大部屋の楽屋に入ると
冷蔵庫へと向かう莉嘉ちゃんとみりあちゃん
私はというと、りあむサンに付き添う
「うえぇぇぇ···」
「大丈夫?りあむちゃん」
部屋の隅の小上がりとなっている場所にりあむサンは横たわり、額に手を当ててうんうん唸っていた
みりあちゃんが持ってきてくれたお茶のペットボトルを自分が受け取ると、りあむサンの額に当ててあげる
すると少し楽になったのか、りあむサンは自分でそのペットボトルを持って額に当て始めるのだった
「もぉ~、一体何なんだあのお兄さんは。あんな訳のわかんない運転して、会社の人?プロデューサーじゃないよね?」
「あっ、そっか。二人は知らないんだもんね。まぁ莉嘉たちもまだ知らないことは多いんだけど」
そう言うと莉嘉ちゃんは説明を始めた
一年くらい前に知り合ったというあの男性は346プロダクションの人間ではなく、会社と契約している別の会社の人間だという
ちょっとしたトラブルからアイドル部門の専務の目にとまり、そこから送迎ドライバーとしての契約を結んで今に至る
他にもその会社の人間でミソラサンとヒナコサンという人がいて、その人たちが持っているかまぼこガレージで焼き肉をして、泊まって遊んで、クリスマスパーティーを346プロでやって、たまにご飯をご馳走してくれて、その会社にも遊びに行って、ヒナコサンは運転がとっても上手で、レイジサンは送迎ドライバーだけど炭酸が嫌いでお子ちゃまドライバーなのっ!
ということらしい
途中からのみりあちゃんの説明を含めてもイマイチイメージが掴めない
アイドルのみんなから嫌われてはいないことは確かだ
そうでなければ遊びに行ったりはしないだろう
「それでねっ、そのガレージがとっても大きくて体育館みたいなのっ!こーーーんなにおっきいんだよ!」
手を大きく左右に開いて表現するみりあちゃんと
「そうそう!でもいいなぁ、前にみんなでお泊まりしたんでしょ?アタシその時行けなかったんだもん!お姉ちゃんだけずるーい!!」
何だか悔しがっている莉嘉ちゃん
話だけ聞いていると、あの男性のまわりには常にアイドルの誰かがいる日常が繰り広げられているように感じる
ファンの人から見ても、というよりは男性の目から見ても美人美少女に囲まれたその生活はとても羨ましいものだと思うのだが、どうなんだろうか?
何だか異性というよりは友達、もしくは身内、それが例えば姉や妹のように扱っているように感じてるが、それでも他人だ
そのレイジサンの理性がとてつもないものだということがわかる
「私のこともなんだか子ども扱いって感じだもん零次さん。みりあもうお姉ちゃんなんだよ?」
「唯ちゃんとかが引っ付いてもぜーんぜんだしね~、誰か好きな人いるのかなぁ。それか朴念仁?」
ひどい言われようだ
やはり女の子同士で話すと話の方向性がそうなってくる
みりあちゃんの話だとそんな扱いになるのはなんとなく察しはつくが
「今に慣れるよ、りあむちゃん☆!お姉ちゃんもそうだったもん!」
「それに、仕事帰りとかたまにパフェとか奢ってくれるよ?」
「え、マジ?」
あ、これナイショだよっ?と最後に付け加えるみりあちゃんだったが、莉嘉ちゃんも心当たりがあるようだから恐らく全員が知っている内緒話という扱いなんだろう
とにかく、悪い人ではなさそうだが全容が掴めない
346プロのことも含めてまだまだ知らなければならないことが沢山ありそうだ
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「なるほど、その''はーちゃん''だとか''なーちゃん''だとか言うのも新人アイドルなのか」
「うん···、双子···なんだって。それと·········あかりはりんごが好きなの···」
お昼頃、結局美城プロへ戻り雪美と346カフェの屋外席のパラソルの下で一緒にランチタイムを楽しんでいると、今日来たという新人メンバーの話になる
そんなにいたのか新人たちは
「それでね···、りんごで世界征服を目指したいって······」
「既にりんごは世界征服してると思うけどな」
その新人たちは、今日送迎する際に俺の車に近寄ってきて急いでほしいと言ってきたあの慌ただしいプロデューサーがスカウトしてきたのだという
一人はオーディションとのことだが大体はそうらしい
''はーちゃん''と''なーちゃん''は双子で、独特の世界観を早くも醸し出し、''あかり''の持ってきた林檎はとても美味しくて、早くもみんなに馴染みはじめている
しかし、やはり今日のレッスンの際に試しに一緒に踊ってみたらしいのだが、その様子はまるで盆踊りのような雰囲気だったという
''はーちゃん''のほうはオーディションの経験もあって若干マシだが、雪美に言わせるとまだまだなんだそうだ
「すごいな雪美、もう立派な先輩じゃないか」
「これでも···私、アイドル······長いから···ふんすっ」
得意気な顔で俺にドヤ顔を見せた雪美は、頼んだチョコレートケーキを美味しそうに頬張る
最近は近づいてきたライブの為レッスンも大詰めで大変なのに、ふて腐れるでもなく不満も言わないあたり、本当にこの職業が好きなんだなというのがわかる
この歳なら他にもやりたいことは沢山ある筈なのに
「···俺も見習わないとな」
「どういうこと···?零次もアイドルに······なるの?」
「なるわけないだろ、こんな変な兄ちゃんが」
「零次はヒーローで·····カッコいい···よ?ライブするなら···私、チケット······買う」
「その心意気だけもらっとくわ、雪美パイセン。ほら、このイチゴやる」
「ほんと······!?」
そう言った瞬間に雪美は年相応の笑顔を見せて、俺の差し出したフォークのイチゴをパクりと受け取る
口のまわりに白いクリームをつけてるあたり、やはりまだまだ花より団子か
「零次、今日の夜······ほんとにいいの?」
「いや、俺はいいけど。お前はいいのか?それなら他のアイドルたちのところにでも行ってワイワイやればいいのに」
「みんなが······行ってるから······私も、羨ましかった。お母さんも·····よろしくって言っておいてって。今度は······夜ごはんを食べていってほしいって······言ってた」
「そこまで気を使わないでって言っておいてくれ、俺は仕事をしてるだけだから。今日仕事終わったら、どっか飯食いに行くか」
「······うんっ···!」
嬉しそうに頷く雪美だったが、俺がその口もとのクリームを拭き取ってやると恥ずかしそうに俯いてしまうのだった