ヘイ!タクシー!   作:4m

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番長18

やはり、予想通りだった

ろくでなしだ、あいつら全員

受付を抜けて、本館を出ていく

とっくに仕事は終わらせた、目的地へ向かう

 

「許せない、絶対に。本っっっ当にふざけた人たちばっかり」

 

正門を抜けて、脇目も振らずに私は歩いていく

自分でも今、自分がどんな顔をしているのかわからない

 

プロデューサーに今日はもう帰るとだけ伝えて、自分の荷物をさっさとまとめ、会社を出てきた

街へ出ると街灯が灯り始め、私と同じように仕事を終えて帰る人が沢山見えてくる

買い物をして帰るのか、駅横のビルに入っていったり、ファミレスに入っていったり、仲間と居酒屋へ入っていったり

 

普段だったら私も楓ちゃんや早苗ちゃんを誘ってそうしてるのだろうが、今日は違った

そんな人混みの中を、脇目も振らずに歩いていく

 

交差点の信号を抜けて、街中から少し離れていく

前に千枝ちゃんたちも通っていった、青葉自動車への道筋をたどっていく

 

「ふざっっっけた人たちばかり···!ふざけんな···!あのクソ野郎たち、一体何様のつもりなの···!私たちのこと一体何だと···!」

 

ふざけやがってふざけやがって

 

周りに人がいなくなったのをいいことに、私は胸の中に抱えていた罵詈雑言を呟き始める

普段なら放送禁止のNGワードも情け容赦なく口にする

アイドルのイメージなんて既に崩壊していた

それほどまでに心の中がざわついてしょうがない

 

あんな···年端もいかない小さな子どもさえも道具にするようなことを、これまでも···そしてこれからも、今度はターゲットを私たちに変えて、その欲望を発散し、満たそうとしている

それが現実になることを考えると、おぞましくて恐ろしくて、心の底から腹立たしくなった

 

それを一人で抱え込もうとしていた智絵里ちゃんに私はもう、我慢が出来なくなった

 

智恵理ちゃんは怯えながらも話してくれた

そんな智恵理ちゃんにもう···言葉が出なかった

 

「私って···そんなに頼りないのかしら?」

 

信号を渡って、青葉自動車がある通りへと出てひたすらその道を歩いていく

そんな時、ふとそんな考えが浮かんできた

まわりにたくさん大人がいるのに何故

 

···違う、智絵里ちゃんはそんな風には考えていない

頼らなかったんじゃなくて、頼れなかったのではなかろうか

私に話してくれたのはほんの一部分で、もっと裏では何かが動いているのかも

私たちが知らない何か···

 

やはり、真相を確かめる以外に他はない

昨日はあの、美空ちゃんたちを含むメンバーと一緒にいたと言っていたのだから、きっと北崎君たちは何か知っている

何回も電話を掛けてみたが、コール音は鳴るが一向に出なかった

気づいていないのか、それとも無視しているのか

だからこうして体一つで飛び出てきたのだが···

 

「まぁ···そうよね」

 

青葉自動車の前まで来てみたが、既に門は閉められていて、事務所の電気も消えている

工場のほうも、人がいる様子はない

とすると···やはりあのガレージにいるのかと思う

 

「車···」

 

 

車の事を智絵里ちゃんは言っていた

何やら車で競争をすると、それを美空さんが引き受けたって

それと···それは車をキチンとしないと美空さんが危ないかもしれないと

 

そんな説明の仕方になるのは当然、車の事なんてわからなくて当然だ

しかし智絵里ちゃんの様子からだと冗談でも何でもなく、その''危ないかもしれない''というニュアンスだけは本当なのだと伝わってきた

 

何をするのか全くわからない

美空さんたちが言っていたっていう''アレ''とは一体何なのか

 

確かめるには直接話を聞くしかない

だからここまで来てみたが···

 

「ガレージかしら···」

 

こういう時にこそ車が欲しいと思ったが、無い物ねだりしても仕方がない

私は体に鞭を打って、ガレージを目指すのだった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

一昔前の懐かしい造りが印象的な駄菓子屋を抜けて、私はやっとの思いで北崎君たちのガレージにたどり着いたのだった

息も絶え絶えだ、普段からのレッスンで鍛えていてよかったと心から思った

 

もう私もそこそこ歳を···いえ、ダメよ、これは雑念だわ

まだまだきっと若い、いえ絶対そう

まだまだ戦えるわ、おばさんだなんて思っちゃダメよ

長い人生で考えたらまだまだ前半戦なんだから

 

崩れそうになる心を立て直し、私はそのガレージの敷地内へと入っていく

 

「電気は···あれは点いているのかしら···?」

 

かまぼこ型のガレージの上に位置している、開けるときにはどうやって開けるのだろうと前から少し気になっていた窓から、ほのかに単黄色の光が見える

いつものように煌々と輝いているわけではなく、ボヤッと光っているだけで人がいるのかどうかわからない

 

しかし、ガレージの大きなシャッターの前には車が複数台停まっていた

黒いセダンが三台、小型の黒いハッチバックのような車が一台に、白い荷台付きのボコボコになっているトラックが一台

人はいるみたいなのにこんなに中が暗いなんてなんだか変···

そんなことを考えながら、私はその大きなシャッターの横にある出入り口のインターホンを押すが、中からの反応はない

 

きっと人はいるはずともう一回インターホンを押してみた時に、その異変に気付いた

 

ズズンッ···と建物が振動したのだ

気のせいじゃない、確かに指先でそれがわかった

音はしない、建物全体が揺れる感覚だ

まるで地面の下から突き上げてくるような

 

「一体何なのよ···」

 

一体何をしているのか···

聞きたいことと、今しているであろうその謎の作業が気になって、私は恐る恐るドアノブに手を掛けた

カギは掛かっていない、扉はすんなりと開いたのだった

 

「お邪魔します···って、やっぱりいないわね···」

 

中にはやはり誰もいなくて、ガレージの屋根の中央から釣り下がっている小さな白熱電球が一つ点いているだけだった

ボヤッと一階のガレージ部分を最低限照らしているだけで、二階のギャラリーの部分は何も見えない

どこにも人がいる気配がない

私が中に入っていく靴音だけが聞こえているだけだった

 

「あの~···誰かいないの~?」

 

その白熱電球が照らしている場所の辺りを歩いて、それでも人を探す

呼び掛けに誰も応じない、段々と不安になってきた

勝手に入っちゃったのも悪い気がしてきたし、美空ちゃんは遠慮せずに入ってきていいよと言ってくれてはいたが···

 

「···あら?」

 

ふと、まわりを見回してみると、入り口のシャッター側

入ってくる時は背にして気付かなかったが、ちょうど二階に登っていく螺旋階段の位置と反対側にある、地下へと降りる階段から光が漏れている

 

前から気になってはいたが、美空ちゃんたちが行くとこもみたことがなかったし、結局一階の奥で飲んでたから聞くこともなかった

 

「わわっ···、わっ」

 

またズシッとガレージが揺れた

外の時とは違って、今度は足の下からも確かに振動を感じたことから、この建物の下から響いているのは間違いない

天井の電気が少し揺れて、壁際の工具たちがカチャッと小さな金属音を立てていた

 

「何してるのかしら···」

 

ここで待っていても仕方ない

今度は少し勇気を出して、その階段へと近づいていく

 

その階段は、二階へと繋がる螺旋階段と同じように、常に左に曲がりながら下へと降りていくが、二階への階段のように開放的で見下ろせるわけではなく、下までずっとコンクリートのような壁に囲まれていて、頑丈に造られていた

 

カツンカツンと鉄板の上を歩く音が響き、しばらく下った後に一つの扉の前へとたどり着いた

その扉はまるで音響施設にあるような頑丈そうなもので、ドアノブ一つ見てもスタジオにあるようなロックしたら中の音を完全にシャットアウトするような防音構造になっている

 

手を掛けるとまた、ズズンッという振動が扉からドアノブを通じて手に伝わってきた

 

「ゴクリ···」

 

と生唾を飲み込んで、そのドアノブを捻る

レバーのように長いそのドアノブは下に90度回転し、そのまま押し込むとガパッという音と共に重ったるく扉が中へと開いていく

途端に中から眩しいくらいの光と涼しい風が外へと吹き込み、やはりしっかりと中からの音や光や空調が漏れないよう設計されているのがわかった

 

「何なの···?ここは···」

 

何が来てもいいように心構えして入ったのだが、その中は拍子抜けしてしまうほどあっさりとした空間だった

入ってきた扉はちょうど上の大きなシャッターの下にあるのか、奥へと長い空間が広がっていて、その天井、壁、床一面全てが真っ白く塗り潰され、天井の眩しいLEDの蛍光灯でまるでお昼のように室内が明るく照らされていた

 

そんな室内にあったのは、壁際に一階にあるような二本の柱に棒のようなものが二つずつ付いているリフトと、その隣に床に埋め込まれている二枚の鉄板

それが丁度車一台分くらいの横幅で並んでいた

その場所に、北崎君たちが使っていた工具が沢山乗せられたテーブルがいくつも集まって置いてある

 

その反対側の壁には、ここから車が出ていくのか大きなシャッターが備え付けられている

 

「みんな~···こんばんは~、もしも~し···」

 

その中でも一際目立っていたのは、一番奥のガラス張りで仕切られていた小さな一室

その左側にもここの出入口のような扉が設けられていて、その奥で人が動いているのが見えた

こちらの声は聞こえていないようだ

 

「もし···も~し···」

 

近づいていくと、その小さな一室の中に一台の車が置いてあるのが見えた

その車の後ろから、その人物たちは車を監視しているようだった

 

『次ー、セッティング2で。はい準備···OK。フリー、いつでもどうぞー』

 

そのガラス窓に近づくと、中からの声がかろうじて聞こえてきた

何を言っているのか意味が全くわからなかったが、そんな声が聞こえるのと同時にその小部屋の中からシューッと空気の抜けるような音が聞こえ、車の後ろ側が少し下へと下がった

 

『50まで、アネキ、次は50までだから。それ以上は前日にやるから、今は壊さないことだけ考えてー』

 

指示しているひなちゃんくらいの背丈の黒い格好の女の子に、北崎君、そして髪の色も服の色も白い美空ちゃんくらいの背丈の女の子がバインダーのような物を片手に持って、車を見ながらペンを構えていた

 

そんな人たちに見守られながら、運転席に座っていたのは美空ちゃん

窓から手を出して、人差し指を立ててその指先をくるくると回していた

するとそれを見ていた北崎君たちは、その耳元に当てていた耳当てを確認して、車の後ろで構える

 

そして、美空ちゃんが乗っていた車の後ろのタイヤがくるくると回り始める

そのタイヤは、前後にある回るローラーのようなものの上に乗っていて、タイヤは回ってもそれに合わせてそのローラーも回るお陰でその場で空転し、車は前に進むことはない

 

しかし···その様子は異様だった

そもそもこの車を見たのが初めてだった

色は美空ちゃんが普段乗っているスカイライン···だったっけ、そんな名前のセダンと同じだったが、見た目も···うっすらとその車と似ているが、よく見ると全然違う

 

前から後ろまでスラッとした流線形で、ドアも横は運転席と助手席のドアしかない

そして目を引いたのは、前側のタイヤに対してあまりにも太い後ろのタイヤ

それは遠くからでもハッキリとわかるような特徴的なものだった

とてもアンバランスで、運転しにくそう

そして横のサイドミラーの下にある、太くて丸い、筒のようなものが二つ並んでボディに埋め込まれているような見た目も気になった

 

『はい、いいよ!ゴーゴーゴーゴー!』

 

小さな女の子が、ペンで天井から釣り下がっているディスプレイに表示されていた数字を示して、声を張り上げた

それと同時に、彼女たちは耳当てを押さえる

 

すると後ろのタイヤの回転する速さがドンドンと速くなり、ディスプレイの数字が連続で変化していくのが見えた

 

『100!175!にひゃ···』

 

そこから中の声が聞こえなくなり、代わりに甲高くて吠えるような野太い音と、息を素早く吐き出すような空気の音が聞こえて、このガラス窓をガタガタと揺らし始めた

 

揺れが大きくなるに連れて、その車の音が部屋全体に響くようになってきた

もはや壁全体が揺れるような振動に、私は思わず後ずさりする

その時だった

 

バンッ!バンッ!バババンッ!

と何かが爆発するような、耳をつんざくような爆音が聞こえて、サイドミラーの下の二つの筒から火が飛び出るのが見えた

私は思わず耳をふさいで、その火花から目を反らす

その爆音の衝撃なのか、床が細かく振動するような揺れも感じる

 

『···トップー!はいそのままそのままゆっくりー!アイドリングであわせるようにー!···そうそう、そこまでー、今回はここまででー』

 

女の子の声が聞こえるくらいまで静かになると、タイヤの回転が段々と止まっていく

そして運転席に乗っていた美空ちゃんがハンドルから手を離して車内で伸びていると、後ろ側の座席とトランクの中から男の子たちが飛び出して車から出てくるのだった

乗っていたことに全く気が付かなかった

 

その男の子たちは一目散にガラスの左側にあった出口へと駆け寄り、勢いよく扉を開いてこちらの部屋になだれ込んできたのだった

 

「ゲッホ!ゲッホゲッホ!!ほんっっとに毒ガスっ!!もう今日はこれで勘弁してくださいっスよ!マジで!!」

「本当に···久しぶりだね、これ···ケホッ」

「何だお前たち、三人揃ってだらしない奴らだな」

「ったく姉さん飛ばしすぎだぜ。明日でもいいって言ってたのによう」

 

口元を押さえて咳き込む男の子三人と、そんな彼らを呆れた様子で見ながらバインダーに何かを書き込んでいる女の子

背は低いがその口ぶりからこの男の子たちよりも歳上に見える

世の中とは不思議なことばかりだ

 

「ん?おや?おやおやおや?このキューティーなおねーさんはどなた?」

 

その後ろからやってきた白い女の子が私を見つけてそう言うと、みんなの視線が私に集まったのだった

 

「···川島さん?」

「どうも···こんばんは···」

 

北崎君の言葉に、意気込んできたはずの私はただ、あまりの光景に呆気にとられてゆっくりと頭を下げることしかできなかった

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