ヘイ!タクシー!   作:4m

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ジューンプライド13

静かだけど、広々とした大きな地下駐車場

んっ、と目をこらしても、奥が見えない

自動車が所せましと綺麗に並んでいた

ライオン、馬、牛、珍しいエンブレム

レースカーのようなフォルムが目立つ車達

眺めているだけでもう別世界にいるようだ

息を呑んで社長の後ろで立ち尽くす

 

「おっと、すまない。もっと明るくしよう」

 

社長がそう言うと、入り口横の配電盤をいじり、駐車場内の明かりの光度を上げる

それにより見やすくなった場内は管理が行き届いていて、綺麗な白で統一された壁、床、天井と他の色を邪魔することのない配色のおかげで、スーパーカー達の色鮮やかな色が一層際立って見える

 

「ここに来たのも久しぶりですわ」

 

スタスタと歩いていく琴歌についていく形で社長、そして俺と続いて場内を歩いていく

琴歌と社長は目もくれず当たり前のように歩いていくが、俺は自分の視線が右へ左へ

鮮やかな彩色が次から次へと飛び込んできて、普段の感覚が狂ってしまう

 

見たこともないエンブレムだ、車高が低く平べったい

乗り口が俺の腰より下だ

これでコンビニ入れるのか?

 

「それが気になるかな?無理もない、日本ではあまり見ない会社の車だからね。すまない、アゲーラのキーを頼む」

「畏まりました、旦那様」

 

壁際で俺たちの様子を見ていたあの執事が社長にそう言われると、駐車場の角にある控え室のようなところへと入っていき、中にある厳重な灰色の金庫の扉を開けていた

チラッとしか見えなかったが、中には箔押しのいかにも高そうな箱がいくつも並んでいて、その中の一つ、車と同じ綺麗なホワイトの四角い箱を取り出して、再び俺たちの元へと戻ってくる

赤い布が敷かれた黒い高そうなおぼんの上にのせられたその箱を社長の前で開けると、その中にはまるでおとぎ話に出てくる盾のような形をした手のひらサイズの何かが姿を現す

 

「お待たせしたね。さぁ、どうぞ。好きなように見てくれ」

 

社長はそう言いながらその盾のような何かを手にとって車へ向け、挟み込むようにグッと握ると、車から鈍く響くような電子音が短く聞こえると同時に、左右のヘッドライトとミラーのウィンカーが数回点滅した

もう一般車とはこのレベルから違うのか

普通の鍵の開く''ピピッ''っていう音と全く違って乗る前から高級感に溢れかえっている

 

俺は恐る恐る言われた通りに車に近づいて、そっと手を伸ばした

 

いいんだよな?触っていいんだよな?社長がそう言ったんだ、いいってことだよな?

こんな何億もするような車だけど本当にいいんだよな?

 

そして俺はついに、その車の運転席のドアハンドルに手をかけた

凄い、触った瞬間わかる

普段の手入れが行き届いているこのワックスの艶々感

指がピタッと触れた瞬間にくっつく感じではなく、少しヌルッとまるでクリームを塗った後のような感触

相当に大事にされているのがわかった、とりあえずドアを開けよう

が、しかし手前に引いても開かない

マジか、壊しちまったのか?

どうしよう、これは弁償するまで西園寺に仕える未来が確定するようなものだ

 

「零次様違いますわ、こうですわよ」

 

おどおどしている俺に対して、琴歌は当たり前のようにドアハンドルを持って手前に少し引いたまま上に持ち上げるように力を加えた

するとどうだろう、ドアが横に開くのではなくその場で90度縦に回転して中が見えるようになったではないか

 

「珍しい機構だから北崎君がわからないのも無理はない。ここの駐車場の車と車の間に結構スペースがあるのは、こうやってドアが開く車が多いからという理由もあるんだ。こういった車は中々整備工場には入ってこないかな?」

「いや···中々どころか全く見たことないです···」

「零次様どうぞどうぞ!さぁ、どうぞどうぞ!」

 

緊張している俺のことなどお構いなしに、琴歌は大層楽しそうな様子で俺に運転席に座るように促す

ハンドル、メーター、シート

どれを見てもこれはもう運転席というよりはコックピットと呼ぶに相応しい作りに俺は一瞬たじろぐが、琴歌と社長の期待の眼差しを無下にすることも出来ず、もうとにかく慎重に車へと乗り込んでいくのだった

 

「すまない、シートは私に合わせて作ってあるから多少違和感を感じるかもしれないが、そこは我慢してくれ」

「大丈夫です、はい。もう全然ホントに、大丈夫です。全然全然ホント」

 

そんなこと全く気にならなかった。ここの空間にあるもの全てがヤバすぎる

見たこともないまるでレースカーのような形のハンドル、カーボン調のインパネ、なんともいえない座り心地のシート、エアコンとその他車の機能を操作する円形のセンターコンソールと本来なら触れてはいけないものばかりだ

 

そして匂い、革製品特有のあの高そうな匂いが次に目立つ

高級ブティックに入ったときのような(高垣さんや新田ちゃんや加蓮と行った時とはちょっと違うが)、そんないわゆる''高そう''な匂いが車内に漂い、いかに自分が庶民派なのかというのを思い知らされた

 

「どうだい?ご感想は」

「いや、もう···凄いですね」

 

それしか言えなかった

もう楽しむ余裕とかなかった

とりあえず俺はこの場を乗り切ろうと必死だった

しかし社長はそんな俺に持っていた鍵を渡してくる

 

「なんだい、まだ座っただけじゃないか。ほら、エンジンを掛けて駐車場の中でも運転してくるといい」

 

社長がそう言うのと同時にガパッと助手席のドアが回転し、琴歌が慣れた様子で意気揚々と乗り込んでくると、フンスッと期待の眼差しを送り込んでくる

そうか、そのグイグイくる性格は父親譲りなのか

社長も変わらず俺に鍵を差し出してきているので、俺は渋々受け取るのだった

 

おお、鍵まで高級感が溢れてる

ひんやりした金属製、これが所有者の証といわんばかりのバッチのようなエンブレムが俺の手のひらの上で輝いてる

とりあえず俺はその鍵をそっとセンターコンソールのドリンクホルダーに置くと、ブレーキペダルを踏み込んだ

ペダルの形も鍵と同様にエンブレムと同じになっており、踏み込んだ瞬間やはり自分は今異次元とも呼べる空間にいるのだと思いしらされた

 

ブレーキを踏み、センターコンソールのスタートスイッチを押すが反応がない

メーターの電気は点く、しかしエンジンがかからない

どうしたものかと迷っていると、琴歌から''長押しするんですよ''と教えてもらった

それに少々恥ずかしくなりつつも、俺は教えられた通りにスイッチを長押ししてみた

 

だって仕方ないじゃないか、こんな車本当に乗ったことがないんだもの

しかしそんな俺のちっぽけな考えをかき消すかのようにスターターが回り始める音が後ろから聞こえた

 

そう、後ろから聞こえたのだ

 

前にあるボンネットの中ではなく、運転席よりも後ろにエンジンが配置してあるミッドシップというスーパーカーによくあるレイアウト特有の感覚

そのスターターの音でさえ高級な甲高い音がしていた

そしてエンジンが唸りだし、マフラーから重厚かつ甘美ともいえるサウンドが小気味良く駐車場内に響き始めるのだった

 

「どうだい?中々にいい音をしているだろう?」

「···はい、凄いですね。改めて···今そう実感しています」

 

ハンドルを握ってみると、高級車とはいかに完成度が高いのかと思い知らされる

エンジンの振動が車内で殆ど感じない、完璧ともいえる乗り心地だ

ドライバーと車が一体となるこの感覚、これならドライブした時なんかは最高に気持ちいいだろう

 

「そうだ。駐車場内とは言わず、私と少し敷地内をドライブしよう。いやいや、嬉しいよ。中々、普段こんな機会ないからね。それに、車の事を知っている人に乗ってもらうなら私も安心する」

「え、いや、ちょっ、ん?え?」

 

社長がそう切り出す前に、琴歌はシートベルトを引っ張りだしバックルへとはめ込んでワクワクとした表情でこちらを向いていた

社長も俺の返事も聞かず、とても楽しげなご様子で執事から別の鍵を受け取り車へと向かっていた

この車の正面に置いてある、とてもクラシックな見た目のヴィンテージカー

この車とは別のベクトルの超高級スーパーカーだった

 

「さぁ零次様、行きましょう!西園寺家自慢の中庭をご案内致しますわ!」

 

正面からはバリバリバリとクラシックカーの古きよきエンジンサウンドが鳴り響き、ゆっくりと動き出していた

 

もう腹を括るしかない

俺は車を発進させようとシフトレバーに手を掛けるのだっt···手を掛け···あれ?シフトレバーがない

あれ?どこだ?シフトレバーが見当たらn

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