このままでは答えが出ない
とにかく相談することにした
大分考えたが、纏まるのは難しそうだ
とても···わたくしたちには難問だ
「···ということですの。わたくしには何が起こっているのか、今はサッパリわかりませんわ。皆さまなら何か知っていると思って···休日に押し掛けて申し訳ありませんわ。昼食まで頂いてしまって···」
わたくしが頭を下げると、大丈夫大丈夫と手を振りながら、蘭子さんが飲み物を用意してくれていた
「ふむ···確かにそれは珍しい光景だね。ボクのプロデューサーも忙しそうにはしていたが、専務が動くレベルとなると···何か大きな力が動いてるのかもしれないな」
顎に手を当てて真剣に考えている飛鳥さん
今日は蘭子さんの部屋に遊びに来ていたのだそうだ
「うーん、それは難しいっスね。アタシは何も聞いてないっス。それか、アタシたちの耳に入らないように細心の注意を払っているとか。漫画でなら幹部クラスの会合で重要なことが話し合われてるとかそんな展開っスけど···正直わからないっス~」
背もたれにしていた蘭子さんのベッドにそのまま頭だけを後ろに倒して、唸るように頭を抱えている比奈さんに···
「~」ニコニコ
その様子を見ながら、いつもと変わらない笑顔を見せている志希さんも揃っていたのだった
何だか珍しい組み合わせだった
蘭子さんと飛鳥さんと比奈さんは休みだそうだが、志希さんは···よくわからない
どういった集まりなのだろうか
「でも···専務さん大丈夫かな。そんなに元気がないって今まで無かったよね···。ちゃんとご飯を食べてないとか···」
「そこまで追い詰められているのかい?世界を敵に回しても大丈夫そうなあの専務が···。そうか、事態は思った以上に深刻らしい」
蘭子さんも飛鳥さんも考え込んでしまっていた
そんな時、比奈さんがベッドから頭を起こし、床に置いていたスケッチブックを手に取った
「状況を整理するっス」
比奈さんはテーブルの上にスケッチブックを置くと、そこにスラスラとペンを走らせて絵を次から次へと書いていく
簡単な絵だったが誰が誰だか一目ですぐにわかる
普段から漫画を書いているということだが、その力量が遺憾無く発揮されていた
「まず、智絵里ちゃんの番組があんなことになっちゃったあたりから···っスよね。プロデューサーたちが騒がしくなった···と」
「はい。そうなっていた矢先、わたくしは昨日専務さんの姿を見ましたの。無関係だとは思えませんわ」
「それならプロデューサーたちの様子にも納得がいく。ボクたちにも言えない何か···直接聞いたわけではないから推測しか出来ないが、ボクたちに心配を掛けないようにとも取れるね」
「私たちに···?それなら、闇の勢力のようなものが圧力をかけてきてるとか···」
「でも蘭子、それなら前のように取引中止という判断を下すのではないかい?専務の決断力は確かさ、そこまで長く悩むこともないだろう。ということはもっと踏み込んだことなのだろう、センチメンタル的なね。志希はどうだい?」
「あたし?」
蘭子さんが用意してくれた駄菓子の包装紙を破こうとしていた志希さんに飛鳥さんは問いかけた
ギフテッドと呼ばれている彼女だ、その意見は是非聞いてみたいところだった
むむむ~···と頭に左右の人差し指を当ててぐりぐりとまわしながら唸る志希さん
その様子を固唾を飲むようにしてわたくしたちは見守っていた
スケッチブックにも志希さんのイラストが描かれ、他にもまるで議事録のように会話の要点が纏められていた
「シキちゃん的には~···」
「志希的には?」
カチッカチッと時計の音だけが部屋の中に静かに響く
そんな少しの間、志希さんはむむむ~···と再び唸った後で
「よくわかんないっ」
バリッと包装紙を破り、何事もなかったかのように駄菓子を食べ始める志希さん
スケッチブックには可愛らしいイラストの吹き出しに''わかんないっ''と書かれていた
「志希···」
飛鳥さんが額に手を当てる
「だってわからないものはわからないんだも~ん」
「難問っスね~」
比奈さんもペンをスケッチブックの上に置いた
ギフテッドがそういうのなら、わたくしたちにはどうすることも出来ない
また沈黙が始まる
「でも~」
次の駄菓子に手を掛けていた志希さんの動きが止まった
「最近、零次さんに会わないなぁ~とは思ってた」
その時に、志希さんを除くわたくしたち全員がハッとした表情をした
確かに、言われてみれば最近になってあまりあの車に乗っていないような気がする
という以前に、志希さんの言う通り最近零次さんに会った記憶がない
何だか、避けられているような
それは決して自分たちからではなく、見えない何か外からの力のようなもので会えなくなっているような
「やはり、零次様のところを訪れたことと何か関係があると思います。それ以外に思い当たる節がありませんもの」
「零次さん、出禁になってたりして~」
「それは無いんじゃないかい志希、たまたま偶然が重なっているだけかもしれない。前期末···という時期だったこともあるのかも」
「みんな、忙しそうだったもんね···」
もしかしたら送迎関係の打ち合わせかもしれないとその場は纏まることになったが、やはり違和感は拭えなかった
飛鳥さんの言う、わたくしたちには言えない何かというのが存在するとして、それが実行された場合わたくしたちはどうなってしまうのか
何だか少し、恐くなってきた
一体何が動き出しているのか
「そういえば、皆さまは本日どうしてここに集まっているのでございますの?何だか顔ぶれが珍しいと思っていたのですが···」
「ああ、それはね~、う~ん、勉強会っていうか~」
「ダメっスよ、桃華ちゃんにはまだ早いっす」
チラチラと比奈さんとスケッチブックを交互に見ている志希さんと、それに気づいてスケッチブックをテーブルの上から素早く取って胸元に抱える比奈さん
その様子を見てソワソワし始める飛鳥さんに、何故だか姿勢正しく背筋をピンッと伸ばして、床に正座する蘭子さん
「な、仲良くなったのさ桃華。蘭子も絵が好きだろう?だから比奈さんにアドバイスを貰う内にボクも会うようになっていって、それで集まるようにね!志希はよくわからない」
「飛鳥ちゃんひど~い、あれだけイロイロ教えてあげたのに~」
なるほど、確かに蘭子さんは絵がとてもお上手という話は聞いている
それならば比奈さんのアドバイスがあれば、将来は芸術家としての道も見えてくるだろう
蘭子さんの絵は見たことはないが、無理矢理見せてというのも失礼だ
「その、勉強会というのは···一体どのようなことをするんですの?」
「えっとね~、フィジカル的な事というか~、人体の仕組みっていうか」
「フィジカル···」
確かに、絵を描く上で人体の構造を理解することは大切だ
美術館でも人を現実と見間違う程のクオリティで描かれているものには感動を覚える
それが例え絵画であっても漫画であっても変わらないだろう
「凄いですわね、自分の好きなことの為にそこまで真剣になれるとは。わたくしも見習わないと」
「まぁ、確かに真剣といえば真剣だったね~。特に飛鳥ちゃんが」
「し、志希!別にボクはそこまで興味があるわけじゃないっ!蘭子が心配だから一緒にいるだけさ!」
妙に強く否定している飛鳥さん
別に恥ずかしいことではないのだからそこまで慌てる必要はないと思うのだが···何かあるのだろうか
「確かに、志希ちゃんのおかげでこれまで以上に詳しくなったとは思うっスけど···ね?蘭子ちゃん」
「ふっ···う···んふっ」
「蘭子、無理はするなよ···?はい、ここに置いておくから」
蘭子さんが自分の鼻あたりを押さえながら若干顔を上に向けるような体勢になる
それを見ていた飛鳥さんはティッシュの箱を蘭子さんの近くに置いてあげていた
一体どのような勉強会なのかわたくしも興味が出てきた
少し教えてほしいと言ってみたが、ダメだダメだと飛鳥さんに止められてしまう
大人になったらね~、と志希さんが言い
ダメっスダメっス、と比奈さんも頑なにスケッチブックを離さなかった
何だか皆さんだけ大人になろうとしてズルいと思ってしまった
今度わたくしも、千枝さんや梨沙さんに相談してみようかしら
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「じゃあ、専務。あまり無理をしないようにしてください。色々考えてくれるのは嬉しいですが···それで体調を崩してしまったら元も子もありません。俺も何だか立場がないですし···」
「···ああ、心配を掛けてしまってすまない。確かに、一人で考えすぎてしまっていたようだ。それに、まさか君にも追及されるとは」
「専務もある意味、わかりやすいといえばわかりやすいですし」
「···言われてしまったな。よく私たちのことを見ている証拠だ」
夕日が部屋に差し込む夕暮れ時、広いリビングでたった二人、テレビもつけず、専務と俺はソファーに座って話し合っていた
あいつらのこと、会社のこと、アイドル部門の行く末
それら全てをふまえた上で、最善の解決策を見つけ出す
言うのは簡単だが、それを考え出すのは非常に難しかった
やはり原因は俺自身にある
因縁が始まったのも、きっと俺のせいだろう
こういう''問題''が起こった場合の解決策の一つとして、''原因を取り除く''というやり方があるが、それは提案した瞬間に専務に却下された
「君は既に彼女たちにとって必要な存在だと言っただろう。それに、君は何も悪くない、彼女たちをただ救ってくれただけだ。そういう人間は、会社にとっても必要な人材だ」
「しかし、やはりここまで迷惑をかけたことも事実です。何か上手いやり方が他にもあったんじゃないかと。俺は専務ほど器用な人間ではないですから、そんな人間は解雇したいと思う気持ちもわかります」
「正当な理由がなければ、会社は従業員等を一方的に解雇することはできない。ただ''辞めてくれ''と言って追い出すことはできないんだ。だからこそ、その他に理由を付けて今回は迫ってきた。所定の期日をもってというのも、考える時間をやるから自分たちから出ていってくれても構わないという意味も含まれているのだろう」
つまりは自主退職を促されてもいる
上の人たちはどうやっても俺たちを追い出そうとしているようだ
「···ということは、その専務の上司の人たちに俺たちの事を認めてもらうことができれば、可能性は見えてくるんでしょうか」
「言うのは簡単だが、その方法を見つけ出すのは至難の技だ。私も、明日から上に掛け合ってみるが、中々難しいだろう。それこそ、上手くいったらおとぎ話になるレベルだ」
専務でも難しいとは、未来はやはり未だ灰色だった
そこからはお互いに紅茶を飲みながら、二人何も話さず時が過ぎていく
ここまでゆっくりした時間はこれから取れないかもしれない
戦いが始まっていく
会社に俺たちが排除されるか、それとも俺たちに会社が乗ってくるのか
それはまだわからない
「そろそろ失礼しますね、専務。さっきも言いましたけど、あまり無理をしないように」
「···ああ、わかった。色々と···ありがとう」
荷物をまとめて、俺は玄関へと向かう
専務も見送りに玄関先まで来てくれた
どこか名残惜しそうに、専務は俺と向き合っていた
「君も、変な事を考えないように。悩んだら···またここに来ればいい。今度は私がご馳走しよう」
「それは···ありがとうございます。すみませんその、夜は逆に''いただいて''しまって。やっぱり···俺も奴らと変わらないんじゃ···」
「決定的に違うことが一つある。終わった後、私がとても···幸せだったことだ。それに前提からして違う、私が君をいただいたのだ」
専務は最後まで専務だった
最後に名前を呼んでお礼を言い玄関から出ると、専務ははにかんで笑い、玄関のドアが閉まるまで小さく手を振っていた
不思議な関係になってしまった
恐いイメージしかなかったが、専務も普通の人間だった
純粋な人たちばかりだ、それ故にあのテレビ局があのままだったらどうなっていたのだろう
考えたくもなかった
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「···君の言い分はわかった」
「では、彼にも可能性はあると?」
「そうは言っていない。それに、可能性なら私たちも見つけた。いや、見つけておいたのだ」
一つの書類が、私の目の前へと差し出された
そこには彼らの言う、代替案ともとれる内容が書かれていた
その名の通り、どこから見つけてきたのか、アイドル部門所属予定とだけ書かれた人物について書かれている
経歴にはこれまた輝かしい程に、いくつかのモータースポーツにて勝ち取った賞の名前が載っていて、''ドライバー''としてはこれ以上にない逸材だった
「優秀な人材を歓迎するのなら、この人物は君にとっても悪い話ではない筈だ。心配することは何もない。栄光も過去の物ではなく、現役で活躍しているドライバーだ。現に近々行われるサーキットのレースにも出場する。よりその実力は確実な物になるだろう」
まわりで聞いている人たちも、その意見には頭を縦に振っていた
この話を持ち出せば、もう私は受け入れるしかないだろうと確信しているかのように
しかし、私は見つけた
この状況を突破するための方法を
彼らはそれを、自分の口で言ったのだ
それに私も乗れば、まだ可能性はある
確率は何パーセントもない、成功すればおとぎ話の世界に踏み込んでいく
「···とすると、そのドライバーより優秀だと認められれば、彼にもまだ可能性はあると···そういうことですね?」
「何を言う、これ以上の成果などありえない。君は確実な提案を棒に振るというのかね。優秀な人材は···」
「優秀な人材は歓迎する、そこはあなたたちと同じ考えです。私はこの人物の他に、思い当たる者がまだいると言っているのです」
「その''彼''のほうが、優れていると?」
「それを、証明すれば良いのでしょう?」