ヘイ!タクシー!   作:4m

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始まりのレター03

戻ると、中からバタバタと音が聞こえる

しばらく待ってみたが、止む様子がない

苦しみもがくような声に

私は扉を開けて中へ入った

案の定そのプロデューサーさんが変わらず

色々呟きながら準備を進めていた

どうしたものかと、悩んでいる様子だった

ルールやマナーは研修で学んでいる筈だが

残った問題は性格というか

誰が悪いというわけでは無いんだけど

冷酷にも現実は非情である

彼自身真面目ではあるんだけど

えらく慌てん坊らしい

 

「あ、千川さん!すみません!何だかバタバタしちゃって」

 

そう言いながらプロデューサーさんは、ネクタイを急いで締め直していた

 

「いえ、あの子たちは全員事務所に到着しました。少し待っていてと伝えてあるので、そんなに急がなくても大丈夫ですよ」

「いやいや!自分が呼んでおいたのですから、早く行かないと!ええっと、あっ!この書類は片付けておかないと···」

「それは彼女たちに必要なので持っていってくださいね」

「そうでした!後は···そうだ!ネームプレート!」

 

そう言って彼はまた物が散乱しているデスクへと手を突っ込む、となんだか忙しい人だ

 

この春からこの同じ事務所へと配属になった新人プロデューサーの彼だが、一緒に仕事をしてみると何だかおっちょこちょいというか、真面目なんだがいざとなると慌ててしまうところがあるようだ

こればっかりは慣れていくしかないが、他のプロデューサーさん達からも温かい目で見守ってやってくれと言われてしまった

あの子達をスカウトしてくるぐらいなのだから交渉力はある

だが、まだまだ教えることは沢山ありそう

 

「えっと、あれは持ったし、これも持った。あとは···」

 

そんな彼を横目に、私は自分の席に戻り、パソコンをスリープモードから立ち上げて、彼女たちの今日の予定表を開く

 

「じゃあ!すみません千川さん!行ってきますね!」

「ああっ、ちょっと待ってください」

 

出ていこうとする彼を引き止めて、私は印刷した予定表を彼に渡すのだった

 

「必要だと思いますから、見方はわかりますよね?ここと、ここと、ここです」

「ありがとうございます。何から何まで」

「いえ、せっかく仲間が増えるかもしれないっていうんですからこれくらい。では、応援してますね、プロデューサーさん」

「ありがとうございます!」

 

そう彼は元気に返事を返すと、扉を勢いよく開いて廊下へと飛び出していく

 

「「きゃあっ!」」

「ああっと!ごめん!莉嘉ちゃんみりあちゃん!!」

 

その際に廊下から黄色い悲鳴が一瞬聞こえたので、私も廊下に出てみるとすでにプロデューサーさんは角を曲がって見えなくなっていた

 

「大丈夫ですか?莉嘉ちゃん、みりあちゃん」

 

私が駆け寄ると、莉嘉ちゃんは私に手のひらを向け大丈夫だと告げた

 

「うん全然。それにしてもあのプロデューサーってまだあのカンジ?」

「はい。でもとってもいい人ですよ?真面目ですし」

「ふーん···」

 

そう少し呆れたような物言いをする莉嘉ちゃん

腰に手を当てて溜め息をついていた

 

「なんかマジメすぎるんだよねー、もうちょっと気を抜けばいいのに」

「杏ちゃんくらい?」

「それは抜きすぎ」

「じゃあ零次さんくらい?」

「それはそれでビミョー」

 

北崎さんといいプロデューサーさんといいひどい言われようのような···

でも、北崎さんに至ってはみんなからも信頼されてるようで安心している

最初はどうなることかと思ったが、なんと保護者の方々からもいい噂を聞くではないか

美城専務の人選は間違ってはいないみたいだ

 

普段の様子からも、カフェで仲良く昼食を食べてるところもよく見かけるし、仕事先でもご馳走してくれたり、天候やら何やらで帰れなくなったアイドルのみんなをガレージに泊めさせてくれたりと、お世話になることが多い

みんなと知り合ったきっかけがきっかけなので、北崎さんに憧れている子もいるみたいだ

 

こっそり北崎さんの家に遊びに行ってるみたいだけど

んー、まぁよしとしますか、保護者の方も知ってるみたいですし、北崎さんも相手にしていないみたいだし、それは前に相談された時にちょっと唯ちゃんが可哀想だったかな

みんな青春してて楽しそう

それに、何かあったときの為に専務も色々と対策を施しているみたいだし

 

「あっ!ちひろさん!あのね、美空さんに聞いたらね、OKだって!」

「本当ですか?それじゃあ、後で私からも連絡しておきますね。ありがとうございます」

「明後日だっけ?撮影なるべく早く終わるといいなぁ。お姉ちゃん一緒だから大丈夫だとは思うけど」

 

許可してくれてよかった、突然会場を使いたいって上が言うんだから困ったものだ

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「···というわけで、概要はこんな感じだ。君たちはアイドルの活動を始める以上、346プロダクション所属となる。何か仕事の話を持ちかけられたりしたら、必ずプロデューサーである俺まで報告すること。勝手に自分だけで決めないように。そうじゃないと契約違反になってしまう」

 

渡された資料を読みながら、自分はプロデューサー···サンの言葉を聞き流す

手に持った資料を見てみると、そこには自分たちをアイドルとして雇用するに当たっての条件や注意事項などが大人の言葉で詳しく書かれていた

前に渡された手紙はあくまでもあちら側の要望書という扱いであり、今回渡されたこの書類をもって正式に契約が結ばれるという

 

書類の終わりには注意事項への同意と本人のサイン、そして未成年だった場合の保護者のサイン欄があり、それとは別に会社側の上司の人用の印鑑を押す四角い枠があった

キチンと契約書としての体を成している

 

「なるほど、これで凪の身も心も346プロに捧げるということになるんですね」

「言い方はちょっと引っ掛かるが、まぁそういうことだ。もし活動中に怪我をしたり、トラブルがあった時も会社に報告してくれ。会社では''報連相''が大事だ、これは覚えておいて損はないぞ。電車が遅れて遅刻する時とかな、交通費も出る」

 

みんな書類を片手に各々相談したり考え込んでいる

りあむサンは騙されていないかと無駄に心配しながらぶつぶつ言ってるし、あかりサンはリンゴをいかに宣伝できるかと斜め上の質問をしていた

久川姉妹は何を企んでいるのか、駅から何分だの立地条件の話をし始めていて、もう何がなんだかわからなくなっていた

 

「まぁ、とにかく。ここで契約書ばっかり見ていても仕方ない。今日はオリエンテーリングも含めて集まってもらったんだ。これから、アイドルというのがどんな仕事なのか実際に見てもらおうと思う」

「えっ、マジ!?アイドルの仕事を生で見れるの!?っていうかアイドル達に生で会えるの!?すっご!!それはすこすこのすこ!!」

 

りあむサンが子供のように大はしゃぎだ

さっき神谷奈緒と北条加蓮に会った時にあんな反応だったのだから、そんなことしたらぶっ倒れるんじゃなかろうか

他の面々も面を食らったような反応で、颯ちゃんも凪ちゃんと手を取り合って喜んでいる

不安なことも色々あるが、実際に体験してみないことにはわからないことだらけだ、ゲームでいうエアプみたいなものだろう

他人の評価ばかり気にして自分の意見をないがしろにしても意味がない

 

「まずは、二手に別れて行動してもらう。辻野さんと久川さんたちは俺についてきてレッスン室へ、夢見さんと砂塚さんは宣材撮影に同行してもらおうと思う。あまり深く考えないで気楽にね、今日は見学してもらうだけだから」

「あ、ハイ」

「えっ、凪ちゃんたちズルい!ぼくもそっち見たかったな~」

「すみません、凪たちは一足先にアイドルの階段を上ってきます」

 

そこでの話はひとまずそれで終了し、自分たちはお昼まで別行動をすることになった

迎えの車が来るみたいなので、本館のロビーへと向かうことになる

 

「あっ!おはよう!お姉ちゃんたちが新しいアイドルの人!?」

「ハイ、砂塚あきらです。よろしくお願いします」

 

外に出る準備をして廊下に出ると、扉を開けた先に待っていたのは赤城みりあちゃん

自分でも知っている人気アイドルの一人

 

「すごーい、髪の毛ピンク色だね!お姉ちゃんと一緒だよ!毛先は水色じゃないけど、それもめっちゃ可愛いね!」

「あわわ、城ヶ崎莉嘉ちゃん···!めちゃかわいけり···」

 

そしてその隣には姉妹アイドルの妹、城ヶ崎莉嘉ちゃんもいた

見ただけでわかるそのアイドルオーラはテレビで見る姉共々キラキラしていて、一線級で活躍できる理由が容認にわかった

#っていうか本物スゴッ

 

「今日は私たちが案内してあげるねっ!あきらちゃんに、りあむちゃん!」

「えへへ~、今日はアタシ達のことを先輩だと思って全然頼ってくれていいからね☆!!何でも聞いて!!」

 

そうして二人キラキラした笑顔を向けてくると、ついつい圧倒されて声が漏れる

自分たちがたじろいでいる暇も無く、二人は自分とりあむさんの手を取ってエレベーターの方へ向かっていく

なんでも既に迎えの車が到着しているのだそうだ

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