ヘイ!タクシー!   作:4m

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シルヴィア11

雛子さんが帰ってくると、同じように奥の休憩スペースへとやってきて、昼食を取る

その際にテレビで紹介されているファイスピの映像を見ては、複雑そうな表情を浮かべていた

 

「大変だなありすちゃん。どう?午前中色々やってみて」

「はい、色々勉強になりました。こんなにもやる事が多いなんて」

「意外とやる事は多いんだよ。よく言われるんだけど」

「まぁ、ウチが暇すぎるっていうのもあるけどね〜」

 

食事が進んでいく中で、テレビではリサさんの紹介がなされていた

生い立ちから作品への関わり、愛車のこだわりなど、特に今回はその愛車が生まれた土地でのプレミア試写会とあって、海外メディアへ対し、日本への熱い想いを語っていた

 

「ふむ・・・テレビの特集にしてはよく紹介されてるな。間違ってはいない」

「あれ?ひなちゃんファイスピのブルーレイボックス持ってなかったっけ?今更なんじゃないの?」

「それはそれ、これはこれ。たとえ持っててもロードショーとかでやってたら観たくなるじゃん。始まる時インタビュー入ってたり」

「あ、そのお仕事来たりしますよ。この前もクローネの皆さんと撮った映画をやったときもスタジオまで行きましたから」

 

実際、そういう仕事はたまにある

映画だけではなく、歌番組などアイドルとしての楽曲等の紹介でも、テレビの端に書かれる本人のコメント等などがそうだ

 

「今回も、そういうのはあるのか?」

 

ずっと黙っていた零次さんが口を開いた

 

「そうですね、日本の特番に出るとは言ってましたが、まだ詳しいことは聞いていません」

「・・・そうか」

 

それだけ言うと、また押し黙ってしまう

ジッとテレビを見ながら、片手に持っている携帯へと時折視線を落とすばかり

 

「ひなちゃん、ブルーレイボックス出るたびに買ってるけど、一作品追加されるだけで内容ほとんど同じなんだから、個別に買わないの?」

「ブルーレイボックス限定のインタビューとかあったりするから、それが見たいだけ。一応''ファン''ってことだし。それでしか活躍とか内々の話とか知る術がないしね」

「筋金入りね〜。まっ!私は前作のブルーレイボックス貰ったから楽しませてもらってるだけありがたいけどね!」

「少しは自分で買いなよ・・・」

 

会話が続いている間も、私は少し疑いながら箸を進める

零次さんもそんな私の視線に気づいているのか、私のほうを一瞬チラッと見るとそのまま視線を戻すのだった

何ですか?と尋ねても、いや、美味そうだなって、と言うだけで何もしない

そんな様子の零次さんに、私も特に気にかけることもせず、テレビを横目で見ながら昼食を続けるのだった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「・・・ほわぁ」

「あら、ありすちゃんいらっしゃ〜いなっ。あっちの仕事はいいの?」

「はい、お昼からは特にやる事は今のところないから、工場でも見学しに行っていいよと言われました」

「ごめんね〜、暇な会社で」

 

雛子さんのご好意に甘えて、私は工場で作業している美空さんの様子を見にいくことにした

零次さんは用事があると言ってまた346プロに戻っていってしまったし、雛子さんはパソコンでメールを作成し始めた

何か学べることがあるかもよ?と雛子さんが言っていたので、何かしら作業をしていた美空さんの側へと近寄る

 

「あれ〜?14のメガネどこいったっけ・・・あ、あったあった」

 

工場へ入ると、二本の柱のようなリフトにシルバーの車が一台入っていて上まで持ち上がっていた

その下へと美空さんが入り込み、工具を持ってどこかへ引っ掛けると思いっきりその工具を叩き始める

 

「よっこいしょ〜、ほいほいほい・・・はーい」

 

工具の力で緩んだネジの様な物を、今度は指で弾く様に緩めていく

その途中に、下に車輪付きで動く受け皿の様な物を持ってくると、最後指でそのネジを大きく弾き、外れると同時に大量の黒い液体が流れ始めるのだった

 

「うわっ、何ですかコレ」

「エンジンオイルよ。これでエンジンの中を潤滑して清掃して、冷却して密閉するの」

 

そう説明すると、美空さんはリフトの側に置いてあった取手付きの小さなドラム缶のような物を持ってくる

 

「持ってみる?」

「はい・・・。よっ・・・えっ、ちょっ、んんっ・・・!重い・・・!」

「あっはっは、20kgくらいあるからね〜」

 

あんなに軽々持っていたのに、こんなに重いなんて

 

「これが、新しいオイル。ほら、ここに数字が書いてあるでしょ?」

 

そう言うと、ドラム缶の横にデカデカと書かれていた数字とアルファベットの様な物を指差した

その横の細かい説明文はまったく意味がわからない

 

「5、W、ハイフン、40ですか。これは何の意味があるんですか?」

「これはね〜、オイルの粘度が書いてあるの。これでどれだけシャバシャバしてるオイルなのかドロッとしてるオイルなのかが分かるのさっ。色んなのあるよ、0Wとか10Wとか」

「それだったら数字が大きいほうがいいのでは?」

「そう思う人結構いるんだけどそうじゃないの。エンジンには使える粘度のオイルを入れてあげないと壊れちゃったりするのよ。車を触るときはまずその子のことをよく知ってからね。サーキットとかを走る為ってんなら特に」

 

サーキット・・・前に仕事の関係で一度は行ったことがあるけど、その時はイベントのお手伝いだった

走ったことがあるのだって、事務所のみんなで遊園地に行った時にゴーカートに乗ったときくらい

 

「車には車の個性があって、それも勉強していくのも仕事かな。''これ''っていう正解がないの。基本的なことは大体一緒だけど・・・ホラ、CMとかでよくやってるでしょ?自動ブレーキとか、自動運転だとか、昔にはない技術だから」

「なるほど・・・確かに」

「だ・か・ら、相手の''言ってること''を理解できないとダメなのよ。その為に勉強して資格を取って、お金を貰って、仕事をするっ!ってコ・ト!」

 

そう話しているうちにいつの間にか、外したネジの様な物を綺麗に拭き取り、車の下へと取り付けていく

様々な配管や配線、大きな鉄の塊などがいくつも取り付けられているその中の一つのネジを外して取り付ける、私には一体何が何だか検討がつかない

 

「さぁ〜てと、せっかくの機会だし、手伝ってくれる?ほれっ」

「・・・はい?」

 

私がマジマジと車の下を見ていると、美空さんは軍手と何やら細長い銀色の工具を渡してきた

 

「・・・何ですかこれは」

「トルクレンチ。閉めてあるボルトが正しい力で締まってるか確かめる道具」

「いや、そういう意味ではなく・・・」

 

なんでしょう?私に車を直せと言うんでしょうか?

いや、ちょっ、そんなに押し付けられても

 

「今私がつけたドレーンボルトを、ちゃんとした力で締めてくれる?あ、このジョイントの切り欠きを操作したら締める向き変えられるから」

「ダメでしょう・・・!そんなっ、いくらなんでも私なんて!」

「大丈夫大丈夫、このスカイライン私のだから〜。ファイスピでもやってたでしょ?オイル交換。こんなこと出来る機会なんて滅多にないわよ〜?」

 

遠慮するが美空さんは一歩も引かない

恐る恐る差し出された工具と軍手を取り、その工具を構える

程々に重い、先っぽを回すとカチカチと音がして、手元にはダイヤルが備え付けられていた

 

「はい、まずは手元のダイヤルを回して40に合わせてくださいっ」

「えっと・・・よ、40」

 

言われた通りにダイヤルを回すと、中の数字が動き始める

緊張で若干強張っている指先を何とか動かして言われた通りに40へと合わせた

 

「よしっ、じゃあ締めますか。ちょっとリフト下ろすから出てきてね」

 

そして美空さんと一緒に車の下から出てくると、美空さんはその車を持ち上げている柱のレバーを下へと操作する

すると大きなモーター音の様なものがリフトから聞こえて、丁度私の身長くらいのところまで車が降りた

 

「よしよし、じゃあそのトルクレンチをこのドレーンボルトに引っ掛けてグイッと手前に引っ張ってください」

 

言われるがまま、私は再び車へと潜り、工具を先程のネジに引っ掛ける

 

「こ、こうですか?んっ・・・えいっ!えいっ!」

「そうそう、いいよいいよ。もっともっと!ギュッといっちゃって!」

「んー!」

 

美空さんを信じ、徐々に力を強めていくと、ある一定のところで工具からカチンッという音が響く

 

「よしっ!ありがとっ、これで大丈夫よ。じゃあ工具もらうね、かわりに・・・この紙ウエスでそのボルトの場所拭いてもらえるかな?」

 

そう言うと、美空さんは何やらスプレーの液体を染み込ませた布の様な一枚の紙を私に渡してくる

言われた通りに拭いてみると、驚くほどに綺麗にその場所のオイルが拭き取られた

 

「このスプレーはね、パーツクリーナーっていって油分を取ることが出来るの。これさえあればキッチン周りの油汚れも一発よ!今度試してみてね」

「は、はぁ・・・響子さんが凄く喜びそうです」

 

そして先程と同じようにリフトの外へと出ると、美空さんがレバーを操作して今度は完全に車を下へと降ろす

ギチチッと四本のタイヤが軋み音を上げて地面に接し車の下降が止まると、レバー横のリフトのロックが外れて、美空さんが車の下に入っていた持ち上げるための棒の様なものを外していく

 

「さて最後、オイルを入れてみましょうか。その透明なジョッキに4ℓくらいオイル入れてもらえる?」

「は、はい」

 

いつの間にか用意されていた、先端にジョウロのような長い口が装着されている入れ物に、私はこの小さなドラム缶の様な物の蓋を開けて、オイルを入れていく

ジョッキ横のメモリで確認しながらオイルを注いでいく間に、美空さんはエンジンの上から小さな蓋の様なものを外し、私の作業を見守っていた

 

「よしっ、OK。じゃあこの台の上に乗って、この注ぎ口から入れて貰える?」

 

言われるがままに、私は台の上に乗ってそのジョウロの様な先端を、エンジンの中へと入れた

どんどんとジョッキの中からオイルがエンジンの中へと消えていく

 

「どう?中々こういうこと出来る機会ってないけど、ご感想は?」

「は、初めてですよこんなことしたのは。オイルは重いですし、色々な部品ばっかりでやっぱり全然わかりません」

「そうよね〜。普通の女の人って中々こういうことする機会ないもん。ボンネットすら開けたことないって人沢山いるし。あっ、もういいよありがと。そうそう、まずはその口を上に向けて垂れないようにしてからジョッキを離す。あら、ありすちゃん上手じゃな〜い」

 

初めてなのに褒められてしまった、こっちはいまだに緊張しているのに

そんな美空さんに愛想笑いで返すと、私はジョッキを床に置き、美空さん作業を見る

外した小さなキャップを締めて、エンジンの上を軽く軍手で撫でてホコリなどを取っていた

しかし、上から見てみても何が何だかやっぱりわからない

エンジンにはV6、3.0とデカデカと書かれたプラスチックのカバーに、その横には緑色の液体が入った透明なタンク

その他にも黄色の液体や茶色の液体が入っている物もあったり、これらがどう役に立つのか想像も出来なかった

 

「よし、そろそろオイルも落ちたかな〜。ありすちゃん、こっちこっち」

 

美空さんに呼ばれると、再び台の上に乗る

すると美空さんがエンジンの横の小さい隙間から、指一本が入るくらいの小さな取っ手のついた細長い金属の棒の様な物を引き抜いて取り出した

 

「これがレベルゲージ。オイルの量を確認する為のもの」

「あ、リサさんが映画の中で見ていたのはそれだったんですね」

「そのとーり」

 

そして美空さんは、その先端をウエスで拭き取ると再び元の場所へと戻してまた引き抜いた

 

「この先っちょに、''L''と''H''って書いてあるのわかる?その間に何か金属のギザギザが入ってるんだけど、大体この間にオイルがあれば完璧ね。このエンジンは半分より上まで入っていればベスト。どう?」

 

私は目を凝らして、先端を確認する

金属のギザギザの様な物の両端に確かにLとHというアルファベットが確認できる

その間のギザギザには水滴が付いており、その水滴がH寄りに、美空さんの言った通り半分以上入っているのが確認できた

 

「はい、Hのアルファベット寄りに半分より少し上になっていますが・・・」

「よし!これで作業終了です!ありがとうございます橘整備士さんっ!」

「は、はぁ・・・」

 

そう言うと美空さんはレベルゲージを元に戻し、ボンネットを閉める

 

「さてさて、ありすちゃんが整備したこの車はちゃんとエンジンが掛かるかな〜?」

「えっ、そこまで責任持てないですよ・・・!」

 

妙な緊張感が体を走る

美空さんが車のドアを開けて中へと乗り込み、ハンドル横に手を掛けた

ドアの開いているチャイムが消えて、ボンネットの中からカチャカチャッという小さな音が聞こえ始めた

 

「じゃ、エンジン掛けるね〜」

「は、はい!」

 

私は固唾を飲んで見守る

するとエンジンからキュルキュルキュルっという音が聞こえ、野太い音が工場内に一気に響き渡るとエンジンが掛かった

特に変な音は・・・聞こえないと思うが、どうなのだろうか?

運転席の美空さんを見てみると、両手で丸のマークを作っていた

 

「ありがと〜!」

 

美空さんはそれだけ言うと、一瞬私に手でハートマークを作り、後ろの開いているシャッターへと車をバックさせていき、そのまま外へと下がっていった

そんな美空さんの姿を見て、私はホッと胸を撫で下ろす

こんな事を毎日続けているのか、私は床に置かれたジョッキとオイルを見て、ふとそう思った

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「・・・おや」

 

会社の廊下、エレベーターを降りて専務室へと向かう途中、専務は手に抱えていた資料から顔を上げて正面を見ると、専務室の扉の横で壁に寄りかかっている男性を見つけた

 

「君の方から尋ねてくるとは珍しい」

「・・・」

 

そう言い放つが、その男性は顔を上げて専務の姿を確認するだけで何も答えない

彼女はそのまま専務室の扉の前まで行くと、途端にその男性が口を開く

 

「理由を聞きに来ました」

「何のことだかさっぱりわからない。要件を尋ねる時は目的語をしっかりと提示して頂かなければ、こちらとしても対応のしがいがないと思うのだが。そう教えられてはいないのか?」

「その資料に書いてあることについてです」

 

男性はまるで分かりきっているかのように、彼女が抱えている資料に視線を動かして、それだけ言った

 

「・・・立ち話もなんだ、中に入るといい」

 

するとまた男性は何も答えず、言われた通りに専務に続いて専務室へと入る

昼過ぎの穏やかな午後に、張り詰めたような空気が漂い始めていた

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