「それで、どうだったんですか!」
「どうって?」
「私も聞こうと思ってたの!一体、どんな人だったの?」
別館の休憩室で昼食をとっていた幸子は、テーブルを挟んで座っているPCSのメンバーである卯月、美穂に質問攻めにされていた
体を乗り出し、目をキラキラさせて二人は幸子に問い掛ける
「どうもこうも、普通の人だと思いますよ?ボク達が乗ってきた車を綺麗に洗車してくれましたし、仕事はできる人かと・・・」
「え!?あの車を短時間で!?どうやって!?ねぇ幸子ちゃん!!」
「し、知りませんよ!響子さん離してください〜!」
響子に肩を掴まれグラグラ揺らされる幸子を他所に、卯月と美穂は妄想に花を咲かせていた
「人知れず幸子ちゃんを助けて、何も言わず去っていく・・・、本当にヒーローみたいですね」
「いや、卯月ちゃん!もうこれはまさしく・・・王子様みたいな・・・!」
「いやだから別にそんな感じの人じゃ、って響子さん!ボクの携帯勝手に取らないでください!何も撮ってませんから!」
「「はぁ〜」」
幸子の携帯を奪い取り、必死に車の写真を探す響子と、まだ見ぬヒーローに想いを馳せてテーブルに両肘をつき手に顎を乗せて物思いにふけ、ため息をつく卯月と美穂
そんな様子を見ながら紗枝と友紀は苦笑いを浮かべていた
「何やら北崎はんのハードルがどんどん上がっているような」
「大丈夫かな・・・まぁ、何でここに呼ばれたのかもわからないんだけどさ」
「「え!?ここにいるんですか!?」」
「あ」
ついつい口を滑らせてしまった友紀に詰め寄る二人
友紀は視線を紗枝に向け助けを求めるが、紗枝は巻き込まれないようにお弁当を食べ始めた
「いや〜、幸子ちゃんが言うように普通の人だよ。専務に呼ばれたみたいだから、何かあるとは思うけど・・・」
「返してくだ、っさいって!はぁ・・・たぶんキャンペーンガールのことじゃないですかね?」
「それでわざわざ呼ぶ?それだったら社長呼んだほうが早くない?」
確かに、それだったら社長を呼んだほうが早い
他にも色々考えたが、仕事関係の話なら尚更その方が都合がいいと幸子の頭の中は堂々巡りだった
「それだったら、お兄さん本人に用事があったとか?ほら、よく言うじゃん。現場の声が聞きたい・・・みたいな?」
「ロケーションのことですかね?ボク達じゃわからない・・・自動車っぽいところとか。それっぽく汚れてるところとか?車のゴミとか・・・」
「え!?そんな未知の汚れがあったんですか!?ねぇ幸子ちゃん!」
「あぁもう響子さん!!何にもな、あ、ちょ!携帯返してください!」
慌てふためくメンバーを見ながら、紗枝も食べる手をとめて物思いにふける
専務が彼をここに呼んだ理由、それが漠然としていてハッキリしない
何かが動こうとしているような、そんな気がしてならない
「それにしても、どんな人なんでしょう・・・」
「普通でいて普通じゃない。ますますミステリアス・・・」
「はぁ〜」と再びため息をつく卯月と美穂を見て、紗枝はとりあえず深く考えるのをやめ、再びお弁当に手をつけた
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「では、青葉社長によろしく伝えてほしい。今日は突然呼び出してしまって申し訳ない」
「・・・いえ」
俺は受け取った書類を持ち、帰る支度を済ませて椅子から立ち上がった
専務も同じように書類を持ち、自分の机に置く
それと同時に俺も扉に向かった
「おお、すでに昼を回っていたか。よかったら346カフェに寄っていくといい。軽い軽食くらいなら出ていた筈だ」
専務がパソコンで時計を確認し、そう言う
気がついたらもう時計は12時を回ってしまっていた
帰ったらひな先輩たちに謝らないと
「では、失礼します」
そう言って扉を開け、部屋を出ようとした時だった
「最後に一つ聞かせてほしい」
俺の背中に向けて、専務がパソコンの画面の前に座ったまま一言呟いた
「この会社、不満があるとすれば何だ」
その言葉に俺は、背を向けながら少し考え答える
「高級車が、俺の趣味に合わない所ですかね」
「・・・そうか」
地下駐車場に止まっていた社用車を思い出し、それだけ伝えると俺は部屋から出た
扉を閉める瞬間、専務の口元が少し笑っているように見えたが勘違いかもしれない
そのまま来た道を戻りエレベーターを待つ
程なくして、下に向かうエレベーターが到着し、乗り込もうとするが
「おっと」
「あ、すいません。気づくのが遅れてしまって」
「いやいや、こちらもすまなかった」
ワンテンポ遅れてエレベーターから出てきた初老の男性とぶつかってしまった
「いえ、すいません」
「いや、こちらこそ」
そう一言ずつ挨拶を交わし、俺はエレベーターに乗り込んだ
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コンコンと扉がノックされる
「どうぞ」
返事をするとゆっくり扉が開く
「お疲れ様。いやいや、なんだか少し気になってしまってね」
そう言って少し笑みを浮かべながら、今西部長は応接用の椅子に座ることなく、そのまま美城専務の机に近づいた
その様子を気にすることなく、美城専務は机に肘をつき書類を眺める
「随分と疲れているようだが、そんなに強敵だったかい?彼は」
「・・・どうしてここには、似たような者が集まってくるのか」
手に持っている書類を机に置き、専務は中央のテーブルに置かれているコーヒーを片付けるため、角の小さな台所に持っていく
「彼に何と言われたんだい?」
いつもと違い、少し肩を落として作業する専務を見抜き、今西部長はその背中に問い掛けた
「私達の車は自分の趣味に合わない、と」
「はっはっは、青葉君に聞いていた通りの子だね」
そう言って小さく笑う今西部長の言葉にため息をつく専務は片付ける気力が無くなり、コーヒーカップを台所に置くとそのまま机に戻った
「しかし、こちらにも収穫はあります」
「というと?」
すると専務は青葉自動車工業の資料を手に持ち今西部長に言う
「優秀な人材は歓迎する・・・ただ、それだけです」
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「何階ですか?」
「あ、すいません。1階をお願いします」
「ああ、私と同じですね」
エレベーターに乗り込むと、三つ編みサイドの髪型が似合う、黄緑色の制服を着た女性が書類を抱え一人乗っており、特に何も話すことなくエレベーターが下に降りていく
しばらくすると、女性がチラチラッと自分を見ていることに気づいた
「何か?」
「あ、いえ。ごめんなさい。あなたが青葉自動車さんの方なんですね」
「そうですが・・・」
「申し遅れました。私、アイドル部門で事務を担当しております。千川ちひろと申します」
微笑みながら小さく会釈するその女性につられて俺も少し頭を下げる
「あなたがアイドル達を助けたと噂になっていたので、どんな人なのか私気になっていて」
「いやいや、助けただなんて・・・そんな大層なことはしていませんよ」
「でも、噂になっていますよ?女の子の情報網は早いですから」
そう言われるとなんだか恥ずかしくなり、少し俯いてしまった
それを見た千川さんはクスッと笑う
「だからこそ、きっと専務はあなたに目をつけたんですね」
千川さんが言うのと同時にエレベーターの扉が開き、千川さんに続いて俺もエレベーターから降りる
「美城プロダクションはあなたを歓迎しています。私自身も、あなたとお仕事が出来たらと思っていますから」
二人で少し歩き、千川さんはオフィスの前で立ち止まった
「専務は適当に人を選んだりはしない人です。あなたに何か光るものを感じたんだと思いますよ?」
「そういうものですかね?」
「はい、きっと。では、一緒に仕事ができる日を楽しみにしてますね」
そう言うとニコッと笑い、俺に背を向けてオフィスに入っていこうとしたが、「そうだ」と何かを思い出したように俺の元に戻ってきた
「これ、お近づきの印にどうぞ」
すると千川さんは、抱えていた書類の上からスタミナドリンクのような物を一本取り出し、俺に渡した
「では、私はこれで」
「あの、一ついいですか?」
「はい?」
戻る足を止めて、俺に振り返る千川さん
「346カフェってどこにあるんですか?」
「それなら、このビルを出て、中庭に行ってみたらすぐ分かると思いますよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「ええ、ではまた」
さっきと同じように笑顔を浮かべると、オフィスに入っていってしまった
小腹も空いてきた頃だし、俺は専務に勧められた通り346カフェに行ってみることにした