始まりのレター01
この仕事を受け持ってもう一年が経った
連続の連続、奇妙な事が次々起こった
お前たちは俺に遠慮が無くなるし
みんな俺に構っては遊びに来るし
つっても遊ぶというよりは泊まりにくるし
結局休日も仕事も一緒くただ
ただ、退屈ではないが
「うん・・・朝か」
今日も今日とて、朝食のいい匂いと、近くから香ってくる俺のではないシャンプーの香りに包まれて目を覚ます
右を見ると綺麗な黒髪ロングの美少女が寝息を立てており、左を見ると寝癖でもじゃもじゃ頭の美少女が幸せそうな顔で目を閉じながら口元をモゴモゴとさせていた
「んんん〜・・・へごっ」
そんなもじゃもじゃ頭の下に手を突っ込んで少し持ち上げ、下敷きにされてその角が見えていた俺の携帯を取り出して時間を確認する
丁度いい、こいつらを送っていったらベストな時間帯だ
「・・・おい、起きろ。朝だ、飯だ、仕事だ」
「うん・・・ママぁ、もうちょっと・・・」
「俺はママじゃない。ほら、起きろ。起きないと加蓮に足マッサージされるぞ」
「気持ちよさそう・・・、でもお布団も気持ちよさそう・・・えへへぇ・・・」
ダメだ、凛に聞いていたがこれは想像以上だ
俺は、その目を閉じたままモゴモゴ言ってる頭を両手で持ち上げて上上下下左右左右と振ってみたがそれでも首に力が入っていない
口元をだらしなく緩めたままニヤッと笑ってすぐにストンッと枕に戻り、夢の中だ
これはファンには見せられないな
「・・・しょうがない」
俺はそんなもじゃもじゃ髪をかき分けて、耳元に顔を少し近づける
「起きろー!!巨大ぴにゃこら太が進撃してくる!!島村隊員!!ワイヤー機動装置の準備だっ!!」
「へあぁぁぁっ!?ぴにゃあああ〜!!ああ!?」
俺がそう叫んだ瞬間、卯月はビクンッと体を一瞬震わせると、その自分に叫んだ何かから逃れるように布団端に一気に体を持っていくとそのままベッドの下に落ちた
「はっはっはっ」
「んん・・・もう、・・・っさいなぁもうっ・・・」
卯月に叫んだ後に再びベッドの上に仰向けに戻ると、反対隣に寝ていた美少女から俺の胸の上に後ろ手でバシッと手が飛んできた
「あへぇぇ・・・、おはようございます・・・零次さん、凛ちゃん」
そしてベッド下でやっと覚醒した卯月が、その可愛らしい自前のピンク色のパジャマを所々はだけさせた状態で立ち上がり、右手で目を擦りながら寝ぼけ眼で俺たちにそう言っていた
腹やらパンツやらがチラチラ見えている
「って、お前も起きろほら。そろそろ朝飯だほら」
「・・・私今日オフだもん。学校も休みだし」
「だったらとっとと自分の家に帰れ、帰ったらいくらでも寝れるだろ」
「昼まで帰らないって言ってあるから、大丈夫」
「何が大丈・・・って戻ってくるな!飯だって言ってるだろうがっ!」
「えへへ・・・凛ちゃんばっかりお布団ずる〜い・・・」
またベッドに横になろうとしていた卯月を寸前で腕を伸ばして抱き抱えると、再びベッドの外に立たせる
「あらあら零次さん、朝からお盛んですな〜。アイドル二人はべらせといて」
「・・・人聞き悪い事言うな。昨日の夜どんだけベッドから追い出そうとしても戻ってくるんだから、お前がなんとかしてくれ加蓮」
部屋とリビングを挟んでいる引き戸を少しだけ開いて、まるで''アイドルは見た''と言わんばかりに制服にエプロン姿の加蓮がこちらを覗き込んでニヤニヤとした笑顔を浮かべていた
そして意味ありげに親指を立ててサムズアップを作り、俺に向ける
「・・・なんだよ」
「メシ、出来てるぜ」
そしてそのままそのサムズアップを自分の背後に向ける
その先を見てみると、テーブルの上にそれはそれは美味しそうな湯気をただよわせた朝食が用意されていた
「な〜んて、どう?似てた?零次さんの真似」
「全然・・・ってやめろ!せめて俺が出ていってから着替えろ!こらっ!」
「でも早くきがえないと〜・・・」
ぽけ〜っとした表情のまま、卯月は自分の上着のボタンを一つまた一つと外していく
俺は目を背けつつまだ横になっている凛に助けを求めようと肩を揺するが、凛は横になりながら俺たちに背を向けて携帯をポチポチと触っているだけだった
挙句には俺に自分でなんとかしろと言いたいのか片手であっちへいけと手をパッパと動かしていた
「まぁ、とにかく朝ごはん出来てるから卯月のことはお願いね。・・・これは朝からいいネタができちゃったな〜ふふふ・・・。ごゆっくり〜」
「おい、最後なんて言った加蓮。おいっ!ちょっ、待っ・・・!まったく・・・。卯月、後で何言っても俺知らんからな」
「ふぇ?」
わけわからんこと言って出ていった加蓮はこの際放っておこう
とりあえず床に散らかっている制服の中から白いワイシャツを引っ張り出し、卯月に着せることから始まった
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『さてさて!ゴールデンウィークが明けての最初の週末ですが、みなさんいかがお過ごしでしょうか!まだ休み気分が抜けてない人もそうでない人も!今週も都内で色々なイベントが開かれてるみたいですよー!ではそんな今日の天気を私からっ!サイキックー!天気予報!どんな週末になるのかなっ?』
「仕事だな」
「私も仕事です〜」
「アタシも、今度やるライブの打ち合わせだし。何時からだっけ、プロデューサーちゃんと戻ってくるのかな。ホワイトボードに''スタジオ2 昼まで''って書いてあったけど」
「私休み。あ、卯月。そのケチャップ取って」
裕子が出ている休日の朝番組を流しながら、四人仲良く・・・そこまで言うほど仲良いかどうかはよくわからないが、とりあえずそのメンバーで食卓を囲んでいた
「あ、零次さん。アタシ今日、本館。卯月も一緒だから」
「はいはい」
思えば、最近になってからこういう機会がよく増えた
昨日は悠貴と美穂、一昨日は美嘉、莉嘉、みりあ、三日前はレナと美波、そんな感じでよくまぁみんな物好きなのかこの部屋に遊びに来る
そのおかげでこの部屋も変わった
キッチンは綺麗に整理されて、キチンと調理器具が片付けられている
足りなかった様々な調理器具が壁にかけられて、壁際のちょっとした段差には白い小さなテーブルが置かれて、その上に調味料が並べられていた
この食卓にも小さな可愛らしい時計が置かれて、その隣には卓上カレンダーがある
テーブルの下には箱ティッシュがこれまた可愛らしいぬいぐるみの小さなハムスターが数匹あしらわれたティッシュカバーに入れられて置いてある
一番変わったのは寝室で、ゴールデンウィークのある日、家に帰るとホームセンターのトラックが一台マンションの前に止まっていて、まさかと思い部屋に向かうと、奏と響子が主導となり新しいベッドが運び込まれていた
確かに狭い狭いとは言っていたがあくまでそれはお前たちが潜り込んでくるからであって、別に俺はソファーでもかまわないと伝えたが、家主にそんなことさせるわけにはいかないじゃないと聞かず、ダメなら奏が持って帰ると言い始めたが、ここまで運んだのだからNOとも言えず、結局設置することにした
お代は気にしないでと言っていた
お金はたくさん持ってますからとも言ってた
ああそうかい、そうだな、多分お前たちの方がお金持ちだもんなそうだよな
とにかく、運び込まれたベッドは軽く三〜四人は一緒に横なれるくらいの大きなもので、これなら伸び伸びと体を伸ばす事ができそうだ
あいつらが沢山泊まりに来ても寝かせてあげられる
元のベッドは廊下の一室に置かれた
今度から俺はあっちに寝ようか、だがあの部屋はもうアイドルの荷物やら着替えやらでごった返してるからやはり難しい
部屋干しの物干し竿もあるし、これも響子が買ってきてた
その大きなベッド用の寝具も他のアイドルたちが買って持ち込み、随分と可愛らしく綺麗に整えられた
他には相変わらず寝室のクローゼットの中には名前が書いてある衣装ケースが並び、いつの間にか数が増えていた
廊下とリビングを繋ぐ扉の近くの壁にはホワイトボードが設置され、そこに足りないものや今日買ってきてほしいものなどが書き込まれるようになった
トイレには小さなゴミ箱が置かれて、玄関の靴箱にはあいつらの靴が並べられている
玄関から靴を脱いで室内に上がる部分には可愛らしいマットが敷かれていて、なんか全体的に女の子っぽいテイストが強い部屋になってしまった
今度スナイパーライフルでも買って置いておこうか
いや、すでに亜季が持ち込んでたんだった
ダメだ、それも女子っぽい持ち物に見えてくる
ダンベルとかどうだ?
「そういえば今日じゃない?ほら、新しくスカウトしたアイドルの人が来るのって」
「あ、それ私も聞きました!どんな子なんだろう・・・お友達になれるといいですね!」
何?今聞き捨てならないことを聞いた
また増えるのか?今でもやたらとアイドルがいるのにまた?
いや、待て。変な奴とは限らない
きっとそうだ、きっとまともな奴が来る
そうに違いない
「それなら先輩らしくシャキッとしないとな」
「うっ・・・す、すみません。私朝はどうも弱くて・・・」
途端に卯月がしおしおしお〜っと身を縮こまらせた
「それに、ちゃんと自分の部屋も片付けられるようにならないとね」
「凛ちゃんひどい!あれでもちょっとは片付けたんだよ?」
「アレでちょっと···?」
凛は思い当たる節があるのか、なんだか苦い顔をしていた
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#エモイ
最初に浮かんだのはそんな感想だった
まるでゲームのような、絵本のような、そんな言葉が似合うお城のような建物が自分の目の前にそびえ立っている
背中に背負っていたリュックから手紙を取り出して、手に持っていた携帯に映し出されている地図の住所と照らし合わせて目的地が間違っていないか再度確認した
本当だった、やはり彼が言ったことは間違いではなかったんだ
バイトの帰りにいきなり話しかけられて、ナンパかと思ったがそうではなかった
彼の話では、なんと私をアイドルにスカウトしたいと言うではないか
さすがに怪しいと内心思ったが、彼の真面目な説明とその熱意に押されて、その案内の手紙を受け取ってしまった
帰って調べてみると、そこには間違いなく346プロダクションの住所が記されていた
「···」
そして意を決して、私は付けているマスクを再び整えるとその敷地内に足を踏み入れていく
大きな正門をくぐり、そのお城のような建物の正面玄関を目指して歩いていくのだった
近づく度に、胸が高鳴っていくのがわかる
一体、この先に何が待っているのだろうか?
ゲームをしている時とは違う、独特の緊張感が私を支配し始めていた
建物の側にたどり着くと、その正面玄関の前で右へ左へと右往左往しながら中を覗き込んでいる女性がいた。#不審者?
私より年上に見えて、ピンクのショートヘアが特徴的なその女性は、何だか不安げな表情のまま、手に持っている手紙と中の様子を交互にうかがっていた
「どうしよう、大丈夫かな···ここで合ってるよね?もし騙されてたりしたら···はぁ、やむ」
「···あの」
「!?」
ほっとくわけにもいかなかったので声をかけてみると、そのお姉さんはこちらに勢いよく振り向く
可愛い人だ、それよりも目を引くのは···
#胸デッカ