ヘイ!タクシー!   作:4m

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番長10

座って待てと言われたのでその通りにした

来て早々に一室へと案内されて

睨み付けるような真面目な未央と向かい合う

 

「まず最初に質問なんだけど···」

 

特に何もない小さな個室

一つしかない窓から差し込む光が、これまた部屋の中央に一つしかないテーブルを照していて、そのテーブルを挟んで向かい合うように俺と未央は座っていた

まるでこれから取り調べが行われるような感じだ、こんなところをテレビで見たことがある

 

「ヒナさん···大丈夫?あんまり事故のこと詳しく聞かされてないからさ···、レイさんも仕事を受けられないくらいの状態だったって言うし···」

「ああ、それは大丈夫だ。手術はまだ先だけど、命に別状はないって医者にも言われた。完治には少しかかるけど」

「そっかぁ~、よかったよかった~」

 

未央は心底安心したような表情を見せる

千枝もそうだったが、相当心配をかけたようだ

ひな先輩にも伝えておこう

 

「じゃあ、ヒナさんもとりあえず一安心ということで···本題に入る」

 

語尾の声色が電話の時と同じ様な厳かなものへと変わった

未央は立ち上がり窓辺へと近づくとブラインドを閉め、テーブルの上にスタンド式の電気を取り出すとスイッチを入れて若干俺の方向を照らす

何なんだ?一体何を始めるんだ?

 

「被告人、北崎零次さん」

「俺罪人かよ」

 

まったく身に覚えがない

 

「ここに呼び出された理由に、何か心当たりがあるのではないのかね?」

「ないな」

 

とにかく身に覚えがない

 

「とぼけても無駄だ!」

 

バンッと軽くテーブルを叩いて抗議をする未央だった

 

一体俺が何をしたっていうんだ

何がそこまで未央を掻き立てているんだ

思い返してみても思い当たる節は···ないこともない

今このタイミングで未央に言い寄られているということはここ最近のことなのだろう

 

「黙っているということは···気付いたんだね。レイさん」

 

立ち上がり、ブラインドに指をかけて少し開きながら外の景色をおもむろに見つめる未央

 

しかし本当にそうなのだろうか

あのお嬢様方がそう簡単に他人に喋る筈がないし、この聞き方からして口にしづらい内容ではない

ということはこの前の···随分前にはなるが、愛梨にほぼ裸で抱きつかれたままベッドに横になっていたことか···

でも朝になって一緒のベッドに寝ていたことなんて他の奴らも経験があるし···愛梨は少し違うか

後は奏も···確かに心当たりはないこともないか

 

「···で、一体何なんだ」

「私も驚いたよ」

 

ほんの少しだけ身構える、ビビっているわけではないが、何を追及されるのだろうか

 

「昨日···ゆいゆいとシューコちゃんを追い出したそうじゃないか」

「···ああ、それか」

「真相を追及しt···''それ''って?何か他にも?」

「いや、何でもない。気にするな」

 

そう言うと未央は素直に納得したのか、ではではと体を少し動かして椅子に座り直す

相当昨日のことが気になっていたのか、それ以上他のことには関心がいかないようだ

 

「じゃあ本題へ。真相を追及するにあたり、ゆいゆいとシューコちゃんを追い出した理由について、我々は大変興味深い情報を入手したのだ」

「我''々''?」

 

すでに幾分か噂になっているようだ

 

どこまで広がっている?

恐らく周子がいる女子寮の連中には伝わっているだろう

響子、美穂、紗枝にまゆ、まゆはとりあえずいいとして、おかん猫にもきっと伝わっている

あいつら女子の情報網の速さと各々の情報処理能力の高さはスーパーコンピューター並だ、間違った方向に考え始めるとその伸び代はとどまるところを知らない

証拠もないのに憶測で答えを弾き出そうとする

学生の思考回路の落とし穴だ、周りを巻き込んで答えを作り出すのだ

 

「そう、レイさんが連れてきたという···髪が長くて綺麗な人物に関する情報が多数寄せられている!」

「未央ちゃん!今日はカツ丼あったよ!」

 

背後の扉が開くと、美穂がスーパーの袋の中に惣菜コーナーで販売されているカツ丼らしきものを入れて部屋へと入ってきた

 

「ちょっ···、みほちーちょっと早いよ···」

「でも買ってきちゃったし···」

 

テーブルを挟んだ向かい側で、美穂と未央が袋の中身を一緒に見ながらコソコソ話している

俺は腕を組んで座りながら二人の様子を観察して、一体どう説明すればいいのか考え始めていた

 

一晩一緒にいたのは事実だし、こいつらがそのことをどう思っていたのかは何となく想像がつく

本当のことを打ち明けたほうがいいのか、それなら本人にも確認をとらないとあいつのイメージにも関わる

もしかしたら···曖昧なままそう思わせておいたほうがこいつらにとってもいいのかもしれない

 

「···で、一体なんなんだ。何を知りたいんだ?」

「えっ、いや···それは···その、み、未央ちゃん···」

「わ、私?いやー···よくよく考えてみたら、こういうこと聞くのは段階を踏んでから···ゴニョゴニョ···」

 

取り調べておいてなんだその体たらくは

お前たちの頭の中では一体どんな方向に想像が膨らんでいるんだ

 

「だからさほら···、私たちの他にもレイさん···''仲のいい人''がいるのかなっていうか···ね!そこんとこどうなのさ!」

 

照れ隠しなのか、少し顔を赤くしてバンッと未央は再びテーブルを叩く

 

「そりゃいるよ」

「それは···!一体''どこ''まで進んでいる仲なんでしょうか···!」

「まぶしっ···!それやめろそれ」

 

美穂がテーブルの上のスタンドの照明の首を曲げてこちらへと向けてきたので、俺が自分で元に戻した

こいつら···本当に俺を取り調べる気あるのか?

なんだか二人でゴニョゴニョとハッキリしない質問ばかりだ、年相応に恥ずかしがっている節もあるとは思うが

 

「とにかく、これ以上何も聞かれないなら、俺は帰る」

「ああ···!ちょ、ちょっと待ってってばぁ···」

「悪いけど、あまり付き合ってる時間がないんだよ」

 

椅子から立ち上がって部屋から出ていこうとする俺の手を取って引き止める未央だった

 

「そもそも、俺が誰といようがお前たちに関係ないだろ?」

「そ、そうだけど···でも、と、泊まってったんでしょ?」

「それも俺とあいつの自由だろ?泊まろうが何しようが。元々は俺の部屋だし」

「でも、何もなかった···んですよね?何もっていうのはその···」

 

ドアノブに手をかける俺の体を遮るように、美穂も一歩踏み込んで俺にそう問い掛けてくる

頭の中である程度イメージは固まってはいるが、中々言葉に出すのは難しいようだった

モゴモゴと恥ずかしそうにしているが、それでも好奇心と不安から尋ねてきているように見える

 

「そうだな、ある意味···」

「あ、ある意味?」

 

二人して続く言葉に身構える

 

「寝不足だな」

「「···!!」」

 

俺の言葉がどう二人の頭の中に届いたのかわからないが、これがあいつらに対してのほんの少しの抑止力にでもなれば、あいつらも遠慮して行動するようになるかもしれない

少しばかり···大胆になってきたからな

もっと俺に対して警戒心を抱くべきだ

今後、自分のパートナーを見つけた時には···尚更だ

あいつらも大人になっていく、そういう事になるかもしれない機会も増えていくだろうから、使いどころを覚えていかないといけない

少なくとも一般人よりは、魅力がある存在なわけだし

···何言ってるんだ俺は

 

「それじゃあな、カツ丼はお前にやる」

 

最後にそれだけ言うと、呆気にとられている未央と、持っているビニール袋の中身を確認している美穂を部屋に残して、俺はオフィスビルの廊下へと出た

 

この一角の部屋は本当に使っていないようで、すっかり時間的にも勤務時間に入っているのか、廊下は書類やパソコンを持った社員の歩く姿がチラホラ見えるが、この部屋には見向きもしなかった

進路指導室的な扱いの部屋なのだろうか

 

俺は美城プロから出ていこうとエレベーターへと向かうが、不思議と他のアイドルの面々に会うことがなかった

オフィスビルに来たから誰かしらとすれ違うのかと思ったが、社員の人たちばかりであいつらの姿が見えない

送迎できないと伝えたから他の社員の人たちやプロデューサーにでも送ってもらって、既に仕事に行ったのだろうか

カフェにもフロアの一角の休憩スペースにもいない

なんだか珍しい光景だなと思った

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「···」

「未央ちゃん···」

 

横から話し掛けてくるみほちーに応えるように、私は胸ポケットに片手を伸ばす

みほちーの言わんとしていることは大体わかる、しかしハッキリとした収穫があったわけではない

もっと追及してみたいところだったが、私の人生経験が足りないこととメンタルが思ったよりも軟弱なことからもう一歩踏み込むことができなかった

これが吉と出るかどうか、それは''本部''の判断に委ねられることとなる

 

私はそのまま胸ポケットにしまってあった自分の携帯電話を取り出して、画面に表示されているスピーカーボタンをタッチするのだった

 

「···との事だそうです」

『ご苦労でした、未央隊員』

『んー···!んー!』

『ちょっ···!落ち着けって唯!凛も一緒に止めてくれよっ!』

 

途端に私の携帯からは''本部''の面々の賑やかなやり取りが聞こえてくる

落ち着いた様子で私に労いの言葉を掛けてくるかれん、いつの間にか来ていたゆいゆいをこちら側に声が聞こえないように必死に止めていたであろうかみやん、そして何をしていたかはわからないけどそこにいるしぶりん

私の携帯から伝わっていた会話の内容から、本部も動揺を隠せないようだ

 

『カツ丼!みりあも食べたいーっ!』

「あ、じゃあ、後でそっちに持っていくからみんなで食べよう?未央ちゃんも欲しい?」

『こ、この話は本当なんですか?加蓮さん!』

『千枝ちゃん。世の中の大人ってね、秘密ばかり持ってるものなんだよ。私たちにはわからないようにね。ズルいでしょ』

 

どうやら私がそっちにいた時よりもギャラリーが増えているようだ

 

ゆいゆいの慌てよう、そしてかれん達が駅前で見た光景、レイさんの様子から様々な予想が立てられたが、まだわからない

恋人なのかそうでないのか、それとも相手のスーツ姿からどこかの事務所からのヘッドハンティングなのか

まぁ他の事務所の芸能人やアイドルと知り合うなんて事そうそうないだろうからそれは考えづらいところではある

でもどういう形であれ、このままうかうかしていたらレイさんが知らない誰かに取られてしまう可能性があるということに変わりはない

 

引き続きの情報の確保が重要になってくる

本部のエージェント達の活躍に期待しよう

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