ヘイ!タクシー!   作:4m

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ジューンプライド05

企画を聞いた時は驚いた

テーブルの上には千枝の仕事の企画書

かなり細かく詳細に記載がされている

爛々と目が輝き、千枝は楽しそうに話す

 

「だからこの日はちょっと帰りが遅くなってもいい?ママ、お願い」

「零次さんは、本当によろしいんですか?忙しかったりしたら···」

「俺は全然。特別な日ですから、この日だけは···まぁ''特別''にということで」

「そうおっしゃるなら···、ええ。零次さんに迷惑を掛けないようにね」

「やったー!ありがとうママ!」

 

仕事の企画書をテーブルから拾い上げて、胸元に抱えながら千枝は先程の仕事の話の時とは違う年相応の笑顔を千枝ママへと向ける

その胸元で抱えている企画書にはデカデカと''遊園地レポートに関して''という題名が描かれていた

 

企画書の中に目を通したが、そこには仕事のメモ書きとは別に、楽しそうに書いたのがまるわかりなカラーペンの文字が至るところに走り、アトラクションをまわる順番からレストランの場所、ビューポイントまでこと細かに記載されていた

 

「この子が言い出したことでしょう?すいませんね、零次さん」

「前々から、誕生日には何かをあげると言っていたので丁度よかったです。これでよかったのかはわかりませんが」

「全然!すっごく楽しみにしてますね!零次さん!」

 

そんな楽しそうにしている千枝を見て、俺と千枝ママは二人してはにかむのだった

 

来たるべきこの企画の撮影日、6月7日は偶然千枝の誕生日だった

去年と同じように夜にはチビ達が集まり、忙しい中だが誕生日会が開かれるのだそうだ

前みたいにギリギリなスケジュールではなく、昼過ぎには撮影も終わり、送迎にかかる時間を考えても十分すぎる程に予定が空く

ならばということで、その空いた時間で遊園地の中で一緒に遊ぼうということになった

許可したとき本当に誕生日のプレゼントがこんなのでよかったのか?と念のため尋ねたが、もうそんな俺の言葉が耳に入らないくらいその瞬間から凄い勢いで企画書にペンで色々書き込み始めたのだった

ティーン向けの雑誌の企画ということで複数人での撮影になり、またまた偶然にもメンバーには去年と同じ、梨沙と桃華も同伴するのだった

 

あれからもう一年が経とうとしている、時の流れというのはこうも早く感じるものだったのか

なんだかんだバタバタとしたことしかしていない気がする

 

「それじゃあ千枝、あまり零次さんに無理を言わないようにね」

「もうっ!言わないよママ!」

「はいはい。それじゃ、私はこれで」

「すいません、デザートご馳走さまです」

 

俺がそう言うと、千枝ママは満足したのかデザートを運んできたおぼんを持って部屋を出ていくのだった

せっかく持ってきてくれたのだからいただくとしよう

小さなお皿の上に乗せてある半円型の小さな白いアイスクリームを、スプーンですくって口に運ぶ

バニラだ、うんウマい

 

 

「ママったら、いつも一言余計なんだから。もうっ」

「愛されてる証拠じゃないか。可愛い娘だから一言ちょっかい出したくなるもんだ。いいお母さんだと俺は思うぞ」

「きっと楽しんでるだけですよ。零次さんが来るっていうから妙に張り切っちゃって、まったくもう」

 

そう文句を言いながらもアイスを口に運んでは美味しそうに食べる千枝

口では大人びた事を言っても、やっぱりまだまだ子どもだな

 

「甘えられるときに甘えとけ、気がついたらそんな時期なんてあっという間に過ぎるんだから」

「零次さんもそうだったんですか?」

「俺は···そうだな、わからん。覚えてない、子ども頃のことなんて殆ど」

「お話聞きたいです!」

「今度教えてやる、今度な。···そんな顔するな、今度だって今度。今はいい」

 

口をへの字に曲げて、千枝はさも残念そうに若干前のめりになった体を絨毯の上へとペタンと戻す

そんな千枝がかわいそうだったので、俺の分のアイスも差し出すと渋々受け取り、口に運んだ瞬間顔に笑顔が戻った

と思ったら、自分が子ども扱いされたのが気に入らなかったのか今度はまた頬を膨らませて少し不機嫌になるとプイッと顔を背ける

まったく、忙しいやつだ

 

「···あ、そうだ!」

 

突然何かを思いついたのか、千枝が顔を背けた視線の先にあるテレビの台へと駆け寄っていく

その台のガラスの扉を開き、中から何やら白くて四角いプラスチックの箱のようなものを取り出してきた

 

「これ、買ったんですよ。前にガレージに遊びに行ったときに、みんなでやって楽しかったから」

「お前、ゲーム機って結構高かったと思うんだけど、よく買えたな」

「一応その···、お金はあるので···。お給料頂けますし」

 

そうか、そうだったな

お前達芸能人だったもんなそういえば

アイドルだったわ、そういえば

なんかもう普通に接するようになってたし、前にも奏から同じような台詞を聞いた気がする

 

「とにかく、私も練習したんですよ!今度は負けません!」

「···いいだろう。お前の挑戦受けて立ってやる」

 

それからはドライビングシミュレータにおいて、''C-Rabbit''との激闘が始まった

これじゃあ女の子といるのに雰囲気も何もあったもんじゃないな

まぁ、本人がいいならよしとしよう

始終悔しそうな顔をしてはいたが

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「あの···、ホントに帰っちゃうんですか?泊まっていってもいいのに」

「お父さんがいないのに、そんなこと出来ないさ。ご飯もご馳走になって、ゲームもした。もう十分だよ。ちょい用事もあるしな」

「たいしたものじゃなくてすみません。今度はもっとちゃんとしたものを用意しておきますね」

「いえいえ、メチャクチャ旨かったです。俺にとっては他の人が作った料理は出てくるだけでご馳走ですから」

 

佐々木家の玄関で、千枝と千枝ママが見送りに集まってくれた

上着を取りに行った際には、もう食卓の上は綺麗に片付けられていて、旦那さんの分の食事がラップにかけられて用意されていた

もう長居するのも悪いだろう

 

「それでは、俺はこれで。ご主人によろしくお伝えください」

「はい。こちらこそ、これからも千枝をよろしくお願いします」

 

俺は千枝ママに合わせて改めて一礼すると、手を振って見送ってくれる千枝に軽く手を上げて応え、玄関の扉を開けた

振り向いて閉めるまで千枝は手を振り続け、最後は千枝ママも軽く胸の辺りで手を振ってくれていた

名残惜しみながらも俺は車へと向かい、エンジンを掛けて迷惑にならないうちに佐々木家の敷地を後にする

 

さてさて···問題児のお迎えに行くとしますかねまったく

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

現場に着くと、俺の車の音に気づいた面々が大きく手を振って合図を送っていた

タクシーが行き交うその路地を縫うようにすり抜け、''酒''の文字が目立つお洒落な日本の古き良き風貌の残るたたずまいの建物の前に車を停めた

そしてその''見た目は''いい美人四人組が千鳥足で近づいてくるので、俺は慌てて車から降りてサポートへと向かう

 

「あぁ~、きたぁ~ん。タクシーのおにーさーん、ぐふぇ」

「ちょちょちょっ、車のボディに吐かないでくださいよ?早苗さん。ちょいちょい待って待って待って!ダメですって高垣さん後ろで横になったら乗れないですから!」

「うふふふっ、ちょこっとおちょこでちょちょちょちょーいっと飲んだんですよ~、うふふふふふっ」

 

後ろのドアが開いたと思ったら、相当に出来上がっているなんか緑っぽい髪でオッドアイのこれまた高垣楓っぽい何かが後ろの座席を横切るように倒れこんだ

もう肩に掛けていた白い高そうなショルダーバッグがつぶれようが何しようがお構いなしに車の足元に放り投げてそのまま寝息を立てようとする

俺は慌てて上半身を起こして膝で奥まで押しやると、反対側のドアに寄りかかってすぐに寝息を立てはじめるのだった

ああもうバッグ邪魔だ

とりあえず高垣さんの膝の上に放り投げた

高いんだか安いんだか知らん、自分で放り投げたのが悪い

 

「レイジ君ありがとねー、迎えに来てくれて。ほら、美優ちゃん。お迎えきたよ」

「えへへぇ···、うぅ···ぐすっ、ごめんなさい。お迎えにもこれない女でごめんなさい···ぐずっ」

 

三船さんが姉さんの肩を借りてダランと落ちそうになるのを支えられながらスンスン泣いている

一体なんなんだ

 

「···どんだけ飲ませたんすか」

「いやー、盛り上がっちゃってさー。まぁまぁいいじゃないのいいじゃないの。私たちが飲んだことでお店も助かるんだしさー。ねー?」

「ねー!あんまり私たちにグダグダ言うとタイホしちゃうわよ!イエーイ!」

 

こっちはまた逆にめんどくさいテンションの上がり方してるし

とにかく、ここを離れないとどうしようもない

まずはガレージに放り込むしかなさそう

 

「レイジくーん!行くわよー!車もあることだし三軒目三軒目ー!」

「ダメですって、俺明日琴歌の送迎で早いんですかr···って三船さん!路地裏じゃなくてこっちです!」

「ふぇ···?」

 

目を離すとどこかへ行ってしまいそうになる三船さんをどうにか後ろの席に押し込み、暴れる早苗さんも足で軽く蹴りながら後ろに乗ってもらうと、最後に姉さんが助手席に乗り込んでやっとその場を後にした

酒臭い車内で我慢しながらガレージに到着すると、何とか眠そうな全員をベッドかソファーにぶちこみ、事なきを得た

慣れたら慣れるとひな先輩は言ってくれたが、こればっかりは慣れるまで時間がかかる

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