屋台で食べ物を選び、ベンチで食べる
家族連れやカップルで賑わう広場を歩く
魔法のような3D映像をシアターで見る
写真を沢山撮ったり撮られたり
カップル限定の写真機の筐体を使ったり
疲れを知らないのか次から次へと走り回る
退屈することはないが何だかこっ恥ずかしい
律儀に千枝のメモ帳は付箋だらけだった
「楽しかったですね!ここも行ったしここも行けたし···零次さんは大丈夫ですか?」
「お前···、昼前の取材でこの3Dなんとか行ったんじゃなかったっけ···」
「でも零次さんは行ってないじゃないですか」
俺の意見も何処へやら、千枝は意気揚々とその取り出した付箋だらけのメモ帳に丸をつけていく
一日付き合うとは言ったが、小学生の体力がここまで凄いとは思わなかった
そうだ、忘れかけてたけどこいつら日頃レッスンでその辺のステータス高められてたんだっけか
メチャメチャ熱い照明で照らされたまま、歌ったり踊ったりそれこそステージを走り回ったり、マラソン選手並みの体力があるんだ
そりゃあついていくのも難しい
「零次さん見てください!このシール凄くよく撮れてませんか?目がちょっとおっきくなっちゃいましたけど」
「これ以上目大きくしてどうすんだ?俺なんて足もめっちゃ細くなって別人やんけ」
「でもでも、じゃあこれは?このお姫様抱っこしてくれたやつ!」
千枝はまた嬉しそうに写真がいくつか写っているシートを持って軽く俺に寄りかかり顔を近づけて見せてくる
そこにはあの筐体の命令に従うまま、千枝を両手で抱き抱えたまま持ち上げて仁王立ちになっている一枚がプリントされていた
その写真の中で千枝も落ちないように俺の首に手を回し、頭を俺の胸に預けている
「あの···今さらなんですけど、重かったりしなかったですか?結構勢いでやっちゃってたので···」
「ああ、大丈夫だ。ミッションより軽いから」
「そ、そう···ですか。なるほど···それは、よかった···です?」
「そう。気にするな」
それだけ言うと、千枝は黙ってその他のシートを順番にめくりながら嬉しそうに見せてくる
本当ならやっぱり今日は俺じゃなくて友達とかと一緒にいたほうがいいんじゃないのかと思っていたが、それを一度梨沙に話したら''いいから一緒に行きなさい!''と言われてしまった
周りを見ても、子供連れや家族連れ、友達同士やカップル、男女だとカップルは大体同い年くらいで、歳が離れてると親子になる
俺たちはどう見られているのか、仲のいい兄妹ぐらいに思われていると願いたい
「零次さん、零次さん」
「あ、悪い」
周りを見渡していた間に、千枝はいつの間にかそのメモ帳をしまい、不思議そうな顔をして俺を見上げていた
「いえ。あ、じゃあ次は···あそことかどうですか?」
「ん?···ああ、あれか?」
「はい、あれです」
千枝が指差したのは、家族連れでも楽しめるカート場のアトラクション
サーキットを模したような一周が短いコースで、そこそこコーナーも多く走るには楽しそうだ
カートも電動の物ではなくキチンと混合油で動くエンジンのタイプだ、ぶつかっても大丈夫なように周りはしっかりとバンパーで覆われている
一人用の他に座席が二つある親子用もあるので子供も退屈しないように出来ていた
「あれなら、私も乗れます!今度は零次さんに勝っちゃいますよ!」
「ゲームですら勝てないんじゃ無理だな」
「や、やってみなきゃわからないじゃないですか!」
俺を睨み付けるその心意気やよしだがどうかな
ゲームみたいにコントローラーじゃないんだ、まずはペダルで車をコントロールする感覚を身に付けないと···と説明しても聞く耳を持たず、千枝はウサギのようにピョンっとベンチから立ち上がり俺の前に立ちふさがる
「もしかして零次さん、私に負けるのがこ、恐い···とか!」
「···ふーん」
まるでどこかの誰かに仕込まれたような煽り文句だなぁおい
いいだろう、今日はとことん付き合ってやるって言ったんだからお望み通り付き合ってやろうじゃないの
ーーーーーーーーーー
「あぁんもう!違うわよ!なんで一緒のやつに乗らないのよ!だからなn···!まったくあの子ったら···!」
「はい、ありがとうございます。あ、申し訳ありません、400円ですわね。忘れていましたわ」
なんでせっかく二人で密着できる乗り物に乗るのにわざわざ一人乗りを選ぶのよ!
千枝の事だからきっとヒートアップして、今度はあなたに勝つみたいな誘い文句で誘ったのはいいけど後に引けなくて結局本当に対決する流れになってるやつじゃない!
策に溺れるとはまさにこの事だわ
ああ、本当に行っちゃった
もうトークアプリで何か送っても気づかれないわね
「梨沙さん、お待たせ致しました。こちらをどうぞ」
「あぁ、ありがと」
ベンチに座り、振り返って背もたれに隠れながら二人の動向を伺っていると、すぐ横のキッチンカーで買い物をしてきた桃華に声を掛けられる
その両手に持っている木の棒に刺さったフランクロールを一つ受け取ると、再び振り返ってカート場を確認しながら口に運ぶ
あら、これ美味しい
フランクフルトに柔らかい少し焦げ目のついた白いパンがらせん状に巻き付いていて、食べると口の中でソーセージとパンの味が混ざり合って···小腹が空いてたから丁度いいわ
これもお昼の取材のときに紹介すればよかったんじゃない?
ってそんなこと考えている場合じゃないわ
まぁ、とりあえず百歩譲って二人きりになれる場所にまた行けたっていうのはラッキーよ
さっきのゲーセンのやつは写真撮ったらすぐ出てくるわけだし
「どうですか?お二人のご様子は」
「え?えぇ、何とか上手くいってるみたいよ。後はせっかくなんだから千枝にもう一歩踏み出す勇気さえあれば···ってアンタ違う違う!それはソーセージとパンを同時に食べるのよ!わざわざパンを剥がしてどうするの!」
「あぁ、すみません。わたくしとしたことが、お勉強不足でしたわ。お行儀悪いですわね」
アタシは慌てて横に座った桃華の手を止めた
お嬢様はこういったものをあまり食べたことがないのか、この子もこの子で時々斜め上の行動を取り始める
最近は琴歌と一緒になってインスタントラーメンを買い漁っていたので何を企んでいるのかと思いきや、自社ブランドで即席ラーメンを開発して販売しはじめたから好奇心というものは恐ろしい
大体犯人には目星はついているんだけど
でもお互いの会社にとっては利益になっているらしいので、食べ過ぎはダメよとだけ二人に注意しておいた
でも実際食べてみたら美味しかったのでこれはこれで誉めてあげた
「世の中にはわたくしの知らないことばかり、あんなに美味しいのに安いお菓子があることも知らなかったですし」
「なにそれ」
「前に、ガレージに集まった際に皆さんで駄菓子屋というお菓子屋さんに行ったのですわ。そこにはまぁ色とりどりの面白いお菓子がたくさんで!」
何だか桃華の話が引っ掛かったので思い出してみると、最近ファッション雑誌のコラムで最新式の自動販売機が何故ここに?と紹介されてた駄菓子屋があったような
そこには有名アイドルのサインが沢山あって、それがSNSでバズって人気店にっていうのを見たような気がする
「まさかアレあんた達がやったの?」
「あのお店は面白いんですのよ。お菓子が一個50万円なんですの」
「何それ暴利じゃない。庶民には全然安くないわ、逆に喧嘩売ってるレベル」
「わかってませんわね梨沙さん、あのお店では100円が100万円なのですわ!」
わかってないって···あんたに言われると何だかあれね
でも何だか楽しげに携帯でその時の写真を見せてくるところを見ると、桃華も少しずつ変わっていくのがわかった
少しだけそれが羨ましく思うのは、まだ気のせいだと思いたい
「零次様と出会っていなかったらわたくし、きっとこんな経験は出来なかったと思います。お車の事はよくわかりませんが、それも含めて自分自身、人として知らなければならなかったこともお勉強することが出来たと思います」
「そうね···」
そう言って自分のフランクロールにかぶりつく桃華と、すでに食べ終えてしまった自分の木の棒を眺めている私
くるくると指でその食べ終えた後の木の棒を回していじりながら、千枝の事を考えた
誕生日だから一緒にいてほしいなんて、初めてその言葉を聞いたときはあの子からまさかそんなセリフが飛び出すとは思わなかった
あいつに会ってからみんななんだか一歩成長していってるような気がする
人間的な部分···そう、人としての心構えというか考え方、智恵理も自信を持って仕事をするようになったし、他の子どもたちも仕事に対して前よりはあまりわがままを言わなくなった
そして···女性的な部分も、磨きをかけるようになった人たちは少なくない
それは今までに無かったタイプの物珍しさから来るものなのか、はたまた彼のそんなところに魅力を感じているのか
···ふん、どっちにしてもアタシには関係ない話ね
あいつなんてどうでもいい···そう、どうでもいいのよ
アタシはパパが喜んでくれればそれでいいんだから
それにアタシだってどこか···成長してるはずなんだから
「梨沙さん見てください、あちらのほう···何だか雲行きが怪しいですわね」
「···ホントね、あっちとこっちでこうもキッパリ天気が別れてるのもめずらしっ···ってあっち、今日琴歌たちが撮影してる辺りじゃないの?」
桃華の言う通り、この遊園地よりももっと向こう側、丁度琴歌たちがドラマのラストシーンを撮影している教会辺りを取り囲むように、黒い雲が支配しているのが見えた
スケジュール的に今日と明日しか撮影のタイミングがないって言ってたけど大丈夫なのかしら?
あれじゃあ日が差し込む画なんて撮れそうになさそうだし、最悪今日の夜にもこっちの天気も荒れそうね
「あむっ···んん、ご馳走さまですわ。とても美味しかったですわね」
「ええ、三時のおやつに丁度よかったわ。ゴミ箱ゴミ箱···あ、あったあった。ホラ、よこしなさい」
「あら、すみません。ありがとうございますわ」
唇を舌でペロッと舐めている桃華から食べ終わった木の棒を貰ってベンチとキッチンカーの間にあるゴミ箱へと捨てにいった
その際ついでにキッチンカーにあった口の周りを拭く紙ナプキンを持っていってやると、恥ずかしそうに受け取って口の周りを丁寧に拭いているのだった
「···ところで、梨沙さん」
「ん···、何よ」
自分のバッグからペットボトルの飲み物を取り出して口をつけると、桃華が口を拭いた紙ナプキンを丁寧に畳みながらアタシに尋ねてくる
何?今度は私の分のゴミも捨てにいってくれるの?
ふふん、気が利くじゃない
「あのお二人は何処へ?」
「ブーーーッッッ!!」
アタシは慌てて後ろのカート場を振り返る
コース内、いない
カート内、いない!
受付の前、いない!!
「ちょっとアンタ!何ボーッとしてんの!さっさと追うわよ!」
「すみません、わたくしとしたことが。フランクロールが美味しすぎてついうっかりー」
「いいから早く!もう!それ捨てて!」
アタシは桃華の手からナプキンを奪い取るとすぐさまゴミ箱に捨て、桃華の手を取り移動しようとするが、桃華はジッと立ったまま動かない
カート場をジーッと見ながら、ジッと立ったまま動かないのだ
「まぁまぁ梨沙さん。見失ってしまったのですから急いでも仕方ありませんわ。それなら下手に動き回るよりもどこかでジッとして待っていたほうが良いと思いません?」
「それは!···そうかもだけど、だけど!」
「わたくしたちも是非と、わたくし今思っているのですが」
そう言って桃華はまるでバスガイドのように手でカート場を丁寧に指し示している
「···それ、ただアンタがやりたいだけなんじゃないの?」
「さぁ?そうと言われればそうかもしれませんし、そうじゃなければそうじゃないのかもしれませんわね」
それってどっちなのよ
まぁいいわ、確かに走り回っても仕方ないし、そこまで言うならやってやろうじゃない
負けて吠え面かくんじゃないわよ!
ーーーーーーーーーー
「桃華、助かった、ありがとう」
『いえい···。わたく···は、当然のこ···をしただけ···すわ。今日はどうか、お二人のじ···んをたいせ···に』
電話の向こうから、風を切る音に紛れて途切れ途切れに桃華の声が聞こえてくる
それと共に何だか工事現場で聞こえるような機械のエンジン音が度々聞こえ、どこにいるのか簡単にわかった
俺たちがいる、観覧車がある高台の柵から下を見下ろすと、さっきまでいたカート場のコースで二台のカートがデッドヒートを繰り広げていた
ピンク色のカートが先行し、それを追うように黒のカートが後を追っているが中々追い付けない
それどころか差が開いていく一方であった
『こちらはもう大丈···ですので、千枝さ···と楽しい思い出を作っ···ください。では、お疲れ様で···た』
「ああ、わかった。今度埋め合わせはする。それと、あとで後ろの黒いやつに何か言われたら、アドバイスを貰ったと伝えてほしい」
『なんと伝えれば?』
「''痩せろ''と言っておいてくれ」
それだけ伝えると、電話の向こうから''わかりました。その後にどうなってもわたくしは知りませんからね''と聞こえると電話は切れた
「すみません、お待たせしました···!」
「ん」
後ろにあるトイレのドアが開いて、千枝は駆け足で俺の隣に来ると、同じように柵に手をついて遊園地を覗き込む
ここからなら遊園地が一望できていい、写真を撮るにも絶好のスポットだろう
現に周りには写真撮影をする家族やカップルがチラホラと見える
作りが上手い、下にあるアトラクションで遊んだり、レストランで食べたりした後に最後は高台に行って記念撮影、そして観覧車に乗って終わる
観覧車の降り口のすぐ横には、この遊園地の出口へ向かう中々に長いスロープのような道が伸びており、カップルなんかは観覧車でいい雰囲気になったあと、このそこそこ長い道で手を繋いで歩くんだろうか
「あの、零次さん」
「ん?」
「誰かに電話してたんですか?」
「···ああ」
携帯電話をポケットにしまうと、それが気になったのか千枝が尋ねてくるのだった
「ちょっと、''お人好し''にな。野暮用で」
「お人好し?」
ある程度時間が経って大丈夫そうだったら、自然に離れてほしい
それが裏で桃華にしていた頼み事だった
千枝がご機嫌を損ねて帰ってしまうかもしれないと、その時のアフターケアも兼ねての保険だった
あまり千枝を喜ばせる自信がなかったが、なんとか千枝は楽しそうに一緒に回ってくれた
後は帰る際に偶然を装って合流し、家まで送る
それで今日の仕事は完了だ
あいつのことだ、最後まで見守るだとか何だとか言って結局最後まで残ってるだろう
桃華も一緒だから、時間を会わせれば都合がつく
「あの···零次さん」
「ん?」
ボーッと遊園地を眺めていると、今度は何だか恥ずかしそうに俺の袖を軽く引っ張る千枝だった
その表情は、丁度沈み始めた夕日に照らされて、なんともいえない色気に包まれている
まるで雑誌の1ページみたいに、今日のデート服と表情と雰囲気がマッチしていて、なんで同級生の男子どもは今までこの女の子を放っておいたんだと疑ってしまう
「最後に···お願いがあるんですけど」
そういうと千枝は俺の袖を掴んでいる手とは逆の手で、高台の端にある観覧車を指差すのだった
「観覧車に、一緒に乗りたいです···」
···そんな表情をしてるんだ、ここでダメと言ってもこいつは絶対引かない
俺は特に何も返事をする事なく頷くと、千枝に袖を引っ張られる形で観覧車の乗り口へと向かうのだった