ヘイ!タクシー!   作:4m

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番長05

机の上にある仕事道具や資料を片付ける

確かこれは···明日でも大丈夫だ

エアコンを止めて、金庫にお金をしまう

手順通りに閉店の作業を進める

他に忘れてることは無さそうだった

仕事は何とかまわったが···

色々とわからないことだらけだった

 

「レイジ君、いいよっ、閉めよっか!」

 

同じように机の上の仕事道具を片付けて、自分の荷物を片手に持って姉さんがカウンター前に飛び出してくる

今日の仕事は終わったようだ

俺も自分の荷物を片付け、忘れちゃいけない明日の予定をメモ紙に書いてパソコンのディスプレイに張り付ける

これもひな先輩から教わったやり方だった

 

「ふーっ···、中々忙しかったね」

「そうですね」

 

隣にあるひな先輩の机を見る

今日一日、何も置かれなかった机を見る度に寂しい気持ちになった

仕事も教えられたことはやったが、どうにもやはり二人では予定に入っていた仕事をまわすのに精一杯で、飛び込みでやってきたものは断らざるを得なかった

それをふまえても、ひな先輩がいないのは辛かった

最も許せないのは相手だが、まだ正体も何も掴めていない

 

「車は工場に入れたしー、鍵は閉めたしー、じゃあ最後セキュリティのやつやっといて終わりね」

「はい、わかりました」

 

姉さんもいつも通りの態度で接してきているように見えるが、度々駐車場にあるひな先輩の車を眺めては難しそうな顔をしていたのを何度か見た

姉さんも内心納得はいっていないみたいで、板金屋に電話をしているときも、どれだけの損害だったか早めに教えてほしいと息巻いていた

 

「終わりました。早いとこ出ましょう」

「はいはいはい~、さぁさぁ帰りましょう帰りましょう」

 

最後に事務所の鍵を閉めて完了だ

二人して駐車場を歩き、車が停まっている場所まで行くが、横目でひな先輩の車をついつい見てしまう

やはり酷い有り様だ

何とかひな先輩が退院するまでに直ってほしいが、難しいだろう

 

「レイジ君、これから予定ある?」

「俺ですか?」

「そっ。実は···早苗ちゃんと楓ちゃんと、あと瑞希ちゃんと美優ちゃんが久しぶりにガレージに来て飲むんだよね。ひなちゃんの回復を願って~って、動画送ってあげようと思ってさ」

 

それはひな先輩は喜ぶかもしれない

 

「俺は···昼に会いに行きましたし、ちょっと恥ずかしいんで。それと、人と会う予定があって」

「あら、あらあらあらあら~」

 

またよからぬ妄想をしているのか、姉さんはニヨニヨとした笑いを浮かべてこちらを見てくる

 

「···なんですか」

「珍しいなぁ~って思っちゃって。いつもなら''あいつらが来るから''とか、''あいつらを送っていかないといけないから''とか言うのにわざわざ''人に会う''だなんて~。一体誰に会うことやら~ねぇ?」

「友人です。友人」

「''友人''ねぇ、ふ~ん。まぁ頑張ってね~」

「お疲れ様でした」

 

これ以上話すのもめんどくさかったので、一言お疲れ様でしたと伝えると姉さんは早々に去っていった

 

さて、俺も待ち合い場所に向かうために車に乗り込む

会うのが久しぶりだ、学生の時以来会ってなかった

お互いが働き始めてからは忙しくて尚更会えなかったし、駅で待ち合わせというのも中々懐かしい

今夜は色々と積もる話を語れたらいいと思う

今夜だけは、あいつらには遠慮してもらおうか

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

帰宅に急ぐ学生やサラリーマンが行き交う駅前の停車スペースに車を停めて、俺は待ち合わせていた人物を待つことにした

あんまりエンジンを掛けていると色々言われるかもしれないし、あいつらが目を付けて寄ってくるかもしれないので切ったまま駅の構内を眺める

夕日が沈みかけてきて、夕食にも丁度いい時間帯だ

 

せっかくだし、たまには遊ぶかと誘ったはいいがどうしよう

メシ食ってから遊ぶのもいいかもしれないな

 

「···ふむ」

 

深く腰掛けて、半分寝るような姿勢で相手を待つ

やっぱり、少し落ち着ける時間があると考えてしまう

難しい顔をするなと言われたばかりなのに、これじゃあまたひな先輩に怒られる

もうこうなってしまったのだから俺にはどうすることもできない

ただ、状況がいい方向に向かうことを願うだけだ

 

「お、来た来た」

 

構内を歩いている雑踏の中にその姿を見つけた

改札を抜けて、脇目も振らず一直線に出口まで歩いてくるその姿は間違いなかった

モデルのような体型で綺麗な長髪の黒髪、周りの目を引くそのスタイルは着ているスーツの着こなしも相まってより一層際立って見えた

 

『もしもーし』

 

気づかないフリをしていると、可愛らしい声で助手席側の窓を軽くノックされた

俺はそれにわざとらしく気づくと、助手席側の窓を開けてやるのだった

 

「おお、お疲れ。今着いたのか」

「ウソ、気づいてたくせに。ホント変わんないね」

 

助手席の荷物を後ろの席に移動させてドアを開けてやると、自分のバッグを胸元に抱き抱えながらおずおずと助手席に乗り込んでくるのだった

 

「え?いいの?私、助手席に座っちゃって」

「なんで」

「他に座る人がいるみたいなんだけど?」

 

ホラ、と差し出されたのは明らかに俺のものではない女物のハンカチ

どうやら助手席のシートの隙間に落ちていたようで、前に加蓮がどこにいったと騒いでいた代物のようだった

他にもセンターコンソールのドリンクホルダーには、もう飲み物を置くスペースがないほどヘアピンの山が出来上がっていた

何度取り除いてもまた溜まってるという謎現象が起こるのだから不思議だ

ヘアゴムも同じだった、何故か俺の車はそうなっていく

また色々掃除しないと、シートの下なんて恐くて見れない

 

「ああ、違う違う。仕事仲間っていうか、あー、なんていったらいいか···そう、同僚のやつらの仕業だ」

「随分と沢山いるんだね、女の子の同僚」

 

ヘアピンやヘアゴムを手にとって眺めているカオルに、後ろの足元の小物入れに入れておいてくれと頼んで、俺はさっさとエンジンを掛けた

 

さて、時間はたっぷりある

そのままメシを食いにいくか、それとも適当に流しながら久しぶりに話し込むか

 

「···ねぇ」

「ん?」

「久し···ぶりだね。元気してた?」

「···まぁ」

 

先に話題を振られてしまった

しかし、お互いに急な再会だったからどう踏み込んでいったらいいのかわからない状態だった

話そうと思っても、何を話したらいいのかわからない

何もしないまま、ただ道端に停まっている車内の中にいるだけの状態だった

 

「ご飯···どうする?」

 

沈黙を破ったのはカオルだった

ふと呟いたその言葉には、この後の予定を決定するような意味合いがチラチラと見える

 

「···それなんだよな、どういう気分だ?」

 

その言葉に乗ることにした

最初はやっぱりメシにするか

となると色々候補は考えられる

学生の頃とは違って免許もあるし、車もあるから選択肢の幅が広い

あの時なんて一人暮らしだし、そんなに金もなかったから大体は···

 

「そうね、久しぶりに会えたんだし···あの時みたいに、部屋に行ってもいい?」

「···俺ん家?」

「うん。ご飯···一緒に作ろ?」

「あー···ああ、多分···家に来るのは大丈夫だと思う、俺は米を炊いて置けばいいんだな?」

「ふふふ、うん、そっ。なんか懐かしい」

 

笑いながらそういうと、俺たちはスーパーに向かうために車を走らせた

何を買うのかもう二人してわかっていたので、相談することもない

ただその時と違うのは、住んでいる場所と車を持っていることだけだ

信号で止まると、やはり俺の車について言ってくる

 

「この車···いいね」

「ウソつけ、マフラーはうるさいし古い車だよ」

「ううん、カッコいいと思うよ?少なくとも私はね」

「ほら出た、''少なくとも''って。あんまそう思ってない証拠だ」

「そんなことない、イジワルだなぁー」

「お互い様だろ?」

 

そう言うとカオルはまた笑うのだ

 

スーパーに着くと、食材を買うついでにお菓子や飲み物も一緒にカゴに入れていく

オレンジジュースを手に取るあたり、まだ俺の好みを覚えていてくれていた

俺にそのいつも飲んでいるオレンジジュースのペットボトルを見せてくるので、俺は無言で頷くのだった

会計の時も半分代金を出してくれた

いいよ、上がらせてもらうんだから割り勘でと頑なに譲らず、私はシンデレラみたいな扱いは嫌、''一般人''だからお互い協力しないとねと最近はめっきり聞いたことのない台詞が飛び出してきた

 

昔からいいやつだとは思っていたが、ここまで人間できているやつはそうそういない

改めて人の良さに感心していると、荷物は持ってねと袋を渡された

 

差し引きは相変わらず上手だった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「···待ってればいいの?」

「そう、ちょっとな。ちょっとだけ待ってくれ」

「私、部屋が散らかってても気にしないよ?」

「違うんだ、ちょっとな···同僚がいるかもしれないから」

 

車をアパートの駐車場に停めて、カオルに少し車の中で待っててもらうように言うと、俺は自分の部屋へと向かう

いつものところに部屋の鍵はなかった、ということは誰かが中にいる

部屋の前まで到着してゆっくりとドアを開けると玄関には履き物が、揃えられてるのが一つと脱ぎ捨てられているのと二つあった

白いスニーカーと、近場から来たようなサンダル

なんとなく誰がいるのかは想像がついた

 

「ん~?あ、零次さんおかえり~ん。ご飯もまだ、お風呂もまだ、ぜーんぶまーだー」

「···だろうな」

 

奥のリビングの扉が開いたと思ったら、床に寝転がっていた周子がその扉から顔だけ出してそう言うと、そのまま亀のようにリビングへと頭を引っ込めて扉を閉じた

俺は玄関に入るとその脱ぎ散らかされたサンダルのほう、もう誰のものだと言わなくても想像のつくその靴を揃えてやると、またまたリビングの扉が開く音がした

 

「あ!ダーリンお帰り!唯、今夜はご飯作ってあげるね!今から材料買ってこようと思ってたんだ!だから今日泊まっていくね!」

 

出てきた唯が俺にそう言いながら玄関で靴を履こうとするが、何も言い返さなかった俺を不思議に思ったのか、唯はその手を止めた

 

「唯、悪いけど今日はダメだ。周子と一緒に帰ってもらえるか?」

「···なんで?」

「友達がな、今日は来る予定なんだわ」

「誰?」

 

唯がきょとんとした言い方で尋ねてくる

その時に、俺の後ろの玄関の扉の外でビニール袋の擦れる音が聞こえてくることに気づいた

 

『よいしょっと···、とりあえず、食材だけはここに運んで···』

 

車で待っていてほしいと言ったが出てきてしまっている

その俺の背後から聞こえてくる可愛らしい声に、唯は敏感に反応するのだった

 

「誰」

「おい、唯」

 

外にいるカオルの声を聞いた唯は俺を押し退けて玄関の扉を開くと、カオルは疲れた様子で腕を上に大きく伸ばしていたところだった

 

「あら、あ···こんにちは。可愛らしいお嬢さんね」

「誰···」

 

カオルを見た唯は、少しショックを受けたような表情で後ずさりして、俺の影に隠れた

俺の表情をうかがって、再び俺の背後にいるカオルをそっと覗き込む唯

 

「俺の友達だ。部屋に上がるから、悪いけど唯と周子はちょっと今日は勘弁してくれるか?」

「え···?だって、ダーリン、そんなこと今まで一度も···」

 

唯が今度は俺に向かって複雑そうな表情を浮かべながら、俺の体を掴んで揺さぶりなんでなんでと俺に聞いてくる

どうしたもんかと悩んでいると、思わぬ助け船がリビングからやってきた

 

「こんにちは~、零次さんのお友達さん。ごめんねー、私たちすぐ出ていくから~」

「え?周子ちゃ···え?」

 

さっきまでのだらしない格好から一変、しっかり服装を整えた周子が自分の荷物と、唯の荷物であろう今どきのギャルが持っているようなハイカラなアクセサリーの沢山ついていたバッグを持って玄関にやってきていた

 

「ごめんなさいね、せっかく遊びに来てくれていたのに。ダメじゃない零次、しっかり連絡しておかなきゃ」

「いやいや、いつも勝手にいるからさ」

「れ···''零次''って···」

 

唯がそう反応するよりも早く、周子は唯の腕を掴んで引っ張りあげて、俺の脇を通り靴を履く

唯も周子につられるようになすがまま靴を履くと、唯が反論するよりも早く外の通路へと出た

 

「それじゃあ零次さん、ありがとね。···わぁ、今夜は麻婆春雨かなぁ?いいねぇ、簡単に美味しく作れるもんね?」

 

周子が扉の横の壁に置いてあった、食材が入っているビニール袋を見てそう言う

 

「ええ、よく彼と作ったんだ。私一人じゃ多いから、二人だと丁度いい量なの」

「···ふーん、私たちも一緒にハンバーグ作ったりもしたしー、朝ごはん作ったりとか色々大変でー」

「本当に!?もう、ダメよ零次。それが当たり前だと思ったら。本当に色々お世話になりまして」

「いえいえ別にー、いつものことなんで」

 

丁寧に頭を下げるカオルに対して、周子は手を軽く振って答えていた

周子が何を考えているのかよくわからない

 

「じゃあ行こっか唯ちゃん」

「え?だって···周子ちゃん?へ···?」

 

混乱している唯を連れて、周子はさっさと廊下の端にあるエレベーターへと乗り込んでいった

扉が閉まり、降りていく瞬間に周子が俺に手を振っているのが見えた

 

「···悪いことしちゃったね」

「いいんだって、いつも勝手に来てるようなもんだから。帰るときも勝手に帰るんだ」

 

とはいえ今回のように帰ってほしいと頼むのは初めてだった

いいさ、たまにはこういう日があっても

あいつらも理解してくれるはずだ

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