ヘイ!タクシー!   作:4m

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シルヴィア13

翌日からも、空いている時間に青葉自動車さんを訪れては仕事を見学させてもらった

雛子さんと一緒に事務仕事をしたり、工場でお手伝いしたり、様々な種類の仕事を経験していった

流石に一日中というのは殆ど無かったが、基本は青葉自動車へと赴く毎日が続いている

 

「あ!本当にやってるー!ありすちゃーん!遊びに来たよっ!」

「ご機嫌よう、ありすさん。こちら、事務所の皆さんからですわ」

「それはどうも・・・ありがとうございます」

「ほんとに''専務!''って書いてあるー!」

 

それとここで過ごしていて気づいたことが、意外と346プロのアイドルの皆さんが遊びに来ることが多いということ

今日はみりあさんと桃華さん、昨日は愛梨さんと響子さん、一昨日は凛さんと卯月さん、そして加蓮さんだった

皆さん今日来ている二人と同じように、ビニール袋に飲み物やお菓子などを入れて差し入れとして持ってくる

何だか気を遣わせているようで申し訳ない

 

「あれー?零次さんは?」

「午後から346プロの方に行きました。今日は・・・城ヶ崎さんたち姉妹の送迎だと言っていたような」

「それは残念ですわ。久しぶりにお会いできると思いましたのに」

「・・・あれ?零次さん、よく346プロに行っているんですから会うことはあるんじゃないんですか?」

「いえそれが、最近は送迎が終わってすぐにありすさんのプロデューサーと何かを相談しているようなんですの。私も人づてに聞いたことなので詳しくはわからないのですが、テレビ番組・・・がどうとか」

「私のプロデューサーですか?」

「はい、オレンジジュースどうぞ」

「わーい!ありがとうっ!ひなさん!」

 

雛子さんが飲み物を二人に持ってきたタイミングで丁度会話が途切れ、みりあさんと桃華さんはまるで分かりきっているかのように、衝立の奥の休憩スペースのソファーへと腰を下ろす

私も雛子さんに諭されて同じように奥へと赴いた

 

言われてみれば、零次さんといいプロデューサーといい何だかよそよそしいところが最近ある気がする

それと一部のアイドルの皆さんも、特に大人の方々が何だか私と話す時に口籠るというか遠慮がちになるというか、この前も瑞樹さんとお仕事をした際にはプロデューサーと言い争いをしていたような感じだった

私が事務所に入ると途端に止めたようだったが、部屋に入る前から明らかにそんなやりとりが聞こえていた

 

「・・・りすさん、ありすさん」

 

気がつくと、桃華さんに手の甲をポンポンと軽く叩かれる

 

「あ、はい。すみません。少し考え事を」

「しっかりなさって。いよいよですのよ」

「そう・・・ですね」

 

そう言って私はテーブルの端に立てられている小さなカレンダーを見る

今日から二日後、明後日の日付けに赤く丸がつけられている

346プロの雰囲気も一層ソワソワし始め、私の事務所にも当日に着るドレスが仕立て上げられて届いていた

いつもライブで着るような機能性を考えられているような物ではなく、本物のドレス

まるで一流の女優が着るような、子供用とはいえ高級なものだった

 

「私もドレスを着て集まる機会は沢山ありましたが、こういう催し物に参加したことはありませんでした。ましてやハリウッド俳優の方々とお会いできるなんて羨ましいかぎりですわ」

「桃華さんは慣れているからいいですけど・・・、結構緊張してるんですよ。英語だってそんなにわかりませんし・・・」

「そういう場には通訳の方がいらっしゃいますから心配いりません」

「すごいよねありすちゃんっ!映画に出るなんて!」

「いや、映画に出るわけではないです」

「しかし、レッドカーペットの上で346プロのアイドルが世界的に有名な俳優の方や女優の方と肩を並べるというのは、中々に凄いことですわ。新たな進歩であることには変わりありません」

 

桃華さんの言うことは最もだ

この日の為に経験して来たことの集大成であり、リサさんが描いている車に対しての思想や価値観に一歩でも近づこうと最大限努力して来たつもりだが、果たしてそれが正解なのかわからない

 

「でも、今のありすさんなら大丈夫な気がします」

「・・・そうですか?私自身特に意識したことはありませんが」

「ええ、前と比べても何だかより頼もしくなった気がしますわ」

「でも、私はここに来てやるべきことをやっていただけですよ?お客様の車を預かってお手伝いしたりとか」

 

その時ふと、受付で話を聞いていた雛子さんが笑みをこぼす

何だか見透かされたようで恥ずかしく、それを隠すように私はオレンジジュースに口をつけるが、雛子さんは変わらず細いスティック状のお菓子をつまみながら何事もなかったかのようにパソコンへと向かうのだった

 

「あ、それと零次さんに伝言を頼んでもよろしくて?」

「伝言ですか?」

「はい、響子さんからなのですが・・・」

「帰りに箱ティッシュ買ってきてって言ってたのっ!もうなくなりそうだから買ってこないと無いよって!」

「は、はぁ・・・」

 

それはなんとも・・・生活感のある伝言ですね

お母さんがお父さんにも同じことを言っていたような気がする

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

夜7時過ぎ

事務所へと帰ると、未だ工場には煌々と電気が点いていた

車を停め、事務所に戻る最中に再度工場へと目を向けるが、シャッターこそ閉まっているものの中で車を上げて作業している様子が見える

 

「ただいま戻り・・・あれ?」

 

事務所に入っても電気がついているだけで誰もいない

しかし、社長室の電気は消えていたので社長は先に帰ったのだろうか

奥の休憩スペースにも、ロッカールームにも人の姿はなかった

 

「ふむ・・・」

 

自分の席に戻り、上着を椅子の背もたれに掛ける時にふとありすの机を見ると、まだいつも持ってきている荷物が残っていることに気がついた

 

「ありす・・・?」

 

俺は事務所の小窓から工場を覗き込んで見ると、リフトで上げられた車の下で姉さんが作業している姿と、それとは別に小さな姿がちょこちょこ車の前側で動いているのが見えた

ありすだ、手にマイナスドライバーを持って何かをやっている

 

とりあえず俺も工場へと向かった

 

「ひな先輩」

「おお、戻ったか」

 

車の側では、作業をしている二人を腕を組んで見守っているひな先輩がいた

 

「何してるんですか?」

「姉さんは後ろでパッドとスタビブッシュやって、ありすちゃんはアンダーカバーの交換」

「ありすちゃーん、どうー?出来そー?」

「大・・・丈夫です!もう・・・ちょっとなんです・・・!」

 

姉さんの問い掛けに、慣れない手つきでマイナスドライバーを両手で持ちアンダーカバーをとめているプラスチックのクリップをこじって外そうとしているありす

姉さんの方はもうほぼほぼ作業が終わり、最後に工具でボルトを締める工程に入っていた

 

「かれこれ同じように言い続けてもう二十分くらい。私はそれはもう明日でいいよって言ってたんだけど、ありすちゃんがどうしても今日やるって聞かないんだ」

 

ひな先輩が俺にしか聞こえないようにこっそりそう呟く

そうしてる間もなお、ありすは一生懸命台の上で背伸びしながらドライバーでこじる

やっと一つが外れて床の上に軽い音を立てて弾き落ちた

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

同じようなクリップが車側に後五つくらい残っている

肩を上下に動かして息を整えているありすがふと振り返り姉さんを見ると、ありすに悪いと思ったのか姉さんはまだ作業をしているフリをしていた

そして一瞬こちらに目を向けると、再び作業へと戻っていく

 

「なぁ、ありす」

「なん・・・ですかっ。今忙しいので、話しかけないでください」

「もう明日でいい。遅い時間だしプロデューサーも心配する、何でそこまでこだわる?」

「・・・家族旅行なんです」

「は?」

 

そう一言呟くありすに俺は思わず聞き返す

作業を止めて息を整えつつ俺に向かい合う

 

「頼まれたんです。私に・・・お願いねって。旅行に行くからそれまでにお願いしますって。明日の朝なんですこれ取りに来るのは。明日の午前中は私はいません、だからもう・・・今しかないんです」

「いや、だからってありすが」

 

そこまで言いかけたが、俺たちのやりとりを見ていた姉さんが首を横に振る

次の瞬間にはありすはもう作業に戻っていた

 

「だから、私が今やらないと。せっかくの家族旅行が台無しになってしまいます。だから・・・なんです。それ以外に・・・!理由はありませんっ」

 

またクリップが外れて床に転がる

慣れてきたのか外すまでの感覚がどんどんと短くなっていた

きっとこれを明日にまわしたのは、朝方姉さんがササっと交換しようとしていたからだろう

 

「・・・ん?」

 

そんな中、シャッターの外で車のライトが一瞬チラつく

 

「誰だ」

「ちょっと行ってきます」

 

ひな先輩に断って俺は事務所へと戻る

すると、外の出入り口で恐る恐る中を覗き込んでいる男の影が見えた

スーツ姿に美城プロの社員証を首から下げたその男性は、心配そうな表情を浮かべながら営業時間の札を眺め始める

 

「こんばんは、何ですか?ありすのプロデューサー」

「あぁ・・・すみません!閉店後なのにお邪魔してしまって!実は、他のアイドルからありすがまだ事務所に戻っていないという連絡がありまして、最後にありすからここにいると言ったっきり返事が無かったものですから、いつもは帰る時に連絡があるのでもしかしたらと・・・」

「はぁ、なるほど」

 

とりあえずと俺はプロデューサーを事務所の中へと招き入れた

 

「それで・・・ありすはどこに?」

「見たほうが早い」

 

プロデューサーを引き連れて、俺は軽く説明しながら工場への扉を開く

初めてありすがここに来た時のようにプロデューサーは物珍しそうに工場内を見回すが、すぐにリフトの下にいるありすの姿を見つけると側へ近づく

 

「ありす」

「んんっ・・・!あ、プロデューサーさん」

 

ありすはプロデューサーに気づいて一瞬手を止めるが、すぐに作業に戻った

 

「ありす、もう遅い時間だし、今日はもう帰ろう。北崎さんも今日ありすがやらないといけないことではないとも聞いたし、後はここのスタッフの方に任せて・・・」

「・・・嫌です」

「もう手も真っ黒だし・・・」

「嫌なものは嫌です」

 

ここぞと言わんばかりに子供のようにワガママを言って作業を止めようとしないありすにプロデューサーも反論してかかるが、そのやり取りを見ていたひな先輩からストップがかかる

 

「やらせてやってくれ」

「で、ですが・・・」

「いいから、このままやらせてやってほしい」

 

再びありすを見るが、俺たちのことなど見向きもせず作業に没頭する

とても真剣な表情で、中々外れないクリップへと向かい合っていた

その目からはさながら、何が何でもやり切ってやるという強い意志を感じ、流石に後ろで見ていた姉さんも手伝いに入った

 

「今日はウチでありすちゃんを預かりたい。みんながよく来るガレージで寝泊まりするから、私たちが面倒をみる」

「・・・わかりました。会社と親御さんには私から連絡を入れておきます。・・・あ、もしもし、わたくし346プロダクションの・・・あ、はい、いつもお世話になって・・・」

「ありすちゃんもうちょっと!そうそう、そこまで取れたらこのプライヤーで引っ張ってみて!」

 

プロデューサーは携帯電話を片手に事務所へと戻り、ひな先輩は壁に立て掛けられていた交換する新品のアンダーカバーを持って待機する

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

プロデューサーが帰ってからしばらくして、やっと最後のクリップが外れ、アンダーカバーは大きな音を立てて床へと落ちた

 

「はぁ〜、ありすちゃんお疲れ様!」

「まだ・・・です。新しいのを付けないと」

「はい、どうぞ」

 

心身共に疲れ切った表情を浮かべながら、ありすはひな先輩から部品を受け取った

 

「ああ、ありすちゃん。私が支えてあげるからホラ、このクリップを付けて!それで終わり!入れる時はメチャ簡単だから!」

「は、はい・・・!」

 

フラフラと最早気力だけで動いているありすは言われた通りにクリップを付けていく

一つまた一つとクリップが嘘のようにハマっていく様子を見て、ひな先輩が事務所へと戻っていく

 

「零次、私は車まわしてくるから工場閉める準備お願い。シャッターの前に車並べておいて」

「わかりました」

 

俺は言われた通りに外へと赴き、預かっている車を並べる

それが終わる頃になると、工場のシャッターが一斉に開いた

作業をしていた車が下まで降りて、リフトが落ちないようにストッパーをかけてある

姉さんが車を中へ入れてくれと合図を送っていたので次から次へと入れていく

その間、ありすは工場の流し台でその真っ黒になった手を洗っていた

 

「もう終わり?閉めるよ〜」

「はい、鍵ももう見ました」

 

そして車を工場へと入れられるだけしまうと姉さんはシャッターを下ろし、電気を消して俺たちは事務所へと戻る

 

「あぁ〜!つっかれたぁ〜!ね、ありすちゃん。本当にお疲れ様!」

「は、はい・・・」

 

着替えも終わり、ひな先輩が事務所を閉める準備をしている間、俺たちは奥の休憩スペースのソファーに座って一息付く

大きく息を吐いて、三人同じように座り込んだ

外はすっかり静まり返り、周りで電気が付いているのはこの事務所だけ

時計を確認すると、そろそろ9時を回ろうとしていた

いつぶりだろう、こんなに残業したのは

携帯を確認すると、響子から鬼のようにトークが届いていた

 

「あー・・・何食べるかなー、コンビニしか空いてなくない?この時間」

「俺は、今日も自分の家に帰るので」

「あーあー、いいですねいいですね。沢山彼女がいる人は帰ったらご飯が待っててー。いいもんいいもん!何せ今日はありすちゃんがウチに来るんだから!アハハッ、どこから洗ってあげようかなっっ!」

 

前にも智絵里と一緒にお風呂に入ったとハジケ回っていた様子が思い出されてきた

途端に姉さんも思い出が蘇ってきたのか悦に浸り始め頬を両手で押さえて恥ずかしがるが・・・いつか早苗さんにギルティされるんじゃないかこの人

いつかやるんじゃないかと思ってましたとか言いたくないんだけど俺

 

「はい、事務所閉めるよ・・・って、うーん・・・どうするかな」

「あら、あらあら・・・」

「まぁ、頑張ったからな」

 

相当疲れたのか、ありすはソファーに深く腰掛けて寝息を立てていた

普段の様子からは想像もつかないくらい、子どもらしい可愛い寝顔を浮かべている

 

「起こすのも悪い。零次、姉さんの車に乗せてやって、私の2ドアだから乗せにくい」

「はい。ありす、悪いな」

 

俺はありすの膝の裏、そして肩の辺りに手をまわしてありすを持ち上げる

凄く軽い、ちゃんと飯食ってるのかコイツ

首がダランとならないように俺の体側に抱き寄せるように持ち上げた

いわゆる、お姫様抱っこと呼ばれる体勢だ

 

「ありすちゃんうらましー」

「しーっ、姉さん静かに」

「ん、ううん・・・私が・・・全部、すぅ・・・」

 

変わらず寝息を立てるありすをゆっくり姉さんの車の後部座席に乗せて、俺は二人を見送った

正直、ありすがここまでやるとは思わなかった

汚れるし、こういうことは嫌がって大抵の人はやろうとしない

どこまで本気かわからなかったが、あいつはやり遂げてみせた

期限は明後日、何かコイツは掴んだのだろうか

今回の経験が役に立っていればいいんだが

 

そういえば、ひな先輩が箱ティッシュを買って帰れって言ってたな

コンビニに売ってたっけか

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