お店の外の、カフェテラス
眩しく太陽の光が差し込むが、大丈夫
遠慮なく話に食っていける
ただ凪はその麗しい瞳を見つめつづけた
注目してみると、やはり完成度が高い
外見だけではなく包み込むようなその容姿
綺麗に起伏が目立つ夏服
テーブル上にその体の一部を少し乗せている
「···」チュー
「···?、?」
飲み物をストローですすりながら、同じくストローの刺さった飲み物を若干胸の上に乗せるような体勢で飲むその人物、十時愛梨と凪は向かい合って座っていた
「あ、あの···久川凪ちゃん···だったかな?私の顔に何かついてる?」
「いえ、何も。気にしないでください」
「そ、そっかぁ···」
凪も負けじと、その身体のハンディキャップに屈することないように、その胸の上で呼吸と共に踊るドリンクを見つつ、ストローに口をつけていた
ただ飲み物を飲んでいるだけなのにアイドルオーラがパない
流石はトップレベルのアイドルだ
「十時愛梨さん、あなたにお尋ねしたいことがあります」
「えぇ?なんだろう~。私に答えられることかなぁ?あんまり住宅のことはわからないよ?」
まずは当たり障りのない内容から
あまり相手に気を使わせないように、せっかく二人きりで話せる機会なのですから
愛梨さんもさっきとは違い興味があるようにストローに口をつけて若干前屈みになっていた
「あなたは北崎零次さんを愛しているのでしょうか?」
「ブフーーッ!!」
次の瞬間、愛梨さんはテーブルの上で吹き出し、持っていたプラスチックのドリンクカップを地面に落としてしまった
「な、な、な、にゃに···!何をそんな!あらら···あぁ、菜々ちゃんありがとう~」
「いえいえ!!大丈夫でしたか!?」
この方は確か···安部菜々さん
ウサミン星からやってきたという宇宙人アイドルと噂のお方だ
愛梨さんの様子を見て、店内から布巾を持って駆けつけてくれていた
愛梨さんはそれを受け取ると、慌てた様子でテーブルの上に少しこぼれた分を拭き取り菜々さんに布巾を返す
地面のアスファルトにこぼれてしまった部分は仕方がないが、ここが外でよかった
大部分の中身が失われたプラスチックのカップを店の出入口に設けられていたごみ箱に捨てると、愛梨さんは再び席に戻って凪と向き合うのだった
「もう、いきなりなんだもん。ダメだぞ~、そういうのはもうちょっと段階を踏んでから···」
「それは申し訳ありませんでした。それで、そこんとこどうなんでしょう?」
「そ、そこんとこって···?」
「もうこうなってしまった以上、段階もへったくれもありません。あなたはあの人を愛しているのでしょうか?」
この期を逃すわけにはいきません
アイドルさんたちの未来がかかっている以上、白黒ハッキリした答えを求めなければ
あの人の詳しい素性がわかりません
もしかしたら裏では、アイドルの皆さんに近づけることをいいことに嫌がっているのに無理やりご飯に誘ったり、休日に無理やり連れ出して出掛けさせたり、もしかしたら、無理やり部屋に連れ込んだりしてあんなことやこんなことを強要したりしているかもしれないですし
「そ、そう言われても···いきなりすぎて···そんなこと言われたら零次さんも迷惑だと思うし···」
愛梨さんはこめかみを手でいじりながらモジモジし始めた
ここは次の一手を打つべきタイミング
「よく、愛梨さんとあの人はここでお昼ご飯を食べている姿を見るとたれ込みがあったのですが」
「そ、そう?」
「はい、とても仲睦まじく」
そう言うと愛梨さんは、今度はなんだか嬉しそうな反応をし始めた
とても普段嫌なことをされているような態度ではない
「しかし、凪にはわからないのです。どうして皆さんあの男性をそこまで信用するのか。この会社の人間ではないとも聞いています。それなのになぜ、アイドルの皆さんは彼にそこまで固執するのでしょう」
「そっか、わからないのも無理はないよね。話しちゃダメってこともないし···あのね」
すると愛梨さんは説明してくれた
去年の春頃、あの零次さんはある陰謀から裏でアイドルの皆を助けてくれたこと
それからKBYDの仕事をきっかけに346プロのアイドル部門の活動を手伝ってくれるようになったこと
そこから段々とみんな仲良くなっていったことなどをかいつまんで話してくれたのだった
「なるほど、確かに。それなら信用されるに値する理由ですね」
「でしょ~?でもね?なんだか子どもっぽくってほっとけないところがあるっていうか。私たちよりも全然大人なのに、男の人ってそうなのかな?」
凪達のプロデューサーは真面目一辺倒な性格なのでそんなことはなかったが、よく零次さんの話はしていた
喧嘩するところをよく見るだとか、大人としての自覚を···なんてぼやいていた
仲が悪いのかそうではないのか、でもなんだか皆、何かあったら零次さんに相談したりしているようだ
何でも仕事として受け取るプロデューサーよりは、まるで同年代の友人のように相談できる零次さんの方が話しやすかったりするのかもしれない
「それで?」
「それでって?」
「零次さんのことを愛しているのですか?」
「ご、誤魔化せなかったかぁ···」
するとまた愛梨さんは''うーん''と悩んでしまった
だが逆に、悩むということはそれなりに意識している証拠なのでは?
城ヶ崎美嘉さんが出ていた雑誌のコラムでも本人がそう言っていた
カリスマギャル、引き出しが広い
「そういえば今日、凪もその''零次さん''の車を見た気がします。おかしいですね」
「おかしい?なんで?わりと頻繁に見る気がするけど」
また新しく頼んだ飲み物に口をつける愛梨さん
それは意識しているから余計目に入るのでは?と聞こうか迷いましたが、今の愛梨さんからはハッキリした答えが返っては来ないと思い言い留まりました
凪も学習するのです、これ以上愛梨さんの心を掻き乱すのはよろしくないと
「零次さんは旅行に行ったとお聞きしましたので、今日から数日会社には来ないかと」
「そうなんだ···、お友達とか、零次さんの会社の人達とかと行ったのかな?夏休みシーズンだしね。ほら、零次さん今は彼女いないし!''今は''!」
「いえ、ノーブルセレブリティのメンバーと一緒に、西園寺家が所有している島にバカンスに行ったとお聞きしました」
「ブフーーッ!!」
ーーーーーーーーーー
「···」
飛行機のエンジンの音を、こんなファーストクラスのようなシートの上で聞くなんて経験もう出来ないんじゃなかろうか?
外の景色は既に空の上から地表の滑走路のアスファルトが見える位置に変わっていて、飛行機はゆっくりと遠くに見える空港のような建物へと進んでいく
ここは···日本なのか?
飛行機に乗り込む前にパスポートの提示はなかったから日本だとは思うんだけど···周り一面が、左の窓を見ても右の窓を見ても海に囲まれていて現在地が確認できない
携帯は通じている、一体どうなってるんだ?
「零次様、お疲れ様でした。もうそろそろ飛行機が停まりますので、少々お待ちくださいね」
「ああ···わかった」
「零次さん、キョロキョロしていて可愛らしい」
やめてくれゆかり、初めてだらけでどうしたらいいのかわからないんだから
星花も俺たちを見てクスクス笑ってないでなんとか言ってやってくれ
シートベルトの着用サインがまだ消えないから逃げることもできないし···
第一、こんなプライベートジェットなんて乗るのも初めてだし、空の上でもその壁際にある高そうなソファーに座って飲み物を飲むのも初めてだった
両隣から琴歌と星花とゆかりが代わりばんこに座りながら俺に飲み物をついで話に花を咲かせるのはいいが、その今着ているよそ行きの綺麗なワンピースやスカートの値段が普段目にする服の値段より桁が一つ増えているのに余計に気を使い、密着してくるもんだから飲み物をこぼさないようにするのに精一杯で大変だった
「まぁまぁ零次様。今回はお仕事ではありませんから、そう気を張らないでください。わたくしたちが招待したんですもの、おもてなしするのは当然ですわ。わたくしたちは今は仕事上の関係ではなく、一人の人間として、一人の女の子として接してくださいね」
後ろの席から星花が気を使って話しかけてくれた
「そうですわ!せっかく零次様とお出かけ出来るんですもの!色々準備してきましたのよ!是非、夜皆さんで''七並べ''をやりたいですわ!他にもご一緒にやってみたいことが色々ございますの!」
「零次さん、是非私たちと夏の思い出をたくさん作ってくださいね」
なんとも庶民的な事を言う琴歌に対して、自身も楽しみにしているのかゆかりも一言声を掛ける
それに応えるように琴歌、そして星花と話に加わっていき、またまた女の子たちで話に花を咲かせているのだった
そうしているうちに、飛行機が建物の横で停車し、シートベルト着用のサインが消えた
飛行機から降りようと立ち上がって荷物を取り出そうとしたその時だった、どこからともなくスーツ姿やメイド姿の使用人の方々がこの客室へと入っていき、あっという間に天井の収納棚の大きな荷物を持って出口のほうへと消えていく
「心配ご無用ですわ、大きな荷物はすべて使用人の方々が屋敷へと運んでくださいます。私たちは大事な貴重品と手荷物だけ持って降りればよろしいのですわ」
と、琴歌が言うように、星花もゆかりも手提げの小さなバッグだけ持って飛行機の出口へと向かっていった
初めてのおもてなしに若干申し訳ない気がしながらも、俺も琴歌に案内されて出口へと向かうのだった