は次女に生まれたことを密やかに感謝していた。
正直なところ、私は金持ちという連中と私達は住んでいる世界が違うので比べるだけ無駄だと思っている。ただ姉様にとっては違っていたようであり、その卑屈な心の矛先は妹の私、
誤解がないように先に言うと、私は姉様に溺愛されている。
私が住む屋敷は屠殺場を兼ね備えた肉屋から距離を置いた離れであり、部屋に置かれた家具は全て姉様が買い揃えてくれた物になる。どれもこれもが意匠を凝らしてあって庶民が扱う家具とは一線を画する。与えられる衣服の肌触りは良く、繊細な刺繍が施された最高品質の物ばかり、宝石や髪飾りといった装飾品の類は箱に収まらない程に買い揃えられていた。
別に誰かと会うわけでもないのに、最高級の化粧品で身嗜みを整えている。爪先を
管理される生活には慣れてしまっているので構わないが、やっぱり退屈に感じることは多い。適当に書籍を読み漁ろうにも、姉様の趣味が悪いのか興味の持てないものばかりである。趣味らしい趣味と云えば石並べ、日中は宝石を並べて眺めていることが多い。
宝石をおはじきのように指先で弾きながら憂鬱げな溜息を零す。
あまり外の世界に興味を持てなかった。世の中が意地汚いことは知っているし、面倒なしがらみで憂鬱になることを知っている。そんな世界で必死に生きようともがき苦しめば、きっと姉様のように獣臭くなって近寄り難い存在になるのだ。正直、姉様のことは醜いと思っている。獣臭い血の臭いが体に染み付いているし、髪は肉油で
とはいえ姉様のことが嫌いかと云えば、それは違っている。
猿と豚ばかりで面倒な世の中に揉まれに揉まれて、肌身を獣臭くしながら必死に私の身代わりとして働いてくれている姉様のことを尊敬しているし、なんだかんだで御飯は美味しい。ぐうたらのんびりとした生活を過ごせるのであれば、ちょっと姉様の人形になるくらいのことは安いものだ。
それに触れ難いものを前にした時のように、私のことを見つめる姉様はとても愛おしい。
今の私の見た目は、姉様が美しいと感じる姿を体現した姿なのだ。だから自身のことを醜く汚いと思い込んでいる姉様が自分の意思で私に触れることはできない。姉様にとって私に触れると云うことは、純白の絹に真っ黒の墨汁を零すようなものである。神聖不可侵、それ故に笑う瞳の奥底を嫉妬で濁らせる姉様はいじらしくて仕方なかった。
そんな姉様のことを、私は冷笑しながら見下している。
世界を怨む姉様の顔は険しくて、いつも眉間に皺が残りそうだなって思っている。将来は老け顔に違いない。醜いわね、とても醜い。私は姉様の理想であり、誇りであると同時に羨望の対象でもある。私は姉様に愛されている、可愛がられている。そして妬まれている。笑顔の厚化粧を施した裏側で、嫉妬に狂って愛憎入り混じった泥濘の感情が蠢いている。どぷり、ごぷり、と獣臭い気泡の息遣いが煩わしくて、とても虐めてやりたくなる。その顎下を伸ばした爪の先で掻きながら可愛がってやりたい。その惨めで醜い心を擽りながら、たっぷりな愛情を甘受し続けたい。私が姉様に与えるものは何一つない、姉様が私に貢ぎ続ければ良い。愛情も憎悪も全て私にだけ向ければ良い、永遠に私に囚われ続ければ良い。見るに飽きず、弄るに愉快なとびっきりな私だけの玩具。
夕暮れ時、姉様の仕事が終わる頃合いと知った私は姉様が嫌いな香を焚いて、離れに来るのを待ち構える。
美しさと云うのは完全さ、可愛いと云うのは未熟さ。
だから私は美しくて、姉様は可愛かった。