ヘイ!タクシー!   作:4m

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接触08

つい海を眺めて現実から逃げてしまう

唇を噛み締めて頭を巡らせるしかない

培ってきた技術は無駄ではない筈だ

手助け無しに一人でやった事もある

苦しい時こそチャンスはある

例外の連続の連続、それでも乗り越えてきた

徹底的に抗うのだ

ルールなど存在しないのだから

 

「あ、消えた」

 

海を眺めていたボクの背後からそんな声が聞こえた

どうやら最後の望みである灯火が消えたらしい

 

おかしい、何かがおかしい

こんなに持ってきた道具がことごとく壊れるなんてどうかしている

上手く組み立てられたのはこの頭の上を覆っている木に引っ掛けたタープくらいで、テントも一瞬で開くワンタッチ式なのは楽で良かったけど、地面に固定する部分のポールが最初から対角に二ヶ所折れてたから固定できないし、組み立て式の小型ベッドは部品が足りなくて組み立てられなかった

 

「ちょーっ!点いてよ!ちょー!ちょー!ちょー!ちょー!何で開始五分で燃えつきてんのさぁ!」

 

りあむさんが上とか下とか引き伸ばすジャバラ部分とかを叩きながら、コンパクトに縮めておけるLEDランタンを再び起動させようとするが、うんともすんとも点かない

電池を交換しようにもドライバーでネジを外すタイプのようだった

 

「うぅ···これじゃあ夜どうやってトイレに行けばいいんだよぅ。携帯は幸子ちゃんのプロデューサーに預けちゃったし···」

 

そもそも、この企画を持ってきた段階で様子がおかしかった

りあむさんと一緒に、無人島で一晩キャンプをする

キャンプ用品は揃っているので使ってもよいという条件つき

 

おかしい、どう考えてもおかしい

ボクにそんな普通の企画を持ってくる筈がない

たかだか無人島でキャンプするだけなんて普通の企画を持ってくる筈がないのだ

今までも突然バンジージャンプに呼ばれたり、ライブ前にスカイダイビングしたり、番組中にも体を張ったりした

何故だ、何かこの収録には裏があるに違いない

 

「とりあえず···ご飯、ご飯を食べよう。朝から今まで何も食べてない···。火···火が必要なんだよね、キャンプ用のガスコンロがあるのは嬉しいn···くそちっちゃいし!」

 

箱から出したガスコンロは付属の小さな金網が一枚乗るかどうかの大変コンパクトな物で、持ち運びやすいと言えば聞こえがいいが、これではフライパンや鍋など調理に必要なものは到底使えない

神はボクたちに更なる試練を与えている

 

「うぅぅぅ···なんで、なんでこんな、どっかの錬金術師の兄弟みたいなことをぼくたちがやらないといけないんだよぅ···ぼくが何悪いことしたってんだよぉ···ちょっと最近SNS炎上したけど」

 

りあむさんが絶望し、地面に手をついて唸っているのだった

その、お気に入りのホネが書いてある白いTシャツが汚れるのも気にせずにりあむさんはガスコンロの説明書を開いてみるが日本語ではなかった

というか、説明欄に書いてあるガスコンロの絵が明らかに現実と大きさが違う

 

なんだか今日は道具がやたら壊れる気がするし、使えない気がする

 

「幸子ちゃん、もう山の下いこ?幸子ちゃんのプロデューサーに相談して船に泊めてもらおうよ~。こんなに道具が使えないんじゃムリだよ。ね?二人くらいなら増えても泊めてくれるよ!」

 

りあむさんはボクにすがるように懇願しているが、ボクの中のプライドがそれを否定するのだった

 

「ダメですよ、りあむさん。ここで挫ける訳にはいきません」

「どうしてっ!?こんなの絶対ムリゲーだよ!」

「道具が使える使えないじゃありません、あるだけマシです」

 

ボクはその新品だがある意味ボロボロの道具達を地面に並べる

よし、これだけ色々なものがあるなら十分すぎるスタートだろう

 

「アイドルって···なんなんだろう?ぼくわからなくなってきたよ···」

「ためらわないことです」

 

ボクは部品が足りなくて組み立てられなかった簡易ベッドの、恐らくメインのフレームだろう、一本の長いアルミ製の棒を一つ手にとって木に引っ掛けると、てこの原理を使って曲げ始めるのだった

 

「何やってんの?」

「パイプを加工してテントを固定します。これで寝床を確保しておかないと」

「確かに、このままじゃ左右からの防御力が皆無だけど···幸子ちゃん、どこでそんなの覚えてくんの?」

「独学です。アイドルなので」

「アイドルって···」

 

ほんの少しだけ嘘をついた、テントを固定するやり方は前に撮影した本格サバイバル、ナイフ一本で生き残るアイドルライフ!という番組で学んだやり方だが、その時の出来といったらお粗末なものだった

現地で材料を調達したのもあるだろうが、それでも出来はかわいくなかったのだ

そこで、材料がある場合はどうしたらいいのか零次さんに相談すると、''お前の生き様に敬意を評する''とか言って、てこの原理で材料を加工するやり方を教えてくれたのだった

 

これで、更に生存率を上げることができる

相方がいるなら尚更だ

 

「こっちの現場はボクが確保します。りあむさんは、はい」

「···何これ?」

 

ボクが渡したのは、りあむさんのサイズに合わせて用意されていたウェットスーツに、シュノーケル、フィン、そしてモリだった

 

「カワイイぼくのセクシーな姿をお見せできないのは残念ですが、これが完成しなければ夜を越せません。夏とはいえ潮風が当たる場所の夜は結構寒いので。なのでりあむさんは食料の調達をお願いします」

「···どこで」

「海です」

 

りあむさんはウェットスーツを胸元で抱き締めながらポカンとした表情で、海を指差すボクを見つめていた

ボクにもそれだけ大きな胸があればテレビ映えするんですが、りあむさんは本当に羨ましい限りです

さぁ、ボクに構わず思う存分海を満喫してください

 

しかしりあむさんは手で持っているモリを眺めて動こうとしない

 

「···ボクやったことないんだけど」

「大丈夫です、サメとかいない区域なので。何かあっても周りにスタッフもいますし、SNSでの炎上も海水で火消しすることが出来ますよ!」

「いやそりゃあバズりそうだけどさ···」

 

りあむさんは恐る恐る海を眺めると、すぐそこの浜辺から波が岩場に打ちつけられる音が聞こえてくるのだった

その様子を見てりあむさんはプルプルと震え始めるが、ボクが軽く肩を叩いて気合いを入れるのだった

 

「これで採ってこれなかったら、明日の帰る正午までご飯がありません。大丈夫です、りあむさんには''素質''を感じます。それに、もし食べられなくても人間これくらいの期間では死にはしません。ボクが保証しますから!失敗しても大丈夫です!」

 

元気づける為に言った筈なんですが、海に入る前から血の気が引いて、りあむさんはどんどんと顔が真っ青になっていくのだった

大海原を眺めながら、何か物思いにふけっている

 

「···でも、ご飯···」

 

メンタル的に葛藤よりも本能が勝ったようだった

 

「い、行くよ!行くっきゃないんでしょ!?生きるためだもんね!生命は海から生まれたんだからきっとぼくのことも優しく受け入れてくれるはずだよ!待ってろよっ!マグロ!サケ!フグ!サバ!カレイ!」

「そうです!その意気ですよ!」

 

そのノリと勢いのまま、林を抜けて浜辺へと駆け抜けていくりあむさん

あの人も一歩アイドルとして成長することができたようですね

後は横の岩場から海に飛び込めるようになれれば上出来なんですが、下は内側にえぐれていて障害物もないから安全で初心者向きですし

でも、そこまで求めるのはまだ酷ではあるかも

 

そのままボクは海のほうを眺めて、遠くにある同じような島々を見る

きっとお金持ちなんかは、ああいう島に立派なお屋敷でも建てて、悠々自適な避暑生活を送るんでしょうが、それがなんですか!羨ましくなんかありませんからね!

住めば都!このパイプを加工したテント(改)が出来さえすれば寒さをしのげるんだからまさにそれはお屋敷ですよそうですよ!

 

···そういえば零次さんもリゾートに行くとかなんだとか言っていたような気がします

それをいうならここもリゾートですよ!

こんな自然に溢れた避暑地が他にありますか!

 

···でもおかしいですね、一足早く零次さんは出発したはずなのに、零次さんの車を会社付近で見たような気がします

 

「よっしゃあぁぁぁ!このまま海にいけばぁぁぁ···あれ?結構深くない?ちょっと待ってこれ場所間違えたここ飛び込まないといけないじゃん。いやいやマジ無理、スタッフさん撮れ高とかじゃなくて、いやいやいやモリ持っててあげるからとかじゃなくて、ボクじゃ無理ゅん···!あぁぁぁあああーーーっ!」

 

あ、意外と岩場って滑りやすいところもあるって言うの忘れてた

しかし、時すでに遅かったようで、りあむさんの叫び声が聞こえなくなったのと同時に海面に何かが落ちた音が盛大に聞こえてきた

 

「しょっぺぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

やはり素質を感じる

次はグランドキャニオンに誘いましょう

 

というかなんか今回道具壊れすぎじゃないですか?

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

岩場に打ち付ける波の音と、時折頬をなでる涼しい風、青空の広がる空から降り注ぐ太陽の光が夏を感じさせる正午

そんな浜辺に一人、その美しい桃色の長髪をなびかせて、その涼しげな格好を見せつけるように···そう一人、少女は立ち尽くしていた

 

「···よくここが分かりましたね」

 

少女はそう呟く

まるで自分の背後にいる人間があらかじめわかっているかのように、振り向きもせず海に向かって言葉を呟くのだ

 

「もう···理由はわかっているんですよね?西園寺さん。あなたが一体何をしたのか、そして、私たちが何故ここに来たのか」

「···ええ、それはもう、''痛い程''に」

 

そう言うとその少女、西園寺琴歌はこちらにゆっくりと振り向く

風から身を守るように片腕を押さえて、振り向き様に乱れたその髪の毛を手で払い、お互いに向き合って目線を合わせる

その表情はもう、すべてを理解しているといわんばかりに落ち着いていて、それだけでも彼女が余程の覚悟を持って事に及んだかが伺える

 

「西園寺さん、こんなことをしたくはありませんでした。あなた程の人が、何故こんな···もっとやりようがあった筈です。彼のことを、あんなにも愛していたのに」

「刑事さん、あなたは勘違いをしております。私は、家柄のことは特に気にしていませんでしたの。''あなた程の''なんてそんなお言葉もったいないくらいですわ。私はただ、一人の人間として彼を愛していたのですから」

「では、何故···」

 

ゆかりの問いに、彼女は目を伏せて、ゆっくりと真実を話し始めるのだった

 

「彼が···私の、大事にとっておいたプリンを、カラメルの部分だけ残して食べてしまったんです!」

「なんですって!」

 

岩場に打ち付ける波の音が、程よく二人の会話の間に割って入り、上手い具合にその場を盛り上げていた

 

···なんだこれ?

俺は手に持っている琴歌の携帯の録画停止ボタンを押そうとしたが、まだ詳しい犯行動機が語られていないため、そのまま撮影を続行した

 

「···あなたのお気持ちはよく分かります。彼が、あなたが夫に対してどのような憎悪を抱いていたとしても、どんな人間だとしても、殺人は犯罪です。必ずや犯行を立証できるよう、我々も全力で努力いたしますので。さぁ、こちらへ」

 

ゆかりはゆっくりと琴歌に近づきその手を伸ばすが、反対に琴歌はジリジリと海のほうに向かって後ずさるのだった

息を呑む展開に、隣で星花がゴクリと生唾を飲んでいた

 

「ダメなんです、刑事さん」

「なぜ?」

「私は穢れてしまいました。もう西園寺家を名乗るわけにはいかないんです。それに···」

 

言葉が途切れるのと同時に、琴歌はその右手を自分の下腹部に添えると、優しく撫でるのだった

 

「私は···私''達''は、きっともう、この世界で、幸せに生きることはできないんですわ!」

「西園寺さん!」

 

そう言って琴歌は海に向かって走り去ろうとするが、直後につまずいて砂浜の上に倒れこんでしまうのだった

むへっ、という可愛らしい悲鳴をあげて

 

「···カット」

「カットですわー!」

 

隣にいた星花が号令を掛けると、琴歌は勢いよく顔を上げる

その砂まみれの顔の砂を手で払い落とし、ゆかりと一緒に駆け足で戻ってくる

その足取りは満足のいく出来だったのか、どこか軽やかだった

 

「見ましたか零次様!私の怪演を!一度、波打ち際に追い詰められる犯人役を演じてみたかったのですわ!」

「見事でした、琴歌さん。私もカッコいい刑事役というのは少し興味があったので楽しかったです」

 

ドヤッとした顔で''ふんすっ''とやりきった顔をしている琴歌に、ゆかりは小さく拍手でその演技を称えていた

しかし、星花はどこか納得していないようだった

 

「夫を殺した理由にもう少しパンチがほしいですわね。ちょっと理由としては弱いところがあるように思えますわ」

 

ツッコミどころは色々あるが、一番はそこだろう

誰だこの脚本書いたやつは

 

「そんな、結構可愛らしいものを目指したんですが···」

 

ツッコミどころはマジで色々あるが、そこは可愛くしたらダメだろうゆかり

お前は犯罪者に向いてないみたいで本当に良かった

 

「まぁまぁ皆さま、積もる話は''海の家''でいたしましょう!」

「···あんの?」

「はい!このバカンスの為にご用意させていただきました!''海といえば''ですわ!」

 

···なんだろう、嫌な予感が少しする

このご令嬢方、いちイベント毎に何をするのかわからないから心臓に悪い

今回の為にご用意したって言ったな、焼きそばとか売ってるのか?

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