ヘイ!タクシー!   作:4m

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ジューンプライド
ジューンプライド01


いつからこうしていただろうか

ロボットのように椅子の上に固まって座る

色々な事が頭の中で巡る

露骨に態度に出さないのが精一杯だった

 

「コーヒーでよかったか?なにぶん、こうしてこの部屋で人とゆっくり話す機会が中々なくて慣れていないんだ」

 

そう言って専務は壁際にあるコーヒーメーカーからコーヒーを淹れて俺が座っているところまで二人分持ってくる

お互いにテーブルを挟んで座ると、コーヒーを一口飲んでからまた向かい合った

このやり取りも何回目だろう

 

「呼び出してすまなかった。近況報告も含め、私からも話があったから来てもらったんだ。仕事のほうは大丈夫か?」

「はい、この時期になると大分落ち着きますので、別に」

「この時期···か」

 

何か引っ掛かることがあるのか、専務は目を細める

 

「ああ、すまない。こちらの話だ」

「···はぁ」

 

一瞬の間を置いて、専務は持っていたカップをテーブルへと置き、手を膝の上に添えると改めて俺と向き合う

俺もそんな専務に同じように姿勢を正した

室内には静寂が訪れ、壁にかけられた時計の音だけがその場を支配している

 

「先日来ていた新人五人には、全員から良い返事を貰うことが出来た。これからは同じアイドル仲間として活躍していくだろう。その志望理由も面白い、''なんだか面白そうだったから''だそうだ。非常に興味深い」

 

専務はごそごそと懐から何かを取り出す

 

「こちらが彼女たちについて簡単にまとめた物だ。今後の参考にしてほしい」

 

そう言って専務が渡してきたのは、アイドルのプロフィール表だった

 

砂塚あきら

夢見りあむ

辻野あかり

久川颯

久川凪

 

名前から特技、志望理由まで、個人情報は伏せてあったが、アイドルとしてのアピールポイント等が書いてある

 

「彼女たちがシンデレラとして輝くためにはまだ暫し時間がいるだろう。知らないことも多い、その時は申し訳ないが、助けてあげてほしい。ところで···」

 

今度は膝に肘をつき、組んだ手の上に顎を乗せてこちらに向かって目を細める専務

俺は持っている資料越しにそんな専務と目を合わせると、資料を膝の上に置いて次の言葉を待つ

 

「小耳挟んだんだが、彼女たちとは随分と···なんと言えばいいのか、''仲が良い''という話を聞く。日頃目にする彼女たちからも君の話題がよく上がっている。それが学生組だけではなく、大人からも。年齢問わず君に対しては非常に好感な意見を耳にするのだが、なんでもプライベートでも''とても仲が良い''と聞いている。よく食事に行ったり、出かけたりしているそうじゃないか」

「···えぇ、まぁ」

「そして、女子寮から君の住まいが非常に近いのだとか」

「よくぞ聞いてくれました」

 

その反応が意外だったのか、専務の目が一瞬少し大きく開いた

俺は話を続ける

 

「俺は止せと言ったのですが、よく訪ねてきます。まぁそれが、全部が全部別に迷惑をかけているわけではなく、ご飯を作ってくれたり、掃除をしてくれたり、水道料金や電気代を払ってくれたりと、お世話になってるんだからこれくらいはして帰りますと何だか家政婦の様なことをして帰っていくので一概にダメとも言えず···俺は何もしてないんですけどね」

「なるほど···やはりな、心中察する。今の女の子がそこまで積極的とは···」

 

二人して同じように顎に手を添えて悩む

悪いことをしにくるわけではないのだ

専務が言うように少し、いやかなり積極的なところがあるだけで、どうしたものか

 

「これは単純な疑問なんだが、気を悪くしないでほしい。あくまで事実確認の為、君に聞きたいことがあるのだ。これだけは私の予想と違うことを願っている。あくまで大人として、彼女たちの身を預かっている者の義務として聞いておく」

「はい、なんでしょうか?」

「彼女たちの誰かと···、''一線''を越えたということは···ないんだな?」

 

専務はなんだか聞きづらそうに口元に手を当ててそう切り出した

そうだよな、普通そう思うよな

専務は何も間違ってない、だからそんな不安そうな顔をしないでほしい

 

「それは絶対ないです、断言できます。だってまだ子どもですよ?親が認めた交際相手っていうならまだしも、まだ車の免許も持ってない子どもですよ?」

「そうか、良かった。それを聞いて安心した」

 

本当に心底そう思ったのか、専務は膝の上に肘をついているそのガチガチな体勢から、ソファーの背もたれに背中を預ける少し楽な体勢を取り、額に手を当てていた

 

「昼間からこんな話をしてすまない。少し気になっていてな」

「心中お察しします。気になりますって、そりゃ専務さんですもん。彼女たちには手は出してないっす。そんなことして何されるかわからないですし、嫌でしょうし。そんなことしたくなったら''そういう店''に行けっていう話です」

「わ、わかった。もういい、こういう話はやめよう。私も···この手の話には慣れていない。すまない、恥ずかしいんだ」

 

すると専務は鼻と口元を手で覆い隠すようにして恥ずかしそうに俯いてしまった

専務も一人の女性だ、少し配慮が足りなかったと反省した

 

「とにかく、近況はわかった。そこまで仲が深まっているのなら、それを無闇に引き裂くのは彼女たちのモチベーションにも影響が出るだろう。そこで、君に提案がある」

 

そう言うと専務はまた別の資料を懐から取り出した

それには、俺が現在住んでいるアパートの一室、つまりは俺が今入っている部屋について書かれている

 

「彼女たちの出入りについて第三者からのあらぬ疑いがかかることを避けるため、今君が個人として借りているその部屋を''法人''として借り上げ、そこを我が346プロアイドル部門の寮として扱いたい。これならば探りが入っても最低限弁解が出来るようになる」

「しかし···これなら家賃とかお金回りはどうなるんです?」

「会社の持ち物となるため、家賃だけではなく光熱費、ガス、水道なども負担しよう。そうだな···そこに住む以上ある程度は君にも請求するが、微々たるものだと思ってくれ」

「それは、魅力的な話ですが···」

「ただし」

 

専務はテーブルに広げた資料を再び持ち上げて、自分の膝の上に戻す

 

「これはあくまで、君の意見を尊重し決定したい。彼女たちの訪問が君にとって''鬱陶しい''と思うのなら、別の部屋を見つける手助けをしよう。そうなったら引っ越しの費用も負担する。私からは以上だ」

 

再びテーブルの上に資料を広げる専務

俺はそれを手に取って目を通してみるが、確かに専務が言っている内容に間違いはない

書類もしっかりしていて冗談で言っているわけではないようだ

つまりはこれであいつらから離れられる、少なくともプライベートでは

色々と追及されるとは思うけど

 

「ありがたい話ですね」

 

コーヒーを飲んでいた専務の目がこちらに向いた

 

「俺としては助かるので、法人として借り上げる件は、是非ともお願いしたいと思います」

「···受け入れるのか。彼女たちを」

「いえ、それは嫌ですね。子どもですから」

「だとしたら何故だ」

「あいつらが使う携帯の充電器とかヘアアイロンとか、ドライヤーとかスチーマーの電気代がわりかしシャレにならないことがあるので助かるなと思って」

「それは···申し訳ない。重ね重ね、こちらも気が回らなかった」

「いえ、専務の責任ではないと思いますので。それに、飯とか作ってくれたりとこちらも世話になることが多いので困ってはいません」

「···ふふっ、そうか」

 

俺がテーブルへと戻した資料を再び手に取る専務

 

「私としても助かる。すでにその方向で話を進めていたのもあるし、なにより君が彼女たちに与えている影響も高く評価している。何かが吹っ切れたのか、以前よりも増して仕事に打ち込む者もいる。確実に成果を出す者、新しい表現を見つけた者と、様々な実績をあげているのも確かだ。これからも彼女たちと良好な関係を築いていってほしい」

「努力します。期待に応えられるように」

「良い返事だ。最後なんだが、大きなお世話だったらすまない」

 

専務は立ち上がって自分のデスクへ資料を戻すと、再び椅子へと座った

 

「私たちは、特に交際を禁止するという対応は取っていない。表立ってはダメだが、その感情を否定するようなことはあってはならないと思っている。それが表現の向上に繋がるのなら尚更だ。彼女たちの中には少なからずそういう者もいると思うのだが、君はどうだ?」

「···俺ですか?」

「そうだ。もし特定の誰かと···というのがあれば、それを表に感づかれないようにしてほしい。必要なら手を回して···」

「大丈夫です。ないですから」

「···そうか、突然で悪かった」

 

専務の問いかけに、俺は速攻で返事を返した

 

「そうだもう一つ、君に提案があるのだが···これは好きにしてもらって構わない」

「?」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ···」

 

私の手には、演じているドラマの最終回の台本が握られていた

誰もいないオフィスビルの休憩スペースの一角で、一人でさっきから俯く

 

「あら?琴歌じゃない」

「あ、梨沙さん」

 

そんな私を見つけた梨沙さんが、私の元へと近づいてきた

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