隙間風が一切入らない
外観も木目調に整えられて、景観もいい
太陽の光も丁度よく差し込んでいる
俺達はリビングの中央に座っていた
魅力的な料理の数々がテーブルに並ぶ
テレビではあいつらの活躍する姿
ルックスはやっぱり完璧でアイドルしていた
隣にいるやつらも同じなんだが
「落ち着きますわね琴歌さん、まさか海にこのような場所を作るとは」
焼きそば、かき氷、フライドポテト、ホットドッグ
軽食が専門のスタッフの方によって振る舞われ、俺達は腰を落ち着けて談笑に浸る
星花はこの海の家の食事スペースをくるっと見回していて、ゆかりはかき氷にありつきながら時折頭を冷たそうに押さえていた
琴歌はフライドポテトを摘まみながら、さっき撮っていた謎ドラマの感想を嬉そうに語っている
お互いの食べ物をシェアしあい、食べさせたり食べさせられたり、俺の焼きそばも大体持ってかれていた
「零次さん、一口どうぞ。はい、お口を開けてください」
「いいっていいって、箸でいくから箸で」
「まぁ、そのような食べ方があるのですか?私もヤングの方々の文化を学ばなくては」
「これは邪道だから琴歌お前、''お食事会''とかで絶対真似するなよ」
かき氷をストロー型のスプーンで一口分差し出してくるゆかりに対して、俺は箸でゆかりの持っているカップからメロンのかき氷を一口分取って口に運んだ、うん美味い
まるでわたあめを食べたときのような、氷が一瞬で口の中に溶け出して、シロップの味が広がっていく
かき氷の見た目も、ただ氷を削った物ではなくて、専門店のようなふわっとしたわたあめみたいな形をしていた
俺が受け取らなかったことで寂しそうな表情をしていたゆかりだったが、隣にいた琴歌がその肩をぽんぽんと叩いて、目を瞑りながら口をゆかりのほうに少し差し出すと、その口元にスプーンを持っていって琴歌が代わりに食べたので満足げな表情を浮かべていた
「···さて」
飯は美味い、それは大変満足だ
焼きそばは最高だし、かき氷はプロ級だし、とても''海の家''にしては腕がたちすぎるくらいの出来映えであった
百歩譲ってそこはいい、だが問題はこの建物だ
「琴歌、この場所がなんだって?」
「はい!''海の家''ですわ!」
どっからどう考えても俺が想像してた海の家とは全く違う
一戸建てみたいな立派な作りだし、中もまるでログハウスみたいに綺麗に整ってるし、屋敷みたいにバルコニーはあるしベランダはあるし
海の家ってこう、木でできた屋根の下で、料理作る場所と食べる場所しかないシンプルなところで、左右からの防御力がゼロな開放的な印象が強いんだけど···
海の家ではなく、これじゃあ海''に''家があるようなもんだ
ここなら余裕で暮らせる、このセリフここに来てから何回言ったんだ?
「前にお父様にご相談したら、今度ゲストをお招きする時に楽しんでもらえるようにと作っていただけたんですの!初披露だったので緊張しましたわ!喜んでいただけて何よりです!」
ということはここは、ピッカピカの新築というわけだ
奥にあるトイレもシャワー室も新品だったし、この海の家の周りの浜辺も危険のないように整備されていた
凄いな社長、娘の為ならお金も惜しくはないのだろう
たが単に甘やかして育ててるわけではない、キチンと礼儀作法を教えて、家柄もあるが文字通りどこに出しても恥ずかしくないように育てている
星花もゆかりも、同じように育てられたのだと思う
「なんか、愛されてんな、お前たち」
「零次様のお父様は?どのような方なんですか?」
「お父''様''なんてそんな大層な偉い人じゃない。特に、お前たちの''お父様''たちと比べるとな」
もうしばらく会ってない、何年も会ってないわけではないが、帰ったら実家のリビングでお互いに大して喋らずにソファーに座りながらそれぞれテレビ見たり新聞読んだり好きなことして、親父の車で街に出て飯食って帰るって感じ
基本こっちのやることに何も言わないし、あっちでやってることも詳しく話したりもしない
やってることも、昔から変わってない
朝、家の仏壇に手を合わせて仕事に行き、帰って晩酌して寝る
変わらなさすぎて逆に恐い、健康診断とかちゃんと行ってるのかすら怪しい
「お元気そうで何よりですわ。ですがやはり、寂しいとは思います。わたくしの家でも週に一度は涼宮の家に家族集まって夕食をいただきますの」
「私も、たまに家に帰ります。ずっと寮にいると両親がやはり心配だと連絡をしてくるので」
「私の家は、前に零次様がいらっしゃった時に見ていただいた通り、家族仲良く暮らしていますわ!仕事で忙しいときは帰ってこないこともありますが、それでもなるべく家族が揃う時間を大切にしています。この前もお父様と一緒に病院へ···」
「なんだ、どっか体悪いのか?」
そう言うと琴歌は両手を前に出して、違う違うと手を振るのだった
「心配なさらないでください。私は家柄、海外に旅行に行くことが多かったので、定期的に感染症等にかかっていないかどうか、病院で検査を受けているんです。アイドルのお仕事を始めてからは日本を離れることは減りましたが、小さい頃からの習慣だったのでお父様と一緒に」
「あら、琴歌さんも?わたくしもですわ。久しぶりだったので少し恐かったですが。どこにも異常はありませんでした」
「奇遇ですね、私も父に誘われて···」
そこからはお嬢様方にしかわからないあるあるネタが飛び交い、海外旅行うんぬんの話になった時点で、俺は完全に蚊帳の外となる
これがこいつらの日常なんだと改めて実感していると、テーブルを挟んで向かい合っているゆかりがかき氷を食べ終えて話し掛けてくる
「零次さんは大丈夫なんですか?お身体のほうは」
「俺か?···まぁ、健康診断のときに血液検査するからなぁ。一応結果の通知には異常はないって書いてあるからすこぶる元気」
「それは良かったです。いつもみんなの送迎で走り回っているから、忙しそうで少し心配でした」
ゆかりは安心したように笑っていた
俺にしてみれば、仕事から帰ってきて車の中やら部屋の中のソファーやらベッドやらに着替えもせず倒れこむように寝ているお前たちのほうが心配になる
起こそうにもモゴモゴ言って目を覚まさないから、自宅通いのアイドルの携帯にかかってきた親からの電話に俺が出ることになって、それがきっかけですっかり両親の方々とは顔馴染みになってしまった
加蓮のお母さんとかなんて逆に、遅くなったらホテルとかじゃ危ないから零次くんのお家に泊まりなさいと送り出してくるもんで、仕事が早く終わっても加蓮が泊まりに来ようと抵抗するから自宅まで送り届けるまでが大変だ
「今度、零次さんのお父様にもご挨拶に行かなくてはいけませんね」
「そうですわ!日頃零次さんにお世話になってるんですもの!私のお父様にも会っていただきましたし、是非機会をもうけて···」
「まぁ、その時にはわたくしも」
「いやいやいや、本当にいいから」
こいつらなら本当にやりかねないので念を押しておく
こんな大企業のご令嬢が三人も会いに来たら、ひっくり返るんじゃなかろうか
その後は四人で浜辺を歩いた
てっきり泳ぐのかとも思ったが、今日は長旅で疲れているだろうから、明日以降にしようということだった
「綺麗な海ですね」
「そうだなぁ、俺はこうやって海に来ることが久しぶりだから」
俺の隣を歩いているゆかりがボソッと呟き、俺も改めてじっくりと海を眺めた
透き通るような青色と波の音
コンクリートジャングルから抜け出して、こんな静かな場所に来るのは久しぶりだ
前にこんな浜辺に来たのは···千枝と梨沙と桃華の撮影の時だったか、もう一年以上も前になる
そんなに時間が経ったのか、本当にあっという間だな、この歳になってからそう思うことが増えてきた気がする
その間に俺のまわりは、それこそあっという間に騒がしくなったから
これだけゆっくりするのはいつぶりだろう
歩幅を合わせて、隣を歩いているゆかりの髪が沖合いから吹く風でなびき、俺の腕にサラサラと当たる
いつもなら払い除けるが、まぁいいか、今日くらいは
「私も、久しぶりです。撮影で浜辺に訪れることはありますが、周りにはスタッフの皆さんがいっぱいですし、ゆっくりする時間といえば、テントの中ですから。外に出てしまうと、撮影を見に来たファンの皆さんに見つかってしまうので」
「でもここじゃ、大好きなコンサートホールも無ければ、いつも買い食いするコンビニもないぞ?いいのか?」
「ふふふっ。でもその代わり、朝でもお昼でも夜でも、好きなだけフルートを吹いても怒られなくていいです。いつもは遠慮してしまうことが多いですから」
「真面目な奴め」
サラッとゆかりは、静かにそんなことを言う
ゆかりと話していると、いつの間にか俺たちの目の前を歩いているお嬢様二人が、波が引いている間にその場所へ走っていき、波が押し寄せると可愛い声で''ひゃあぁぁぁぁ''と逃げるという遊びを始めたため、俺はその二人より少し離れた砂浜に腰を下ろす
少しもしないうちに、二人は靴と靴下を脱ぎ捨てて、波打ち際で水を蹴って遊び始めた
「青春だなぁ、全く」
「青春?」
「ああ、俺もあと七つは若かったらな。お前もいずれわかるようになる」
もっともっと学生のうちに遊んでおけばよかったと、今になって思う
「元カノとはこんなに空いた海には来れなかった。夏になるとみんな考えることは同じだから、どこも激混みさ。漫画とかドラマみたいなロマンチックなのは幻想だな。こんなに海でゆっくりできるのは人生で初めてだ」
ましてやこんな可愛い···というかアイドルの女の子たちと来るなんて考えもつかなかったな、とゆかりに伝えると、途端に立ち上がって座っている俺の手を取って引っ張るのだった
「では、零次さん。私たちと青春しましょう。私も、零次さんの青春になりたいです」
「なんだそりゃ」
「遅いなんてことはありません。私にとっては今、この瞬間が青春ですから。零次さんも、私の青春になってください」
ゆかりが俺にそう言うと、振り返って琴歌と星花に手を振る
それに気づいた二人は手をこ招いて俺たちを呼んでいるが、まだゆっくりしたい俺が座り込んでいると、ゆかりは俺の腕を抱き抱えて立たせようとしてきた
普段とは違うゆかりの様子を観察するのも面白かったが、さすがに可愛そうになってきたので、誘いにのることにした
そのままゆかりに腕を引っ張られる形で二人の元に到着すると案の定琴歌が俺たちに足で水を掛けてくる
「ひゃあ~!助けてくださいませ零次さま~」
「おまっ!後ろに行くなっ!お前が前に行け!しょっぺぇ!」
星花が俺を盾にするように後ろに隠れるが、肩を掴んで無理やり前に出させる
すると今度は後ろから水しぶきが飛んでくるのだった
「冷てっ!···ゆかり、お前もかっ!」
「ふふっ。案外私は、見てないところでは不真面目かもしれないですよ?えいっ、えいっ」
琴歌に合わせて今度はゆかりまで足で水を掛けてくる
前後から攻撃されて逃げ場が無くなってしまった為、結局俺が星花を庇うように動くしかなくなってしまった
「まったくなんて小悪魔な連中だ。冷たっ!」
「零次様、なんと逞しい···」
「なに?ん、おお···」
後ろを振り返る星花の視線は、琴歌とゆかりの攻撃によってわりとベシャベシャに濡れてしまっている俺のTシャツに向いていた
自分でも確認すると、もうTシャツが透けてしまっていて、身体がうっすら見えている
星花は慌てて視線をそらすが、気になるのかチラチラとこちらを気にしているようだった
「はいはい、もうおしまいおしま···おうっ、ゆかり」
「はい?」
「もうちょい足下ろせ。あれだ、ちょい見えてる。あぁ···ったく」
自分で気づいていないのは普段履いてないミニスカートだからか、足を振り上げた際に結構''見えている''
ゆかりに悪いのでそっちの方向には視線を向けないようにしていると、それを好機と思ったのか、わざと攻撃してくるのだった
「はいはいはい、降参だ降参。星花、さっさと逃げるぞ」
「は、はいぃぃぃ···」
すっかり小さくなっていた星花を抱えて、俺は波打ち際から離れた浜辺へと避難した
腰を下ろして落ち着くと、隣に座っている星花がまだチラチラとこちらを気にしている様子が目に入る
「あぁ、なんか悪いな。苦手ならあんまし見ないでくれ」
「いえ、家族以外であまり男性の体をまじまじと見たことがなく、少し驚いただけですので···」
確かに、なんだか嫌がっている感じはない
ただ頬を少し赤くしながら、遠慮がちに視線が動いているだけだ
意外と···お嬢様もそういうことに興味があるのか
「ふっふっふ、私たちの攻撃になす術もなかったようですわね!」
どやふんすっ!とまるでゲームの敵キャラのようなセリフを言いながら、腰に手を当ててドヤ顔で近づいてくる琴歌と、妖しげな笑みを浮かべて満足そうにその後ろをついてくるゆかり
その顔は一体何を企んでいるのか
「まったく、帰ったら夕食前にシャワー浴びないとダメだな」
ぼちぼち立ち上がって、また四人で浜辺を歩き出し、屋敷へと向かう
ほぇ~···と、遠慮がちに見てくる星花とは対象的に、隣を歩いている琴歌はまじまじと俺の身体を眺めてくるのだった
誰のせいだと思ってんだよとその覗き込んでくる額を人差し指で遠ざけると、ごめんなさーいと離れていき、少し前を歩く星花の隣へと掛けていく
そんな二人を眺めながら歩いていると、後ろから背中をつつかれる感触がした
振り替えると、俺の背中に向けて人差し指を差し出しているゆかりがいた
そのまま手でちょいちょいと手招いていたので俺は顔を近づけると、ゆかりは口元に手を当てていたのでゆっくりとその口元に耳を寄せていくと
「···エッチ」
それだけ呟いて、ゆかりは俺を追い越して目の前の二人に追い付き、一緒に歩いていくのだった
なんだか子ども扱いされているような、からかわれているような感覚に、少しこの後が不安になってくる