ヘイ!タクシー!   作:4m

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接触11

異世界のようなお屋敷での夜

ルックスが完璧なお嬢様とのディナー

作られた料理は完璧で、非の打ち所がない

テーブルの上に完食した食器が並ぶ

 

「とても美味しかったですわ、琴歌さん。特にこのムニエルなんか焼き加減が絶妙で、外と中のバランスが良く、口の中で程よく味が広がって···」

 

星花が琴歌に対して熱弁を奮っていた

よほど今回の料理が気に入ったのだろう

ゆかりも話すとき以外はその手を止めず、お上品にかつ、パクパクと手早く召し上がっていた

 

「言い過ぎですわ星花さん。私は当たり前のおもてなしをしているだけですから。零次様はいかがでしたか?お口に合えばよかったのですが」

「ああ···美味かった。いやホント美味かった。なんと表現したらいいのか···」

 

そもそもこんなムニエルなんていう上品なものを食べる機会なんてそうそうあったもんじゃないから比較対象がない

加蓮とか奈緒とかとファミレス行って飯食ったり、芳乃と牛丼食べに行ったりとかリーズナブルなことしか大体してないから、このお嬢様方よりも俺は人生経験がないのかもしれない

 

一緒に出てきたマリネもクリームスープも、主菜を盛り上げるために恐らく工夫されていて、食べていてお互いに違和感がない作りになっていた

やはりその道のプロとは侮れない

 

「よかったですわ!張り切ってご用意した甲斐がありました!やはり夜には、皆さんで美味しいディナーをと思っておりましたので!」

 

このお嬢様の懐には際限がないのか、この上物の食材をこの無人島へと運んだ輸送費とかも気になってくる

っていうか、さっき琴歌が普通に携帯で写真を撮ってデレぽだかに投稿していたが、ここまで電波が届いているのが凄い

そこそこ本土から離れているので電波が届かないと思っていたが···

ここで携帯を使える状態にするには海底ケーブルかなんかで引っ張ってくるしかないと聞いたことがあるけど、まさかな

 

「これが''映え''ですのね!まぁ、早速皆様からお声が···」

 

これもまた、どっかのギャル達にでも教えてもらったんだろう

デレぽを確認してみると、確かにコメントが多数寄せられているのが確認できた

みんな珍しさからコメントを書き込んでいるのだろうが、琴歌本人は何がそんなに珍しいのかとほんの少しだけ首を傾げているのだった

コメントの内の一つに、対抗したのかメチャクチャ小さいキャンプ用のコンロの上で小さな魚を焼いている画像を幸子が送ってきていた

 

なんだ、あっちもあっちでキャンプとかしてみんなで夏をエンジョイしているみたいじゃないか

きっと楽しい思い出を作って帰ってくるはずだ

一息ついてこの豪華な椅子に寄りかかり、この食堂の天窓から空を眺めると、すっかり外は暗闇に包まれ始めていて、目を凝らすと星がぽつらぽつらと見える

昼間琴歌から紹介されたように、この屋敷には夜も楽しめるようなアクティビティが多数用意されていて、ゲストが飽きないように配慮されているようだからこの後が少し楽しみになってくる

 

使用人が食器を片付けているのを眺めていると、それぞれが席を立ち始めた

なんだか片付けて貰ってるのに悪いなと思って動かないでいると、''これが仕事ですので、どうぞお嬢様と''なんて言われてしまい、琴歌たちと食堂を後にする

 

「あの方々はあれが仕事ですから、気を遣われると逆に困ってしまいますので、私たちは堂々と食堂から出ていったほうが邪魔にならなくてよいのです。そのほうが仕事もやりやすいはずですので、私たちはただ感謝を述べるだけでいいのですわ」

「···なるほど」

 

琴歌がそう言うのだから、それがここでは普通のことなのだろう

使用人が家にいる状況なんてそうそう経験している人はいないんじゃないか?

そういう人じゃないとしっくりは来ないと思う

廊下を歩いていても、この屋敷を管理したり、掃除している使用人さんたちの姿を度々見かけ、これなら盗人も入る隙はどこにもなく、完璧な防犯対策が取れているように思った

 

「これからいかがいたしましょう!私、早く七並べをやりたいですわ!」

「あー、俺はまず風呂。さっきのシャワーだけじゃ髪の毛バリバリだし」

 

やっぱりキッチリ風呂に入らないと塩分が落ちなくて髪の毛がいまだネチャッてしてる

やっぱり海に行くときはどこか近場のホテルにでも泊まってゆっくりするのがいい

まぁ、ここもホテル並みの設備が整ってるのである意味同じみたいなものだけど

 

「では、それぞれ準備が整い次第、遊戯室に集まりましょう。あそこならお楽しみ頂けるものもたくさんございますし!それと是非、お風呂ならば一階に大浴場があるのでお使いください!」

 

大浴場か、確かに一階の奥にあったような気がする

海側に設けられていた筈なので、眺めも最高だろう

だが、しかし、ここは家族が使用することしか想定していない造りになっているのか、入り口が一つしか見当たらなかった

そう、商業施設のように男湯と女湯に別れている訳ではないので、入るとしたら鉢合わせしてしまう

二階に上がる階段を登りながら、その一階の大浴場へと繋がる通路を横目で見た

どうせならその大浴場の恩恵に浸りたいところなんだけど

 

「いいですわね大浴場。なかなか皆さんで入る機会もありませんし、ご一緒しませんか?」

「ええ是非!裸のお付き合いというのにも憧れていましたので!色々な事をお話してみたいですわ!」

 

前を歩いている二人組がそんなことを言っていたので、遠慮しておいたほうがよさそうだ

琴歌の目がランランと輝いていたので間違いなさそう

 

「···零次さん、お風呂に入られるのですか?」

 

前を歩く二人の後ろを一歩下がった位置で歩いているゆかりが、俺に振り返ってふとそう言った

 

「ああ。見てみほら、まだ髪の毛バリバリだ。何とかしないと気持ち悪い」

「あらあら、本当ですね」

 

ゆかりはそう言いながら、俺の髪の毛の一部を掴んでツンツンと引っ張る

その手を軽く払ってゆかりから少し離れると、ゆかりはそれが面白かったのかクスクスと笑うのだった

 

「離せいっと、まったく···、だから俺は少し遅れて行くかもしれない。大浴場はほら···あいつらが使うみたいだし」

「まぁ、私、てっきり皆さんで一緒に入るものかと···」

 

お前、お前お前お前それはないだろう

庭のプールとか海とか上にあるナイトプールとかにみんなで行くっていうなら話は別だ

百歩譲って温水スパも水着を着てるんだからまだわかる

 

「あの···少し···は、恥ずかしいですが、こういった機会はめったにないので···ご奉仕させていただこうかと思っていたのですが···その···お背中を流してあげる···とか」

「いやいやいや、そこまでしなくていい。あいつらと仲良く入ってきたほうがいいって。こんな''野郎''の体に付き合うのも嫌だろう。気を遣って無理しなくていいんだから、ああいうドラマとか映画の中で女が男に尽くすっていうのは大人の世界の常識とかマナーとかでもなんでもなくて···」

 

俺が顔の前で手を左右に振りながら誤解するなと説明するが、ゆかりは尚も止まらない

 

「ち、違います···これはあの···わた、私から···」

 

ゆかりが胸の前に手を置いて、そのまま手の平を俺に向けて頭を下げる

私からったって···?とゆかりに尋ねるが、ゆかりは顔を赤くしたまま俺の顔をチラチラ見ながらペコペコ頭を上下に動かしているのだった

 

「お二人はどうなさいますのー!!」

 

立ち止まっていた俺たちを置いて、いつの間にか部屋の前まで行ってしまった琴歌と星花に尋ねられるが、俺は部屋の風呂に入ってくるとだけ伝えて自分の部屋へと戻った

部屋の扉が閉まる直前に、外にいたゆかりと目が合ったが、そのままペコッとまた頭を下げて琴歌たちのほうに歩いていったのだった

 

まったく、何を言い出すのかと思ったらそんなことを···

琴歌のあのドラマの一件もあるっていうのに、なんでそこまであいつらは俺に気を遣うんだ

こんな目で見たくないけど、あれくらいの年頃になると出るとこは出てるし、引っ込んでるところは引っ込んでる

その見た目で''そういうこと''を考える男共も世の中たくさんいるだろう

もっと自分の体を大切にしてほしい···と思う

 

「···ふむ、やはり広すぎる」

 

なんとなく予想はついていたが、脱衣場を抜けて浴室の扉を開けた瞬間に、あの俺のアパートのような狭っ苦しいムワッとした空気ではなく、透き通るような、吹き抜けるような風が吹いたのが、電気をつけなくてもその空間がいかに広いかがわかる

というか電気をつけないと奥まで見えない

 

「あー···楽だわここは」

 

手を一杯に広げても全然余裕がある脱衣所

ドアを開けっぱなしにしないと窮屈なウチとは大違いだ

たまに着替えてる最中に誰かしらに見られて、サササッと顔を隠されながら走り去られる心配もないし···

そもそもあれは俺が風呂に入るだの着替えるだのちゃんと言ってからやってたのに廊下に出てくるんだからあいつらが悪い

それに···

 

「···汚れ一つない」

 

その逆も然りだ

風呂場じゃない、主にリビングと寝室だから心臓に悪い

ベッドに潜り込んできたり、スペースがないからソファーで寝てたら同じくスペースを探していた面々が寄りかかってきたりと、まるで磁石みたいに引っ付いてくる

俺はぬいぐるみとか抱き枕かとでも思われてるんだろうか、警戒心がなさすぎるのが問題だ

家ではなんとか、奏と一緒にベッドに入ったり、ゆかりがすぐ側で寝転がったり、唯や凛や加蓮が潜り込んできても、日常の空間だからと色々と考えが働いてそういった感情は抑えることが出来たが···

実際に考えてみるとそれは、彼女たちの覚悟や魅力を否定していることになるのではないかと思ったりもする

 

でもそういうのを嫌がっている可能性も否定できない

だけどそうであったならベッドに潜り込むか···?

考えてもしかたない

とりあえずシャワーを浴びよう

蛇口をひねって温水を出す

完璧に温度調整されたお湯が体を洗い流していく

 

ここは普段とは環境がまったく違う

隣人も、俺たち以外に誰もいない無人島

セキュリティの面から見ても、誰も侵入は出来ないだろう

何をしても周囲にはバレない状況、そんな状況を許したご令嬢のお父様お母様方

そんなお方がたが滞在を許した俺

その四人が一つ屋根の下で数日行動を共にすると···

 

完璧に用意され過ぎている気がする

考えすぎだ、考えすぎに決まっている

何を期待しているんだ俺は

相手の気持ちを考えずに自分勝手な事ばかり先走ってからに

 

とりあえず煩悩を洗い流すように頭からシャワーを浴びていると···何だろう、浴室の扉を挟んだ向こう側、脱衣所のほうの扉が開いて誰かが入ってきたような音が聞こえた気がする

少しシャワーを弱めて脱衣所のほうを見てみると、やはりごそごそと扉のモザイクガラスの向こう側で動く影があった

部屋の鍵は···どうせ泥棒なんか入らないだろうと、開けっ放しにしておいた

その方があいつらも呼びに来やすいだろうしと思って

 

「···し、失礼します···」

 

入ってきたのは、そう

綺麗な茶色の長髪が特徴的なその女の子は、その体に一枚のバスタオルを巻いた姿で、髪の毛を掻き分けながら浴室へと入ってくるのだった

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