ヘイ!タクシー!   作:4m

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シルヴィア15

晴れ渡る、晴天だった

窓から差し込む眩しい光にうっすらと目を開ける

イベントには持ってこいの天気だ、ありすは頑張っているのだろうか

チラッと窓の外を見ると、青空に少し雲があるくらいで、気温もそれほど寒くない

 

というよりかは逆だ・・・なんか暑苦しい

 

「Zzz・・・」

 

その原因を作り出していたその人物は、それはそれは気持ちよさそうに俺の右肩あたりを枕にして寝息を立てている

普段しているツインテールを解き、俺のサイズの合わないぶかぶかなスウェットを着て、無防備にも瞼を閉じている

吐息が首筋に当たり、少しくすぐったい

 

「・・・おい、朝だぞ。おい愛梨」

「ん・・・、んんっ・・・」

 

俺の右の太ももに跨がる形で身体を預けている愛梨は声を掛けても俺の右肩に顔面を押しつけて唸るだけで、首に回された腕をさらに俺の頭の後ろに回して抱きついてくるだけだった

ズシっと、太ももから腰、腹、そして肩と体全体で愛梨の重さを感じる

 

「・・・今日休み〜・・・」

「朝から暑苦しいから一旦離れてくれ」

「やすみぃぃ・・・」

 

そう言ってまた寝息を立てようとする愛梨の頭を、抱きしめられてる中なんとか自分の腕を引っ張り出して無理やり起こすと、愛梨はうっすらと目を開けてボーッとしていた

その口元からは俺の右肩にかけて透明な一本の細い線が伸びる

 

「れいじさん・・・、おはよう・・・ございます」

 

それだけ言うとまた俺の右肩に顔を突っ伏す

 

もう半分諦めた俺はとりあえず時刻を確認するために携帯を探すことにした

ベッド横のテーブル、ない

頭の上、枕の後ろ、ない

枕の横、ない

枕の下にもない

ということは、このベッドのどこかか

 

 

昨日の夜は珍しく他のメンバーは都合がつかず、愛梨だけが家に来たいと言ってきた

流石に悪いと断ったが、みんなみたいにご飯を作ってあげたいんですと中々引かなかった

 

なので夜は愛梨が夜ご飯を作って、二人で映画を観て、そこそこいい時間帯になったから携帯を持ってベッドに入った筈だ

そしたら愛梨も入ってきたいと駄々をこねて、ダメだと言ったら奏ちゃんはよくて私はダメなんですか?とワガママを言ったので、しょうがないから二人で狭いベッドの中くっ付いて寝て、面白動画を二人で笑いながら見てそのまま寝落ちしたから・・・

と、我ながらすごい状況だとは思う

 

とにかく今は携帯を探そうと体の周りをゴソゴソと手で探っていると、愛梨の左脇の下に何かある

固くて、平たい、板の様な短い何か

 

「なぁに・・・?」

「携帯探してんの」

「・・・暑い」

 

そう言うと愛梨は慣れた手つきでスルッと止める間も無く素早く上のスウェットを脱ぎ、再び俺にもたれかかる

 

「お、おい、愛梨」

「・・・すやすや」

 

脱いだスウェットはベッドの下に放り投げ再び寝息を立てるが、何だか感触が生々しい

愛梨が俺にくっついて脱いだおかげで俺のほうも上が半脱ぎの状態になり、腹の辺りに柔らかい二つのお餅のような感覚の膨らみが当たっていた

 

・・・もう考えるのをやめた

とにかく、愛梨が脱いだ反動で俺の顔の横に飛び出して来たその板状の何かを手に取る

キラキラの可愛らしいケースに入っているスマホ、愛梨の携帯だった

とりあえず電源ボタンを押して画面を表示し時刻を確認する

事務所で撮ったであろう皆んなが写っている自撮りの画像の上に表示された時間を確認すると、意外とまだ朝早かった

休日の朝にしては少し早起きだったな

 

で、俺の携帯はどこに行ったんだ

 

「・・・むにゃ、んん、ゴクッ・・・」

 

愛梨が生唾を飲んでうとうとしている中、俺はまさかと思い下半身のほうへと手を入れる

それにしても・・・なんだ?愛梨に違和感を感じる、布の感触がしない

ベッドの中で手を伸ばせば何かしらの衣服に手が当たる筈だがそれが無い

自分は履いている、それはわかるが愛梨には''それ''がない

一番下、愛梨の足、太ももの方から気をつけながら手を上に持ってくるが、あった

愛梨の腰辺り、下敷きにされて何かあった

細い板状の、見つけた間違いない、俺の携帯だ

 

「愛梨悪い、ちょっと・・・起きてくれ」

「・・・や、さむいもん」

 

寒いもんってお前、自分から脱いだくせに

コイツまさか、寝る時に脱ぎ癖があるのか?

 

「・・・んん」

 

らちがあかない

もうしょうがない、無理矢理引き出すしかないぞホントにまったく

俺は愛梨の腰の下に手を入れると、それを掴んでゆっくり引き出し始める

 

・・・腰辺りにも布の感触がしない

何も考えるな、そのまま取ってしまえ

ゆっくりと手を引き出す

 

「んっ、いやん・・・」

 

手の甲に何だかゴワゴワしたモサッとした感触がした、何だか毛の塊のような

気のせいだ、きっと毛糸の塊かなんかだ

そこまで行くと俺はスッと携帯を引き抜いた

少し湿っぽくなっていた画面を布団で拭いて、枕元に放り投げる

 

コイツ・・・何も着てない

 

「ん、んんんっ。ふぁ〜・・・はぁ」

 

突っ伏していた愛梨がようやく顔を上げて、目を擦る

寝ぼけ眼が徐々にはっきりと目が開いていき、俺と目が合っていく

 

「おはようございます・・・零次さん」

「はい、おはようございます。十時愛梨さん」

「な、何でそんなにかしこまったような・・・あっ、へっ?じゅる・・・!」

 

愛梨は自分の口元を拭ったあと、俺の体を見て顔を突っ伏していた辺りを見ると、慌てて顔を赤く染める

 

「んなっ!わ、私、よだれ・・・!す、すみません!拭くもの・・・!ひゃあっ!私何も着てない!またやっちゃったんだ!」

 

体の上から下まで慌てて手で触って確認する愛梨だった

顔を真っ赤にして愛梨は布団の中に両手を突っ込んでゴソゴソ探すと、出るわ出るわ次から次へと発掘されていく

靴下、右と左。下のスウェットと引っ張り出してはベッドの下に放り投げる

 

「あれ?ブラとパンツが・・・零次さん!少し失礼します!」

 

すると愛梨は俺の腰の下辺りに手を入れて、それを引っ張り出す

少し大きめの、お椀の様な形をしたものが二つ付いたブラと、それと色が同じ黄緑色のパンツ

恐らく普段使いではない、よそいきのお洒落なデザインだった

 

「あ、あはは・・・ごめんなさ〜い。あのっ・・・とりあえずこれで・・・」

 

苦笑いでその手に持っていたパンツで俺の右肩をサッと拭くと、枕元に放り投げた

 

「も〜、こんな筈じゃなかったのにぃぃ〜」

 

そう言うと愛梨は再び顔を俺の胸に突っ伏して、しくしくとうなだれはじめた

 

「せっかく可愛い下着にしてきたのにぃぃぃ〜!もっと見せるならロマンチックにしたかった・・・」

「いや、似合ってるとは思うけど」

「それはどうもありがとうございますぅぅぅ〜」

 

何だか同情してさすがに可哀想になってきたのでしばらく頭を軽く撫でてやると少し落ち着いたのか顔を上げて、えへへっと軽く笑っていた

 

「とりあえずそれ付けたらどうだ?寒いだろ絶対」

「ここまで見られたらもう今更ですよ。・・・あっ」

 

何かに気付いたのか、愛梨は素早くベッド横のテーブルの引き出しを開けて中を確認する

ここにくるアイドルたちに、絶対にここは開けないでね!とやたら念を押されていたので見ないようにしていたが、愛梨はそこを見た後に再び自分の体を手で触って確認し始めた

 

「ちょっ、お前・・・!」

 

愛梨は起き上がって俺に馬乗りになった状態のまま、身体のあちこちを確認する

掛け布団が弾き飛ばされ、生まれたままの姿で、胸、そして股の間に指を入れて取り出し、最後にその指に何かついてないか確認していた

 

「零次さん、その・・・私、どこまでやりました?」

「はい?」

「あの・・・その、数がその・・・へ、''減ってなかった''っていうか。だからその・・・生でっていうか・・・''こういうこと''をしたのかなって」

 

すると愛梨は人差し指を立てて下のお腹の辺りに垂直に当てると、それを上下に動かし始める

顔を真っ赤にしながらそのまま俯いて、しばらくしてから俺とやっと目を合わせたので俺は首を横に振った

 

「そ、そうですか!それは・・・まぁ、良かったですけど・・・良くなかったっていうか。あははっ・・・私何言ってんだろ」

 

自分の髪を撫でながら、なんだかわけのわからないことをボソボソと呟き始める愛梨だった

 

「だ、だって!私だって覚悟してきたんですよっ!?もしかしたらその、セックs・・・え、エッチするのかなって!だから可愛い下着も付けてきたのに・・・」

「・・・一応アイドルでもやっぱりそういうことは考えるのか」

「そ、それは・・・!知識はありますよ!私だって・・・!女の子だもん・・・って私、凄く恥ずかしいこと言ってる・・・」

 

愛梨が俯いている中で、俺は愛梨の後ろから掛け布団を手に取り、寒くないよう肩に羽織らせてやった

 

「・・・あのなぁ、男が全員が全員女だからって誰かれ抱くって思うなよ。そんな意識も合意もない女を抱けるかって話だ、少なくとも俺は。体を大事にしろ、本当に好きな奴にしてもらえそういうのは。ホラ、寒いから付けろ。裸見たのは悪かったからさ」

「・・・零次さん」

 

そう言って俺は枕元に転がっていた下着一式を愛梨に渡す

 

「今の零次さん、ちょっとカッコよかったですよ。ドキッてしました、今ならエッチしてあげてもいいかな〜って」

「何で上から目線なんだ、わかったから早く付けろ。見ないようにしてやるから」

「はいは〜い」

 

顔を逸らすと愛梨は俺から受け取りそれを付けてベッドから立ち上がった

そして下着姿のまま俺の前で可愛らしく一回転する

 

「恥ずかしいけど今更ですし、どうですかっ?改めて。似合ってます?」

「ああ、似合ってると思う」

「本当?よかった、悩んだ甲斐がありました」

 

嬉しそうに微笑む愛梨は再びベッドへと戻ると、俺の隣に座って愛梨の指示で再び俺に覆いかぶさってくる

 

「でも零次さん、あまり驚かないんですね。何というか・・・私裸だったのに」

「いや、そりゃ少しは驚いたけど、もう女の裸みてギャーギャー騒ぐ歳じゃないし。子どもみたいなもんだよお前たちなんて」

「そ、そうですよね。零次さん・・・彼女さんいたんですし」

「昔の話だ、お前だって彼氏とかいるんじゃないのか?」

「いませんよ〜、いたことありません。いたらこんな事しませんし、経験だってありません」

「またまた」

「本当ですってばぁ〜」

 

そう言って顔をぐりぐりと俺の胸に押し当ててわざとらしく''えーん''と泣きまねをする愛梨

再び顔をあげると、今度はイタズラっぽくえへへっと笑うのだった

 

「でも、零次さんとこうやってくっ付くの、嫌いじゃないですよ。何かいつもと違うからドキドキします、零次さんは?」

「・・・別に」

「べつにぃ〜?」

 

からかいながら人差し指で俺の胸元をなぞり始める愛梨

やめろ、少しくすぐったい

 

「なんか、裸の女に抱かれて朝起きるなんてハリウッド映画みたいとは思った」

「なんですかそれ〜、あははっ」

 

また愛梨が笑う

すると愛梨は俺の上から横に滑り落ちて、うつ伏せになり自分の携帯を操作し始めるのだった

 

「そういえばそろそろネットでありすちゃんのライブ配信始まりますよ。一緒に見ましょう?」

「ああ」

「えへへっ」

 

何だか緊張感のない、休日の朝の一コマだった

 

ーーーーーーーーーー

 

 

会場近くまで来ると、プロデューサーが言っていた通り道が混雑し始める

交通規制が敷かれ、まだ会場までは少し距離があるのに、多くのファンが一目見ようと歩道に集まっていた

 

「わぁ・・・」

 

そして会場の中へ続く道へと入ると、前にも後ろにも''それっぽい''高級車が連なり、駐車場には沢山のテレビ局の車が停められていっぱいいっぱいになっていた

道の脇には金属の柵が会場入り口のレッドカーペットまで伸びており、カメラや携帯で撮影しようと体を乗り出すファンや報道陣を抑える

そのすぐ側で誘導係の人が道中に立って、車の流れを整えていた

車が止まったり進んだりを繰り返す

 

「こんなに大勢の方々が、ここまでとは」

「そりゃあ日本でこんなに大々的なのは初めてだからね、今まではキャストと限られた関係者のみの試写会はあったみたいだけど」

 

ファイスピのTシャツを着たりポスターを掲げて、会場の様子を撮影しているテレビ局のカメラマンさんにアピールする人たちや、会場に続々と到着する高級車をマジマジと眺めている人たちなど周りは様々で、駐車場の一角を借りて劇中車の展示を行なっているなど、まるでお祭りのように周りは騒ぎ立っている

 

「雛子さんの車もとても注目されてますよ。ホラ、写真を撮ってる方もいますし」

「やめてくれ。他の車に比べたら見劣りするにも程がある。ただでさえ2000万のBMと2500万のアウディに挟まれてんだから」

 

そういう雛子さんだったが、その顔はどこか嬉しそうだった

 

「そういえば、いつも乗せてもらってるときと車の音が何だか違いますね。いつもよりも何だかその・・・重低音がします」

「まぁこういう機会だから、ちょっとね」

 

これは・・・そうだ、美空さんから教えてもらった

''マフラー''を交換したのだろう

ゆっくり進み始めるたびに低い音が周りに響き、その音につられて人の視線が集まっていた

 

そして車列は大分進み、会場入り口へと伸びるレッドカーペットがいよいよ間近に迫っていた

私は太ももの上でいつの間にか握っていた拳により力が入る

 

「ありすちゃん。ほら、アレ」

 

雛子さんがそう言って顔でレッドカーペットを示すとその上に、いた

私とは対照的な、劇中で操っている車と同じ色である黒色のドレスを見に纏った、スラッとしたスタイルとその高身長が印象的な、その人物

黒髪のショートカット、今日はパーティコーデなのか、劇中とは違いストレートではなく少しボブヘアーに纏め上げたその髪型は、整った顔立ちに見事にマッチしており、カーペット上を歩くたびに必ずと言っていい程周りから声が掛かる

テレビで観た光景通りにファンの人にサインをしたり、マスコミが向けたマイクに軽く応えたりとハリウッド俳優らしい応対を続けていた

 

「・・・相変わらずだな」

「そうですね、凄い人気です。さすが主人公・・・」

 

そしてレッドカーペットの前に停められた車からは映画の中で活躍している仲間たちが次々と降りてくる

外で解説しているDJの人に紹介されながら、みんな高そうなスーツやドレスで登場し、リサさんの元へと集まっていた

腕を組んで立っているだけでも様になる

映画の中で見た光景が実際に目の前で行われている様子に、私は改めて自分に課された仕事の重大さを思い知っていた

もう胸の鼓動が止まらない

本当に大丈夫なのだろうか?こんな私で

 

そんなこれまでにないほど緊張している私の手に雛子さんはそっと自分の手を添えてくれた

 

「さて、次だよありすちゃん。準備はいい?」

「は、はい」

「心配しないで、きっと上手くいく。あれだけ頑張ったんだ、ありすちゃんの他にこんな努力した人が他にいると思う?」

 

目の前に止まっていた車からこれまた映画で見たことがある俳優さんがレッドカーペットへと降り立ち、周りの歓声に応えカーペットを歩き、そして車のドアが閉まって進む

 

そして、雛子さんの車がレッドカーペットの真横へと進むと、雛子さんはサイドブレーキを引いて車を停めた

ファンの視線、報道陣のカメラ、レッドカーペットを歩いていた俳優陣、そして他のテレビ局からきたゲストの芸能人の人たちの関心が一気にこの車に向けられて、鳥肌が背中から全身にかけて電撃のように駆け巡った

 

「絶対上手くいく、私が保証する。さぁ、行っておいで」

 

端のマスコミの方たちの後ろから出てきたプロデューサーによって車のドアがゆっくり開かれた

窓越しに見えたプロデューサーの顔は明らかに強張っており、相当な緊張が見てとれる

まったく、あなたがそんな様子でどうするんですか

私はその瞬間、ライブでステージに上がる時と同じような感覚を感じ、プロデューサーに一つ頷く

するとプロデューサーは少し安心したのか、強張っていた表情の中にも少し笑顔が芽生え、ドアを大きく開いた

 

その瞬間、外に溢れていた様々な音がまるで濁流のように車内に流れ込んでくる

 

「さてさて皆さんお待たせしました!!ジャパンプレミアのもう一人の主人公、この華々しい場に招待された小さなシンデレラ!346プロダクションより、今をときめく人気アイドル!橘ありすー!!何と劇中に合わせてスポーツカーでの登場だ!身に纏っているドレスもお姫様のようにお美しいー!本日は彼女がアンバサダーを務めます!皆さんどうかご期待をっ!」

 

DJの人の紹介に合わせて私はプロデューサーの手を取り車から降りる

おかげで低い車高を気にすることなく、スムーズにレッドカーペットの上へと足をつく事ができた

途端に上がる歓声、カメラのフラッシュ、そして俳優さんたちからの拍手、その一つ一つに応えるように私は体を左右に動かしてそれぞれ手を振る

 

「・・・さぁ、ありす」

「はい、プロデューサー」

 

背後で閉まるドアの音を合図とするように、いつもとは違うまるで新品のような黒いスーツを着たプロデューサーに手を引かれて、私はゆっくりとレッドカーペットを歩いていく

 

「大丈夫だありす、緊張するな。いつも通りだ、いつも通りに・・・」

「今のあなたに言われても説得力ないですよ」

 

歩き方は何だかぎこちないし、私の手を握っている手は変に力が入ってるし、逆に私が支えているみたい

こういう公の場に慣れていないのはプロデューサーなんですから、無理しなくてもいいのに

 

そう思った私は、急かそうとするプロデューサーを引き止めるように足取りを遅くする

こういう時こそ焦っちゃダメですよ。そうそう、そのままゆっくりゆっくりです。いいですよプロデューサー、上手です

 

「ひんぐっ・・・!」

 

突然プロデューサーがそんな私にしか聞こえないくらいの大きさで、悲鳴と取れないこともない変な声を喉で鳴らした

プロデューサーは目を見開き、目の前を見つめたまま歩みを止めその場に立ち尽くす

プロデューサーを見ながら歩いていた私がその視線の先を確認しようと前を向いた瞬間に飛び込んできた、黒い綺麗な布地

 

ファンの歓声が轟き、その瞬間に浴びせられた無数のフラッシュがその布地の表面にあしらわれた何やら小さな細かい粒に反射してキラキラと綺麗に輝く

 

「Good morning. Miss.Alice」

 

私の頭上から、それはそれは流暢な英語が綺麗な女性の声にのせて聞こえた

ゆっくりと顔を上げるとそこには、本来ならスクリーンを介してしか見る事が出来ないはずの整った美しい顔が、私だけに向かってニッコリと微笑む

劇中では悪役を睨み付けたり、仲間たちと険しい表情をしたりするシーンが多いから、あまり見た事なかったけど、笑うとこんなに可愛い人だったんだ

 

「・・・ハ、ハロー」

 

咄嗟に出たのがそんな言葉だった

正直に言って何で自分もそう言ったのかわからない

わ・・・私、今どんな顔してる・・・!?

フフッと笑ったその相手の表情に段々と冷静になっていった私は、途端に爆発するんじゃないかというほど頬が赤く染まるのがわかり、恥ずかしさから少し俯いてしまった

 

「Oh,sorry. Miss.Alice.I was a little surprised!」

「リサさん!こ、これはこれは失礼しました!私はありすのプロデューサーをやっているもので!えっと・・・ナ、ナイストゥー・・・」

 

プロデューサーが必死に英語で話そうとしている内容を、リサさんの後ろからやってきた通訳の人が伝える

 

「Nice to meet you! Thank you for today. I wanted to see Alice as soon as possible.」

 

通訳の人がリサさんの言葉をプロデューサーに伝えると、プロデューサーは苦笑いを浮かべながら軽く頭をペコっと下げる

するとリサさんは私と同じ目線となるように、しゃがみ込んで話し始めてくれた

わぁ・・・凄い良い匂いがする

 

「It's an honor to meet you. Miss.Alice. And...Wow」

 

途中でリサさんの目線が私の背後へと移った

その先には、雛子さんが車を発進させて会場を後にしていく様子が見えた

カッコよく低いマフラーの音を響かせて、役目を終えたと言わんばかりに颯爽と去っていく

リサさんはその次に止まった高級車には目もくれず、雛子さんの車をずっと目で追っていた

 

「It's Silvia?」

 

聞き慣れた単語が聞こえた

私は思わず反射的に首を縦に振る

 

「Oh, Really? It's a Silvia?」

「イ、イエス。シルビア」

 

それくらいは私も答えられる

するとリサさんは私の手を取って、嬉しそうに立ち上がった

 

「Silvia!! Big surprised!! Thank you Alice!!」

「ヨ、ヨウウェルカム」

「Foo~!!」

 

ついには両手を取って私と踊るように喜ぶリサさんに何だ何だとマスコミの方々もカメラを向けていた

どうやら作戦は大成功のようだ、プロデューサーもホッと胸を撫で下ろす

 

「Excuse me, may I escort her?」

「あ、はい!この際ですから是非どうぞ!」

 

通訳の人の話によると、会場までリサさん自らが私を案内したいのだそうだ

断る理由も無く、私はされるがままリサさんに手を引かれレッドカーペットを進んでいく

そんなリサさんの表情は始終とても満足気であった

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