ヘイ!タクシー!   作:4m

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シルヴィア17

『心配しないで、やる事は簡単。今持っているパフォーマンスでベストなラインを走り切るだけよ。その途中に邪魔な奴がいたら追い抜けばいい。ただそれだけ』

 

映画も終盤に差し掛かり、物語はクライマックスを迎えていた

前作を凌ぐ怒涛の展開と迫力、国を越えて集められた仲間たちが最後の戦いへと赴くシーン

会場の映像と音響設備が普通の映画館とは違いグレードアップしているため、物語への没入感が凄まじく、カーチェイスのシーンなどは重低音が体に響き、ここ数日雛子さんのスポーツカーに乗せてもらい似たような音を聞いていた事もあって、本当にリサさんの車に乗っているような感覚になる

 

そして次回作へと続くであろう意味深なエピローグが流れると、スタッフロールに入るのだった

 

「ありす、ありす」

 

いつの間にかプロデューサーが小声で私に話しかけながら肩を軽くポンポンと叩いてくる

それに気づいた私が周りを見渡してみると、リサさん含めた他の方々が席から立ち、みんな出口へと向かっていた

 

「今のうちに舞台袖に移動するぞ。スタッフロールが終わったらスクリーンの前に出るから」

 

そうだった、映画に夢中で忘れかけてしまっていた

慌てて私も立ち上がり、みんなに合わせて会場を出る

 

「では、皆さん私について来てください。スタッフロールが終わり劇場内の照明が戻ったらスクリーンの前までお願いします」

 

この後は、スタッフの人の言う通り舞台袖へと移動する

廊下を進み、階段を降りて、また廊下を進む。その道中、下の劇場の入り口付近には私たちの劇場挨拶の様子を取材するためのメディアの人たちが待機していた

その後のインタビューの時のために来たのか、他の事務所のタレントやアイドルの人たちも集まっていた

 

いよいよ本番だ、心臓が高鳴るのを感じる

メディアの人たちの脇を通り過ぎる際に沢山のフラッシュが焚かれたが、それが全く気にならない程度には緊張していた

 

「こちらでお待ちください。会場内からアナウンスがあり扉が開き次第、前から順番に・・・」

 

スタッフの方が説明するのを通訳の方が俳優の人たちに伝えると、慣れているのか一つ頷くだけだ

やっぱり凄い、私もいつかこんな風に俳優の仕事ができるようになるのだろうか

 

『ミスアリス』

「へ?は、はい!」

 

考え事ばかりしていると、肩を優しくポンポンと叩かれる

顔を上げると、リサさんが落ち着いた表情で私の顔を見ていた

 

『そんなに緊張しないで、キュートなお顔が台無しよ?あなたの素直な感想を聞かせてくれるだけでいいの、どんな想いも受け止めてあげるわ!』

『ハハハッ、リサ。サムライの様に鋭い言葉で斬られたらどうするんだい?僕は彼女に勝てる自信がないよ。カタナを握った事すらないからね』

『私は大丈夫よ?映画の中で使ったもの。何ならミスアリスと戦ってみたいわ!』

 

アメリカンジョークというやつなのだろうか?

リサさんと俳優の男性の人のやりとりを聞いて周りの俳優の人たちも笑っている

私の様子を見て緊張をほぐそうとしてくれたのだろうか、あ、リサさんがウィンクしてくれた

 

そうしていると、スタッフの方が入り口の扉に手を掛ける

中から聞こえてくる映画の音が次第に小さくなり、それと入れ替わる様にファンの方々の拍手が聞こえ始め、続いて歓声が上がり始めて来た

 

『皆様、いかがでしたでしょうか。それではここでメインキャストの皆様を交えたお待ちかねの舞台挨拶に参りたいと思います!それではどうぞー!』

 

司会の人の説明が終わったと同時に、入り口の扉が開かれる

前に並んでいた人たちから順番に中へと足を踏み入れていった

 

「・・・!」

 

後ろから無言で軽く背中を押された

振り返ると、プロデューサーが私より緊張しているような様子で何度も頷いている

まったく、あなたがそんなに緊張してどうするんですか

そんなプロデューサーに私は大丈夫ですと手を少し上げて応えると少し安心したような表情になる

 

『ミスアリス、大丈夫?』

 

前にいたリサさんが会場に入る前に私に振り返ってそう言っていたが、私は一つ頷いて応えた

それに満足したのかリサさんは少しニコッと笑って中へと入っていく

それに続いて私もいよいよ覚悟を決めた

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

中へと入ると客席は満席で、さっき上から見た時は居なかったメディアの方々が壁際でテレビカメラや立派な一眼レフのカメラを構えて私たちが来るのを待っていた

リサさんたち俳優陣の姿が見えると途端に会場の拍手が大きくなり、歓声も一層聞こえ始めてくる

みんなまるで子どものように目をキラキラさせて私たちの事を見ていた

本当にこの作品が好きな人たちばかりなのだろう、涙ぐんでいる人もいる

 

「えー、ではでは皆様お待たせ致しました。これよりジャパンプレミアの舞台挨拶を始めていきたいと思います。まずは本日お越しいただいたゲストの方々からのご紹介からです!まずは・・・」

 

順番に紹介されていくとその度に歓声が上がり、フラッシュが焚かれていく

みんなそれぞれ頭を下げたり手を上げて応えたりと、ファンの人たちに向けて反応を返していた

 

「そしてファイナルスピードシリーズの顔であり主人公である、リサさんです!」

 

隣のリサさんの紹介がされると大きな拍手が巻き起こり、フラッシュも一段と回数が増える

リサさんはペコっと頭を下げると、手を上げてファンの人たちに笑顔で応えていた

相当場慣れしているのか迷いが全くない

 

「そして最後に、今回のジャパンプレミアのアンバサダーを努めていただきます!346プロダクション所属の今をときめく人気アイドル!橘ありすちゃんです!」

 

そして私の紹介がされると会場の視線が一気に私へと向けられた

カメラのフラッシュと照明の熱気、それらが感じられると同時にファンの人たちから拍手が巻き起こる

私は手を前に置いて丁寧にお辞儀で返した

顔を上げて笑顔で応えると、一際拍手が大きくなる

 

「えー、それでは今回のシリーズ最新作の公開に当たって一言コメントを頂きたいと思います。では順番にこちらから・・・」

 

次は一人一人一歩前に出て、それぞれが感想を述べていく

撮影中の裏話であったり、映画そのものの事であったりちょっとしたハプニングなど、話すたびに会場からは笑い声が上がったりとみんな興味津々に楽しそうに聞いていた

リサさんが撮影現場によく日本のお菓子を持ち込んで合間につまんでいるのは知らなかった

 

『そうね、やっぱりこの映画を続けていく中で一番難しいのはいかにファンの期待を裏切らずベストな事が出来るかということかしら。前作までには無い何か、それも求めるけどでもこのシリーズのスピリットをないがしろにしてはいけないの。私が日本車を使い続けるのもそれが理由よ。スポーツカーが好き、チューニングカーが好きというのはファンも私たちも同じだからね』

 

リサさんのコメントに頷くファンの人たち

リサさんも会場にいるファンの人たちもみんな車が好きでそしてこの映画が好き

他の俳優の方々が話している内容にも同じように車と映画に対してのリスペクトが込められていた

 

「それでは最後に、橘ありすちゃん。お願いします」

「・・・はい」

 

みんな上手にコメントを残していった

どうしよう、何を話せばいいんだろう

あらかじめ色々考えていたけど、それだけじゃきっと足りない

リサさんが一歩戻るのと同時に、私は一歩前に出た

あなたのコメントには全然期待していない、そんな表情を向けてくる人もいる

それはそうだ、こんなまだ免許も取れない子どもが何で選ばれたのか、自分自身でもまだわからないのだから

''絶対上手くいく''とその時ふと雛子さんの言葉が頭によぎる

そうだ、私も今まで何もしてこなかったわけじゃない。もうここまで来たら自分を信じるだけだ

期待と無関心、綺麗に分かれた会場で私はマイクを構えた

 

「映画を拝見させていただきましたが、とても素晴らしい内容でした。改めてシリーズを全て視聴してきましたが、やはり今回も車への愛を感じられました。アクションもそうですが、さっきまで他の方々が言っていた通り皆さん車が好きなんだなぁと思います。リサさんの車のマフラーが変えられていたり、他の作品と比べて少し車高が落ちていたり、ラジエーターがVマウントになっていたりと車のチューニングにも手を加えてあるのが素晴らしいと思いました。皆さん本当にこの作品が好きなんだなぁと・・・」

 

実際に青葉自動車さんで経験したことを思い出しながら、私はそう言った

車高が低くてリフトの足が下に入らない〜と美空さんが嘆いていたり、車の正面に斜めにつけられているラジエーターを見て、これ壊れてるんですかね?と雛子さんに聞いたら''ふふふっ''と笑ってそういうものだと教えてくれたりした光景が頭に浮かんでくる

 

話している最中に気づいた、会場が一瞬キョトンとした

そう、本当にキョトンとしたのだ

隣にいるリサさんまでもが目を丸くして私を一瞬見ていた

どうしよう、何か変なことを言ってしまったのだろうか

 

すると次の瞬間、ファンの人たちの方からおぉ〜と感心の声が所々から上がる

みんな興味津々で私の言葉に耳を傾け始めていた

私がこの場に抜擢された事をよく思っていなかったであろう表情をしていた人たちでさえ、私の言葉に目を丸くする

 

「なので、この映画に対してのリスペクトを凄く感じました。楽しみながら撮影に臨んだと思います。次の作品も凄く楽しみです」

 

最後にそう付け加えて私はマイクの電源を一旦切ると、会場から拍手が巻き起こる

後ろの方で見ていたプロデューサーも、よくやったと言わんばかりに頷いて拍手を送っていた

 

『素晴らしいわミスアリス。まさかそこに気づくなんて、予告編でも公開していないサプライズな内容だったのに。とても嬉しいわ』

 

リサさんからもコメントが上がり、さらに会場から拍手が起こった

よかった、どうやら上手くいったようだ

 

その後も舞台挨拶が続く、次の舞台には再び日本を登場させたい等未だ見ぬ新作の情報にファンの人たちが沸いたりなど会場は始終盛り上がりを見せて、会場に入る前と比べると私もリラックスして仕事に専念する事ができた

後で雛子さん達にお礼を言っておかないと

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ふぅ〜・・・」

 

会場外の自販機で缶コーヒーを買い、口にしながら俺は一つため息をつく

どうなることかと思っていたが、ありすはやり切ってみせた

リサさん達の反応も上々、これならこの後のインタビューにも変に気を入れる事なく臨む事が出来そうだ

後で青葉自動車さんにもお礼を言っておかないといけないな

 

「おや、これはこれは奇遇ですねぇ。お疲れ様です」

 

この休憩スペースには俺以外誰もいない、するとこれは俺に対しての言葉なのだろう

俺は声のする方に顔を向けると、そこに、いた

イメージのせいなのか薄気味悪い笑顔を浮かべて俺に話しかける中年の男性、そしてその隣で頭を軽く下げている髪の長い綺麗なスタッフの人

付き人か何かなのだろうか

 

「いやいや素晴らしかったですよ〜、橘ありすちゃん。あの場でも物怖じしないあの態度、さすがアイドルですなぁ。普段の教育が行き届いていらっしゃる」

「いえ、私たちは何も。ありすが自分で頑張った結果です」

「そう謙遜なさらなくても。346プロの方々の努力の賜物ですよ〜」

「それは・・・どうも」

 

妙に持ち上げた様な言い方をする、こちらの機嫌を伺う様な

 

「・・・ディレクター」

「おっと、そうだったね。手短に手短にっ、と」

 

スタッフの人に諭されると、そのディレクターと呼ばれた男はコホンと咳払いをして話を続けた

 

「実は先日お話ししていた特番の件で一つ変更がございまして、これに際しまして346プロさんにお願いがあって参ったんですよ〜」

「・・・はぁ」

 

そう言うと、スタッフの人が俺に数枚の資料を手渡してくる

 

「いや〜すみませんね。ご検討していただけいかと思いまして。なにぶん''準備''も必要でしょうから」

「これは・・・明後日までにですか?」

「はい、いやいや本当に申し訳ない。急な話で」

 

いくらなんでも急すぎる

資料に目を通してもあらかじめこうすることを予定していたとしか思えない

 

「じゃ、お願いしますよ346プロさん。はっはっは」

「あ、ちょっと・・・」

 

俺の返事も待たずに二人は去っていってしまう

どうする、リサさんも出演することが確定している以上もう番組を断ることもできない

当日までにどうにかするしかもう方法がない

 

ありす・・・

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