「・・・で、ここで待ってればいいのか?」
俺はカバンからファイルを取り出し、中に入れたメモ用紙を取り出した
住所を確認し、その下にカタカナで書いた名前を見る
ササキチエ
サクライモモカ
マトバリサ
この三人を現場まで送っていくらしい
姉さんが飲みの席で語っていた中にこの名前は無かった為情報がない
子どもなのかグラマラスなお姉さんなのか、そしたら後ろ乗るスペースあるかこれ・・・
考えていると、コンコンコンと助手席をノックする音が聞こえた
「おお、やっと来t・・・おお!?」
助手席を見ると、ガラスの下あたりにちょこんと顔だけ出し、中を覗き込む高そうな服を着たパツキンの女の子がいた
俺はガラスを下に下げる
「・・・はい?」
「あなたが、私たちの運転手さんですこと?」
そう言いながら窓から少し中を覗き込みパツキンは言う
俺はメモ紙の名前を見ながら確認する
「確かに俺が運転手だけど、えーと・・・ササキチエさん?」
「それはこちらですわ」
「き、今日はよろしくお願いします!」
また窓の下からぬっと立ち上がり、こちらに向かってお辞儀をするこれまたショートカットが似合う礼儀正しい子
「じゃあ・・・マトバリサさんか」
「それはこちらに」
またまた下から顔を出す小さな女の子
何それ流行ってんの?
ツインテールをヒョウ柄の髪飾りで結び、腕を組み何も言わずこちらを鋭い目付きで睨んでいた
専務とは違い、完全に疑心暗鬼の意味合いが込められている
「ってことは」
「ええ、櫻井桃華と申しますわ。以後お見知り置きを」
一歩下がって、スカートの左右の裾を少し持ち上げまるで社交ダンスの前の挨拶の様に丁寧にお辞儀をする櫻井桃華さん
その立ち振る舞いからいいとこのお嬢様と言ったところなのかそうでないのか
「あ、あの〜・・・」
「いつまで待たせる気?」
一連のやり取りを黙って見ていた二人が痺れを切らし横から言う
「ああ、悪い。乗ってくれ」
親指で後ろの席を指差すと「まったく」と悪態をつきながらマトバちゃんがドアを開け乗り込む
「じゃあ、お願いします・・・」
それに続きササキちゃんも乗り込む
「わぁ、良い匂いする・・・!」
座った瞬間ササキちゃんがそう呟いた
そりゃそうだ、昨日芳香剤車の中に放り込んだばっかりだからな
「では、私も失礼して・・・」
そう言って助手席のドアを開け乗り込もうとするサクライちゃん
「ああ、あーあーあー!」
「はい?」
キョトンとした表情で座ろうとする手を一旦止め、不思議そうな目で俺を見つめる
「後ろ後ろ、子どもは後ろ」
「まぁ!レディに向かって!」
「だ・れ・がレディだ!10年早いわ!後ろ!」
「もう!」と一言だけ呟き、渋々後ろの席に座りドアを閉める
「はい、じゃあ出発しまーす」
ーーーーーーーーーー
美城プロを出発し少しして、やっと高速道路に合流できた
「そっか、まだ小学生か。若いね随分」
「・・・ねぇ、本当に私達の事知らないの?」
「知らないわ、あんまりテレビ見ないし」
「まぁ、流行遅れですわね」
時間が時間なので、そんなに込んでいる様子はなく、物流のトラックや会社の車ばっかりだ平日だし
そんな車の流れに逆らう事なく、間に合う時間帯ではあったので飛ばすこともなく目的地へと向かっていた
「何、あんたらそんな有名なの?」
「ライブにも出たんですよ。今日はそのBDのプロマイド撮影なんです!」
佐々木ちゃんのワクワクしている表情がバックミラーに映る反面、小さく舌打ちして肘を窓枠につき外の風景を見てる的場ちゃん
そんな様子を櫻井ちゃんは困ったような表情で見守っていた
「・・・梨沙さん」
「何よ、何も言ってないじゃない」
「そうではなくその態度ですわ。私たちなら大丈夫だと先程言ったではありませんか」
「ふ、二人とも・・・」
先程の様子から打って変わり、困惑した表情で佐々木ちゃんが遮り、しばし車内に沈黙が走る
的場ちゃんは変わらず外の風景に目をやり、櫻井ちゃんはため息を漏らす
「何?なんかあるの?」
「あんたには関係ない」
あんたってお前・・・
外を見ながらそう返事をする的場ちゃんに「ちょっと」と手で軽く小突き、すいませんと小さく呟き軽く頭を下げた櫻井ちゃん
その後しばらく沈黙が続き、車を走らせる音だけが響いていた
「・・・あ」
「へ・・・?」
俺が一言小さく呟いた言葉に佐々木ちゃんが反応し、俺と外をチラチラ交互に見比べる
視線の先には道路脇に立つ案内板があった
「SAあるけど寄るか?」
まだ少し時間があったので尋ねてみた
「別に」
「私も、特に用はありませんわ」
「あ、あの・・・私は、寄って欲しいかなって・・・」
バックミラーを見ると、佐々木ちゃんが少し体を動かしてモジモジしながらそう答えていた
俺としたことが配慮に欠けていたな
「あー、俺ちょっと用事あるから寄るな。何もないなら車乗ってていいし」
一旦高速から外れ、SAに入っていく
駐車場内は特に混雑しているわけでもなく、人もまばらだったが万が一の事も考えて少し端のほうに車を止めた
「はい、OK。降りる方はどうぞ」
サイドブレーキを引き、エンジンを切るのと同時に言う
「桃華ちゃん、ごめん。ちょっと・・・」
「ああ、申し訳ありませんわ。今すぐどきますから。よっと・・・」
「狭い車で悪いな」
後ろのドアが開くと同時に、俺も車から降り手を上に上げ大きく伸びる
櫻井ちゃんが一旦外に出て、佐々木ちゃんも降りてくる
降りると同時に少し小走りにSAの手洗いに向かっていった
「まぁ、せっかくですし・・・私も」
と言ったと思ったらこれまたSAの手洗いに早足で向かっていく
「・・・で、あんたはどうするんだ?行ってきたほうがいいんじゃないの?」
俺は振り返ってルーフに手をつき、後ろで背もたれに寄り掛かっている的場ちゃんに声をかける
「・・・いいわよ別に」
目線だけ俺に向けて答える
「いや、絶対行ってきたほうがいいってほら。これからちょい長いし」
そう言いながら後ろのドアを開け、はぁ・・・とため息をつきながら自分のバッグを持って的場ちゃんは渋々車から降りてくる
「あんたね、それ他の女にやっちゃダメよ。もっとね・・・こう、スマートにやんなさいスマートに」
「デートじゃないんだから、それにお前まだガキじゃんか」
「うっさいわね!」
すると俺の足の甲を思いっきり踏みつけてきた
しかし、踏みつけたはずなのにまったく痛がる素振りを見せず、それどころか潰れる様子を見せない靴に的場ちゃんは、その不思議な感覚に思わず俺に顔を向ける
「ああこの靴''安全靴''っていって、車に轢かれても潰れない強化素材がつま先にあr」
「バッッッカじゃないの!!」
俺の話を遮り、ドア強く閉めスタスタとSAに入っていってしまった的場ちゃん
・・・おい、もうちょっと大切に扱ってくれよ
ーーーーーーーーーー
(わかんないわかんない!ホンットワケわかんない!!)
ムシャクシャした感情剥き出しにしながら、梨紗は誰に当たるでもなく手洗い場で手を洗う
プロデューサーの事もそうだが、問題はあの男のことだった
新しいドライバーを雇うことになったとプロデューサーから聞いた時はへぇ・・・と聞き流していたが、周りがヒーローだのなんだの騒ぎだし自分も少し期待していたのがダメだった
蓋を開けてみれば何の変哲もない普通の男じゃないか
自分を子ども扱いする、他の奴と変わらない
おまけにドライバーと言っておきながら、自分たちのことは知らないときた
人が足りないから適当に拾ってきただけなんじゃないか
「梨沙ちゃん・・・!」
「あ・・・」
手洗いを出て、SAの通路に出ると千枝が壁に寄り掛かって待っていた
「結局皆降りてきたわね」
「あはは・・・桃華ちゃんももうすぐ出てくると思うから」
視線を目の前のガラス越しの駐車場に戻し、少し下を向いてそう答えた
「・・・あんたはどう思う?」
「何が?」
キョトンとした顔で聞き直す千枝
「あのドライバーのことよ。私たちのこと全然知らないし、子ども扱いするし、そもそもうちの会社の社員じゃないし。一体何考えてんのか専務は」
「子ども扱いはしょうがないよ、だって子どもだもん。車だって運転出来ないし」
「私はまだ信用できない」
梨沙はそうはっきり言い切った
「・・・でも専務が選んだってことは」
ふと隣の自動ドアが開くと、交通情報が映っている電工ボードの前で腕を組み、考え込んでいるドライバーの姿が見えた
「悪い人では・・・ないと思うよ?」
「いや、そうだけどさ・・・」
自動ドアが閉まると同時に、そう言って千枝はニコッと笑う
「お待たせしましたわ。さぁ、行きましょ・・・う?」
手洗いから桃華が出てくると、二人の様子に首を傾げてる
「いこ?」
「う・・・うん」
三人はドライバーの元へと向かう
近くに行っても相変わらず電工ボードに向かい考え込んでいた
「ちょっと、揃ったわよ」
「・・・うん」
「どうかしたんですか?」
千枝が尋ねると、ドライバーは電工ボードを指差す
そこには自分たちがこれから通るはずの高速道路が赤く点滅し、交通事故のため通行止めになっているという情報が出ていた