ヘイ!タクシー!   作:4m

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接触19

太陽が少し傾いた

一日経つのがここでは早く感じる

星花とのペアも一息ついて、一度座る

続けられる体力が限界だ

何で動き続けられるのか不思議で仕方ない

屋根のない直射日光が降り注ぐ浜辺でだ

疲れというものを知らないのかアイドルは

人気者とはそういうものなのだろうか

 

「···無理だ、これは」

 

スゴすぎる、あれだけ飛んで打って滑り込んで、全身砂まみれだというのにまだあいつらはキャッキャしている

パラソルの下で一人また息を落ち着かせているお兄さん兼保護者は色々と限界だ

やはりあいつらにはふさわしい相手がいると思うマジで

あの体力についていくには本腰を入れる必要があるな

 

太陽が傾いたとはいえ夏の暑さに体が悲鳴をあげている

たまらず置いてあったクーラーボックスから飲み物を取って口をつける

スポーツドリンクはやはりいい、暑い工場の中で体を動かすときにも必需品だ

 

「はぁ···、零次さん。私も欲しいです」

 

一段落したのか、ゆかりが身体の至るところに砂をつけてこちらへと戻ってくる

思い切り飛び込んでいたから髪の毛まで砂をつけていて、それを払ってブルーシートの上に上がってこようとしていたが、まだ完全に砂が取れていなかった

背中とか特にそうだった

 

「まてまてまて、まだ付いてるから落としてくれ。背中、肩、脚の裏。膝の後ろとか」

「まぁ···すみません。どこですか?」

 

上がる一歩手前で止まったゆかりはそのまま俺に背を向ける

しょうがないから重い体を動かして、ここ、ここ、ここ、と教えてまた座り込む

まったくまだまだ子どもっぽいところもあるもんだお嬢様は

 

···しかし、ゆかりは砂を落とそうとも上がってこようともしない

俺に背中を向けたまま、座り込んで飲み物を飲んでいる俺に上から肩越しに視線を送ってくるのだった

 

「なんだ、どした」

「すみません、やはり背中とかはどこに付いているのかよくわからず···。零次さん、申し訳ありませんが取っていただけますか?」

 

···なに?

お前···昨日あんなことしてしまったのに、それでも俺に体を許してくれるのか

あんなに痛い思いをしたのに、それでもなお俺に近づこうとしているのか

 

「···甘いな、俺はそんな優しいやつじゃないぞ」

「年下ですから。お兄さんに甘えて見たかったり···。それに、触られるのは全然···嫌じゃないので」

 

ハッキリそう言うと、ゆかりは俺に背を向けて立ち尽くす

目の前には、ゆかりのお尻が丁度見える高さにあった

 

なんだか、昨日の夜からこいつの背中ばかり見ているような気がする

肩から肩甲骨にかけてのライン、綺麗な腰のくびれに、女性らしい腰骨の広がり

それらが昨日とは違い肩にはビキニの紐が結ばれていて、下もフリルのようなものが付いた水着でお尻は隠されている

可愛くてセクシーではあるが、イヤらしくはない

そのはずなのに、昨日の記憶が甦る

 

「零次さん?」

「···わかった」

 

まったくダメだ、何をそんなことばかり考えている

ゆかりはただ砂を落としてほしいと頼んでいるだけだ

それなのにいつまでも悩んでいるほうがゆかりに対しても失礼だ

 

「はい、気を付け」

「···はい」

 

ゆかりは俺に言われた通りにまるでお手本のように背筋をキチンと伸ばして、落とした砂がブルーシートにかからないように一歩前に出る

手を前に持っていって組み、まるで何かのオーディションのように綺麗な姿勢になっていた

 

「はい、よいしょよいしょ。髪の毛と、肩と···」

「ん···」

 

さすがに潮風に当たっていたからか、自慢の長髪も少し手に絡む

それから肩、背中、脚の裏、膝の裏と手で軽く砂を落としていくのだった

ゆかりもされるがまま、黙って立ち尽くしていたが、やはりところどころ触ると少し声を漏らす

可哀想になってきたのですばやく済ませると、ゆかりに終わったと伝えて座り込んだ

 

「ありがとうございます。私も喉が渇いたので、一つ頂きますね」

 

こいつは狙ってやってるのか

俺の悩みなどつゆ知らず、ゆかりは態度を変えることなく俺の隣にあるクーラーボックスから俺と同じスポーツドリンクを取り出して、すぐ横に座る

美味しそうにゴクゴクと、喉を動かしながら飲む姿が様になっている

まるでCMみたいだ、今度あのクソ真面目なプロデューサーにでも提案してみよう

 

「これ、美味しいですね」

 

ね?とそのままポスターになりそうなポージングで言うゆかりだった

 

「零次様、すぐにバテすぎですわ。二、三試合続けてできませんと」

 

これまた二人も一段落したのか、琴歌と星花もこちらへとやってくる

琴歌はどことなく不満そうな態度で、星花はそれをなだめるといったまるで姉妹のようなやり取りだった

 

「琴歌さん、零次様は美空さんたちがおっしゃっていたように''運動不足''なのですわ。徐々に体を慣らしていってあげませんと」

「おい、お前ら聞き捨てならないな。一体姉さんたちとどこまで繋がってるんだ。おい、ちょっ、人の話を聞きなさいコラッ」

 

俺が問いただしても''乙女の秘密ですわ~''とかいって相手にされなかった

女たちの結束力をナメてはいけない、それは日頃の生活でわかってはいたが···

ベッドを入れ替えたり、ホワイトボードを設置したり、でもホワイトボードは意外と便利だった

そこは女子ならではっていうか、どちらかというと奥さんの知恵って感じだけど

とにかくそこはお嬢様も一緒か

 

「まてまてまて、お前たちも砂をちゃんと落とせ。ほらもう」

 

横に座っているお嬢様と同じ様にそのまま入ってこようとする琴歌と星花

直前で止めてブルーシートから一歩外に出すと、そこで落としてから入れと指示を出した

 

「まぁ、配慮が足りませんでしたわ。すみません」

 

そう言うと琴歌たちは自分の分を落とすのと同時に、お互いに手が届かない場所や気づかないところを落としてあげていた

俺がゆかりにするのとは違って恐る恐るというか遠慮がちではなく、ササッと素早く砂を落としている

そりゃあ女同士なんだから当たり前だ、何をそんなに意識してるんだ

 

「何をそんなにまじまじと眺めているんですか?」

「うわっ、ビックリしたお前。お前こそなんだ」

 

体育座りをしていたゆかりが体を斜めにして俺に近づき、ペットボトルを両手で持ったままボソッと呟いてきた

そのままゆかりの額を人差し指で押して姿勢を戻してやるが、再び傾いてくるという謎な遊びを始めていた

砂を落とし終わった琴歌たちがこちらに振り向くと、そんな俺たちに気づく

 

「まぁ、そんなゆかりさん···!だ、大胆ですわ!」

「何とかしてくれほんとちょっ、ゆかっ、ほんと···まったく」

 

ゆかりはそのまま倒れ込み、俺の肩に頭を預けるような状態になる

そのままペットボトルに口をつけている様子を見ると、もう戻す気はさらさら無いようだった

 

「そ、そんな···はわわ、琴歌さん···!わたくしたちは一体どうすれば···!」

 

俺たちの様子を見た二人が予想以上に慌てふためいている

顔を赤らめて、手で口元を覆い、二人でヒソヒソと何かを相談しあっているようだった

 

なんだ?ここに来てからやっぱりこの二人の様子がおかしい

俺とゆかりが何かしらくっついているのを見ると、変に慌てふためく

こんなこと今までも、っていうか琴歌とはドラマの撮影であんなことまでしたのに、琴歌も星花もなんだかソワソワとしていた

 

「そうですわね!変なことではないですもの!まずは、慣れることから···」

 

すると琴歌はクーラーボックスからゆかりと同じ様に飲み物を受け取ると、なんと俺の前に座り込み背中を俺のほうに預けてくるのだった

胸元にビキニのブラ紐を挟んで琴歌のシットリとした柔らかい肌が当たる

丁度俺が脚を左右に開いたその隙間にスッポリと収まって、ふぅ···と一息ついて落ち着いている様子だったが···

 

「こ、琴歌さん!そんな大胆な···!」

 

星花はこの光景によけいにうろたえていた

さらに琴歌は俺の手首を掴むとそのまま自分の体の前に持っていき、丁度脚の付け根の部分へと置いたのだった

琴歌が履いているビキニの下の布地の部分と太ももの感触が手に伝わって、まるで琴歌を軽く抱いているような、そんな感覚に近い

 

「なんだか···意外と落ち着きますね。しっくりくるような感覚といいますか···」

「こんだけ周り広いんだからわざわざ引っ付かなくてもいいんじゃないのか?暑いし」

「それとこれとは話が別ですわ」

 

一向に引く気配がない

ペットボトルの蓋を開けて、''美味しいですわ~''とかなんとか言いながら完全に座り込んでいた

完全に脚を伸ばしてリラックスした状態で、今度は頭も胸に当てて全身の力を抜いている

ピンクの髪の毛が丁度鼻のあたりにかかって、くすぐったい

 

「ではっ···あの、わ、わたくしも···」

 

一人だけ見ていた星花も行動し始めた

何をするのかと思ったら、ゆかりとは反対側つまり俺の右側へと移動して座り込む

そして、そう、ゆかりと同じ様にして体を倒し、肩へと寄りかかってくるのだった

 

こうして、俺の前と左右のパーソナルスペースが完全に失われた

両腕に抱きつかれないだけまだいい、あれをやられるとガチで身動きがとれなくなる

映画とか漫画とかでよく見るような羨ましい光景だろうが、実際にやられるとあのままの状態で歩いたりする場合左右の女の子を引っ張る為のパワーが必要で意外と疲れる

寝てるときもヤバい、寝起きで力入らない状態で動かないといけないから朝とか大変だ

あの悠貴でさえ40kgのウェイトがしがみついてるようなもんだ

 

「ど、どうでしょうか···」

「どうって言われてもな···」

 

右は星花、前は琴歌、左はゆかりとそれぞれの体温が伝わってきて正直暑苦しい

家はエアコンがあるからまだいいが、パラソルの下にいるとはいえ真夏の浜辺の上に三人くっついているんだから当たり前だ

 

「この際ですから、記念に写真を撮ってデレぽに掲載してみてはいかがですか?」

 

ゆかりが後ろにある自分の手荷物に手を伸ばそうとしていたが、ゆかりの腕を掴んで止める

 

「バカ言うな俺が殺される。暑いから離れろほら。はいはい解散解散」

 

そんなことしたら何を言われるかわかったもんじゃない

ただでさえ今日のお嬢様方の心境が読めないんだ、下手に動いたらこいつらもどう行動してくるか

昨日と比べてゆかりはもとより、琴歌も星花も距離を詰めてくる印象だ

 

「ひゃんっ」

「あららっ」

「あんっ」

 

とりあえず琴歌をまず前にずらし、続いて星花、ゆかりと引き離すと、逃げるようにパラソルの外へと出ていく

 

「あぁ···、外に出はしたけどやっぱりあっちぃ!」

「零次さんって、やっぱりちょっとおバカ···」

「んだとこのやろう聞き捨てならんな。あいつか、やっぱりあいつが言いふらしてんのか」

 

ゆかりがスポーツドリンクを飲みながらそんなことを言う

もうすでにお嬢様が口にするほど悪い噂が広まってしまっている

やっぱりあいつとは一度タイマンを張るべきだな

口喧嘩だと妙に知恵が働いていつも言い負かされてしまうんだから

女の子とはやはり侮れない、口喧嘩で勝つなんて絶対無理だ

何が大人げなくて子どもっぽいだ

腕相撲とかどうだ?絶対勝つ自信がある

 

「零次様、お暑いのでしたらその···お隣にどうぞ」

 

ブルーシートに三人並んだ真ん中、俺の位置についた琴歌が俺を誘っていた

 

「いやお前、くっついたらまた暑いだろう」

「でも、外にいるよりはいいですわ。その···どうぞ」

 

やはり譲らない、なんだか確固たる意思を感じる

琴歌は少し位置をずらして、一人分のスペースを作る

 

「でもよ···、言いにくかったけどさ、琴歌はほら、この前あんなことがあった後だろ?俺みたいな男が近くにいたら恐いんじゃないのか?」

 

今まで避けてきたが、一番気になっていた疑問を投げ掛けた

トラウマになってもおかしくない事件だった

自分の体を道具のように扱われるなど、男の俺からしても身の毛がよだつ

それでも琴歌は尚も俺に近づいてきてくれている

気を使っているのかどうか、それだけは確かめたかった

他二人もそのことは気になっていたのか、黙って琴歌の言葉に耳を傾ける

 

「それは···恐かったです。自分の身にまさかあんなことが起こるとは思っていませんでしたし。ですが、それを零次様が助けてくれたのも事実ですわ。そのことで男性を嫌いになるというのは間違っていると思います。ですので、あの人のことは嫌ですが零次様のことは好きですわ。ですので···こうして触れるのも、嫌ではありません」

 

ぐいっと手首を引っ張られてブルーシートへと引き寄せられる

丁度俺の体は琴歌が開けたその一人分のスペースへと座らせられて、また三人座って並んで海を眺めるような感じになっていた

 

「零次様は考えすぎですわ。そもそも私が嫌がっていたら最初から誘っていません。そういう優しいところが、零次様のズルいところです···わっ!」

「うげっ!」

 

またまた今度は俺の体の胸のあたりにまるでラリアットのように片腕を持ってくると、琴歌はそのまま俺をブルーシートに倒すのだった

そのまま腕を俺の腕に絡ませられて身動きがとれない

なんとか抜け出そうとしたが、石のように固まって動こうとしなかった

 

「お前、まったく···」

「そうです、零次さんはズルいんですよ」

 

起き上がろうとしたが、反対サイドにいたゆかりが同じ様にして寝転がると、もう片方の腕を琴歌と同じ様に絡めてくる

完全に動きを封じられた、仰向けになり視線の先にパラソルの内側が見える

 

左右の腕に、その感触を感じ始めてきた

女性の、感触も大きさも人によって全然違うというのがハッキリとわかる

腕の挟まれるその範囲が違う、水着越しに感じるその体温で、どの程度の大きさなのかがひしひしと伝わってくるのは男の性なのだろうか

 

「んっ···、星花」

「どうぞ、お疲れでしょう?ゆっくり休んでください」

 

パラソルしか見えなかった視界に、星花の顔が上下逆さまに現れた

同時に頭の後ろにしっとりとした感触と、それに加えて首のうなじあたりに星花の脚の体温が伝わってほんのり暖かかった

 

もうされるがままだった

こいつらがいいと言うからこのままだが、普段の生活じゃ考えられない

俺も大分、このバカンスとこの状況に毒されてるらしい

 

「···そういえば」

「はい」

 

もう一つ気になったことがあったので、琴歌に聞いてみることにした

 

「あの俳優···、琴歌の相手役だったあの男はどうなったんだ?最近見ないけど」

 

ほたるもそんなことを言っていた気がする

 

「ああ、それでしたら、私も気になって病院に行く理由をお父様にお伝えした日から数日経った後にお父様に尋ねてみたのですが···」

 

そこで返ってきた返事がたった一言、''聞くな''だそうだ

俺は改めて西園寺家の規模の大きさと、琴歌がいかに大事に扱われているかというのがわかった

そんな大事なご令嬢、他二人も変わらず宝物のように扱われている娘達を含む三人のお父様方に許可を頂いて同伴している俺って一体···

おそらく···娘達の気持ちには感づいているとは思うが、それでも''そういう行動''を起こすかもしれないということを見越しての判断だとすれば、俺は一体お父様方の中ではどのような位置付けなのだろうか···

 

考えていると、俺たち四人疲れていたのかウトウトとそのまま少し眠ってしまい、目覚める頃には日が綺麗な赤色になるまで沈んでいた

 

そしてまた、夜がおとずれる

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