ヘイ!タクシー!   作:4m

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ジューンプライド04

俺を混じえた食事は滞りなく進む

ますます話に花が咲き、笑いが巻き起こる

笑顔が絶えず、始終親子は満足げだった

楽しそうにしている様子から

千枝とこの母親は本当に仲が良いのだと思う

ガラリと普段と違う雰囲気が俺を包みこんだ

 

「零次さん、こっちです。あの···、入っても笑わないでくださいね」

 

食事が終わったあと、長居するのも失礼だと早々に立ち去ろうとしたが、食後にすぐに帰すのもアレだから少し休んでいってくださいと引き留められてしまった

今は千枝に案内されて、本人の部屋の前に立ちすくんでいた

階段を上がってすぐ左に曲がり、そこから延びている廊下の突き当たりの右側のドア

丁度この位置なら外から見えた二階の窓、駐車場側だ

それなら日の光も入って絶好の位置だろう

 

「一応片付けたんですが、ほ、本当に笑わないでくださいね!」

「大丈夫だ、俺の部屋より汚れてないだろう」

 

ホントアイツら片付けるという言葉を知らないのか

やれマニキュアだの手鏡だのヘアアイロンだのマスカラだのちゃんとしまう場所を決めてから持ってくればいいのに、今じゃリビングのテーブルの上から寝室のベッド横の小さなテーブルまで至るところに小物が散らばっている

廊下にある一室は段ボールとエコバッグの山だし、その奥には部屋の半分ほどの小さなスペースに布団と枕とテーブルと、小型テレビがいつの間にか置かれていてまるで秘密基地みたいになっていた

一ノ瀬志希とかあとはそこでアニメ鑑賞をしたりなど、一定の人物たちが集まって会合を開いているようだ

 

とにかく、今度からは卯月の''片付けました''という言葉を信じるのはやめにしよう

 

「じゃあ、どうぞ···」

 

千枝がそう言うと同時に目の前のドアがゆっくりと開く

まず目に飛び込んで来たのは、木のフローリングの床にしかれた丸いピンク色の可愛らしい絨毯

星形の模様があしらわれていて、女の子らしくとても良いと思う、その上には一階の家具の色合いに合わせたのか、白い小さなテーブルが置かれていた

ドアが完全に開くと、部屋の全体像が見えてきた

ドアのすぐそばの壁には、上にガラスの引き戸がつき下には引き出しがついた棚と、その隣に大きな大判の図鑑のようなものが納められている腰くらいの高さの本棚

そしてその奥、窓があるほうの壁との間には学習机が丁度よくすっぽり収まっていた

 

反対側の壁には埋め込み式のクローゼットと、その下にベッドが置かれている

ウサギが好きなのか、布団の模様にもウサギのシルエットが入っていた

おそらくクローゼットには衣服が入っているのだろう

ベッドと机の間には小さなテレビも置かれていた

置かれた家具はフローリングや壁紙に合わせて木目調や白に統一されていて、とても纏まって見えている

そして趣味なのだろうか、手作りのウサギのぬいぐるみがガラスの引き戸の中、本棚の上、机の上に飾られていて、机の一角には裁縫道具が出しっぱなしになっている

 

どこを見ても女の子らしく、とても可愛らしくなっていると思う

 

「あの、あまりジロジロ見ないでくださいね。恥ずかしいです···」

「あ、ああ。悪い」

 

そして促されるまま、俺は絨毯の上に上がり、テーブルの前に座るのだった

やはり部屋に入ると、あの女の子の部屋の独特な落ち着くような、透き通るような爽やかな香りがする

柔軟剤や洗濯用洗剤とかの匂いなのだろうか?未だに謎である

 

「今日はご馳走さまでした。久々に、あんな手料理が食べられた」

「でも、みんなも作ってませんか?響子さんとか、よく行ってますよね?」

「それとこれは違う。やっぱり母の味ってこういうもんなんだなって思った。それに、人によって作り方は違うから、色々な物を食べられて最近は楽しい」

「じゃあ今度は、千枝が作ってあげますね。私も、ママのお手伝いとかよくしてるので。料理番組とかにも出るかもしれないですし」

「そうだな。楽しみに···しておくわ」

「その顔、やっぱり私のこと甘く見てますね。いいですよ、今度びっくりさせてあげますから。私もやる時はやるんですよ!」

 

俺が半分疑うような目で千枝を見ていると、それが気にくわなかったのか、両手でガッツポーズを取り、テーブルの反対側から少し身を乗り出して俺に抗議する千枝だった

それを俺は鼻で笑うと、千枝はぷくっと頬を膨らませて、肘をテーブルにつき俺の目をジッと見る

ジトッとした目で眉がつり上がり無言のまま見つめてくる千枝に、俺も対抗してテーブルの上に腕を置いて少し前のめりになり、千枝にガンを飛ばす

千枝も意固地なのか、''んんん···!''と唸りながら目を離そうとせず、ジリジリと距離を詰めてもう少しで鼻と鼻がぶつかるところまで近づき、視線をぶつけ合っていた

 

そんな千枝に俺は自分の両眉を片方ずつ上下に小刻みに動かすと、固く結んでいた千枝の口元が徐々に動き始める

そしてそのまま眉の両方を同時に上下に動かしてやると、耐え切れなかったのか千枝の膨らませた両頬が縮むのと同時に、千枝が小さく吹き出すのだった

 

「零次さんずるーい!あはははっ」

「まだまだ甘いな」

 

お互いにクスクス笑うと、改めて俺は周りを見回す

その度に千枝は恥ずかしそうに身を細めていた

 

「可愛らしい部屋じゃないか。ほら、このウサギなんかも沢山いるし」

「あ、それ私が作ったんです。ええっとですね···」

 

そう言うと千枝は立ち上がり、俺の横にある棚のガラスの引き戸を開けて両手でウサギのぬいぐるみを抱えテーブルへと戻ってくる

 

「この子を最初に作ったんです。でも一人じゃかわいそうだったから、この子がお父さんで、この子がお母さん。それで、この子が妹なんです」

 

テーブルの上には千枝が作った沢山のウサギのぬいぐるみが並べられ、それを嬉しそうに紹介してくれた

作りを見ても、素人が作ったとは思えない程しっかりしていて、相当に手慣れているのがうかがえる

それぞれ表情が違ったり、耳が長かったり短かったりそれぞれに特徴があって、346プロのみんなみたいに個性を出したかったと本人は言う

 

「ホントに売り物みたいなちゃんとした作りだな。凄い、こいつはカッコいいな」

「せめて可愛いって言ってくださいよ~。そのピンクの子は琴歌さんをイメージしたんです。ほら、ここのお耳のところとかをお嬢様みたいに可愛くアクセをつけたりとか。もう少しでドラマがクランクアップだって言ってたのでその時にプレゼントしてあげようと思ってて」

「···ほう」

 

そのたたずまいを見ると確かに琴歌っぽい

きっと喜んでくれるはずだ

 

「···ふーん」

「どうしたんですか?もしかして、何か変なところでも!?」

「いや、違う違う。ちょっと琴歌のことを思い出してさ。最近···悩んでたからな」

「悩み···ですか?それはどんなことなんですか?」

「お前に話すのはまだちょい早いかな」

「···むむむっ」

 

そう唸ると千枝はまた先程と同じように身を乗り出してきた

 

「話してください。そうしないと千枝、ここを動きませんよ」

「いや動かないも何もここお前の部屋だし」

「早く話してくださいっ」

「わ、わかったわかった」

 

てこでも動かなそうだったので、仕方なく事情を話すことにした

といっても、俺もボソッと呟いたのをたまたま聞いただけなんだけど

こんなことをこの歳の子に話してもいいのだろうか

 

「かくかくしかじか···ということらしいんだけど。な?わからないだろ?」

「なるほど、ラストシーンで···その、き、き、き、キ········スをするわけですね。な、なるほど。なるほどなるほど···」

 

やっぱり恥ずかしかったのか、自分の唇に手を当てて落ち着いた素振りを見せながら、顔を少し赤くして俯く千枝だった

さっきからなるほどなるほど···と呟き続け、ついにはテーブルの上のぬいぐるみを一つ取り、腕をふにふに触りながらその言葉を繰り返している

 

「その···アレですよ。映画みたいにチュッて···感じじゃないですか?こう···顔をちょっと傾けて」

「あのな、したことない人にはわからないと思うけど結構難しいからな」

 

千枝は持っているぬいぐるみの顔を傾けて説明するが、いかんせん千枝も経験がないようだ、この様子でわかる

 

「このぬいぐるみ同士の顔を近づけて、くっつく直前で目をつむってみろ。それで狙ったところにつけばいいけどこれが難しい。それと一緒だ」

「じゃあ、やってみましょう。このレイ君を持っていてください」

 

と言って水色のぬいぐるみを渡された

なるほど、こいつの名前はレイ君というのか

 

「い、いきますよ。む、むむむ···」

 

そう言うと千枝は、自分の持っている白いウサギのぬいぐるみの胴体を持ってゆっくりと俺の持っているぬいぐるみに近づける

お互いの顔の距離が近づいていき、もう少しで顔が引っ付く

 

「よし、目閉じてみ」

「んんんっ···!」

 

千枝はこれでもかというほど目一杯目をギュッと閉じて、ぬいぐるみを押し当てる

ところがそのぬいぐるみの顔は全く見当外れなところへ行ってしまい、顔同士がすれ違ってしまった

 

「ホントだ。難しいですね」

「ふっふっふ。下手くそだな」

 

真面目に考えていた千枝をそう言って笑ってやると、千枝はまたまた頬を膨らませてテーブルの上で前のめりになる

 

「···じ、じゃあ」

「何」

「ホントに下手くそかどうか、試してあげます」

「···何?」

「下手くそなんだったら、練習しないとっ!」

 

すると千枝は、ゆっくりと俺へと顔を近づける

さっきのにらめっこと同じ、鼻と鼻がくっつくくらいの距離になると、千枝は目を閉じた

俺は避けるように身を引こうとするが、千枝に両手で顔を捕まれて逃げられない

千枝の顔が少し傾く

 

しかしその瞬間、コンコンコンっと入り口のドアがノックされた

とたんに千枝の肩がビクッと反応し、一瞬で身を引いて正座の状態に戻る

 

「食後のデザートをどうぞ。あら、もしかして、真面目な話をしてた?お邪魔だったかしら」

「大丈夫ママ!大丈夫だから、ありがとう···」

 

そう言うと、テーブルの上のぬいぐるみたちを抱き抱えて再び座り込む千枝

続けてテーブルの上に置かれたデザート越しに千枝と目が合うと、これまた恥ずかしそうに顔をぬいぐるみたちの中に埋めていた

 

まだまだ子どもだな

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