ヘイ!タクシー!   作:4m

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接触05

今までも''屋敷''というものは見てきた

ついこの間も琴歌の家に招待されたばかりだ

所有している屋敷は他にもあると思ってた

予測はしていたが、やはり想像を超えてくる

荷物は既にここに運び込まれているようだ

 

「すみません、少し窮屈だとは思いますが···」

 

とんでもない

何と比べて窮屈とおっしゃるのか俺にはわからない

この空港から屋敷まで乗せてきてくれたリムジンの中ですら俺なら住める広さなのに、琴歌も星花もゆかりも何も臆することなく乗り込んで、俺が緊張しながら車に揺られている最中も三人は着いたら何をしようかと相談していたのだから、これはこいつらにとって日常茶飯事なのだと思い知らされた

車の中にソファーと冷蔵庫があるんだぞ

一番後ろから前の運転席が見えないんだぞ

ここにベッドでも運び込んだら余裕で住める、運転は大変そうだけど

 

「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」

 

屋敷の玄関の前に車が到着するのと同時に、俺たちが乗っている後ろ側の観音開きのドアが開かれて、外へと案内された

スーツ姿の執事のような人が、車のドアを開けた状態で頭を下げている

 

「皆さま、お疲れ様でした。どうぞ、中で休みましょうか」

 

主催者の琴歌の案内でゲストの俺たちが屋敷へと招き入れられる

他の二人はさほど驚く様子なく玄関から入っていくが、俺はその屋敷の外観に釘付けだった

琴歌の家のあの豪邸とはまた違う、ここはそう、バカンスに特化した作りになっていた

西園寺家のあの住居と呼べばいいのか街の屋敷より解放的になっていて、屋敷の横のよく手入れされた広大な綺麗な芝生の庭の中央には、ティータイムでもするのか小さなテラスのようなものがあって、近くには噴水が設けられていた

そのままその庭の奥を見てみると、草木で作られたアーチ状の入り口の奥にはプールがあり、そこを上から眺められるように屋敷には大きなバルコニーがある

よく見るとそのバルコニーにもプールがあって、その脇にはたくさんのボトルが並べられているバーのようなものが併設されており、あれはナイトプールと呼んでよいのだろうか?

 

「零次様もどうぞ」

「あ、ああ。ありがとう」

 

琴歌に呼び掛けられるまで屋敷の外観に気を取られていたが、中に入るとそれはそれで素晴らしかった

ここのエントランスは天井まで吹き抜けとなっていて、中央から二階に上がる大きな階段をそこから差し込む太陽の光で照らして、より解放的な印象に仕上がっていた

階段は二階のギャラリーへと繋がっていて、そこからこのエントランスをグルッと一周するように通路が設けられており、そこから建物の左右と奥に廊下がのびていた

 

「素晴らしいですわ琴歌さん。ここならのびのびと羽を伸ばすことができますわね」

「そんな、空いているところが今はここしかなくて申し訳ないですわ。小さなところですがどうぞ、自分の家だと思ってごゆっくりおくつろぎください」

 

だからこれのどこが小さいんだよ

床は大理石だし、壁際にはなんだか高そうな絵とか壺とか置いてあるし、天井から吊るしてあるシャンデリアは高そうだし、そこのなんか高そうな石像だけで俺の車買えそうなんですけど

 

「それでは、客室へご案内しますわ。二階にございますので、私についてきてください」

 

スタスタと中央の階段を登っていく琴歌に続いて、星花とゆかりがついていく

 

「さ、零次さん。一緒に参りましょう。ボーッとしていると置いていってしまいますよ」

「わかった···すまん」

 

途中までついていったゆかりがわざわざ戻ってきて、俺の手を取って引っ張っていく

なんだか親に連れられた子どものような構図になっていて、今なら梨沙に''お子ちゃま''と呼ばれても反論できない

 

「···なぁ、お前たちはいつもこんなリゾートみたいな場所で遊んでるのか?」

「いえ、私も久しぶりです。ノーブルの皆と休みが合うことが中々無かったですし、いつもは未央ちゃんたちや法子ちゃんたちに連れられて、放課後に近場でショッピングをしたりドーナツを食べたり、私も大分''羽目を外して''遊ぶようになりました」

 

なるほど、お嬢様にとってはそれが羽目を外すレベルになるわけだ

まぁ、前にゆかりの家に行ったときも、いいとこのお嬢様って感じの家柄だったが、ご両親は一体何をしている人なのかは謎だった

今回の旅行に関しても、是非ゆかりと思い出を作ってきてほしいと送り出されたため、責任重大である

これまでとは違うことを経験することで心身共に成長してほしいと願っているのだろうか

確かに、俺たちと関わるようになってから物の見方が変わり、色々なものを吸収して学ぼうとしている

それがいいことなのか悪いことなのか、俺の家に遊びに来ることも両親は了承してるっていうんだから困ったもんだ

 

一応、遊びに来るんですがこのままでよろしいんですかとご両親に説明したが、娘が嫌な思いをしていないならそれでいい、今まで窮屈にした分、色々な事を経験させてやりたい、娘をお願いしますと言われたときにはどうしたらいいかわからなかった

ゆかりが俺のことをどう説明しているのか、はたまた西園寺家と涼宮家のご令嬢が深く関わっている男性だからと心を許しているのか

 

今回の旅行も西園寺家と涼宮家と水本家全面協力の元で計画されているみたいだし、裏で何が動いているのか···

 

「零次さんも、今回はのびのびと''羽目を外して''楽しんでくださいね。私たちがエスコートしますから」

 

二階の広い廊下のホテルのような模様の入ったカーペットの上を歩きながら、ゆかりは笑顔で俺にそう言うのだった

その笑顔はどういう意味なのか、何かを企んでいるのか、ゆかりは変わらず俺の手を引いていく

 

「こちらでございます。お荷物はそれぞれのお部屋に運び込んでありますので、確認して···あら、ゆかりさんズルいですわっ。もう零次様と仲良くなさって」

「すみません。零次さんがなんだか借りてきた猫のように遠慮してしまっていて、放っておけなかったんです」

 

琴歌が通路の突き当たりで立ち止まると、手を繋いでいる俺たちに気付き、ゆかりに問い詰めていた

バレンタインの時もそうだが、ゆかりはこういうときに''いなす''のが上手い

猫のようにヌルッと懐に飛び込み、あの時も、俺と二人きりの状況を作り出していた

隙を見せたら、いつの間にか逃げられない状況に···ということもあり得る

ゆかりの隠れた一面が見えた瞬間だった

 

「まぁまぁ皆さん、とにかく着替えてきましょう。昼食のご準備も済んでいるみたいですし」

 

星花の一言で、俺たちはそれぞれ扉の横に掛けられているネームプレートに従って部屋に入っていく

その去り際に丁度廊下を挟んで向かい側の部屋のゆかりと目があった時にニコリと微笑んでいた

一体この旅行で何が起こるのか、何を計画しているのか、俺にはまだわからない

 

そして···この用意された部屋が広すぎるのも落ち着かない

このベッドだって本来なら三~四人で寝れる大きさだ

どうしよう、こんなだだっ広い部屋のどこにいたらいいんだ

リビングの方には簡単なキッチンと、壁にはドでかいテレビが張り付けてあって、高そうなガラス張りのテーブルに、ふかふかで座り心地抜群そうなソファー、そこの窓からバルコニーに出ることも出来る

寝室にはバカデカいベッド、そのとなりに軽く物を置ける小さなテーブルが備え付けられている

 

とりあえず、運び込んでくれた荷物を玄関の扉の横から寝室へと持ってきた

その際にふと目に入った浴室もデカい、俺のアパートの部屋くらいある

 

お嬢さん方も準備に少し時間がかかるだろうし、ゆっくりと待たせていただこう

せっかく計画してくれた旅行だ、きっといいものになる

そうだなまずは、その昼食とやらを楽しみにしようじゃないか

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「みんな昼飯だぞー」

「めしー☆!」

「ごはーん!」

 

レイジくんのベッドの上から、天使二人がリビングへと駆けつけてくる

そう、今日はレイジくんがいないからこの''私''が、送迎の命を仰せ司ったのだ

夏休みの最中なのに申し訳ありませんですって?

とんでもない、夏休みなんてどうせ暇なんだからいつも暇よ!

自分でも何言ってんのかわからないけどとにかく暇よ!

行動範囲を拡大できるんだからどこにだって駆けつけてやるわ!

 

「零次もきっと旨いもん食ってる筈だから、うちらもパーッとやろうかと思って、色々焼いたぞ」

「焼きそばだーっ!」

「フランクフルトー☆!」

 

午前中の撮影が終わって、午後は珍しく何も無いのかみりあちゃんと莉嘉ちゃんはガレージに遊びにきていた

美城プロに戻ってもみんな夏休みだからと仕事に駆り出されて誰もいないし、レイジくんの新しい部屋に行っても本人はいないので、それならばとガレージに遊びに来てくれていた

選択肢の中に既にここが登録されていることに喜びを禁じ得ない

素晴らしい、この楽しげにホットプレートから料理を取っていくこの笑顔を守りたい

 

「海とか行きたいけど、忙しくて全然遊びだけじゃいけないもんねー。みりあのプロデューサーも、''忙しいことはいいことなんだぞ''って言うだけだもん」

「レイくんいたら連れてってもらえるかな?でもレイくんならキャンプのほうが好きそう」

「あいつはどうかなー···」

 

ひなちゃんが苦い顔をしている

大体今までも休みになったらレイジくんは寝てるばっかりだったし、最近になってみんなして休日にレイジくんを引っ張り出していくけど、海とか行ってもずっと眺めてて気づいたら寝てそう

 

「でもキャンプもいいよね☆!こうやってフランクフルトとか焼きマシュマロとか食べたり、花火したりとか!お姉ちゃんは海にグラビア撮影に行ったから莉嘉は山に行きたい!」

「確か···幸子ちゃんとりあむちゃんがキャンプの番組の撮影に行くって言ってたよっ!うーんとね···ネットショップの色々な道具を試すんだって!」

「ああ、アレでしょー☆。評価が☆1のキャンプ用品だけで無事に一泊して帰って来れるかってやつ」

「何それすっっっごい面白そう、見たい」

「まぁ、幸子ちゃんなら大丈夫だよっ!たくましいから!」

 

すごいな幸子ちゃん

今度レイジくんも誘っていけばいいんだ

何かあっても幸子ちゃんのほうがサバイバル能力高そうだし

 

「でもその前に···、あの零次さんの場所片付けなくていいのかな···」

「レイジくん最近ここ帰ってこないからゆっくりでいいよー」

 

私にとっては現状がうらやましい限りだ

寝巻きとして美優ちゃんや瑞樹ちゃんや楓ちゃんに貸して回しながら着てたレイジくんのスウェットや、フレデリカちゃんや志希ちゃんが勝手に引きずりだして履いて脱いでいった靴下、テーブルの上には芳乃ちゃんや法子ちゃんが食べていったお菓子の箱

りなぽよちゃんのコスメの瓶

そしてクローゼットに押し込まれているみんなの寝巻きや下着など、替えがなかったらレイジくんのボクサーパンツとか替わりに履いてたりするんだからまるでみんな彼女のように振る舞っている

 

今にレイジくん逆に襲われそうな勢いだ

休日も逆ナンされてるみたいなもんだしまったくうらやましい

 

「あ、でもー」

 

焼きそばを食べながら、莉嘉ちゃんが下に停めてあるレイジくんの車を指差した

 

「今日レイくんの車見たよ、会社の前走ってった」

「あ、みりあもね、なんか最近見るんだよっ」

「あの車?R34?」

「うん、なんか零次さんの車そっくりだから、あれー?って」

「ね、今日からいないって言ってたのに」

 

それは珍しい

あんなに古い車、好きじゃなければ探したりしないだろう

そんなにそこら辺を走ってる車でもないし、たまたま好きな人がいるんだろうか?

それとも、同じ型だから目に入りやすいのか

とにかく、他人の車にそんなとやかく探りを入れるのも失礼だろう

本当に偶然かもしれない

 

「零次さんが帰って来てるなら、夏休みの工作とか手伝ってもらおうかなーって思ってたりしたの!」

「あら~、そんなことなら言ってくれればいいのに~。アークもガス溶接機もあるから何でも作れるわよ!」

「ガスバーナーもあるし、バイスもあるし、工具ならやたら揃ってるからな。グラインダーもある」

 

去年が懐かしいな~

確か自由研究でうちに職業体験に来たんだっけ

そして初めてガレージに泊まって、みんなで夜ご飯食べて、ゲームして···

あれからもう一年かぁ、時が経つのは早いね~

 

私たちもこうやって歳をとっていくのかしら、ああ恐い恐い

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