ヘイ!タクシー!   作:4m

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06 水平線の繋がり

酷い雨だった、わたくしは彼らを労う

勤めを果たしてくれたことに感謝する

夜に近況を聞くことにした

薄暗い自室で、彼らはわたくしに報告する

何も問題が無かったのはなによりだ

 

「怪しい人物の姿は見えませんでしたが、タイミングを伺っている可能性もあります。引き続き、警護に当たる次第でございます」

 

よろしくお願いしますと、わたくしはベッドに座りながら頭を下げた

ひなさんには大袈裟だと言われてしまったが、備えるに越したことはないと押し通し、お父様のお力も借りて彼らにひなさんの警護に当たってもらっていた

 

普段の業務に加えて、わたくしの為にも動いてくれている

二人に感謝すると共に、労いの言葉を掛けると、二人はわたくしに''いえいえ''と首を振るのだ

 

「お嬢様がお世話になっているとおっしゃっている以上、私たちも見過ごすわけにはいきません。社長に聞いたところによると、お嬢様や、お嬢様のお仲間たちの身の安全も守り通したのだとか。感謝以上に尊敬の念すら抱く次第でございます。長年勤めてきた私ですらまだ、そこまで社長やお嬢様に貢献したことがございませんのに···」

「そんなことありませんわ。いつも通りの日々を送ることができるのも、あなた方がわたくしたちの為に働いてくれているからです。当たり前の日々を、''当たり前''に過ごすこと以上に大切なことはございません。わたくしのほうこそ、感謝を述べる立場ですわ」

「お嬢様···」

「わがままを言ってしまうこともございますしね」

 

わたくしがそう言うと、まだわたくしが小さい頃のことでも思い出したのか、二人ははにかみながら、それがわたくしになるべく見えないように少しうつむく

それを見て私も、コホンッと小さく咳払いをするのだった

 

「それならお嬢様、私のわがままも聞いてくださらないと。今回の警護は私たちの意思もあるのですから、特別手当てなど必要ないとあれ程」

「自分もそれには同意します。お嬢様、自分も金など必要ございません。お嬢様にこの身を捧げると社長に誓ってから、どれ程良くしていただいたことか。その恩に報いるだけの話です」

「それとこれとは話が別ですわ。これも立派なお仕事、働きに対してそれ相応の対価を···というのはお父様の口癖です。それに、その手当てを当てているのはわたくしではなくお父様ですもの」

「でしたら、お嬢様の口から言っていただければ···」

「わたくしのお口はそういうことは言えないお口ですの、ご理解くださいまし。それにわたくしはお子様ですから何を言っているのかさっぱりわかりませんわ。ぜーんぜんわかりませんのよ?」

 

わたくしが言わざる聞かざるを繰り返し手で耳を塞ぐと、二人は諦めたのか、''わかりました、今はそういう事にしておきます''と渋々頷く

わたくしがそれを見てニコッと笑い、耳から手を離すと二人は呆れたように笑うのだった

 

すると話が終わるタイミングを見計らったのか、部屋の時計が時刻を知らす

もう遅い時間だ

二人はこの屋敷に今日はいるだろうが、もう解放してあげないと

 

「今日もありがとうございますわ。明日も···明日はお休みでしたわね。では来週からもお願いします」

「承知いたしました。私たちは社長に報告してから上がらせてもらいます」

「お嬢様、次こそ自分の命を、お嬢様に捧げます」

「···ええ、次もそう言ってくださるのを待ってますわ」

 

大袈裟です、と今度はわたくしがこの言葉を使ってしまった

それだけ言うと、二人はわたくしに頭を下げ、背を向けて部屋の出口へと向かう

その二人を見送るようにわたくしも出口へと向かうが···何か違和感を感じた

いつもとほんの少し違う、その違和感

いつもなら···わたくしのアイドル活動の様子を聞いたり、就寝の挨拶をして出ていく筈なのに、なんだか今日は最低限の挨拶だけして、そそくさと出ていくような···

 

何かを隠しているような、そんな感じがしたのだ

 

「すみません、少々お待ちになって」

「···なんでしょうか?」

 

ドアを開けるのと同時に、わたくしは二人を呼び止めた

 

「今日は本当に、何も無かったのでございますわね?」

「はい、何も」

「問題ございませんが」

 

二人は即答だった

しかし、妙に引っ掛かるのだ

わたくしたちの知らないところで何かが動いているような、プロデューサーたちが最近少し慌ただしくしていることも相まって頭の中がモヤモヤする

 

二人は何か知っているかもしれない、わたくしたちの知らない何かを

 

「青葉さんには、わたくしたちの会社の人間も出入りしていると思います。最近プロデューサーの皆様も慌ただしくて、どこか不安になるのですが···。そちらで何か、わたくしたちに関係のあるお話をしていたりはしませんか?」

「さぁ」

「私たちは何も存じません。職務にあたっていただけです」

 

尚も二人は質問には即答だった

だが、わたくしの中の違和感は拭えなかった

疑い出すと止まらない、子どもという立場を利用してさらに追及していくことにした

 

「それならよいのですが、何かわたくしに隠し事をしている···というわけではありませんね?」

「お嬢様、考え過ぎでございます。ひなこ様の一件があってから神経質になる気持ちはわかりますが、心配のしすぎやマイナス思考は体に毒でございます故、今日はどうか安心してお休みください」

「あなたがそう言うなら、わかりました。わたくしもきっと疲れているのですわね」

 

その答えに二人は安心したのか、わたくしに再度頭を下げて廊下へと出ていった

わたくしも二人を見送り、扉を閉めようとした瞬間、そうその瞬間最後に一言だけ二人に言うのだった

 

「専務さんもきっと元気になりますわよね?」

「ええ、きっと大丈夫だと思います」

 

バタンッと、部屋の扉が閉まった

わたくしは自分のベッドへと戻り、枕元のテーブルにあるスタンドの電気を薄く点けて、部屋の電気を消すと、布団の中に入らずに座ったまま体をゆっくりと横に倒すのだった

 

きっと大丈夫···さっきそう言った

たまたま専務さんが本館の玄関から一人で外へと出ていった様子を見たわたくしは疑問に感じていたのだ

いつもなら地下駐車場へとエレベーターで下っていき、専用の送迎車に乗って相手側の会社などに赴く筈なのに、今日はたった一人で鞄を抱えたまま、おぼつかない足取りで肩を落としながら出ていったのだ

いくら普段あまり関わりがないといっても、その様子はおかしいと言わざるを得なかった

 

どこへ向かったのか、それだけがわからなかったがさっきの質問でハッキリした

何らかの問題を抱えて青葉自動車を訪れたのだ

前にみりあさんとわたくしが訪ねた時のように、何か相談しなければならないことがあったのか

それはまだわからない、だがよくない事が起きている可能性は高い

明日から色々と、調べる必要があるようだ

 

わたくしたちはまたどうなってしまうのか、それは今は全く検討がつかないのだった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

布団を外側から俺に掛かっている部分だけゆっくりとめくると、俺は体を90度外へ向けながら足を床に降ろして、体を起こしてベッドに座る

顔を上から下に手で撫でると、指で目を擦ってまだハッキリしない意識を覚醒させる

徐々に目が慣れてきて、この薄暗い寝室の様子がボヤッと見えてきた

 

ベッドの真上にある必要最低限に照らしている天井の照明と、壁にある床ギリギリに設置してあるライトが落ち着いた雰囲気を醸し出していて、大人の空気を感じる

 

空気といえば、この部屋の空調も暑すぎず寒すぎず、何も羽織っていなくても適温に保たれていた

空調はどこに埋め込まれているのか、部屋の内装のイメージを損なうことなく隠されている

天井にある僅かな隙間から調整されているのか、少し風を感じた

 

「ん、んん···」

 

寒くないように配慮したつもりだったが少し驚いてしまったようで、布団の中でモゾモゾと体を動かしている専務だった

動くことで俺がめくった布団の隙間から、肩から腰まで何のくすみもシワも無いその綺麗な肌が見える

その一糸纏わぬ姿が少し寒かったのか、うつ伏せになりながら俺がめくった布団の端をちょっと起き上がって片手を伸ばして取ると、体を隠すように元に戻した

その際に、さっきまで俺に覆い被さっていた肢体が見えてしまい、目をそらして俺は立ち上がる

 

手のひらで掴みきれない豊満な胸と、少し黒ずみ陥没して見えないバストトップ

ハッキリとわかる綺麗なくびれに、幅の広い女性らしい腰付き

股の中央にある、よく手入れされてる控えめで綺麗なアンダーヘアに、スラッと伸びる長くて美しい脚

 

頭の先から、足の先まで女として熟成されたその体が、生まれたままの姿で布団の中で眠っていた

 

「···飲み物、貰おうかな」

 

立ち上がって、ベッドルームの端にある冷蔵庫に向かいながら、俺はそんな専務を見て数時間前の事を思い出す

二人でバスルームに入り、そのまま二人でベッドに入った

 

それからは一方的とも言えた

黒くて綺麗な長髪を振り乱し、天井に向かって悦びの声を上げ、専務は自らベッドを揺らした

動きを止めたかと思ったら、俺を締め殺そうとするような勢いで抱きしめられ、耳元で野太く喉を鳴らすのと同時に、バストトップがピンッと飛び出てきた

 

あんな光景は二度と見られないと思う、専務は俺に全てをさらけ出していた

 

一人の女性だった

専務は本当に、今夜だけは全てを忘れたかったんだと思う

 

「失礼します···おお、オレンジジュース。···の前に」

 

飲み物をいただく前に、俺はまず口の中をサッパリさせることにした

口の中をモゴモゴさせると、ネバつくようにまだ専務の味が残っている

唇の感覚、色々な場所の感触も舌が覚えていて落ち着かない

幸いにもベッドルームを壁で隔てた裏側に簡単な洗面所があり、コップを借りて口の中をゆすぐ

 

ベッドルームへ戻ると否が応でも専務の姿が目に入ってくるため少し恥ずかしくなり、ベッドの足元のほうの床に脱ぎ散らかした二人分の服の中から、自分のパンツを取り出して履く

専務の黒い下着の下にあったからすぐに見つかった

 

「···さん」

 

専務の心労を考えながらボソッと名前を呟くと、布団の中がモゾモゾと動いた

飲み物を取り出して冷蔵庫を閉めると、その音に気付いたのか専務は体をゆっくりと起こす

 

「ああ···すみません。いただいてます」

「···いや、いい。かまわない」

 

まだ少し寝ぼけてるのか、専務は眠そうに眉間を指で押さえて軽く頭を振り、髪の毛を手で軽く払って整えていた

俺はすぐそばにあるテーブルに飲み物を置いて椅子に腰掛けると、その様子を見ていた専務もベッドから立ち上がって、こちらへと歩いてくる

 

「オレンジジュース···専務もよく飲むんですか?」

「バリエーションに困らないように···色々と入れておいたうちの一つだ。君はよく飲むんだったな、風の噂で聞いた」

 

段々と頭がハッキリしてきたのか、寝ぼけたような声からいつものような口調に戻っていく専務だが、裸のまま冷蔵庫の前にしゃがみこんで飲み物を漁っている姿が非常に珍しかった

さすがに冷蔵庫の冷気が肌寒かったのか、飲み物を取り出してテーブルの上に置くと、ベッドの足元の床から下着を探して着けていく

俺にお尻を付き出して下着を履いている様子から、もう完全に警戒心はないみたいだった

 

「よく眠れました?」

「···ああ、おかげ様で。こんなにゆっくり寝たのは久しぶりだ。君はどうだ?中々に寝心地はいいと思うのだが···」

 

専務も俺の隣の椅子に座って、お茶のペットボトルを開けて一口飲む

上下黒の下着しか着けていないその姿は、プロポーションも相まってまるでモデルのようだった

 

「はい、さすが···高級ベッドだと思いました。専務が羨ましいです」

「ふふっ、あんなの、一人では広すぎて使いにくい。それがよく···わかったよ」

「俺としてはゴロゴロと動けるから羨ましいんですが」

「起きようと思っても端まで行くのに時間が掛かる。それに冬になると中々暖まらなくて寒い」

 

お互いに下着姿のまま、まだ薄暗い夜景をバックにゆっくりと話が進んでいく

何だかその瞬間の、何ともいえない雰囲気が温かくて、このまま専務とずっと話していてもいいような、そんな大人な時間もいいなと思った

 

「私も···少し考え過ぎていたようだ。信頼できる人間に話を聞いてもらえると、こんなに心が楽になるとは。やはり私の目に狂いはなかった」

「お役に立てたのなら幸いです。あまり上手く···お話を聞いてあげられたかわからなかったので」

「それは心配ない、大分心が軽くなった。それに君はやはり···''優秀''···なのだな」

 

専務は少し自分の肩を抱きながら、恥ずかしそうに最後はボソッと呟く

段々と思い出してきたのか、専務は脚をモジモジと動かして、下腹部を隠すように手を当てていた

 

そんな専務も珍しかったが、何だか誉められて恥ずかしくなってきたので、それを誤魔化すようにテーブルの上に置いてあったリモコンでテレビの電源を入れたのだが···

 

専務はやはり真面目な人間なのか、何だかどこかの学校の講義番組が放送されていて、その内容が···''命の創造と誕生''というテーマだった

それ自体は何も変な事ではないのだが、深夜だからなのかその内容がとても専門的だったのだ

専任の教授がその''仕組みと流れ''について、写真や動画を用いて詳しく説明していた

それはもう、学校で勉強してきたことよりも深く専門的で、生殖器の動きや遺伝子の構造から受精の細かい仕組みまで解説してくれるような、講義番組という名前に恥じない立派な内容だった

最後にはその後の生活についてのアフターフォローまで懇切丁寧に教えてくれるようなのだが···

 

色々とタイムリーだった

 

「あー···テレビ消しましょうか」

 

リモコンのボタンを押そうとしたが、その手を専務に止められる

 

「何も音が聞こえないのも寂しい、別に···私は構わない」

「それならこの番組じゃなくてもいいんじゃ···」

「内容に興味がある。教養を高めるのはいいことだ」

 

そう言って譲らなかったので、音量だけ小さくする事にした

しかしそうすることで、逆に専務の息づかいまで聞こえてきて、それが妙に艶かしい

お互いに動かずにテレビを見ているが、こちらの状況なんかお構いなしに番組は続いていく

段々と専務の吐息が深く、その吐く息に小さく声が混ざり出す

椅子に座りながら体を時折動かして、腕や肩に手を当てたり座る位置を少しずらしたり落ち着きが無くなっていくのだった

 

「少し···肌寒くなってきたな。ベッドに戻らないと···風邪を引いてしまったら困る」

 

専務は自分の飲み物をテーブルに置いて立ち上がり、リモコンを持っている俺の手を少し引っ張って、一緒に行こうと諭してくるのだ

俺はゆっくりと立ち上がって、リモコンを持ったまま専務とベッドへと戻っていく

布団をめくってベッドに入ると、続けて専務が俺の背後から同じように入ってくる音が聞こえてくる

俺は仰向けに寝転ぶと、専務はその横にうつ伏せになり俺のほうに顔を向け、組んだ手の上に顎を乗せてこちらを見ていた

 

「···もう少し私も努力してみよう。きっと何か方法がある筈だ、君を失うのは惜しい。彼女たちの気持ちが···私にも少しわかった気がする」

「それは···ありがとうございます」

「これで私も彼女たちとあまり変わらない、同罪だ。ところで···その」

 

専務は少し口元を隠すように、枕に顔を沈めると、目線だけこちらに向けて言う

 

「近くに行っても···いいか?」

 

その言葉に俺は無言で頷くと、専務は枕元に置いたリモコンを押し退けるようにして俺に近づき、上半身を俺の体に乗せて背中に手をまわして抱きついてくる

専務の着けているブラが俺の胸に擦れてスリッ、スリッと音が鳴り、その布の装飾の少し固い繊維の感触が胸元を通して伝わってくるのだった

 

「専務···」

「ベッドの上では···名前で呼んでほしい」

 

言われた通りに名前を呼ぶと、専務は体を押し当てながら俺の耳元まで顔を持って来て、耳たぶにしゃぶりついてくる

専務の吐息を耳で感じながら俺はさらに名前を呼ぶ

そうすると専務は体をくねらせるように動きながら抱きついてきて、俺の背中にまわしていた手を引っこ抜くと、ブラのホックを外して腕から引き抜き、ベッドの脇に落とした

 

その豊満で柔らかい胸が直に体に当たる

 

「もっと呼んでくれ、もっと呼んでほしい···」

 

専務は子どものように駄々をこねる

布団の中で脚を動かして下半身を持ち上げると俺の上に跨がり、完全に覆い被さってきた

下着同士が擦れる感覚がする

 

専務のズシッという、人としての重さを感じる

顔と視線を合わせる、その目はもうトロンとしていて、俺に向かって唇を差し出しながら迫り、それが軽く首筋に触れてくる

 

「君はやはり···優しいのだな。ますます失いたくなくなった、彼女たちが甘えてしまう理由にも頷ける」

「しかし···やはり上に認めさせる方法が問題です。どうやって納得して貰えるか···」

 

『えー、続きまして、今度は人間の男と女が···』

 

テレビの音声が聞こえてくる

すると専務は再び俺の背中にまわしていた手を引き抜くと、自身の腰に持ってきて布団の中でパンツに指を掛けていた

専務はそのままパンツをスルスルと脱いでいく

その生地の感触が脱ぐ瞬間に俺の腰から足先にかけて伝わってきて、最後に指先に少し引っ掛かった

専務のパンツに残っている体温が指先から伝わってくる

自分のだけではなく、専務は俺のパンツにも手を掛けると、自分のとまとめてベッドの脇に落とす

 

隔てるものが何もない、専務の温もりを、人としての重さを体全体で感じる

お互い生まれたままの姿で抱き合い続ける

専務の心臓の鼓動が、自分の胸を伝わって感じる

どんどんその鼓動が早くなっていくような気がしていた

 

「その事については話し合おう、幸いにもまだ時間はある。夜も、まだ長い」

「さすがにずっと会議というのは苦手なんですが···」

「やり方を変えよう、今は君と私···二人しかいない」

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