ヘイ!タクシー!   作:4m

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シルヴィア08

「橘ありすです。短い間ですが、よろしくお願いします」

 

全員が事務所へ集まると、カウンターの後ろ、私の机がある横辺りに集まって円を描く様に丸くなり、朝礼が始まった

朝の挨拶が終わると点呼をとり、出勤状況を雛子さんが伝える

その後に社長さんから私の紹介が行われると、全員が拍手で迎えてくれた

美空さんが満面の笑顔だ

 

「では改めて。みんな知っていると思うが今日から二週間ほど、橘ありす君が空き時間に職場研修に来ることとなった。何か困っているようなことがあればサポートしてあげてほしい。じゃあせっかくだから橘君、何か一言」

「へっ?あ、えっと・・・え?」

 

いきなり話を振られてしまい、思わず社長さんの顔を見る

突然の事だったので何も考えておらず戸惑っていると、その状況を見ていたその場のみんなから微笑みが漏れる

 

「あの・・・私は車のことはまったく分かりませんが、皆さんのお役に立てる様に精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」

 

とりあえず咄嗟に思いついたことを口に出して頭を下げた

すると再度拍手が起こり、私を歓迎してくれていた

 

「では、みんなよろしく頼む。雛子君、続きを」

「はい。今日までの進捗ですが、計画に対して車検が7%、定期が5%です。月初めなのでまだ数字は伸びないですが、月末にかけて・・・」

 

雛子さんが次から次へと項目を読み上げながら数字を読み上げていく

保険とか継続とかオススメ商品とか、私にはサッパリ理解できない単語が続くが、他の方々はそれを黙って聴き、それぞれの項目に対して頷いたり渋い顔をしたりと反応を示していた

 

「では、以上で朝礼を終わります。今日も一日よろしくお願いします」

 

最後は雛子さんの号令でそれぞれが頭を下げて、持ち場へと戻っていく

社長さんは奥の社長室へと入っていき、雛子さんと零次さんは自分の机に座ってパソコンのキーボードを指で叩き始めた

美空さんも奥の自分の机に一旦戻ったが、すぐに工場の方へと行ってしまう

私はというと、特に何も言われることもなかったので、自分の席へと座るのだった

 

「それにしても、違和感バリバリだな」

「何ですか、私に何か不満でも?真面目に仕事してくれれば何も文句はありません」

「ほら、言われてるぞ零次。橘専務のお眼鏡に叶う様に働かなくちゃ、ね?」

 

雛子さんがパソコンの読み込み画面の途中で振り返って私にそう言う

はいっと私が返事をすると、零次さんは両手を左右に広げてため息をつくと再び画面へと体を戻した

 

「なんかわからんけど俺にだけ何だか後ろから熱い視線を感じるな」

「気持ち悪いこと言わないでください。ここにいる限り私が監視役です」

 

普段の様子から何をするかわかりません、私の目が黒いうちは目を光らせておかねば

 

それにしても何故皆さんはこの人にこうもこだわるのかまったくわからない

あんなに破茶滅茶な運転をして言葉使いも乱暴なのに、千枝さんや桃華さんを始めとした私と同い年くらいの方々だけでなく、それよりも年下の皆にも懐かれている

その中には親御さんとも面識がある人もいるみたいで、キチンと許可を貰って出かけたとこずえさんが言っていた

お家まで送ることが多いからか?

 

梨沙さんとよくケンカをしている場面は度々見かけるが、それでも無理矢理追い出したりはしない

 

唯さんや夕美さん、悠貴さん、愛梨さんといった方々ともご飯を食べに行ったりと仲良くしてるみたいだし、謎が残る

 

「ありすちゃん、お願いしたいことがあるんだけど」

「え、あ、はい。なんでしょうか?」

 

ついつい考え込んでしまっていたようだ

雛子さんの呼びかけに一瞬反応が遅れてしまう

 

「工場に行って姉さんの手伝いをしてほしいんだけど、お願いしてもいい?」

「美空さんの?」

「そっ。ほら、アレアレ」

 

雛子さんが工場へ通じる扉の横の窓の前で、私を手招きして呼んでいる

雛子さんへ駆け寄りその窓から工場を覗き込んでみると、工場の片隅にある小さな一室の中で美空さんがダンボールを次々と開けて、中に入っている何かを取り出しては床へと並べている様に見えた

 

「姉さんと一緒に部品を整理して、その伝票を持ってきてほしい。やり方は姉さんが教えてくれるから、手伝ってあげて。あの人はまぁー整理ができない人だから」

「あぁ・・・」

 

そう言って私はすぐ側にある美空さんの机をチラッと見る

その上は最低限の作業スペースは確保されている様に見えるが、机の枠に沿ってプリントやら茶封筒やらが順番がバラバラで積み重ねられている

雛子さんの机の上にも確かに同じものがありはするが、封筒は封筒、プリントはプリントでキチンと整理されていた

 

「では・・・行ってきます」

「ん、頼むわ」

 

ーーーーーーーーーー

 

「あれぇ〜?これどこ行ったん?部品頼んだはずなんだけど・・・もしかして積み忘れて、あ、あったあった。次コレは・・・ん〜?どこいったっけ、さっきそれらしき物が・・・」

 

その一室に入ると、美空さんがバインダーを片手に床に散らばった部品たちの間を縫う様に右往左往と動いては、床から部品を取り上げてバインダーと見比べていた

 

「あのー・・・」

「あら、ありすちゃん!ようこそようこそいらっしゃいな!ごめんね〜、この散らばってるの今片付けるから待ってて」

「いえ、それを手伝うように言われて来たんですが・・・」

「あ、そうなの?それなら」

 

すると美空さんは、手に持っていたバインダーをテーブルへと置いて、床に置いてあるダンボールの中から、何枚も重ねて輪ゴムで束になっている紙を取り出した

 

「これが伝票。来た部品の数だけあるはずだから、これと照らし合わせてちゃんと部品が届いてるかどうか確かめるの」

 

そう言って手渡された伝票を見てみると、''オイルエレメント''や''ロアーアーム''、''プラグ''、''ガスケット''と言ったよくわからない部品の名前がズラッと並んでおり、中には本当に必要なのかと疑ってしまうような、人差し指の先よりも小さなゴムの輪っかのような部品があったりもする

 

「沢山部品があるでしょー?コレとかコレとか、本当に役に立つのかってやつとかね。でも、車ってこんな小さな部品も含めてものすっっっごく沢山のパーツが組み合わさって出来てるものなの。そのありすちゃんが持ってる小さなゴムのパッキンだって、無かったらエアコンの冷たい風が出なくなっちゃうんだよ?」

 

まさか、こんな小さな部品一つでそこまで変わるとは

私は改めてそのゴムの部品が入った袋を確認する

 

「不思議でしょー?車って。その調子が悪くなった部分を見つけて直すのが私の仕事。ホント素直よ、交換したらコテンと何事もなく直っちゃうから」

「で、でもそれなら、その部品達が全て頭に入ってないとわからないんじゃ・・・」

「一応車にも整備要領書ってのがあって、確かに車の構造は頭に入ってないとダメだけど、それに従いつつ故障箇所を探すってカンジかな〜。無駄な物なんてないの、全て計算され尽くして出来てるから」

 

凄い、おちゃらけた人だと思っていたけど、やっぱりこの人もプロなんだ

説明が終わると、美空さんは床に再び部品を並べていく

 

「・・・あ、ありすちゃん私の事バカにしてたでしょー。おちゃらけた人だとか何だとか思ってたりして」

「いえ!そんなことは別に・・・!ただ、凄いなぁと」

「ホントにぃ?そんなカンジの目つきだったんだけどー・・・」

 

鋭い、さすが故障箇所を見つけ出すだけのことはある

私はこれ以上見透かされないように伝票を片手に部品と照らし合わせていく

 

「あ、それならねー、ありすちゃんがその伝票に書いてある部品の名前と個数を読み上げていって。私が探すから」

「えっと、はい。じゃあ・・・''フロントロアーアーム''一つです」

「はいはい、OK。次どーぞー」

「ボルト・・・二つです」

「部品番号何て書いてある?その''ボルト''ってのの横あたり」

「ああ、すみません。えっと・・・」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「雛子さん、これ・・・伝票です」

「お、ありがと。どうだった?面白かった?」

「見たこともないものばかりでした。あんなに車の部品が沢山あるなんて・・・」

「中々見ない光景だよね、とりあえずありがとう。あ、待って、この・・・コレとコレとコレの伝票、零次の机に置いといて」

 

部品の整理が終わると、私は美空さんに言われた通りに伝票を持って事務所へと戻っていった

あれから一時間くらいだろうか、雛子さんも仕事がひと段落したのか、今は机の上に置かれた一枚の紙を手にパソコンの操作をやめていた

 

「あれ?あの・・・零次さんは?」

「ああ、いつもみたいに美城プロに呼ばれて出て行ったよ。琴歌ちゃんの送迎・・・とか何とか言ってたような気がする」

「多分そうですよ。そろそろ恋愛ドラマの撮影があるって話していたのを聞いたので」

 

きっとこの前に休憩スペースで星花さんと話していたドラマの話だろう

お金持ちのお嬢様とのラブストーリーだとか何だとか

最近はみんなそれぞれそういう仕事が入りつつあるが、いつか私も主役級の役を貰える日が来るのだろうか

 

「恋愛ドラマねぇ・・・、ありすちゃんはいるの?好きな人とか」

「いえ、私はそういう人は・・・。忙しすぎてそんな暇がないんです。よくわからないですし、他の皆さんはどうかわかりませんが」

「ふーん、それもそれで大変だね。周りにカッコいい俳優さんとかいそうな感じだけど」

 

確かに雛子さんの言う通りだが、私はまだ小学生だし相手にされてないと思う

年上の人達、瑞樹さんとか愛梨さんとか大人の方々はスタッフさんとか俳優さんとかにご飯に誘われたことはあると話してるのを聞いたことはあるけど、あくまでその時は仕事上の付き合いとして応じていたらしいし

 

「それを考えると、アイツは恵まれてるな。そっちから来るわけだし」

「ああ・・・そうですね、よくお話を皆さんから伺います」

 

今日はアレを作って食べたとか、こんな話をしてあの映画を観たとか、そんな話を最近は聞く

 

「まぁ、私の変わりの''お母さん''が増えてくれるのは嬉しい、中々に手のかかる奴だから」

 

そういうことなのだろうか?いわゆる母性本能的な

しかし、それだけではない人もいるような気がする

 

「とりあえず、孤独死とかしなさそうだからまだいい。そうだ、そろそろ来るかな。ありすちゃん、お茶の淹れ方教えてあげる」

「はい、お願いします」

 

そういうと私は、雛子さんに連れられて給湯室へと向かう

途中で社長さんに声をかけていたあたりお客さんが来るようだ

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