子どもたちの声で賑わう、休日の遊園地
隣の遊具では子どもたちが親と遊具に乗り
ガラス張りの建物では鏡の世界に入り込む
「この鏡の世界を楽しめるアトラクションは、日本ではこの遊園地にしか存在しないようです。千枝さん、私達も後でご一緒してもよろしくて?」
「えぇっ?でも何だが恐いかも···。あ、あれとかどうかな?あの···あっ!あれお化け屋敷だった!」
「なによ~、あっちに行きたいの~?仕方ないわね~、ご本人がそう言うならそうしてあげようじゃないの~。ねぇ?桃華?」
「そうですわね、それなら仕方ありませんわ。ご本人のご希望ですから」
「ちょっ、ちょっと待って!ス、スタッフさーん!スタッフさーん!こんなのありなんですかっ!?カメラマンさんもー!!」
千枝が梨沙にからかわれ、それに便乗しているのか桃華も話を合わせる
これがいわゆる''美味しいシーン''というやつなのか、カメラマンもディレクターもノリノリでカメラを回していた
そんな御一行を俺は遠巻きに見ながら、ところどころでプロデューサーへと報告を入れる
これじゃあプロデューサー代行みたいになってるぞ、俺はただの送迎なのに
まぁ、今日は仕事休みだからいいけども
遊園地も久しぶりだ
昔仲間内で遊びに来たとき以来だぞ、姉さんたちも来るようなタイプじゃないし
ひな先輩は子どもたちが遊びに来たときに連れてくるみたいだけど···
ここが今流行っているのか?ちょっと都会から離れてるお陰で、広々とした土地に構えている
「ではでは続きまして、このお化け屋敷は県内でも珍しい狭いクローズドタイプでありながら極上の恐怖を味わえるアトラクションとして指折りの···ってどこ行こうとしてんのよ!」
「ちょっと待って待って待って!本当に待って!許してください!私が悪かったです!さっきの鏡張りのほうがいいですー!」
「まぁ、千枝さんったら。我が儘ですのね」
「そういうんじゃなくてーっ!!」
出入り口から離れようとする千枝の腕を掴み、逃がしはしないと引っ張っていこうとする梨沙と、それを静かに見守る桃華
元々このお化け屋敷には入る予定だったのか、スタッフからGOサインのカンペを出され、三人は頭に小型カメラを設置されると''ふぇ~ん···''という千枝の声と共に中へと入っていく
入る前から泣いてどうすんのよという梨沙のツッコミが聞こえたのを最後に扉が閉じるのを見届けると、俺は近くのベンチへと腰を下ろして、三人が入っていっている隙に機材の点検をするスタッフ達をボーッと眺めていた
『ぎゃあぁぁぁぁ!!!』
お化け屋敷の中から心のこもった魂の叫びが聞こえる
これだけ驚いてもらえるんだからお化け役の人たちもやりがいがあるだろう
『ムリムリムリムリィィィ!!』
さすが現役アイドルだ、しっかりと腹から声が出てる
レッスンの成果を遺憾なく発揮してるな、さすがプロだ
あれだけの声量を出させるお化けの方々も凄い
『ちょっ!なんでアタシなのよ!いやぁぁぁぁ!来ないでっ!ふざkあああぁぁぁぁ!!』
おまけにキチンと同行者にまでケアを忘れないサービス精神
お互いにプロだ、スタッフ達も大層喜んでいる様子でカメラ映像を確認している
ほうほう、あいつが恐怖におののき叫んでいる様子は珍しい
実に面白い、もっとやってやれやってやれ
俺が願うまでもなく、撮影中お化けの方々はそれはもう大層なおもてなしをしてくれていた
あいつらがお化け屋敷から出てきた瞬間には
この世のものではない物を見てきたかのような表情でビクビク震えていて(桃華を除き)、監督に梨沙は散々抗議しているのだった
しかし監督は今回のお化け屋敷は気に入ったのか、その監督に詰めよってツッコミを入れる場面も含めて全く文句を付けることもなくOKサインを出してカメラをカットさせる
スタッフの人達がお昼の準備をし始めている中、呼吸を整えている三人(桃華は比較的落ち着いている)を眺めていると、こちらの視線に気づいたのか梨沙がツカツカとこちらに歩み寄って、''何笑ってんのよっ!!''とローキックを食らわして来るもんだから頭を押さえてやるとキーキー言いながら今度は腕を振り回して引っ掻いてこようとする
はっはっは、満足。俺は大いに満足だ
これは今後永遠とネタにしてやろう
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「今日は、零次様は来られないんですね」
「はい、仕方ありませんわ。何でも、他に同行しないといけないところがあるらしく···。せっかく今日はお仕事が休みだと言っていたから、お昼でもご一緒にと思っておりましたのに」
星花さんと教会の長椅子に座りながら、私は目の前にある大きなステンドグラスを眺めつつ、昨日の夜の事を思い出していた
てっきり泊まっていくものだと思っていたので、お部屋を片付けたり、新品で買った大きなテレビを設置したり、ベッドメイクを自分でやっていたりしたのに、キャッチボールが終わった後にそそくさと帰っていってしまった零次様
なんでもガレージで酔っぱらいの方々(?)の介抱をしないといけないとかなんとかでしょうがない···みたいな事を言っていましたが、やはり、私のお屋敷は居心地が悪かったのでしょうか?
よくよく考えてみると、零次様は始終緊張していらしたみたいですし、こういう時にどうすればいいのか経験が無いことも相まって、窮屈な思いをさせてしまったのでは···
考えれば考えるほど思考が悪い方向へと働いてしまう
普通の家を一軒別に建ててしまうとか···
いけませんわ、それにはまず土地の折り合いをつけなくては
車をしまっておける大きなガレージも必要ですね、そうしておけば皆さんでバーベキューもできますし···」
「わたくしはプールもほしいですわよ、琴歌さん。欲を言えば、バイオリンを弾くことができる防音のスタジオも」
「はっ!私ったら、お恥ずかしい···」
いつの間にか独り言のように呟いてしまったのか、私は恥ずかしくなり顔をうつむかせてしまう
とにかく、今は撮影に集中しないと
「もう少しで本番ですー!西園寺さん!準備お願いしまーす!」
『はーい』
「は、はい!」
思わず私は立ち上がる
その際に、教会内に響いたスタッフの方々の合わせた返事と同じくらいの声量で応えてしまったことが恥ずかしく、また長椅子に座り込みうつ向いた
しかし、そんな私をエスコートするように、結婚式に参列する際の素敵なドレスの衣装を纏った星花さんは私の手を取って立ち上がる
その時の星花さんはとても紳士的で、女性なのになんだかカッコいいと思ってしまった
「さぁ、琴歌さん。参りましょう。わたくしも早く、''あの衣装''を纏った琴歌さんを見てみたいですわ」
「で、ですが。やはり私にはまだ早いような···。それに、どうせなら···」
私はまた教会内を見回すが、いくら捜しても彼はいない
カメラを設置するカメラマン、他のキャストの衣装を直す衣装さん、現場を仕切るディレクターと周りはスタッフだらけだ、本当に私がアレを着ても良いのだろうか?
男性の意見も聞きたかったので、少し心細い
「きっと素敵ですわ。それなら、写真を撮って送ってみましょう。彼もきっと、わたくしと同じ感想を述べる筈ですわ」
「それは···!あの···大丈夫ですわ。写真ではなく、これはその、直接···」
「···まぁ、わたくしとしたことが差し出がましいことを。そうですわね、直接見ていただいたほうが喜ばれますわ。さぁ、参りましょう。今はこんなことを言うのもなんなんですが、今日は結構···''巻きで''とプロデューサーから言われておりまして、夕方から本当の結婚式がとり行われるとか」
「それはいけませんわ!早く準備を致しませんと!」
私のせいで本物の結婚式が出来なくなるなど言語道断ですわ!
私はさっきとは逆に星花さんの手を引っ張ってその衣装が置いてある控え室へと走った
まったく、今日送迎していただいたプロデューサーったら、真面目なのはいいのですが、仕事の事しかおしゃらないんですもの
私は勢いよく控え室の扉を開くと、''それ''はいつの間にか用意されていた
今も衣装さんの方々数名が形が崩れないように最新の注意を払いながら、私が部屋の前に立っていることに気が付くと、こちらに来るように手をこまねく
「さぁ、琴花さん」
星花さんはそれだけ言うと、私の肩を押して部屋の中へと入れる
気が付くと、私の後ろには星花さんはいなくなっていた
それほどまでに、目の前の純白のドレスに目を奪われる
女の子なら一度は憧れる、誰もが主役になれる最高の舞台での最高の衣装
それが私の体のサイズに完璧に合わせられ、袖を通されるのを今か今かと待っている
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「いや~、まだっすかね琴花ちゃん」
「···ああ」
「''ああ''って···ってその手に持ってるのまたサプリっすか?ジャーマネからちゃんとした朝ごはん食えって言われてるじゃないっすか」
「いや、これはいいんだ。これは俺のじゃなくて、''いつも''のやつ。後で渡す」
「あぁ···。それ、ヤバ系じゃないっていうのは聞きましたけど、本来どこで手に入るんすか?女の人じゃないとダメなんじゃないんすか?」
「俺の''上''に頼めばいくらでも手に入る。使い方は違うが···。明日は最終日だ、''時期''的にも丁度いい。今までの集大成ってわけだ」
「口実も丁度いいっすね。言ったらついてきますよきっと」
「今夜は前祝いだ。今日は奢ってやる」
「マジっすか!行きます行きます!」