ヘイ!タクシー!   作:4m

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接触13

壁のない開放的な空間

んっ···と思わず声が漏れてしまう

時間に縛られることのないこの一瞬

仲間と過ごせるなんて、なんて贅沢

のぼせてしまいそうになる

体全体が気持ちいいくらいに暖かい

隣にいる琴歌さんも心地よさそうだった

 

「やっぱり、露天風呂は格別ですわ。お家のお風呂ものびのびできますが、それとは違った雰囲気が···」

 

琴歌さんの言う通り、暑い夏とはいえど浴室でお湯に浸かったあとの露天風呂は体が濡れている分外に出ると心地よく、時折湯船から少し出ると涼しい風が体を包み込んでいく

 

日頃の活動の合間を縫った久々のゆっくりと過ごす休暇に心身共に暖まっていくのを感じる

 

「零次様とゆかりさんも入ればよろしかったですのに、もっともっとお話ししたいことがたくさんありますもの」

「ですが琴歌さん、そうなってしまったらバスタオル一枚を挟んでの関係になってしまいますわ。ゆかりさんはともかく、それでは零次様も恥ずかしくなってお風呂に入りにくいのでは?」

「···私は···」

 

琴歌さんは一言そう言うと、少し言いづらいのか口ごもってしまい、それを誤魔化すように胸元で両手を合わせて擦り合わせている

続きの言葉が気になり、わたくしは何も話すことなく琴歌さんを見つめるのだった

 

「私は···零次様にその···自分の裸を見られても···、大丈夫と言いますか···」

「まぁ···!」

 

途端にわたくしの頭の中によからぬ考えが浮かんでくる

自分の体を抱き締めて、その頭の奥底から沸き上がってくる本能に何だか喉元から熱くなって来るような、イケない感情に体が支配され始める

 

もしかしたら、琴歌さんもそうなのかもしれない

 

「琴歌さんは···、零次様のことはどう思っているんですの?」

 

聞かずにはいられなかった

妙な始め方だが、普段は中々できない恋バナに踏み込んでみることにした

 

「そうですね···惹かれているのだと思います。それがハッキリとわかったのは、やっぱりドラマ撮影の時でしょうか···」

 

あれはわたくしの目から見ても、とても理想的な状況だったと思う

まるで漫画の中のシーンをそのまま持ってきたような、それこそ本当にドラマのワンシーン

現実でもドラマの中でも追い詰められていたあの状況で自分のことを助け出してくれるなんてロマンチックなことこの上ない

端から見ていても、とても羨ましく思った

 

優しいとはいえない言葉づかいだが、変に取り入ろうとまるでこちらがお人形さん扱いされているような、舐めまわされるような言い回しよりも、誰にでも関係なく接するその態度と、本当に困ったときや、どれだけ遅くなっても迎えにきてくれるその不器用な優しさに、惹かれている人は多いと思う

唯さんは顕著ですし、梨沙さんと意見をぶつけ合ってケンカしているところも少し羨ましい

わたくしには見せてくれない一面だから、嫉妬···したりしているのかも

なんだか恥ずかしいですわ

 

「とてもとても素敵でした。あぁ···!なんと言い表せばよいのか···、あれほど胸がときめく瞬間は今までなかったといいますか、あぁん!恥ずかしいですわ!」

 

琴歌さんも同じ気持ちなのか、顔に手を当ててバシャバシャと水音を立てながら顔を横に振っていた

しばらくして落ち着いたと思ったら、何だか熱いですわね!と一旦湯船から出て、縁の部分に腰掛ける

わたくしも同じように縁へ上がって腰掛けると、バスタオルを少し下へおろして下半身を隠した

 

「星花さんはどうなんですの?」

「へ?わ、わたくしですか?」

「そうですわ!私だけ答えるのは不平等です!ゆかりさんがいないのは残念ですが、女同士、腹を割ってお話を!」

 

恥ずかしながら、すっとんきょうな声が出てしまった

そうだ、琴歌さんにだけお喋りさせるのは確かにフェアではない

それに、この旅行に零次様を誘うということを聞いていた時点で、どこか期待してしまう自分もいたのは確かだった

 

「零次様は、魅力的な方です。あんな男性は今までいませんでしたわ。会う方々は大体、わたくしの機嫌をうかがったり、家柄で判断されて取り入ろうとしてくる男性が多くて、お食事会や舞踏会、コンクールなどでも、わたくしとの縁を作ろうと、迫られることも少なくなく···」

「わかりますわ!お気持ち、すっごくよくわかります!」

 

琴歌さんに手を握られてしまった

目をまん丸くして、わたくしの目を真っ直ぐに見つめてくる

 

「全員がそういうわけではありませんでしたが···でも、そんなことが多くて。最初に会ったときも、きっと彼も一緒なんだなと思ったのですが···、全く違いまして」

「すっっっごくわかります!」

 

手を上下にブンブンと振られる

 

「こんな扱いを受けたのは初めてでした···もちろん、''いい意味で''ですわ。始めて''わたくし''を見てくれている人というか、とても···新鮮でした。何でも話しても答えてくれるといいますか、考え方がとても斬新で、何度も為になるアドバイスを···ああ!わたくしったらお恥ずかしい!」

 

ついつい口を滑らせて話しそうになってしまった

車の中で色々な胸の内を明かしてしまった記憶が蘇ってくる

自分でも恥ずかしくて、他人から見たらくだらない事ばかりだったのに真剣に考えてくれて、どれだけ気持ちが楽になったか

頼りがいがあって、どこか子どもっぽくて可愛い一面もあって···

 

「まったく今まで会ってきた人とも違って、とても···心が暖かくなります。琴歌さんのお気持ちが···わかると···言いますか···ああっ!」

 

そこまで言うとわたくしは恥ずかしくなって湯船に戻り、自分の胸に手を当ててみる

不思議と鼓動が速くなって、胸が苦しくなるような感覚に襲われてくる

どうしたらよいのか···考えていると、同じく湯船に戻ってきた琴歌さんが再びわたくしの手を取ってくる

 

「わかりますわ星花さん。とても···そのお気持ちはとてもわかります。本当に···本当によくわかりますわ」

 

琴歌さんは、おそらく戸惑っている表情をしているわたくしに優しい目を向けてくれていた

改めて向き合ってみると、ここまで心が揺れ動くとは思わなかった

 

「大丈夫ですわ星花さん。私たちは今、その感情に驚いているだけですわ。それは恐いものでも何でもない、心の在るべき一面でございます。それに、一人ではありませんのよ?私も一緒ですわ」

 

少し恥ずかしいですけれど···と琴歌さんはわたくしの手を自分の胸に当ててくれた

するとどうだろう、その心臓の鼓動はわたくしと同じくらいの速さで脈打っていて、琴歌さんの表情にも少し恥ずかしさが見えている

 

「···今までの男性方とはまったく違って、わたくしたちにも変わらない態度で···」

「ええ。家柄もまったく気にせず、まるで友人のような口ぶりですわ」

「ふふふっ。ですが、それが何だか嬉しくて新鮮で。これまでの生活ではまずあり得ませんでしたわ」

「私たちの機嫌を取るどころか、喧嘩しようとしたり。でも、そんなところがお父様たちにも理解されていて、零次様のお話をする度にお父様もお母様も何だか楽しそうな表情でしたわ」

「あら、そちらもですの?わたくしの家でも···」

「本当ですか?ふふっ、何だか同じですわね」

「ええ、本当に。零次様にもたまに言われます···」

 

「「お嬢様って大変ですわ~」」

 

生まれも違うし、育ちも違う

家柄も何もかも、似ていても環境も全く違うのに···ある共通点

お嬢様ならではの悩みが様々あるなかで唯一見出だした共通の悩み

悩みの筈なのに、何だか暖かくて誇らしい

初めて自分も、一人の女の子なんだと自覚した瞬間だった

 

「零次様を誘った時はドキドキでした。果たしてついてきてくれるのかと、期待半分不安半分といった状態で···」

「まぁ、わたくしも誘っていただければよろしかったですのに」

「星花さんはお仕事でしたもの、無理は言えませんわ。それでも結果的に一緒に来ることができて···私、幸せです」

「そうですわ、わたくしも心強いですもの。女の子だけではなく、男性が一人居てくれるのですから」

 

そういうと、琴歌さんはさっきよりも恥ずかしそうにモジモジとし始めて、湯船の中に半分顔をつけたり出したり、何かを言いづらそうにわたくしのほうを見つめてくる

 

「あの···私、この旅行でその···色々な経験が出来れば···なんて、思っておりまして···」

「わたくしもですわ、こんな機会はめったにありませんもの。私達と零次様、一つ屋根の下で夜を···」

 

そこまで言い掛けて、私は薄々と気付き始める

海の上に浮かぶ孤島、外部の者が一切侵入出来ないセキュリティ、女三人と男が一つ屋根の下で数日夜を越すシチュエーション

 

さっきのイケない感情がまた、体の中を駆け巡っていく

 

「色々な···経験とは···?」

 

少しズルいやり方ではあるが、琴歌さんに恐る恐る聞いてみる

わたくしも···興味がある

体が少し、ムズムズする

 

「あの···その···あの···で、ですからして···」

 

琴歌さんの言葉を待つ

湯船のお湯が縁にぶつかるちゃぽちゃぽした小さい音がやけに大きく聞こえる気がする

 

「だ、だから···、もし···零次様と···その···せ、せ···セッ···」

 

口の中がやけに乾いていくような、それはわたくしが想像している内容を口にしようとしている瞬間に、思わず自分の口が少し開いているからだろうか

琴歌さんの口から、その言葉を聞き逃さないように身構える

 

「せっ···、性···交渉···をすることに···なっても···!私···は、い···い···い···嫌では···ない···と、いう···次第···で、ございます···」

 

捻り出すように琴歌さんの口からその言葉が出た瞬間、琴歌さんは頭まで湯船に浸かりその場所にはブクブクと気泡が浮かび上がっていた

 

途端に自分の顔が紅潮していくのがわかった

体中の血液が頭と···下腹部に集中していくような

湯船から出てきた琴歌さんと同じように、わたくし自身も口もとをむにゅむにゅさせているに違いない

とにかく二人とも無言で、また湯船から上がって縁に座る

頭の中をあるだけの知識が駆け巡り、それしか考えられなくなっていた

 

もう体が熱すぎて湯船に入っていられなかった

 

「だから···あの、き···聞きたいことが···ありまして···」

「ふへっ?な、なんでしょうか!琴歌さん!」

 

また変な声が咄嗟に出た

 

「そ、そ、その···ある情報筋と···いいますか!き、聞いた話では、始めてはその···い、痛いと聞いたことがあるのですがっ!本当なのでしょうか!?」

「わ、わたくしに聞かれましても!わたくしもその···!け、経験がないものでして!」

 

すると琴歌さんは、人差し指と親指を目一杯広げて目の前に持ってくる

 

「だ、大体···これくらいの大きさだと···!」

「%!!※¥!!??!!?」

 

声にならない声が自分でもわからないところから出てくる

説明しなくても何を言っているのか、文字通り本能でわかった

自分の下腹部の内部が一瞬脈打つのを感じて、体も''それ''を嫌がってはいないという初めての感覚に自分でも戸惑う

 

「···こ、これくらい···」

 

自分の指を開き、大体琴歌さんと同じくらいの大きさにしてみた

これが、大人の世界

わたくしがまだ知らない、未知の世界

本来在るべき、正しい使い方をする時のサイズ···なのでしょうか?

 

わたくしはその開いた指を自分の股下に持っていき、自分の···''入口''付近から垂直に下腹部に添えてみた

 

こ、こんなに入るものなのでしょうか?

人間の体とは、かくも神秘に包まれているものなのですね

 

今までは女の子の体の仕組みから毎月、''出ていく''事が全てで、体調の管理が大変で、お仕事の時期によっては、お薬で体の調子を整えて臨むこともあった

ですがわたくしも、いつかは''受け入れる''ものだということもわかっていて、時折それを考えながら、切なくなることもあって···

と、物思いに耽っていると、隣で琴歌さんも同じように下腹部に手を当てていることに気付いた

 

「ということは、こ、このあたり···なのですね、その···なんといえばよいのでしょうか、''目的地''といえばよいのか···」

 

そう言いながら、琴歌さんはその指先の、下腹部の中心辺りを優しく撫でていた

 

そうだ、わたくしも自分のその場所に手を当てる

相手を受け入れた際に、指を当てているその''道''を通り抜けた先の到達点

その行為の本来の目的である''交わり''と、''遺伝子''が触れ合い育まれる場所

その際に二人がお互いを確かめ合うように、導かれるように身体が快楽を求めて本能に従い、互いに求め合う

自分の体には無い部分をお互いに感じながら、高みへと上っていく

 

その行為に無意識に惹かれていくというのは、人間とは、良くできている生き物だ

生き残っていく術が本能に刻まれている証拠

 

「ここに···受け入れるのかも···しれないのですわね···!星花さん!」

「そうですね···!わたくし、どうなってしまうのか···」

 

わからない、本能に任せた未知の体験に期待と不安が入り交じる

 

「それは、その···れ、零次様の···''技''といいますかなんといいますか···、経験はあるらしいので、それに身を任せるしかないというか···、き、気持ちいいと聞いたことは···」

「あんなあどけない声が···出るのでしょうか?···あ、違うんですのよ!わたくしもほんの、ほんっっっの少しだけ!チラッと!その、そういう映像を見たことがあるだけでっ!」

 

必死に弁解するが、すでに琴歌さんの目はなんだかトロンとしていて、心ここにあらずといった印象だ

自分のお腹を優しく何度も撫でまわして、息づかいにも少し甘い吐息が混じっている

 

「それなら···身を委ねてしまうのもよいかも···しれませんね。きっと···優しくしていただけると思いますわ···?」

「こ、琴歌さん、大丈夫だと···思います。零次様ならきっと···激しくするということは···ない···かと···」

 

そう言った瞬間に、わたくしの頭の中に妄想が広がる

自分が言った言葉とは逆の扱いを受けている場合の光景

身をよじるように痙攣しながら、自分を抱き抱えている相手の耳元で割れんばかりの声をお腹の底から出して喘ぐ自分の姿

 

そんな事を想像していると、下半身の···股の部分が何だかむず痒くなり、少し体をずらしたその瞬間だった

自分の股とお風呂の縁の間に違和感を感じた

先ほどとは違う、滑らせやすく、ヌルヌルとした感触

少し腰を持ち上げてみると、その股と縁の間に、細く糸が自分の股から伸びているのが見えた

 

「···」

 

ぺたんっと再び座り込む

今すぐにでも指を割れ目に走らせたい

その感情を琴歌さんに悟られないようにするのに必死だった


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