ヘイ!タクシー!   作:4m

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接触
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外の駐車場に車を停めて、喫茶店に入る

歴史を感じるアンティークな店内と小物

デザートとコーヒー、午後の一時の一品

猛暑から逃れてクーラーの涼しい風にあたる

 

「···はぁ」

 

そんな店内の一角、角に位置しているテーブルの上で、店員によって運ばれてきたデザートは一切口にすることなく、ただコーヒーを片手に持って店内で流れているクラシック曲に意識を持っていかれながら、ボーッと窓の外を見ていた

 

「ねぇ、ダーリン。だいじょーぶ?」

「ん?んん」

 

テーブルを挟んだ向かい側、二人掛けの長椅子の真ん中にちょこんと座り、両手でそのタピオカのカップを持って、その人物は俺の事を心配そうに見ていた

青い瞳に、変装用のだて眼鏡をかけて、被っていた帽子を自分の隣に置き、その自慢のウェーブがかった金髪を解きながら俺のほうをジッと見て、チューチューとそのタピオカを飲み始める

 

「ゆいとのデート、楽しくない?」

「いや、そうじゃない。ちょっと考えることがあっただけだ、唯のせいじゃない」

「ふーん···」

 

今度は自分の分のケーキの最後の一口に手をつけて、唯はその疑いの眼差しを俺に向けていた

 

琴歌の撮影での一件は、今のところあの場にいたメンバー達しか知らない内々の秘密となっていた

まだあのドラマの最終回が放送される時期ではないし、美城プロに出向いた時に問い詰められなかったところを見ると、誰も他人には話していないみたいだ

 

撮影の後、琴歌はあのベテラン俳優の男と食事に行く約束だったみたいだが、相手側は結局その日体調不良の為丸々一日休み、現場に来ることはなかった

あの男のマネージャーが監督とディレクターに平謝りしている姿が記憶に新しい

そしてその後なんだけど···約束通り、琴歌を病院に連れていくことになったんだが、何故かそのまま、俺が同行して診察することになってしまった

 

あの、産婦人科の前の椅子に二人並んで座る緊張感、周りにはお腹を大きくした妊婦さんや、恐らく妊娠しているかどうかを調べに来た夫婦達といった様々な''赤ちゃん''に関する事を尋ねに来た人達の中にポツンと俺たちがいるのは、何だか落ち着かなかった

 

今後しばらくはそんなことないだろうと思っていた矢先にここに来るなんて、琴歌も何だか隣に座りながらモジモジしてるし、周りの人からも、俺たちが男女で来ているというのとは''そういう関係''だと思われているのだろう

特に二人でいても気にされることもなく、診察室へと通されて、色々調べてもらった結果、琴歌は特に体には何の問題も今のところは見つからなかったので、そこはよかった

 

最後に、女医さんから''特に子作りには問題ありません。後はタイミングを見計らって性行為に励んでいただければ、きっと妊娠することができます''と、何か勘違いされているのかそういった旨のアドバイスを頂き、ご丁寧に風邪薬などの薬の服用に関しても説明してくれていた

 

そんな話をしている間、あんなことをした後だった為、琴歌もこの時ばかりは始終顔を真っ赤にして俯いていた

っていうか、西園寺グループの系列ならわざわざ俺が行かなくてもよかったんじゃないのか

社長の娘だってカルテに書いてある名前でわかるはずだし···

 

「また、考え事···なーんか怪しくなーい?」

「···別に」

「ゆいに隠し事してないよねー?」

「隠すほどのことはない。ほら、デザートやるから」

「ふーん···」

 

さっきと同じような返事をすると、こちらの顔色を伺いながらゆいは俺の目の前に置いてあるケーキをゆっっっっっくりと自分の方へと引き寄せると、無言でそれを口にし始めた

 

「あむ···んむ···、ダーリンってさ、隠し事、下手だよねー」

「···」

「もしかして···元カノ!?」

 

今度はあらぬ方向に勘違いし始めて、さっきとは逆に鼻息も荒く問い詰めてくる

が、ケーキのフォークは離さない

 

「···違う」

「でもダーリンがそんなに悩むなんて、きっと女の子の事でしょ!?きっとゆい達がいつも一緒にいるから、嫉妬してるんだよ!絶対そうだよ!間違いないよ!」

 

一口あげる!とフォークを付き出してきたので、俺は顔を前に出して遠慮なく頂くことにした

っていうか、元々それ俺のケーキなんだけどな

 

「でももう、昔の女なんだよね?そうだよ、もうダーリンに関係ないもんね!だって、ダーリンの今カノはゆいみたいなもんだもん!」

「ーーー···」

 

なんでそうなるんだ

 

「前に一緒にカラオケでラブソング歌ったし、お家にだって遊びに行ってるし、キスは···まだだけどえへえへえへへへぇ···」

「···っ、···」

 

一瞬、ゆいから発っせられた''キス''という単語に、体が反応する

俺は今まで、あいつらとは色々な思い出を作ってきたが、俺の中の線引きとして''それ''だけは回避してきた

俺が聞いてきた話の中では、あいつらに男関係の話はまったくなく、ましてや男女の関係になったという話も聞いたことがない(まゆはよくわからない)

そのこともあって俺と仕事終わりにこうして今のゆいみたいに喫茶店やファミレスや、カラオケだの服屋だの鞄屋だのには行ったことはあるが、初めてお互いキチンとデートだと言って出掛けたのはこの前の千枝が初めてだった

 

···ン」

 

俺の家に来たときだって、俺はあくまで保護者として接し、くっついてきたり同じベッドで寝たりしても、あいつらには嫌な思いをさせないように行動してきた

''そういう''のは女の子にとっては大事な物だと、先輩や早苗さんに教わったこともあって、それだけは大切にしなければダメだとかわし続けてきたが···

 

なので琴歌の一件はどうしても、俺の心の中で引っ掛かっていた

あのその場の雰囲気に任せたような、あんな琴歌に申し訳ないことを

 

···リン」

 

こんなやつより、もっとイケメンでカッコいいやつなんて周りにいくらでもいるのに

もし俺がいなかったら、もっと二人ともお似合いの、とか言われるようなカップルになって、結婚発表でお互いのファンの人達に祝福されて、幸せな家庭を持つこともできるだろう

 

「ダーリン!」

「ん?うむっ」

 

再び、俺の口の中にショートケーキの甘いクリームの味が広がった

顔を上げると、むむむ···と頬を膨らませてフォークを構える唯がいた

···また考え込んでしまったようだ

 

「また、考え事···ほんとに一体全体どーしたのっ?」

「いや、本当になんでもない。ゆいには関係ない話なんだ。俺が勝手に悩んでるだけだ」

「···キス?」

 

またその言葉に体が少し反応し、奥歯を噛み締めてしまった

 

「···え?誰と?」

「···違う」

「だってさっきもその話になったら体ビクッてなったじゃん」

 

こいつ、やはり女の子はこういうときに頭がいい

 

「···したことはある。元カノだけど」

「やっぱり元カノの話じゃーん!!」

 

もう勘弁してくれ、これ以上悩み事を増やさないでおくれよ

また唯がわーわーと喚きはじめたので、追加でガトーショコラを頼んだところ、やっとおとなしくなった

 

その後は一人暮らししているマンションに送り届けるまでの間、俺の好きそうな雑貨屋や車の車内グッズコーナーなど、なんとか俺が喜んでくれそうなところに次々と案内させられた

もっともっとダーリンのことが知りたいと、元カノには負けたくないなんて言いながら、俺に付き合ってくれていた

 

こいつらと俺の関係は、何だか不思議でつかみどころがなくて、一体どこへ向かえばいいのか

世の中には他にもこうやって、悩んでいるやつがいるのか

漫画でも、小説でも、コラムでもなんでもいい

どこかにアイドルとの付き合いかたや、そんな経験があるやつの体験談かなんかが転がっていないだろうか?

ゴールのないゴールへと向かうような、今までにない感覚に、まだ俺は迷っているようだ

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ~···」

 

なんて···なんてことをしてしまったのか

なんて···なんて情熱的な一時だったのか

今思い出しても、あの時の感覚が鮮明に蘇ってくる

彼の唇は、とても柔くて

私と口づけを交わすことで、お互いにしっとりと溶け合うような

そんなそんな、素晴らしい瞬間でした

 

少し···、いえホントにちょっと少し、シチュエーションがズルかったような気はしますが、それでも、あの瞬間は本物だったと、私の記憶に刻まれている

 

私が、皆さまの中で初めて彼の唇を奪った存在なのだと思うと、自然と頬が緩んでしまい···

 

「はぁ~···うふ、うふふ」

「···なに?」

 

目の前で、前に相談したときと同じように、テーブルを挟んで向き合っている梨沙さんが、持っている雑誌から目をそらして、私をジトッと見つめていた

 

「あら、すみません···!けっして何かあったというわけではなく···」

「まだなんも言ってないわよ」

 

そうでした、私ったら、今日は結局その後の撮影は上手くいったのかどうか、梨沙さんに報告している最中だというのに、こんな惚気た態度を

 

「···まぁ、その態度を見たら上手くいったのは見え見えなんだけど」

「はい!それはもう!ご心配なく!撮影は滞りなく無事に終わった次第でありまして!」

 

フン、フン、フンスッと首を縦に降る私に、梨沙さんはあの時と同じようにコーラが入った紙コップと、同じく紙コップにコーヒーを淹れて持ってきてくれるのだった

私はそれをありがたくいただき、一口くちをつけて気分を落ち着ける

 

「で、その、なに?き、キスシーンも上手くいったってわけね。その様子だと大分納得のいくシーンだったみたいだけど」

「それはもちろん!ドラマの最後を飾る素晴らしいものに出来上がりましたわ!ただ、そう···とても情熱的だったので、記憶に残ってしまうといいますか···」

「ふーん、ファーストキスって結構失敗するって聞いたけど、そんなによかったんだ」

 

ファ、ファーストキス···

 

「結局口つけたの?そんなに相手と相性がよかったのかしら?えっと、相手なんていう名前だっけ?最近テレビでめっきり見なくなったけど···」

 

あ、相性···!

 

「いえ、あの、れ、零次様はあの···」

「は?なんであいつの名前が出てくるのよ」

「あ、いえ、あ、間違えました!そう、今日はいらっしゃらないなぁと考えていたもので!」

「あいつは今日、唯の写真集の撮影に送迎よ。あいつも最近なんかおかしいのよね。いや、いつもおかしいんだけど、なんか心ここにあらずというか、悩んでいるというか。このあと会社に帰ってくるみたいだからシメてみようかしら」

 

零次様が悩んでいる···もしかして、私のせいかもしれませんね

せっかくお父様からあの話を頂いたのに、何だか相談しにくくなってしまいました

 

零次様···はぁ~

 

「はぁ~···」

「だからそれ一体なんなのよ」

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