そして誰もが悪党になった。   作:にゃあたいぷ。

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本日三度目


7.愛だけじゃ物足りない  -何皇后

 姉様が何やら妙なことを企て始めた。

 週に二度、朝服を着込んだ人物を部屋に招き入れては手料理と酒をふるまっているようだ。そのためか近頃の姉様は妙に機嫌が良く、楽しげな笑みを浮かべることが増えた。それを見て、私は酷くつまらないと感じる。離れまで足を運びに来る機会も減り、いつも感じていた退屈さに拍車をかける。

 そして朝服姿の女性が帰る時に、袖の下を渡していることを私は知っている。

 賄賂なんて送る余裕があるのなら衣服の一着、宝石の一つでも買ってくれれば良いのに――と、寝台の上で俯せになり、足をパタパタと動かしながら独りきりの部屋で不貞腐れる。姉様が自分以外の誰かに意識を向けるのは気に入らない、それは醜い嫉妬ではない。姉様は私の玩具になるべき人なのだ。離れに閉じ込める責任は取って貰わないといけない、そして、責任を取らないと言うのであれば別の対価を頂かないといけない。

 酔っているのか、少し頰を赤く染めた娘に背後から忍び寄る。足音を殺さずに自らの気配を相手に気付かせる。

 冴えない顔付き、小柄な体躯に機能美を追求した胸元、まるで私とは正反対の見た目に「ああなるほど」と冷たく微笑んだ。何故、この娘が姉様のお気に入りになれたのか理由が分かった。

 彼女の容姿は何一つ、姉様の劣等感を刺激しないのだ。

 

「あら、貴方は姉様のお知り合いの方でしょうか?」

 

 偶然を装いながら声をかける。

 振り返るその顔は疑問よりも警戒が先に出ていた。相手の顔を確認よりも先に警戒心を露わにする、その在り方は世界全てを信じていないかのようだった。だから私は直感する、この子は良い玩具になりそうね、と。姉様、何進の妹であることを告げると彼女は名を名乗りながら丁寧に頭を下げてくれた。名は郭勝、なるほど、なるほど。彼女と姉様は真名を交換しているのだろうか。

 しているのだとすれば許さない、していないのだとすれば楽しい。

 

「ところで私、離れに住んでいるのだけど――過保護な姉様のせいで外のことを全く知らないの。もし良ければ少し話を聞かせてくれないかしら?」

 

 そう問いかけると郭勝は数瞬、迷う素振りを見せてから頷き返した。

 彼女を計画通りに離れへと連れ込んだ私は、先ず彼女を椅子に座らせてから改めて郭勝の容姿について物色する。庶民に比べると幾分かましだが、今まで彼女は自分を磨き上げるということをして来なかったようだ。とりあえず彼女からは姉様と同じ芋臭い悪臭を漂わせていたので香を焚いておいた。それから彼女の髪に櫛を通して、適当な化粧道具で見た目を整える。

 使った物は、元ある場所から別の小箱に詰める。元は数多ある宝石箱の一つ、以後は郭勝用の道具入れになる予定だ。

 困惑しながらもされるがまま、この部屋に上げた以上は最低限の身形になって貰わないと話を聞くのも苦痛だという私なりの気遣いだった。今、彼女が座っている椅子も郭勝専用にすることが心の内で決まっている。

 そして出来上がったのは最低限、以下の出来栄え。塵屑を見れるようにする事は、意外と難儀だと首を傾げる。

 姉様について色々と問い詰めるつもりだったが、このままでは話を聞きたいとも思えない。

 

「あらまあ、つい、髪を弄るので夢中になってしまったわ。話はまた今度、聞かせて頂戴」

 

 どうすれば少しでも見れる見た目になるのか、試行錯誤をしている内に夜が更けてしまった。

「ああ、うん」と適当に整えた前髪を不思議そうに弄っている郭勝に「聞きましたよ」と囁くように告げてやる。

 すると、彼女は酔いとは別の意味で顔を赤らめる。あらやだ不細工、気色悪い。

 

 その一週間後、漸く郭勝から話を聞ける兆しが見え始めた頃、姉様が部屋に上がり込んできた。

 何時になく真剣な顔付きをした姉様の姿に事情を察していながらも「どうしたの?」と今日も部屋に連れ込んでいた郭勝を人形にするように後ろから優しく抱きしめて、挑発するように笑みを加えた。すると姉様は眉間の皺を寄せて、不機嫌そうに眉間に皺を寄せるのだ。それが楽しくって仕方ない。郭勝の顎下で指先で撫でると、みるみる内に姉様は顔を険しくさせていった。なんて可愛らしい人なのだろうか、もっと虐めたくて仕方ない。

 そのためには郭勝にもっと綺麗になって貰わなくてはいけない、これでも嫌悪感を我慢しているのだ。生理的に受け付けない領域から脱してくれないと顔を合わせることすら気持ちが悪い。それにお気に入りの彼女が姉様よりも綺麗になった時、姉様の態度がどう変わるのか気になった。

 郭勝が居心地悪そうに視線を右往左往させる中で私は抱き寄せる。背中越しに、だってまだ気持ち悪いから。

 

「……気に入ったのか?」

「ええ、お気に入りですので」

 

 姉様の、という前置きを省いて答える。

 

「そうか、好きにしろ」

 

 云うと姉様は逃げるように離れから出て行った。

 姉様にお気に入りは必要ない、姉様が好きになっても良いのは私だけ。姉妹としての愛情をそのままに、嫉妬と憎悪を交えた目で私だけを見つめれば良い。だから姉様にお気に入りが居ると云うなら奪って取ってあげよう、子供から玩具を取り上げるように。そして姉様が嫌悪する存在に作り変えてあげよう。

 抱き締められたままの郭勝が顔を赤くしていることに気付き、私は冷めきった心で彼女を突き放した。

 

 

 

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