ヘイ!タクシー!   作:4m

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ジューンプライド17

あの後は昼休憩に入り、レポも兼ねた昼食

常にトークも交えないといけないとは忙しい

楽しみつつ食べながら仕事をする。大変だ

 

「ん~、いいですわ。この濃厚なミルクのジェラート。全く嫌味を感じさせない味わいに喉越し、これならいくらでも食べられそう」

 

ここの撮影が終われば今日の仕事は終了

最後に美味しいスイーツの食レポというだけあって三人にも気合いが入っているように見える

 

「このクッキー&クリームも最高よ。スイーツは別腹って言うけど、これだったらいくら食べてもお腹に入るのも納得だわ。千枝も早く''こっち''に来なさいな」

「待ってよ~。このパスタ美味しいんだもん。頼みすぎた私も悪いんだけど···」

 

一人パスタを頬張っている千枝に、二人は見せつけるようにスイーツが乗っているスプーンを口に運んでいた

それを羨ましそうに見ていた千枝もあと少しで皿の上の料理が無くなる

欲望に負けそうになり、一口だけ···と人差し指を立てて二人の同情を誘うが、''ダメよ''、''いけませんわ''と厳しい返事を返されてしまっていた

その光景が微笑ましかったのか、お店のお客に紛れ込み昼食を取っていたスタッフ達からも笑いが漏れる

 

「いや~、いいですね。おたくのアイドルさんたち!最近の女の子!って感じで。これなら色々な所から引っ張りだこでしょう!ドラマも好調みたいですし!」

「はぁ···まぁ、みたいですね。どうも、ご丁寧に」

 

やっぱり何か勘違いされているのか、スタッフに紛れて俺も昼食を取っていると、番組のディレクターから声を掛けられる

台本を片手に、今日レポートしたアトラクションのアイドルの反応や、実はこういうシチュエーションも撮ってみたかったなどと色々反省点も踏まえた注文をされるが、俺にはどうしようも出来なかったのでなるべく上手い具合に聞き流していた

 

俺の目の前に広げられた台本はペラペラとページをめくられて、このレストランの項目が出てくる

そこには映したいシチュエーションが印刷されて書き連ねてあるが、手書きで余白に他にも余裕があれば撮ってみたいものも書いてあるようだ

元々撮影予定だった部分は終わっているのか、赤ペンでレ点がつけられていて大方それで埋まっていた

 

あいつらもさすがプロ、見かけによらず仕事はキチンとこなしているようだ

 

「それでですね、この際ですから一つ撮ってみたいシーンがあるんですが···、ご協力お願いできますかね」

「はぁ···、いいのか悪いのか、俺には判断ができませんが。いいならいいんじゃないですかね?」

「そうですか!」

 

ディレクターは嬉しそうに返事をすると、ページをめくって興奮気味に話を進める

どうやら相当自信があるように見えた

 

「346プロさんの上の方には許可をいただいておりますので、アイドルの皆さんのイメージを損なうことは致しません。ただ、このシチュエーションを撮るなら普段親しくしている男性の方が、アイドルの表情がより自然に取れると思いまして」

「どれどれ···」

 

やると言ってしまった以上後にも引けないので、ディレクターがテーブルの上で開いているページを覗き込む

 

「···これを俺にやれと?」

「そうです!」

「''そうです''ったって···」

 

これは本来、イケメンのアイドルとかが相手役のほうが、なんだ···そう、あれだ、''映える''んじゃないのか?

ほら、最近テレビに出てる···天ヶ瀬なんとかみたいな

 

「相手役の男性はカメラに映らないので、心配はいりません!ただ、シチュエーション的に一人称視点での撮影になるので、小型カメラを着けて臨んでいただくことになります。どうでしょう?ご協力いただけます?」

「···そうですね」

 

ふと、あいつら三人を見てみる

千枝も無事に料理を食べ終わり、やっとスイーツにありつくことが出来るみたいだ

テーブルの上にはその為のこのレストランイチオシのメニューがすでに運び込まれてきている

千枝の表情も今か今かと目を輝かせて監督の指示を待ち、目線が監督のほうへと泳ぎまくっていた

 

どうやら、俺が''うん''と頷かない限り撮影が進まないらしい

逃げることもできず、このまま''お預け''の状態も可哀想だったので、俺は渋々首を縦に降ることにする

 

するとすぐさまディレクターは三人の元へと飛んでいき、台本を片手に状況を説明し始めた

三人は黙って聞いていると、ディレクターの''安心してね、相手は君たちのプロデューサー···''辺りの説明で三人は今この現場にいない筈のプロデューサーという存在に首をかしげると、続いてディレクターが俺のほうに指を指した瞬間、納得するかのように小刻みに顔を縦に震わせていた

 

ディレクターから合図があったので俺もそのテーブルへと向かう

 

「では、このカメラを耳に着けていただいて···」

 

指示に従い、耳に掛けるようのインカムのようなものを渡された

よーく見ると耳に掛ける辺りの前方に小さなレンズのような物が見えた

すごいな、今じゃこれがカメラなのか

これだったら目線の高さで違和感なく相手が演技できる

 

「ふんっ、あんた役得ね」

「お前たちはいいのか?これで」

「別に。今のあんたはただのカメラよ」

 

早く座んなさいと梨沙が言うので、言われた通りにテーブルを挟んで向かい側に座る

ディレクターがテーブルから離れると、すぐさま監督から指示が飛び、撮影が開始された

俺の背後からカンペで指示が飛び、三人はそれに納得するように頷く

他の二人は別の席へと移動し、まずは梨沙からのようだ

 

「はい、いくわよ。ほら、あーん···」

 

···梨沙は自分が食べていたジェラートをスプーンで一口分取り出すと、俺に向かって差し出してくるのだった

なんだ?食べるのか?食べていいのかこれは?

カンペが俺の背後にあるもんだから何も見えないんだけども

 

「さっさと口開けて」

「何?これ食べんの?」

「いいから開けて」

 

言われた通りに口を開けると、そのままスプーンが口の中に飛び込んでくる

口の中に広がる、バニラと···チョコクッキーの味

お互い程よいバランスで、口の中で混ざり合う

桃華が言っていたように、濃厚なミルクの味と、それに加わるクッキーのエッセンス

これは確かに客足が伸びそうなスイーツだ、うん、ウマい

 

「どう?おいしっ?」

「まぁ、ああ。ウマい」

「そ」

 

梨沙はこちらを伺うように、普段は俺に絶対するはずがない誘うような上目遣いで一言そう言う

俺が食べている様子を楽しんでいるかのように、嬉しそうにニコニコ笑いながら頬づえをついてこちらを見ている

 

「それなら良かったわ。あんたにはいつも迷惑掛けてるし、普段あんな態度だからいいじゃない。こんな時くらい」

 

そう言って、前髪を払いながら目線を少し反らし、頬づえをついている手で口元を隠す梨沙

なんだ、こうしてると普通の女の子じゃないか

それがなんであんな普段から利かん坊なんだか

 

しばらくそうしてると思うと、後ろから監督のOKサインが声と共にとんだ

 

「くっ···、くっくっく···!」

 

···なんだ?目の前の梨沙が突然笑い始めた

なんなんだ?キチンとやることはやった筈なんだけども

 

「あっはっは!あんた何呆けた顔してんのよ!あっはっは、アタシのこと何か見直したとか思った?演技よ演技。勘違いしないことね。あー、おっかし」

 

このメスガキ

 

少しでも隙を見せたのがマズかった

目元を押さえながら俺に背後のカンペを見るようにサインを送ってくる

そこには今梨沙が言ったセリフが一言一句間違うことなく書かれており、ご丁寧に仕草まで説明されていた

 

こいつ、憎たらしい程にプロだ

 

「さ、あと二人よ。せいぜいカメラの役を果たしなさいな。言ったでしょ、''役得''だって」

 

バイバーイと素敵な笑顔を浮かべながらサラッと手を振ると、これまたサラッと席を立って二人が待機していた席へと戻っていく

 

あいつ、いつか分からせてやる

 

「次は私ですわ。どうぞ、よろしくお願いしますね」

 

梨沙と入れ替わるように、今度は桃華がやってきた

こいつも演技なのか、ニコニコと笑っている

 

女性不信になりそう

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ねぇ、これでいいかな···?」

「もうちょっと後ろに服伸ばしなさい。襟変になってるわよ」

 

梨沙ちゃんにそう言われて、私は控え室の大きな鏡の前で襟を正す

言われた通りにした筈なんだけど、ああ違う違うと梨沙ちゃんが後ろから服を直してくれた

最後に上から下まで手でパッパッと服を払うと、''よしっ''という声がした

 

「千枝さん、とっても素敵ですわよ」

「ほ、ほんとかなぁ···。なんか私、着られてる感じがちょっとするようで···」

「あら、アタシのセンスに何かご不満?」

「いや、そうじゃなくてね!何ていうか···零次さんに何言われるか不安で、あはは···」

 

梨沙ちゃんが選んでくれたデート服

ちょっと春っぽく、白のTシャツに長い黒っぽいシフォンスカート

白いソックスに、白いスニーカー

私が持っている''清純派''の印象を残しつつそれでも少し崩したような、そんなイメージらしい

 

私、そんなに清純かなぁ

結構色んな衣装着たりするし···

 

「それで何か言ってきたら、アタシが蹴り飛ばすわ。さ、早く行ってきなさい」

「でも、本当にいいの?梨沙ちゃんは···」

「アタシがあんなこと言ったせいで少し落ち込んでるみたいだから、あんたがスイーツ奢ってやればいいのよ」

「でも、それはさっき撮影で···」

「それとは別!さっさと行く!」

「は、はいぃぃぃ!」

 

梨沙ちゃんに激を飛ばされて、私は部屋から追い出されてしまった

そ、そうだよね。せっかくのデートだもん

零次さんに可愛いって言って貰いたいもん!

 

···言ってくれるかなぁ

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「梨沙さん」

「何よ」

「よかったんですの?」

「···あんたも同じこと聞くのね」

「私も一緒に居ますわ」

「別に気を使ってくれなくていいわ。それにいつも言ってるでしょ、あいつの事は嫌いよ。パパが言ってたんだから、変な男に騙されるなって」

「···そうですわね。私も父から言われていますわ、そういう時に助けてくれる人を見つけなさいと」

「···あっそ」

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