ヘイ!タクシー!   作:4m

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接触16

痛みは大分引いているようだ

一緒に歩いていると少し違和感はあるが

ん~···本当に嫌ではなかったのか

誰に聞くわけにもいかないしな

 

「お前···大丈夫か?」

 

お互いに何とか体の状態を落ち着けて、琴歌たちとの待ち合わせのために、ゆかりと俺の二人でこの広い広い赤絨毯の廊下を歩いて遊戯室?だかなんだかと言っていたあのビリヤードとかダーツとかのアクティビティが揃っている部屋へと向かっていた

浴室でのゆかりとの一件のあと、さすがに疲れたのでしばらく部屋で二人で休んでしまったから、琴歌たちを少し待たせてしまっているかもしれない

 

琴歌たちも風呂に入りにいくと言っていたので大丈夫だとは思うが···

しかし急ごうにも急げない理由もある

 

「ちょっと···まだ違和感が···。まだ···中に残っているような感じがして···」

 

ゆかりはまるでモデルのキャットウォークのように足をキュッと内側に織り込んだようにして、股下を庇うようにちょこちょこと歩いているのだった

痛みではなくどちらかというとむず痒い感じに近いと言っていたので、まだ大事には至ってはいないと思う

 

少し危なっかしく見えるので、少し手を引いていくようにして歩いてやった

階段なんかも特に危なそうなので、そこはゆかりの体を少し支えてやるように腰に手をまわしてやる

こうなったのには少なからず俺にも責任があるので

 

「ありがとうございます···やっぱり零次さんは、お優しいんですね」

「どこが。優しくできなかったからこうなってるだろ?そんなに期待するな、芸能人でもなんでもない普通の奴なんだから」

 

そんなこと言われても困る

そう伝えたが、それでもゆかりは首を横に振るのだった

 

「いえ、零次さんは凄く···優しくしてくださいました。私···とても嬉しかったです」

 

ゆかりは文句一つ言わず大人しく俺に支えられてるところから、どうやらトラウマにはなんとかならずに済んでいるような感じだと思いたい

男が嫌いになれば、こうやって寄り添って廊下を歩くこともないだろう

嫌がる素振りもみせず、ゆかりは俺に体を預ける

 

最初だから痛いのはよくあることだと聞く

上手くできるのは稀だそうだ

始めてなんだから上手くできなくて当たり前

それでもパートナーを責める奴は人間じゃない

 

「でも、零次さんを満足させることができませんでした。私もその···色々と漫画の本等でお勉強したつもりなんですが···」

「お前そんな信用するなよ、あれは大体がファンタジーなんだから。綺麗に技が繰り出される対戦アクションゲームみたいなもんだ」

 

あんな事ができると思われたらたまったもんじゃない

あの人たちはマジでプロだよ本当に

とにかくゆかりには、ああいうのは真に受けるなよと釘をさしておく

 

そうか、そういうので勉強するしかないもんな

誰に聞くわけにもいかないし

 

「でしたらその···、正しい知識を身に付けなければならない···ということですよ···ね?」

 

ゆかりが俺にチラチラと目線を向けて見上げてくるので、俺はその額を指でツンと軽くついてゆかりの顔を離させる

保健体育の教科書を読めと言うと''嫌です''と言ってますます意固地になるゆかり

ゆかりにこんな一面があったとは

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「随分と琴歌さんたちを待たせてしまいました。怒っていなければいいのですが···」

 

その''遊戯室''と書かれた豪華な金色のプレートを確認して、俺たちはその部屋の扉の前に立った

ここなら大浴場に近くて、琴歌たちも風呂に入り終わった後にすぐ来れるだろう

ゆかりの言った通りちょっと待たせすぎたかもしれない

部屋の中からは何も音が聞こえないことから、もしかしたら中にいないのかもしれない

とにかく、中に入ってみないことにはどうしようもないだろう

 

「まぁ、そん時は一緒に怒られますか」

 

と俺が言うと、ゆかりは何が嬉しかったのか''そうですね''と笑顔で言うのだった

 

ゆっくり扉を開けていくと、まるでホテルの施設のようなボヤッとした含みのある暖かい証明に照らされて、高級そうな壁とこれまた高級そうな絨毯が敷き詰められたその上にビリヤード台が二つ、そしてその奥の壁に複数ダーツの的が三つほど備え付けられていた

 

都会のゲームセンターのように広すぎず、かといって狭すぎない、入って右側がそのビリヤード台とダーツ台、そして何も置いてない丸いテーブルとその回りをぐるっと囲んでいるソファー、そのゲームスペースを見渡せるように壁際には長い背もたれのある柔らかそうなソファーが置いてある遊戯スペースで、その反対側、部屋を中央から仕切って左側がそんなゲームを楽しむ人たちを見ながら一息つけるようになっているバーのようなスペースになっていた

 

すごいな、この屋敷にはバーがいくつ入ってるんだ?

そのバーの数だけお酒などの飲み物を用意しなければならないわけで、その高そうな飲み物の総額を考えると···いや、やっぱり考えるのはよそう

 

「悪い、遅れたわ···って、どした?」

 

部屋に入るとやはり琴歌と星花は既に到着していたようだ

それはいいんだけども、二人の様子が揃って同じだった

そのバーのような一角のカウンター席に座り、腕を伸ばして枕にした状態で寝そべっている

近づいてみると二人とも''う~ん···''と唸るような声を出して、眉間にシワを寄せながら難しい顔をしていた

ゆかりもその様子が気になっているのか、星花の肩を少し揺らして声を掛けていた

 

「零次様···はっ!零次様!」

 

俺の呼び掛けにやっと気づいたのか慌てて体を起こすと、髪を整えシワシワになっているそのピンク色に白のラインとレースのような装飾が施された可愛らしい寝巻きの袖を整えいつもの調子に取り繕うとするが、まだ少し気分がすぐれないのか頭を押さえている

 

「すみません···私!せっかく来ていただいたのに!」

「いや別に気にはしてないけど···大丈夫かお前」

 

大丈夫大丈夫と俺に手を振って答えるが、やはり少しボーッとしているような、目がほんのちょっと寝ている感じだ

星花も同じようで、起き上がったのはいいがゆかりに心配されていた

 

「本当に大したことないのですわ。前の時のように倒れこむような感じでは···そう!少しのぼせてしまいまして···」

「のぼせた?」

 

そこまで風呂が気持ちよかったのか、確かに露天風呂は最高によさそうに見えた

俺も、特に姉さんたちならずっと入っていそうな感じだ

いっそのこと完封会でも会社の経費で上半期の終わりに連れていってくれないだろうか

 

それか、琴歌と星花の何らかの話に花が咲いていたか

突っ込んで聞くほど野暮じゃないけど、女同士でしか出来ない話もあるだろうし···

とにかく、何だかお嬢様組三人とも満身創痍って感じだ

どことなく年長者として責任を感じる

ゆかりは別として

 

「じゃあまず···夜はメイドさんとかいないのか?ここにくる時も見かけなかったけども。冷たい飲み物でも作ってくれるんじゃないか?」

「それが、夜私たちが伸び伸びと羽を伸ばせるようにとお父様が配慮してくださいまして、必要最低限の人員しか配置していないらしいのです。セキュリティ面は万全ですわ」

 

それは嬉しいが、少し心細い

琴歌にメイドさんか誰か呼んでくるか?と提案してみるが、そこまでではないと今度は二人から断られる

本人達がそう言うならいいけど···姉さんも何だかんだ復活するし

 

「じゃあなんか飲め。ここは···開けてもいいのか?冷蔵庫みたいなやつ」

「はい、ご自由にとお父様が」

「私も手伝います」

 

許可がおりたので、このカウンターの裏にある高そうな黒い冷蔵庫をゆかりと開けてみる

するとあるわあるわ、どこで造られたのかわからない高そうな容器に入ったワインやらウィスキーやらが沢山

キチンとしまってあったのかボトルに埃がかぶっておらず綺麗だ

何年ものなんだこれ?

手に取った瞬間に料金が発生しそうだ···まて、さっき''ご自由に''って言ったのか?

 

「こっちの引き出しは氷だな、ここは···またワインか」

「グラスを見つけました。どこに飲み物があるのでしょうか?お酒は流石に···」

 

サイアクこのカウンター裏の水道から水をくんで持っていけばいいか

できれば何かジュースでもあればいいんだけど

もしかして、こいつらが飲めないならこの高そうなお酒たちは俺の為に用意してくれたんじゃないよな?

全フロア、同じような飲み物たちが並んでいるところ全部

 

···考えないようにしよう

 

「あ、零次さん。これは?」

 

ゆかりが冷蔵庫の中の角のほう、下の奥を指差していた

見てみると、缶が数本置いてあるのを見つけた

どこかでとても見たことのあるパッケージをしている

黄色のペイントに、中央には果物の絵が書いてある

 

「よかったですね、零次さん」

「いや、よかったけど···」

 

これはゆかりが教えたのか、俺がいつも飲んでいるオレンジジュースがそこにはあった

他の高級そうなお酒たちに紛れてポツンと、その見慣れた飲み物が置いてある光景は何だかシュールで、これじゃあどっちを飲んでいいのかわからなくなる

でもせっかく用意してくれたんだし···変に心に迷いが生じていた

ともかく今は琴歌たちが飲めるのはこれしかなさそうだ

水よりは糖分も取れるだろうし、体の調子も整う

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「さぁ、かかってきてくださいまし!いてこましたりますわ!」

 

琴歌さんが今か今かと息巻いている

零次様に言われた通り、飲み物を一杯いただくと琴歌さん共々みるみる内に体調が回復した

気を付けなくてはいけませんね、議論の白熱は···ああ!今思い出しても恥ずかしい

あんな···あんなお話をする時が来るとは!

零次様にものぼせた原因は何なのかと控え目に尋ねられましたが、正直に答えられるはずがありません!

 

「うぬぬ···、変えるか変えないか···悩みどころですわ」

 

今は皆さん丸いテーブルに座り、その手にはそれぞれトランプが五枚握られている

七並べ、大富豪を経て、私たちを出し抜いて見事大富豪になった零次様は今壁際にある豪華なソファーに座って手札とにらめっこしており、私たちは丸テーブルを囲んでいる椅子に座ることになっていた

現実との立場の逆転、七並べでは琴歌さんが鮮やかすぎる敗北を期し、大富豪ではわたくしが負けてしまった

今は己の演技力が試されるポーカー

零次様が言うには''お前たちは素直すぎて分かりやすすぎる''と言われてしまった

なんでも''ひな先輩''なる零次様の上司の方に鍛えられたとか、ポーカーフェイスがすごいらしい、さらにその上に師匠がいるとか

未だに謎が多い

 

「すみません、お待たせしました」

 

お手洗いに行っていたゆかりさんが戻ってきた

勝負再開、それぞれが自分の手札を持って構える

ゆかりさんは表情変わらなくて動きが読めず、零次様はテーブルに伏せたような状態勝負に備えているような様子

琴歌さんは···確かに読みやすいのかもしれない、カードを変えるか変えないか迷っている

 

私は···このままいこう、自分の直感を信じることにする

 

「ではみなさん、よろしいですか?よろしいですね!」

 

特に賭けているわけではない遊びなので、全員で最後カードを見せ合う

みんなもう準備ができているのか、山札に手を伸ばす素振りはない

勝負の時だ、五枚のカードを片手に収める

琴歌さんがまず立ち上がった

 

「ストレートですわ!ふっふっふ、これを越える手札はそうは揃っていませんでしょう!」

 

琴歌さんがテーブルの上に自分のカードを自信満々に並べた

数字が順番に並んでおり、琴歌さんはさも満足げな表情だ

自分の勝利を確信して疑わない、さっきまでの汚名を返上しようとしているようだ

 

「ふっふっふ、もう先ほどまでの私ではありませんわ!こういう勝負どころこそ、西園寺の腕の見せ所というもの!」

 

琴歌さんの目がこちらに向いた

次は順番的に私がカードを見せる番だ

 

「琴歌さん、申し訳ないですが」

 

何事も踏み込む勇気とタイミングと、運

それがたとえ商売であっても勝負であっても同じ

それを言うならば、商売は勝負と同じ

お父様の言葉が脳裏によぎった

わたくしは自分の持っているカードを再び確認し、そしてテーブルへと並べる

 

「フルハウスですわ。琴歌さん、''申し訳、ありません''ですわ」

 

その瞬間の琴歌さんの表情、まさにドラマで見るような綺麗なショックの受け方だった

琴歌さんの背景に雷が落ちるような光景が見えて、目を見開き、驚きのあまり動きが止まっていた

 

「そ、そんな···!ありえませんわ···。こんな、勝負のタイミングを間違えるなど···」

「涼宮の名も、伊達ではありませんわ。お互い、精進いたしましょう」

 

しゅるしゅるしゅると琴歌さんから力が抜けていき、自分の席へと座りこんでいった

なんで、どうして、作戦は完璧だったはずと頭を抱え込んでいる

勝負の世界は非情である

周りを出し抜いたものが勝利を獲得するもので、同じものを追い求めていれば勝者と敗者が決まってしまうのは必然

偶然などあり得ないのだ、いつも競い合う運命になる

そこから一歩相手よりも前に出ることができる能力をもつ人こそ、勝利を収めることができるもので···

 

「フォーカード。私の勝ちですね」

 

思わずその声の主のほうを見る

その人物のテーブルの上には、その人物が言った通りのカードが並んでいた

照明が丁度当たっているのか、その揃った役が他よりも輝いて見える

 

「''四枚のカード''が全て私の手の中に。手中に収めるとは、なんと気分がよろしいのでしょうか」

 

ゆかりさんは澄んだ顔をして、テーブルの端にあるオレンジジュースを一つ手に取った

特に決めたわけではないが、ゲームで勝った人が順番に取っていっている

 

まさか、ゆかりさんに出し抜かれるとは

なんの表情も変えず、その手に持っているオレンジジュースの缶の蓋を開けている

他の人たちに気づかれることなく、自分で歩を進めて目標を達成する

そう、誰にも気づかれることなく···

ゆかりさんが恐ろしく思えた

琴歌さんも同じようで、まさかの展開に腰が抜けてしまっているのか動かなくなっていた

 

「で、では···最後は零次様ですわ!」

 

琴歌さんがそう言うと、ゆかりさんの眉が少しピクッと動く

初めてこのゲーム中に反応を見せた瞬間だった

 

しかし、声を掛けられたのにもかかわらず零次様はまったく動かない

テーブルに上半身を伏せたような状態で、カードを持ったその両手で顔を隠すようにしたような体勢のままだ

気になった琴歌さんが零次様の肩を揺すってみると、零次様が持っていたカードがバラバラとテーブルの上に落ちる、手に全く力が入っていないようだった

 

「あら、零次様···お疲れのようですわね」

 

カードが落ちたことで見えた零次様の表情は、目を閉じて落ち着いた表情で一定のリズムの寝息を立てていた

カードの役は···何も揃っておらず、このままでは零次様の負けだった

 

「では、この場はお開きとしましょうか。最後の勝利は···ぐぬぬ、ゆかりさんにお譲りしますわ」

 

それぞれのカードを琴歌さんが回収して、一息つくことになった

琴歌さんが片付けている間に、わたくしとゆかりさんで零次様の体を支えてそのままソファーへと横にさせるのだった

意外と男性の体は重いというのがこれでわかった

やはり逞しいのですね···はっ、いけませんわ

お風呂での会話を思い出してしまいそうになる

こんな時にわたくしとしたことが、ゆかりさんだって零次様の体を触ることくらいという様子で落ち着いているというのに

 

「さぁさぁ皆さん、雰囲気だけでもどうぞ」

 

本来はお酒やワインを注ぐために用意されているのであろうグラスをわたくしたちの人数分用意して琴歌さんがカウンターから戻ってきた

そのグラスにそれぞれ自分のオレンジジュースを注ぎ零次様がいない中、女の子だけで秘密の乾杯を行う

 

「ゆかりさん、お上手でしたわ。この中で一度も負けていないのはゆかりさんくらいですもの」

「運がよかっただけです。たまたまタイミングが合ったようなもので、私なんてまだまだ···零次さんのように大人になるには難しいです」

 

琴歌さんの言うとおり、この中で唯一負けていないのがゆかりさんだった

七並べもゆかりさんが勝利を収め、大富豪では零次様が一番だったものの富豪の位置になり、最後のポーカーでは見ての通りだった

どこか勝負強さがあるような、ここというタイミングを見逃さないところがある

 

「大人···ですか、私たちもいつかは零次様のような大人の気持ちがわかるようになるのでしょうか。お互いに対等になれるような関係に進むには···」

 

そこまで言って、琴歌さんは自分の口を手で押さえた

おそらく、お風呂での話題が頭をよぎったのだと思われる

瞬時にわたくしに目配せをしてきたが、オレンジジュースを一口飲んでごまかす

 

妙な雰囲気になってきた

 

「こ、''恋バナ''をいたしましょう!」

 

その雰囲気を避けるためか、琴歌さんが提案してきた

 

「こういう機会では、恋バナをすると美嘉さんことカリスマギャルさんが雑誌でおっしゃっていましたので!」

 

ね?ね?、とわたくしたちに同意を求めてくる

確かに、そういう話題には興味があった

ハッキリ尋ねるのも、仕事のことも相まって日頃話題にするのも少し控えていた節もある

それに、琴歌さんとは先ほどお風呂でそういう話はしたが、ゆかりさんに関しては全くわからなかった

好きな人がいるのか、どのくらい経験があるのか、この際だから腹を割って話をしてみたい

 

「女の子しかいないことですし!零次様は眠っていらっしゃいますから例外として!」

 

さぁさぁと琴歌さんが手でわたくしとゆかりさんに諭す

部屋の中を見てみると監視カメラ等もなく、人もわたくし達以外いないのでここなら確かに話しやすそうだ

さすがに泥棒さんも遊戯室には興味はないだろう、そもそも侵入が不可能なのだから

 

「ゆかりさんはどうですか?その···想いを寄せている方なんかは!」

 

わたくしたちはすでにお風呂で色々と語り合ったので、まずはゆかりさんに関心が寄っていった

 

「私、ですか···」

 

ゆかりさんがいいよどむ、しかし段々と感情が溢れてきたのか体を少し縮こませるようにして両手を体の前に持ってきてモジモジし始める

そんなゆかりさんが少し珍しかったので、琴歌さんと二人で前のめりになる

 

「私はその···好きというか、気づいてもらえてはいる···みたいなんですが、どうかはわかりません。ああ···なんと申したらいいのか、その···お恥ずかしい話なのですが」

 

そう言うとゆかりさんは手で顔を覆ってしまう

しかしその指の隙間から見えた視線は間違いなくすぐそこのソファーで横になっている男性に向けられていることがわかった

わたくしがそんなゆかりさんの視線を追って零次様を眺めていると、琴歌さんも同じようにしている

どうやら琴歌さんも気づいているようでわたくしと二人、ゆかりさんも同じだと確信を持った

 

「ゆかりさん、お恥ずかしい話ではありません。零次様はその···魅力的すぎますので、そのお気持ちはとてもよくわかります」

「わたくしも、とてもよくわかりますわ」

 

二人でそう言うと、ゆかりさんもその意味に気づいたようだった

 

「では···、琴歌さんも星花さんも···」

「ええ」

「はい」

 

それ以上何も言わなくても、私たち三人はそれが何を意味するのかわかった

でも決して責めたてるわけでもなく、言い争いになるわけでもない、逆に胸の中のつかえが取れたような、同士を見つけたような

これが同い年のクラスメートとかだったら話は変わっていたのかもしれないが、相手は自分よりも大人で経験もある人物だという共通の敵を見つけた時のような

そんな共通の悩みを抱える仲間のように思えた

 

「確かに···そうですね。零次様は魅力的すぎます。私もどうしたらいいのか···」

「ゆかりさんは、これまでに恋人がいた経験は?」

「そんな、ありません。めっそうもありません。私といたらきっと···つまらない女だと思われてしまうかも。''そういう視線''を感じたことはありますが···」

 

その点に関しては、琴歌さんもわたくしも首を縦に振っていた

 

「でも、零次さんの近くで気づいてもらえるように、私は行動してみました。お家に行ったり、零次さんとその···一緒に···」

 

ゆかりさんがまたもやいいよどむ

そのゆかりさんの発言に琴歌さんは興味津々だった

 

「れ、零次様のお家に行ったというのはつまり···!その···!それは···!」

「いや、あの、違います違います。近くに少し横になっただけで···」

「そ、そうですか。それは···」

「はい、その···''その時''は、はい···」

 

その時···?

琴歌さんも同じようにその言葉が引っ掛かっているようだった

 

「その、つかぬことをお聞きしますが。ゆかりさんは···えっと、け、''経験''のほうは···?」

「あ···、え···?」

 

妙な空気になってきた

甘ったるいような、そう、お風呂場と同じような空気だ

このような普段とは違う環境で、さっきの雰囲気も残っていたので、いつもより一歩踏み込んでいく

琴歌さんの様子も、なんだかポーッとしているような、またのぼせてしまうような表情をしている

 

「その···、それは···」

 

真っ向から否定しない

ということは···と想像が膨らんでいく

 

「も、もしかして···誰かに無理やり···とかでしょうか?それならば警察に···」

「全然違います···!全く違います···!むしろ···私から求めてしまったというか···」

 

自分の胸の鼓動が高鳴っていく

琴歌さんも目を丸々と開き、呼吸が深く胸がさっきよりも大きく上下に動いていた

他には誰も見ていないし聴いていない、ここにいるのはわたくしたちだけ

それがわかっているのか、ゆかりさんはゆっくりと口を開く

 

「···先ほど、私は琴歌さん星花さんとは別行動を取りました」

「···そうですわね、零次様も同じように···」

 

その瞬間琴歌さんが自分の口を手でふさいだ

わたくしも、気づけば琴歌さんと同じようにして口を押さえてゆかりさんの話に釘付けになる

 

「零次様は···その、お風呂に入ろうとしていて···、私は、そのお背中を流そうと···零次様のお部屋の浴室に···入りました」

 

~!と琴歌さんと同じように鼻の奥で声を出す

もし口に手を当てていなかったら叫んでいたことだろう

 

「そして···その···、零次さんは迷っておられました。ですが、私はもっと自分のことを知ってほしいと···」

 

ゆかりさんはジェスチャーを交えて、体に纏っていたタオルを取る動きをわたくしたちに説明してきた

なんとも生々しい光景に頭の中がグルグルと何かが駆け巡ってくる

 

「下心があったのは私のほうで、零次さんは最後まで···私のことを考えてくれていました。でも私は自分の···感情をもう押さえきれなくて、優しくしてほしいと思いながら···壁に手をついて···背中を向けて···」

 

体がムズムズしてきた

何をされるのかわたくしでも想像がつく

琴歌さんも既に両手を口に当てて顔を真っ赤にしていた

ゆかりさんは続けて何かを説明しようとしたが、説明するのが恥ずかしいのか顔を伏せるのと同時に、その伏せた自分の頭の前に両手を持ってきて、ジェスチャーを始める

 

指を二つ使って輪を作り、もう片方の手の人差し指を真っ直ぐピンッと立てると、その人差し指を輪の中にゆっくりと入れていくのだった

 

「ひやぁぁっ···!あぁっ···!」

 

琴歌さんからついに声が漏れた

手を握って口元に当て、捻り出すような声を出している

わたくしも心臓の鼓動がこれまでにない程に早くなり、もう飛び出してしまいそうになる

 

「あの···、い、痛かった···ですか?」

 

琴歌さんが恐る恐る尋ねると、ゆかりさんは頭を下げたまま、無言で頷くのだった

 

「ちなみに···その···!どのくらいの···お、大きさというか···」

 

琴歌さんのその言葉にゆかりさんはやっと顔を上げて、今度は人差し指と親指を広げてその長さを表現していた

琴歌さんは腕を伸ばし、ゆかりさんの人差し指と親指に同じように自分の指を当てるとその長さに開く

 

「痛かった···ですが···、零次さんは最後まで···優しくしてくださいました。その···血が少し出てしまっていたので···」

「ひゆぅぅぅん···!」

 

琴歌さんがその開いた自分の指とゆかりさんを見比べたまま声を上げる

そうか、ゆかりさんが下半身を押さえてモジモジしていた理由がわかった

 

ゆかりさんが···そこまで進んでいたなんて

我々よりも、一歩踏み込んだ先にいる

 

もう恋バナの領域を超えている、人間の本能の話になっていた

わたくしも本能に支配されたボーッとした頭で自分の指をゆかりさんと同じくらいの幅に広げて、自分の下腹部に当てていた

 

疼くのがわかる

この旅行でどうなってしまうのか、もう予想がつかなかった

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