ヘイ!タクシー!   作:4m

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ジューンプライド09

家に着くと、改めてその大きさに身構える

巷で噂の大豪邸、きっとそんな感じだろう

ネオンのように灯りが窓から煌々と輝く

んっ···と目を細めて眺めていると門が開いた

車をゆっくりと進め、その玄関を目指す

ライトアップされたその全天候対応型玄関

入り口の一歩手前で車を停めた

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

その瞬間に、後ろのドアが開かれてそんな声が聞こえてくる

いや、これなら車を停めたのではなく停められたと言ったほうが正しいかもしれない

車の前で、執事の人だろうかそこそこ年配の紳士が片手で止まるように俺に指示する

それに続いていつものカッコいい黒スーツ姿の支配人のような人が玄関先で待ち、後ろのドアを開いて琴歌の手を取り丁寧に車外へとエスコートしていた

 

「ただいま帰りました。お父様とお母様は?」

「はい、お二人ともすでに支度を整えお待ちでございます。お嬢様がお戻りになられた事は私から伝えておきますので、どうぞそのままお部屋へ」

「わかりました。ありがとうございますわ」

 

琴歌はそれだけ言うと、俺に改めて一礼をして車から降りる

そして支配人が玄関を開けるとエントランスの一端が垣間見え、その中心まで伸びる長い高級そうな絨毯とその両端にキッチリと一列に並んで琴歌を迎え入れている使用人の人達の姿が見えた

 

『お帰りなさいませ、お嬢様』

 

琴歌がそのエントランスの絨毯を踏んで中に入った瞬間に、その左右の使用人の人達が口を揃えてそう言うと同時に深々と頭を下げる

すごい、こんなにリアル''お帰りなさいませ''を聞いたのは人生で初めてだ

琴歌を出迎えているのは何度か見たことはあるが、中ではこんなやりとりが行われていたとは

あのよく見るメイド喫茶とかの挨拶とは訳が違う、本当の意味でのご主人に対してのおもてなしと忠誠の心を添えられた洗練されている動き

とても軽い気持ちでは成し得ない、心からのお出迎えだった

 

「はい、ただいま帰りました」

 

それに琴歌も軽く会釈して応え、天井からつり下がっている大きなシャンデリアの光に導かれるように絨毯の上を進んでいく

時折メイドさんや執事の人たちと談笑している様子から、まわりの人達も余程慕われているのがわかった

いざこうして見てみると、本当に琴歌はいいところのお嬢様なんだなと思う

その''いいところ''のレベルは桁外れだが

 

「北崎様」

「は、はい」

 

琴歌たちのやりとりに見とれていると、突如運転席の窓ガラスを軽くノックされ声を掛けられた

窓を開けるとそこにはさっきまで車の目の前に立っていた初老の紳士がはにかんだ笑顔を浮かべて俺を覗き込んでいる

とても整えられた身なりと服装そして落ち着いた口調と、まさに絵に描いたような紳士だった

 

「お嬢様からお話を伺っておりました、ようこそ西園寺家へ。わたくし達使用人皆、北崎様を歓迎致します。申し遅れましたわたくし、お嬢様の執事をさせていただいている者でございます。どうぞ、お見知りおきを」

「あ、はい。よろしく···お願いします」

 

とても落ち着いた口調でスラスラとゆっくりそう説明され、その執事が丁寧に頭を下げると、俺もなんだか緊張してしまいハンドルに手を掛けたまま頭を不器用に下げるのだった

 

「さて、北崎様。これからわたくしがお車を専用駐車場まで運転する次第でございますゆえ、どうかお外にお願い致します」

「え、あ、それはどうも···」

 

そう言って開かれた運転席のドアから俺は外へと出ると、代わりにその執事が車へと乗り込む

車が傷付かないように最新の注意を払ってシートに座ると、懐から白い手袋を取り出して手に付け、ハンドルを丁寧に握る

 

「あの、そこまでしなくてもいいですよ全然、古い車ですし。それにやっぱり運転してもらうのも悪いので俺が···」

「いえいえとんでもない。そんな事をさせてしまっては、わたくしがご主人様とお嬢様にお叱りを受けてしまいます。これがわたくしの仕事故、何とぞご容赦ください。それに、お嬢様から北崎様のお車は歴史ある貴重なものだと念を押されておりますので、丁寧に扱わせていただきます。ご安心を」

「じゃあ、それなら···お願いします」

 

そこまで説明されたら俺も引くに引けなくなり、この場は任せることにした

執事はそう返事をした俺に、にこやかに笑顔を浮かべて頭を下げると車を出そうとする

 

「あ、その、クラッチ。遊びあんまりないんでエンスト気をつけてください。こう···足離したらすぐ一気に来るんで」

「ほっほっほ、左様でございますか。ご忠告ありがとうございます。では、気をつけて運転して参ります」

 

言わなくても別に問題なさそうだったが、一応そう説明すると執事はまた丁寧に頭を下げる

そして車をまるでオートマかと言わんばかりにスムーズに発進させて玄関の屋根の下から出ていくのを見て、改めてお金持ちの家のプロの運転手のスキルの高さに驚いた

そりゃそうだ、普段から高級車に乗ってるんだから当然といえば当然か

 

「北崎様」

「は、はい!」

 

今度は琴歌に手を貸していた支配人に声を掛けられて、ぼーっと自分の車が走っていくのを眺めていた俺は驚いて返事を返してしまう

悪いと思ったのか、その支配人はすぐに俺に頭を下げるのだった

 

「驚かせて申し訳ありません。外はもう寒くなってまいりました、どうぞ中へ。ご案内致します」

「それは···どうもご丁寧に」

 

するとその支配人は邪魔にならないよう俺の前から横に少し体をずらすと、手で玄関を指し示し入るように促す

その大きな屋根付きの玄関に備え付けられた証明に導かれるように俺は歩きだし、室内へと一歩踏み入れるのだった

 

「いらっしゃいませ、北崎様。お待ちしておりました」

『いらっしゃいませ』

 

絨毯の上に乗り歩みを進めると、さっきの琴歌の時と同様に使用人の人達がその絨毯の両端にズラッと整列し、一人の号令に合わせて一斉に頭を下げる

 

「あ、どうも···こんばんは。すみませんなんか、ありがとうございます」

 

俺はそんな方々にどうすることも出来ず、エントランスの中へと入っていく

 

「···おお」

 

思わず声が出る

美城プロの本館と大差ないくらい立派な造り

さっきの使用人の人達の挨拶が響いて反響するくらいの大きな空間がクラシック調の装飾で施されて、それこそ絵に描いたようなお金持ちのお屋敷の雰囲気を醸し出している

なんだか西洋の古い建物に入っているような、気品溢れる模様が綺麗に壁全体に描かれて、床もおそらく大理石

天井からつり下がっているシャンデリアからは室内全体を照らす暖かい淡黄色の光が溢れ、奥には二階へと続いている大きな階段が中央から上がって途中で左右に別れている

たとえるならそう、高級ホテルの入り口ロビーみたいな感じだった

これが自宅だなんて信じられない、自分の家で声が反響して聞こえるって凄い

 

「北崎様」

 

俺がそんな景観に見とれていると、後ろから声が掛かる

振り返ってみると、まるでドレスのような黒いメイド服を着たメイドさんが俺に丁寧に頭を下げていた

そこら辺で売っているコスプレ用のような物とは訳が違う、ちゃんと仕事用に生地からしっかりと作り込まれた業務用とでも言うべきか、あの安物感満載の妙なテカりのないちゃんとした作りだった

頭には白いカチューシャが添えられている

 

「本日はご来訪、ありがとうございます。ここにいる間、私達が北崎様をご案内させて頂きます。何かご不便がございましたら何なりとお申し付けください」

「あはは···そんな、いいですよそこまで···えっと、気を使ってくれなくても」

「いえ、お嬢様から''日頃大変お世話になっている大切な方が訪ねてきますので、失礼のないようおもてなしするように''との命を承っておりますのでそれでは私達がお嬢様に叱られてしまいます」

 

そうか、そこまで言われたら悪い気はしないけど···何だか慣れない

しかし、目の前のメイドさんは早速俺に付いてくるように案内を始めるのだった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「こちらが、ゲストルームとなります」

 

階段を上がって、いくつもの曲がり角を曲がり、やっと部屋にたどり着く

道中も、何やら廊下の壁際に高そうな壺とか、額縁に入れられて飾ってある絵やら鷹の剥製やらお高そうな一品が飾られていたりと驚くことばかり

漫画の中でしか見たことがない光景が目の前に広がっていた

それだけでも凄いのに、その部屋の中も立派な革製の長椅子、お洒落なガラス張りのテーブル、馬鹿デカい壁掛け用のテレビに暖炉まである

 

「お嬢様はもう少しで支度が整います。後程再度ご案内に参りますので、それまではここでゆっくりとおくつろぎください。では失礼します」

「あ、はい。ありがとう···ございます」

 

それだけ言うと、メイドさんは早速と部屋を後にしていった

もうそんなメイドさんの言葉など耳に入ってこない程に俺は部屋の中を見回す

この一室だけで俺のアパートの部屋全体くらいの大きさなんだけど、これいかに

 

俺は一体どのスペースに居ればいいのだろうか

とりあえず窓から外を見てみると街のネオンが一望でき、下を見ると大きな庭園が広がっていた

きっとその中央辺りにある小さな屋根付きの温室のようなところでお茶会でも開くのだろう

白いお洒落な西洋風の椅子とテーブルが備え付けられている

 

「···」

 

とりあえず俺は窓から離れて長椅子の端っこにいることにした

何だか落ち着かない、でも琴歌にとってはこれが普通なのだろう

懐から携帯を取り出すと、琴歌から準備ができたのでお迎えに上がりますと連絡が入っていた

 

なんかやっぱり緊張してきた

どこの高級レストランに行ってもこんな接待は受けないぞ

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