中々上々な出来だったようだ
次々とおかわりの声が上がっていた
手間ひま掛けて作った甲斐があった
彼のためにも一つ残しておいてあげようか?
ラップをかければ冷蔵庫にしまっておける
『ありがとうございましたー!顔だけそっくりさん、最後はなんと団体で参戦!チーム''ゼノグラシア''の皆さんでした!いやー、今年もどれも皆さんハイクオリティでしたねー』
「ほんとだー、何となく似てるー。声以外」
「そりゃそうだよ志希ちゃん。顔だけってゆーたやーん」
私がキッチンで後片付けをしていると、ソファーに座った周子と志希が同じようにバニラの棒アイスを咥えながらそう呟いていた
''ゲームが出来なーい''とぼやいていたフレデリカはどこから持ってきたのか、恐らく零次さんの携帯ゲーム機を持ってソファーの前の床に座り込み、その両肩にはそれぞれ周子と志希の片足が乗せられていたが、本人は気にせずピコピコとゲームを続けているようだ
「ねーねー、空飛べるやつってどこにあるんだっけ?シキちゃん」
「タマムシの左辺りじゃなかったっけ?どうだっけ?」
「シキちゃんちがくなーい?船の中じゃなかったっけ?」
「いや知ってるんかーい」
そんなフレデリカに適当に相づちを打つ志希と、適当にツッコむ周子
時折三人はテレビをチラッと見ると同じところで同じように笑っている
まるで家族のような団らんだ、こんなことをしたのは久しぶり
最近は忙しかったし
「一人にやらせちゃってごめんね。アタシも手伝うからさ」
「別にいいのよ、慣れてるから。私が好きでやってることだし。それに、皆に手伝ってもらおうとしてもキッチンが狭すぎて逆にやりにくいわ」
「まぁ···それもそっか」
そう言いつつ、美嘉は私が洗った食器を乾拭きして食器棚に戻してくれていた
''アタシも家でよくお母さんの手伝いするし''と言っていたので、私もお言葉に甘えることにした
二人で片付けたおかげでテキパキと作業は進み、後はシンクの水気を拭き取れば終わる
「お、''新·ヤキニクマン''やん。いつ公開だっけ?」
「シューコちゃん観に行くの?その時はフレちゃんも観に行くからよろしく!」
「あれ?双子の妹役のキャスト決まってたの~?情報あったっけ?」
「それは未だにナゾなの。フレちゃんも探したけどネタバレが無いように予告を作ってるから。それよりも早く予約しとかないとね、ポップコーン」
「いやそこチケットやないんかーい」
作業の傍らテレビを見ると、まさに今三人が言っているように映画の予告映像が公開されていて、それを見ながら三人はワイワイ話している
様々な雑誌でもこの映画のことは最近取り上げられていて、エンタメ会でもこのコラボは一体どうなるのかと注目が集まっている作品だ
情報は極力制限されていて予想がつかない
「あはは、ヤキニクマンかぁ。昔やってるのアタシ莉嘉と観たことあるよ。今でもやってるんだ」
「あら、あなた知らないの?新しく作り直すのよ。普段のテレビ版とは違って有名な監督が担当するんだから」
「それって···何か変わるの?パラレルワールド···ってやつ?」
「今は''マルチバース''って言ったほうが通じるかもね」
「···ナニそれ?」
「おやおやぁ?美嘉ちゃんキョーミがおあり?」
私たちの話に聞き耳を立てていたのか、志希がこっちを向くと口に咥えていたアイスの棒を片手に持ってニヨニヨ笑っていた
「マルチバースについては学会の中でもちゃんとした研究材料として確立しているのだよ美嘉ちゃん。あたしもキョーミはあったけど調べれば調べるほど沼にハマりそうだったから一時的にヤメた」
「それってパラレルワールドと一緒じゃないの?結局違う世界には変わんないんじゃん?」
「それがね~、そう一言で片付けられるほど簡単なモノじゃないんだよん。よろしい、シキちゃんがほんの少しだけ講義をしてあげよう」
すると志希は咥えていたアイスの棒を口から抜き取り、見えるように右手で持って私に向けた
「この棒があたしたちが暮らしている宇宙だとする。そこにはあたしがいて、フレちゃんがいてシューコちゃんがいて奏ちゃんがいて。そしていつもの知っている皆がいる世界。まぁ今暮らしているこの世界ってことだね。だけど···よいしょっ」
「んむっ」
今度は隣に座っていた周子の口からアイスの棒を抜き取り、左手に持ってこちらに向けた
志希の目の前には同じように手に持って並べられているアイスの棒が二つある
「あくまであたしたちのこの宇宙は、観測できる光がここまで届いている範囲、何十億年も前のビッグバンが起きて宇宙が広がっている範囲しかわかっていない。その外側にはもしかしたら、同じようだけどちょっと違う宇宙が何個も存在してるかもしれない。これがマルチバースの考え方''の一つ''っていわれているのだ。現にあたしのアイスはハズレでシューコちゃんのはアタリ」
「あ、ホントだ」
周子は返してもらったアイスの棒を確認すると、どうやらアタリは本当らしい
「それともう一つ」
「あ~ん、フレちゃんのゲーム~」
フレデリカの頭の上から手を伸ばし、自分のアイスの棒を咥え直すと今度は床に座っていたフレデリカの持っていたゲーム機を手に持って私たちに見せてくる
ピコピコと音が鳴っていて、画面では8ビットの主人公が真ん中に立っていた
「こことは違う全くの別世界、いわゆる次元を飛び越えた先にも世界が広がっていると言われている考え方。そこでは物理法則ですらねじ曲げられていて、あたし達が想像するような魔法や生き物が存在している世界。あり得ないかもしれないけどそれは''あたし達の世界''での考え方で、あっちでは常識かもしれないってこと」
「なんかアタシには想像できないなー。もしかしたら、莉嘉がいないかもしれないってことかもしれないし?莉嘉が魔法使いだったり?」
「うん、十分考えられる。''魔法使い''の定義そのものが違うかもしれないし。そして最後に···。ハーイ、フレちゃんゲームありがと」
「あ、シキちゃんやってもいいよ。今パソコンの預かりシステム作ったお兄ちゃんの所だから」
「ここからあたしがゲームをやる未来と、やらない未来。''時間軸''っていう考え方があるかな~。どう?わかった?」
にゃはは~といつもの笑顔を浮かべていたが、どうも美嘉にはまだピンときていないようだ
少し首を傾げている
「ということは、私とか早枝はんが車を運転してる世界もある~ん?」
「あり得るよ。物理法則が違えば体の成長スピードも違うから。運転免許の取得年齢が引き下げられてるかもしれないし」
「フレちゃん達が、みーんな同じ学校に通っていてスクールアイドルをやってるかもしれないね!今とは逆にパッション溢れた感じで···グループ名は''Lucky Star''とか!」
「それは''if''って呼ばれてる考え方の一つだね。もしかしたらそういう未来や世界があるかもってやつ」
それからもソファーの三人はあーでもないこーでもないと話し合いを始めるが、最終的には一緒にゲームをやっているのだった
そうね、もし零次さんが同じ学校の高校生だったりしたら、今よりちょっと面白い世界だったかも
「どうしよう···莉嘉と仲が悪い世界だったりしたら···!あーん!そんなの想像できなーい!」
「まぁまぁ美嘉、もしかしたらの話だし深く考えないことよ。もしそんな世界が本当にあるのだとしたら、その世界の事はその世界の私たちに任せましょ。私たちが今暮らしているのはここなんだから」
「うーん···まぁ、そうだけどさ···」
変に考え出すとこういう話は止まらない
私だって、皆と仲が悪かったりする世界は嫌よ
もしそうなっていたら···、きっとハッピーエンドにしようとするはずね、そっちの世界でも私は私なんだし
「でもそうだとしたら···もしかして!零次さんがアタシたちの誰かと付き合ってたりするかもしれないってコト!?」
「そうだね~。少なくともこの世界じゃ零次さん、まだアイドル童貞だもんね、たぶん。シキちゃんも詳しいことよーわからんけども~」
「何よそれ」
始めて聞いたわそんな単語
とりあえず、さっきとは違う方向で''でも誰と···んー···''とか言って悩んでる美嘉の背中を押してリビングへと押しやった
ソファーは占領されているので、美嘉はしぶしぶ床に座り、テーブルの上に肘をつく
私は乾拭きしていた布巾を丁寧に畳んでキッチンの端っこに置くと、冷凍庫から二人分のアイスを取り出してリビングへと向かうのだった
「で、そろそろ始まるんじゃないの?琴歌のドラマ」
「そうだった!」
美嘉は慌ててリモコンを探すが見つからない
アイスが溶けてしまうのだけれど
するとフレデリカがモゾモゾと動いたと思ったら、フレデリカの寄りかかっているソファーとお尻の間の隙間から出てくるのだった
「ごめんごめーん」
「もう始まっちゃう!あ、よかった~、まだオープニング」
美嘉はすぐさまチャンネルを変えるとまだ始まる直前のようだった
琴歌と星花さんと智恵理が映っている上にタイトルロゴが表示されている
「あ、船のチケットゲットしたよシキちゃん!」
「ほんとだー、これでいあいぎり取れるね」
「あれ?空飛ぶやつとかなんとかじゃないん?」
「アンタ達ちょい静かに!アタシは今はこっちの世界に入るの!」
ーーーーーーーーーー
「零次様ー、いきますわよー」
「お、お、おう···」
琴歌のそんな抜けるような声と同時に、琴歌の手から''えーい''とボールが飛んでくる
見事な女の子投げから放物線を描くように飛んできたボールは俺がいる方向からやや外れて、横のちょっと行ったところにある駐車場に停まってるフェラーリ目掛けて緩やかに吸い込まれるように飛んでくる
「ほあぁぁぁぁ!!」
俺は全力で、無我夢中で走った
全神経を研ぎ澄まし、無駄な動きを一切無くして、車に触れること無く目前でキャッチする
筋肉を全て使い、絶対にバランスを崩すことの無いように素早くボールを胸元にしまい、元の位置に戻る
「零次様ー!上手ですわよー!」
「ここでやる必要なくないか!?」
いくら庭が広いからって、すぐそこの駐車スペースにスーパーカー停まってるんだぞ!?
クラシックカーとか限定モデルとか色々あるんだぞ!?
俺のメンタルが持たん!