ヘイ!タクシー!   作:4m

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シルヴィア14

晴れ渡る、晴天

雲一つない青空に、朝日が眩しく街を照らし出す

気温も昨日までと比べると比較的暖かく、外に出ていても肌寒さをそれほど感じない

そんな中私は、いつものように346プロへと向かって歩いていた

いつものように車が行き交い、いつものように人々がそれぞれの場所を目指して動く

それが職場だったり学校だったり、目的地は様々だがいつもと変わらない日常

 

だが、私にとっては違う

イベントにはうってつけの清々しい朝

昨日の夜からもプロデューサー含め部門が慌ただしく動き、今日の朝だって私の携帯にプロデューサーから起きたかどうかという確認の連絡がひっきりなしに入ってきていた

なので私は仕方なくいつもよりも少し早く家を出ることにした

だが、事務所に向かう途中、私の心が意識しなくてもざわついているのがわかる

胸のあたりが跳ねるように、気持ちが浮いては沈み、また高鳴っては落ち着く

そんな気持ちを悟られないように、私はスタスタと346プロへと向かっていった

 

いつもの交差点を渡り、いつもの曲がり角を曲がると建物が見えて来る

そして正門をくぐると、ほら、やっぱりいた

正面玄関の前でプロデューサーと思しき人が腕を組み、落ち着かない様子で辺りを見回しながら立ち尽くしていた

 

「おお!ありす!ありすありすっ!」

 

私の姿を見付けるや否や、大きく手を振って私をこまねく

私はそれを見ると何故だか逆に目が細まり、足取りが少し重くなった

半分呆れているんだろうか

 

「おはようございます」

「ああおはようおはよう!大丈夫かありす。よく眠れたか?疲れてないか?どこかけがしたりしてないか?」

「ちょっ、プロデューサーさん。大丈夫ですから。よく眠れましたよ、おかげ様で。だからっ、少し離れてくださいっ」

 

昨日の夜からしつこく届いたプロデューサーからのトークと、これまたしつこく届いたモーニングコールを若干思い出しながら、私を見回すプロデューサーの体を鬱陶しく離す

 

「そうかそうか!それならいい。事務所にもうドレスは用意してあるから、時間が来たら着替えてくれ。迎えの時間は昨日伝えた通りだ、それから・・・」

「プロデューサー、少し落ち着いてください。プレミアまでまだ全然時間ありますから、事務所で流れを確認してから着替えます」

「それもそうか!いやぁ、悪い。何だか落ち着かなくてな。そうだ!ちひろさんにありすが来たことを伝えないと!悪い!先に行っててくれ!」

「ちょっ・・・。プロデュー、サー・・・」

 

私が言ったこともまるで効果がなく、かえってより慌ただしくオフィスビルの方へと駆けて行ってしまう

一人取り残された私は、とりあえず本館の中へと入る

早朝ということもあり人もまばらだったが、受付の人も含めて私への視線が違っていた

既に会社全体に噂が流れ、他の部署の方々からも激励の言葉をいただく事もあった

それが誇らしくもあり、同時に事の大きさを痛感させられプレッシャーに感じられることもあった

 

だが、どうあがいても今日、この時が来てしまう

自分なりに向き合ってきたことが間違いではないと、自分なりに出した答えが正しいかどうかはわからない

でもこれが今の私、それをありのままぶつけるだけ

そして私はオフィスビルへの渡り廊下を通り、エレベーターへと乗り込む

事務所のあるフロアへ降りると、廊下を人がいつもより忙しなく行き交っていた

私はそんな光景を目で追いつつも、その間を縫って事務所の扉を開く

 

「あら、ありすさん。ごきげんよう」

「桃華さん?どうしたんですか?まだレッスンには早い時間だと思うのですが・・・」

「ふふふっ、友人の晴れ舞台ですもの。その前に少しお話がしたくて参ったのですわ」

 

部屋の中央にある大きなソファーの端に座り、そう言ってクスッと桃華さんは笑っていた

私はそんな桃華さんに誘われるようにソファーへと近づくが、入口からは見えない位置で反対側のソファーの上に横になって寝息を立てている人物が一人

 

「実は私よりももっと早く事務所に来てありすさんを待っていたらしいのですが、なにぶん朝早い時間だったのか気がついたらこうなっていて・・・」

「うーん・・・ありす、ちゃん・・・まだこない・・・ムニャムニャ」

 

そう寝言を言いながらみりあさんはモゾモゾと体を動かして気持ちよさそうに目を閉じている

そんなみりあさんを起こさないように荷物を間のテーブルの上に置いて、私は桃華さんの隣へと腰掛けた

 

「素敵なドレスですわ」

「ありがとうございます」

 

汚れないよう大事に壁にかけられているドレス

白を基調としたベースに黒いラインが所々にあしらわれ、それに合わせてさりげなくまぜられてある紺色がソロ曲の時の衣装を思い出させる

そんな私のイメージを彷彿とさせるようなワンピースだった

 

「生地を触ってみても普段衣装で使っている物とは全然違って凄く高そうで、なんだか私が着てもいいのかなって思います」

「そんな謙遜なさらないでください。今のありすさんにピッタリですわ。VIPを迎えるのですから、ノブレスオブリージュというものです。あちらでもそういった文化が根付いていますから、何も不思議なことはありませんのよ?普段の衣装と違うのも当たり前ですわ、いつものはステージで動いていても崩れないように形が整うよう作られていますから」

「桃華さん、やっぱり詳しいんですね。出発前に会えてよかったです」

「私も''そういう''家柄ですから、''高貴なる者はそれ相応のおもてなしを''と幼い頃から聞かされ、そしてこの目で見てきましたわ。実際に体験してみないとわかりません。ノブレスオブリージュですわ」

 

桃華さんの話を聞きながら、私はドレスを眺める

実際にこれからこのドレスを着てリサさんたちを迎えるのだ、会場で一体何が起こるのか検討がつかない

ドレス姿で会場に着いて、レッドカーペットを歩き、リサさんたち俳優陣と合流して中へと向かう

試写会を経て舞台上で挨拶をし、そしてそこからは他の取材班やタレントの方々と入れ替わるようにインタビューをこなす

何度もプロデューサーと確認した一連の流れである

 

「私がやってきたことが正しいのかどうか、これが正解なのかどうかわかりませんが、私は行かなくてはなりません。色々な人に助けてもらったんですから、精一杯やってみます」

「ええ、実際にありすさんが''その目''で確かめたのですからそこに間違いなどあり得ませんわ。だから胸を張ってくださいまし、その努力は私が保証しますわ」

「あはは・・・何だか恥ずかしいですよ、桃華さん」

「私だけでなく、他の皆さんも頑張っているありすさんを見てきましたもの、皆さんがありすさんの味方ですわ。何が起こってもきっと」

 

そうやって桃華さんと談笑していると、廊下から慌ただしくこちらへ向かってくる足音が聞こえてきた

まったく、朝から騒がしい人なんですから

 

「ありす、そろそろドレスに着替えてくれ。会場前が想像以上に混んでて到着まで時間がかかりそうなんだ、ちょっと早く出るから準備を頼む!」

「はい、わかりました」

「じゃ、俺はもう現地へ行く!着いたらまず言ってた控え室へ向かってそこで最終的な流れを説明するから!もう少しで車が来る、着替えたら玄関に行っててくれ!」

 

事務所の扉を開けてプロデューサーは素早くそれだけ伝えると足早に出て行ってしまった

 

「んにぁっ!あれ?ありすちゃん!いつの間に来たのっ?みりあ、ありすちゃんに頑張ってって言おうと思ってここで待ってて・・・あれぇ?」

 

少し騒がしくし過ぎたのか、みりあさんが目を擦りながら飛び起きる

何が起きたのかわからないという表情で首を傾げている様子を見て桃華さんと二人笑うのだった

 

「さてさて、ありすさん。おめかししましょう。私も手伝いますわ、みりあさんもお願いできます?」

「うん!いいよっ!わぁ・・・どんな風になるだろっ!」

 

私よりも興奮している様子で、二人は私の手を取ってドレスへと近づく

そしてその目の前に立つと、いよいよ私も覚悟を決めるのだった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「わぁ・・・!凄いよありすちゃんっ!可愛い可愛い!」

「みりあさん・・・、さっきから同じ事しか言ってませんよ」

「実際素敵なのですから、そう思うのも無理はありませんわ。私の目から見てもとてもお似合いです」

 

二人に手を引かれ、私は事務所を出てエレベーターへと向かう

そこで待っている間も、みりあさんは私の周りをぐるぐると回り、マジマジと眺めて同じ感想を繰り返していた

エレベーターへと入ると、目の前に設置された巨大な鏡であらためて自分の姿を確認する

着た瞬間にわかった、高級感

衣装とは違う、ゴワゴワするような質感などまるでない、全身を優しく包むような柔らかい布地、そして歩きやすく引っかからない絶妙なサイズ感、そしてアクセントとして用意されていた白い同じような生地の手袋と、全てが私に合わせて完璧に調整されていた

 

「オーダーメイドですね。ありすさんに着ていただいた時にまったく変に抵抗がありませんでしたもの。生地も紛れもなく本物の高級品ですわ」

「サイズはライブの衣装の時に測ってあるもんねっ!きっとそれに合わせて作ってくれたんだよっ!」

 

こればっかりはプロデューサーに感謝である

めちゃくちゃな事を言う時もあるが、やはりこういうことはしっかりしてくれる

プロポーションの維持を普段から心掛けておいて本当に良かった

 

「それで・・・今日は零次さんがお迎えに来るんですの?玄関に車が来ると言っていましたが」

「あ、違うんです。今日は・・・」

 

それと、いつもと違うことがもう一つある

本当ならば今回ばかりは346プロのスタッフが、会社が用意したこういう機会に相応しい高級車で送迎するはずだったが、雛子さんから''ファイスピのイベントなんだから、どうせならスポーツカーで送迎した方が相手側も喜ぶんじゃない?''という提案がなされた結果、一番スポーツカーらしい車を持っているという事で、なんと会場への送迎は雛子さんがしてくれるという事で驚きだ

 

上は一瞬その提案を渋ったが、雛子さんから''そんな事ばっかり言ってるから日本人は真面目すぎるって言われるんだ''というアドバイスを頂き、プロデューサーがその提案を押し通した

''よく知っている人に頼んだほうがありすも落ち着く''と

実際に海外のファイスピイベントでそれをやってみたら会場は大盛り上がりだったとBDボックスの特典でリサさんが言っていたそうだ

 

「なるほどひなさんが・・・。ああ、最近会社にお邪魔した時に乗って来ていた白い車ですわね」

「はい、雛子さんもファイスピのファンだから、''リサに会える機会はそうそうないから''と言って喜んで引き受けてくれました」

 

そんな雛子さんの姿を見て羨ましがっていた零次さんと美空さんだったが、リサさんが日本へ来た姿を一目見たいからこればっかりはと雛子さんが譲らなかった

そう話していると、エレベーターの扉が開く

そしてまた二人にエスコートされる形で渡り廊下を歩き、本館ロビーへと着いた

 

「お、ありすちゃんメッチャキマってるじゃーん★莉嘉もよろしく言っといてって言ってたよ!」

 

待っていると美嘉さんに声を掛けられたり

 

「すげぇ、それがありすのトップクか!中々イカしてるじゃないか!今度アタシのと並べてみようぜ。というか今日着てくればよかったな!」

「たくみんたくみーん、ありすちゃんが面食らってるぽよー」

 

拓海さんたちに激励(?)の言葉を頂いたりした

 

「ありすちゃん・・・」

「文香さん!」

 

丁度会社に来た文香さんと目が合う

 

「とってもお似合いですよ。素敵なドレスですね」

「ありがとうございます。文香さん」

 

そう言ってペコっと頭を下げると、文香さんは自分の前髪を軽くかき分けながらクスッと笑う

 

「私も今日は影ながら応援しています。ありすちゃんにとって素敵な一日となることを願っていますね」

 

文香さんはそれだけ言うと、私から離れていくのだった

私に余計な気を遣わせないようにとの配慮だったのか

 

「ありすさん、ありすさん」

「え?あ・・・」

 

離れていった文香さんから顔を戻すと、外にはお迎えが到着していた

いつかの時と同じようにスーツ姿の雛子さんが立っている

車もまるで洗い立てのようにピカピカになっており、朝日がそのボディに反射して眩しく私を照らす

 

「二人とも、朝早くからお手伝いしていただいてありがとうございます。じゃあ、行って来ますね」

「はい。どうか幸運を」

「ありすちゃん!頑張ってねっ!」

 

最後にみりあさんに手を握られて大きく上下に振られると、私は雛子さんの元へと向かう

そして雛子さんにエスコートされる形で車に乗り込むと会社を後にするのだった

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