ヘイ!タクシー!   作:4m

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番長17

おおよその仕事は終わった

連日色々な事が起こる、唯の事もそうだ

我慢して耐えるしかない、今はまだだ

色々と思うところはあるが、それでもだ

まずはやるべき事をやるしかない

 

「よし、後輩。帰るぞ」

 

クロさんのその言葉に、俺も荷物をまとめた

パソコンの電源を切り、事務所の鍵を手に取る

工場はもう、音もしないし電気も点いていない

外にあった車たちを工場にしまい、姉さんは既に会社を後にしていた

 

理由は言わずもがな、明白だった

あの日から時間が空けば、姉さんは飯も食わずにガレージにこもりっきりで一心不乱に作業に没頭している毎日だった

そんな姉さんをサポートするように、俺やクロさんやシロさんやあの三人組など、整備兼世話係として協力していた

決戦は来週、時間はもうあまり残されていない

車を長いことしまってあった弊害から、壊れている訳ではないが戦闘態勢まで調子を持っていかなければならない状態だ

 

センサー類が誤作動しないように車体、室内、ボンネット内の埃の落とすことから、足回りのへたりがないか、ハンドルを真っ直ぐにしてキチンと車が真っ直ぐ走るかのアライメント調整に、エンジンの慣らしのために落ちている油膜を張るために古いオイルを交換しての運転から現車セッティングとやることは沢山あった

 

「すぐに行くんですか?」

「そうだな、あまり時間がない。飯は終わった後にあいつらとラーメンでも食いにいくさ。私も私で、やることがある」

 

そう言うとクロさんは自分のバッグを持って足早に出口まで歩いていき、セキュリティの制御盤が配置されている壁に寄りかかって俺の準備が終わるのを腕を組んで待っていた

 

「やることは山積みだが、やることがわからないわけじゃない。一つずつ片付けていくしかないだろう。ありがたいことに、メンバーはいるみたいだし。だが、弟子がこの場にいないことは残念だ」

 

ひな先輩のデスクは今も、連休前に整理していた書類やカレンダーなどがその時の日付のまま止まっていた

それを見る度に、切なさと同時に今はもう怒りが込み上げてくる

なんでこんな事にならなくちゃいけなかったのか

そんな考えばかりが頭の中で巡っていて、一日中落ち着かなかった

 

「後輩」

 

最後に事務所のセキュリティの制御盤を操作している時に、クロさんに話し掛けられる

クロさんは一呼吸置くと、小さく鼻でため息をついて話し始めた

 

「今回ばかりは私も、そこそこ頭にきている。あいつらがヤろうとしていることは人間の範疇を軽く越えている。これまでの被害者たちの数を考えると倫理という言葉はもはや通じないだろう。あいつらの思考は犯罪者のそれと同等だ」

「···そうっすね」

「あいつらは私たちで何とかするとして、問題は被害者になるかもしれない人物たちなんだけど···、あの子たちの様子はどうなんだ?大丈夫なのか?」

 

それは、その時俺からの電話を聞いていた智絵里の様子を見ての質問だろう

 

「まだ···何も打ち明けてないです。ひな先輩の事故のことで結構ショックを受けたやつもいるし、それに加えて今回の騒動なんて知られたら···考えただけでも恐ろしいです。立ち直れなくなるかもしれない。智絵里はまだその時近くにママや姉さんたちがいたから、あの後から何とか持ちこたえたみたいです。元々芯が強い子でしたので」

「それでいい、後輩。今はまだそれでいい。あの子たちは何もする必要がないし、知る必要もない」

 

制御盤の操作を終えて、セキュリティを作動させ、その制御盤の扉を閉めて出口へと向かう

夕日が差し込む事務所のそれぞれのデスクは空っぽで、帰るときなのだからそれは当たり前なのだが、今はなんだかそれが寂しく感じてしまう

ついこの間まで楽しくやっていた筈なのに、どうしてこうなってしまったのか

果たしてまた、前のように戻ることが出来るのだろうか

 

たとえ自分たちが落ち着いたとしても、あいつらもまた、元に戻れるのだろうか

その時に俺は何をしてやれるのだろうか

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「うーん···」

 

零次さんの様子がおかしかった

昨日、あのテレビ局での仕事が終わった後

本当にその直後、楽屋まで迎えに来てくれたときから何だか···様子がおかしかった

 

何だか険しい表情だった

何かあったんですか?と聞いてみても、''いや、別に''って言うだけで、何も話してくれなかった

私が何か悪いことをしてしまったのだろうか?

私のせいで何かを言われたとか?

 

オフィスビルのロビーで私は考え込む

今日は零次さんは送迎には来なかった

朝は専務さんに会いに来ていたみたいだけど、すぐに帰ってしまったという

 

わからなかった

最近何だか周りがおかしい

ひなさんが事故に遭ったり、あのテレビ局からのお仕事が増えたり、零次さんの元カノ···さんが出てきたり

ついこの間までみんなで楽しくしていた筈なのに、何だか私たちの間に割って入ってくる存在が増えているような、そんな気がしてならないのだ

 

私たちの知らないところで何かが動いているのか、それが私たちにとってどういうモノなのか

何事もなければいいとは思うけど···

 

「千枝ちゃん」

「あ、ゆいさん。お疲れさまです」

 

奥から歩いて来ながら話し掛けてきたのは、レッスンが終わったのか、練習着のジャージ姿の大槻唯さんだった

片手を上げて、こちらに手を振っていた

彼女もまた、最近の零次さんを見て思うところがあるようだった

未央さんが集めたあのメンバーの中でも、積極的に真相を解明しようと動いている

 

「仕事終わり?お迎え待ってるの?あ···!ひょっとしてダーリン!?」

「いえ、違いますよ。私はちょっと···帰る前にここで休んでいただけで···」

「そっ···かぁ。ごめんね、変なこと聞いて。これ、アメあげる」

 

唯さんはそう言って、ポケットから棒付のキャンディを取り出して私に差し出してくれた

ロリポップキャンディっていうんだっけ

素直に受け取ると、包装紙を剥がして口に入れた

赤いあめ玉だった、疲れた体に甘いものが心地よい

 

「ゆいね、最近わからないんだ。ダーリンのこと」

「零次さんですか?」

 

私が座っていたソファーの背もたれに腰を掛けて、私と背中合わせのようになりながら話し始めた唯さん

次第に足を軽くパタパタと前後に動かし始めて、不満そうに口を開くのだった

 

「ダーリン、何かを隠してる。あの元カノ(仮)の女の人のこともそう、ひなさんのこともそう、私たちのこともそう、それに···自分のこともそう。こんなに仲良くしてるのに、ダーリンのこと、唯は何も知らないのかも。ダーリンにとって、私たちって一体何なんだろうね?」

 

···そっか、もしかして、零次さんはあの事を他の人に話してないのかもしれない

この前のデートの日、観覧車の中で話してくれた、あの事

でもきっと、これは私が勝手に話しちゃいけないことなんだと思う

話してしまうと、余計にみんなを心配させてしまうことになってしまうだろうし···

 

「あの女の人がそう言ってたんだよね。ゆい、昨日その人に会ったんだ。ダーリンのことを何も知らない···みたいなことを言われちゃった。幼なじみなんだって、千枝ちゃん知ってた?」

「いえ、全然。私も初めて聞きました」

「そりゃあお家に入れちゃうよね。ダーリン、凄く仲良さそうだったもん」

 

知り合いっていうのは間違いなさそう

でも、だからってもう私たちが零次さんに関わらないようにするっていうのは間違いだと思う

どれだけ仲が良くて知り合いだからって、一度は零次さんを捨てたのだ

それを今さら近寄ってくるなんて図々しいにも程がある

 

ダメだ、今千枝···凄く悪いこと考えてると思う

 

「でも、ダーリンなんで隠すんだろ?何か困ってることがあったらゆいたちに相談してくれればいいのに。水くさいと思わない?もう知らない仲じゃないんだし」

 

唯さんの言葉に私は正気に戻る

もしかして、零次さんが私たちにそこまで言わないってことは、何か私たちに言っちゃいけない問題が起きてるってことなのかも

 

「今日の朝、零次さん、専務さんに会いに来ていたみたいですよ。その時に、何か専務さんに相談したんじゃないかって···思います」

「ダーリン来てたの!?もー、何でゆいに何も言わずに帰っちゃうのさぁ~。遠慮なく相談してくれてもいいのに~。ダーリンのお話なら聞くよゆい」

 

またパタパタと足を動かして、さっきとはベクトルの違う不満を呟いていた

 

私たちに言いづらいことってなんだろう

ということは私たち自身に関係することなのかな

それとも、零次さんも関わること?

キャンディを口に咥えて、私は天井を見ながら考える

 

「あ、智絵里ちゃん」

 

唯さんが後ろでそう呟いたので、私も振り返った

唯さんの言った通り、私が咥えているキャンディの棒の丁度先辺りに智絵里ちゃんが歩く姿が見えた

 

「もしかして···智絵里ちゃんだったら何か知ってるのかも···。昨日だって、ダーリンのお友だちとラーメン食べに行ってたみたいだし」

 

唯さんはそう言うとすかさず、智絵里ちゃんに声を掛けて、手を上げる

番組の収録終わりか何かなのだろうか、私服姿の智絵里ちゃんは、唯さんの声にビクッと肩を震わせると、ゆっくりとこちらに振り向いたのだった

 

しかし、何だか様子がおかしい

いつもなら控えめだけど笑顔でニコッと笑って軽く頭を下げてくれるはずなのに、その様子はどこかおどおどしていて、私たちから離れようと早足で遠のいていくのだ

頭を軽く下げただけで、奥へ奥へと歩いていってしまう

 

「どうしたんだろう、智絵里ちゃん。何かあったのかな?収録で失敗しちゃったりとか···」

「いや、それでも···あ、川島さん」

 

そんな智絵里ちゃんに続くように、川島さんの姿が見えた

しかし、何だか智絵里ちゃんの後を追いかけるように歩いているようだった

 

「智絵里ちゃん。待って、智絵里ちゃん、ちょっと待って」

 

川島さんは智絵里ちゃんに呼び掛けながら背中を追うが、その呼び掛けに応える様子はなく、智絵里ちゃんはスタスタと歩いていってしまった

聞こえていないわけじゃなさそう、川島さんの呼び掛けにわざと応えずに、まるで逃げるようにこの場を去ろうとしているのだった

 

智絵里ちゃんは何かを知っているのだろうか

そこまでひた隠しにしようとする理由は何なんだろう?

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